上条は処分を受けたばかりだというのに、続けざまに自分名義の二つの実験室が改善命令を貼られるのを目の当たりにした。まるで頭の上から空が落ちてきたような衝撃だった。「おば……上条先生、これからどうしたらいいんですか?」真由美は取り乱して彼女の袖をつかんだ。浩史も居ても立ってもいられず、頭をかきむしって右往左往している。期末が目前に迫ったこの時期に実験室が使えなくなれば、研究は止まってしまう。途中経過を出せなければ、期末に提出できるものなど何もない。それはそのまま成績に響き、下手をすれば卒業にも関わってくる。那月も呆然と立ち尽くしていた。考えるまでもなく、誰の仕業かは明らかだった。凛たちだ。だが思えば、自分たちも以前は同じように相手を追い込んできたのではないか。結局は自業自得……告発が一度乱用されれば、自分ができることは他人にもできる。その場で一番落ち着いていたのは亜希子だった。もともと研究に興味もなく、学問的な才能や志もなかった。大学院に進んだのも、将来の就職や結婚に少しでも箔をつけるためにすぎない。だから実験室が使えなくなろうが、研究課題に影響が出ようが、彼女にとっては大した問題ではなかった。ましてや今の彼女には海斗がいる……この男をつかまえてしまえば、残りの人生を案ずる必要はない。「……改善とは言っても、期間は示されていません。いつまでかかるんでしょう?」浩史は焦りを隠せず口を開いた。「雨宮たちの実験室を見ればわかるだろう。二ヶ月近く経ってもまだ通っていない。まさか僕たちまで、あの人みたいに自分で実験室を作るわけにはいかないだろう?」自分で実験室を作る……上条はその言葉に目を光らせ、振り向いて那月を見た。その瞬間、那月の背筋に冷たいものが走った。那月は乾いた笑いを漏らした。「実験室なんて簡単に建てられると思ってるの?資金はまだしも、土地と認可が一番の難関よ。誰が用地を手に入れられるの?政府に顔が利いて、特別扱いしてくれる人に当てなんてある?……浩史、あんたにある?真由美は?」浩史は渋い顔で言った。「ただの口先の話だろ、なんで僕を指名するんだよ」真由美は首をすくめ、黙ってやり過ごそうとした。上条はようやく実験室建設の考えを打ち消した。那月はほっと息を吐いた。馬鹿にし
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