凌一の瞳には何の感情の波もなく、淡々とした声で答えた。「似ているとは思わないな」夕月は凌一が雑誌の女性を知らないようだと感じ、これ以上追求するのをやめた。「きっと、美しい人はみんな似ているものなのかもしれませんね」夕月は自分自身に納得できる説明をした。凌一は夕月を見つめながら、別の話題を持ち出した。「冬真の監視を厳重にしている。今は大部屋の雑魚寝だ。昼夜問わず、誰かが目を光らせている」「定光寺にいるんですか?」夕月が尋ねると、凌一は頷いてタブレットを取り出した。画面には監視役から送られてきた動画が映し出されていた。そこには作業着姿の冬真が映っていた。灰色の作業服に黒い長靴を履き、両手には大きなプラスチックバケツを提げている。よく見ると作業用の手袋までしていた。重そうなバケツを持って畑に向かう姿に、夕月は思わず「あれは……」と声を上げた。「肥料をやっているんだ」「……」夕月は数秒黙り込んで、もう一度タブレットの画面を覗き込んだ。まるで夢でも見ているかのような光景だった。高級車に乗り、何十億円もの豪邸に住み、靴の裏に土すら付けたことのない男が、今や黒いゴム長靴を履いて農作業をしているなんて。「……意外と様になってますね」夕月は感心したように呟いた。「上の方を見てごらん。スケジュールを組んでおいたんだ」凌一は言った。夕月は指先で画面をスライドさせ、定光寺での冬真の日課表を確認した。畑仕事や土起こし、施肥に加え、豚や鶏、アヒルの世話、寺の修繕作業まで。さらには僧侶たちの朝課・晩課にも参加することになっていた。夕月には、冬真が僧侶たちと一緒にお経を唱える姿が想像すらできなかった。「豚の世話をしている動画はありますか?」夕月はタブレットの日課表を指差しながら尋ねた。「午後に豚の餌やりをする時に撮影させて、送らせておく」夕月は満足げに唇の端を上げた。これは冬真を留置場に入れるよりも、ずっと面白かった。夕月の楽しそうな様子に、凌一の目元も柔らかくなった。「冬真は最低でも一ヶ月は定光寺で過ごすことになる。悠斗くんは休学中だが、勉強の方は橘家としてしっかりフォローする」悠斗の学業が疎かにならないと聞いて、夕月はほっと胸を撫で下ろした。少し躊躇った後、彼女は凌一に提案した。「佐藤さんに悠斗
Magbasa pa