佳奈の唐突な切り込みに、美琴は思わず言葉を失い、誠健でさえも一瞬驚いた表情を見せた。彼は美琴の蒼白な顔をじっと見つめ、その瞳の奥には何とも言えない陰が宿っていた。美琴はぎこちない笑みを浮かべた。「藤崎弁護士、私と石井先生はただの同僚です。あまり深く考えないでください」佳奈は穏やかに笑った。「江原さんって後から循環器内科に異動したって聞いたよ。最初、石井先生の科に入るためにいろんなコネを使ったとか。てっきり、彼を目当てに来たのかと思った」「違います。ただこの科が好きなだけです」佳奈の追及に、美琴は思わず拳を握りしめた。藤崎佳奈――裁判所では容赦なく被告人を追い詰め、言い逃れすらさせない敏腕弁護士。彼女の言葉は、油断した瞬間に落とし穴を掘ってくる。これ以上巻き込まれたくない美琴は、すぐに口実を作った。「手術があるので、これで失礼します」そう言って、病室を出て行った。その背中を見送りながら、佳奈は冷たく唇を歪めた。本当に誠健に気がないなら、あそこまで動揺しないはず。誠健は佳奈の落ち着いた顔をじっと見つめながら聞いた。「彼女が俺のこと好きだって、どうして分かったんだ?」佳奈はくすっと笑った。「石井先生、ご自身では気づかなかったんですか?それとも分かってて、あえて曖昧な関係を続けてたんですか?」その穏やかな口調とは裏腹に、誠健は言葉に詰まった。美琴が自分に好意を持っていることは、若い看護師たちの噂で耳にしていた。彼はそれを避けることもせず、むしろ知里を嫉妬させようと利用したことすらあった。知里にやきもちを焼かせて、自分に戻ってきてほしかった。だが、知里は「距離を置こう」と言ってから、一度も連絡してこなかった。彼女は仕事に没頭し、365日スケジュールはぎっしり。会いたくても、会える隙すらなかった。そんな誠健の表情を見て、佳奈は納得したように微笑んだ。「つまり、石井先生は知ってたんですね。好かれてるって。それを楽しんでたんじゃないですか?」「佳奈、俺と彼女の間には何もない。ただの同僚だよ。仕事が遅くなった時に、たまに一緒に食事するくらいで」佳奈は昏睡状態の知里を見つめながら言った。「石井先生、私に謝る必要はありません。知里さんとあなたは恋人でも夫婦でもない。
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