All Chapters of 離婚まであと30日、なのに彼が情緒バグってきた: Chapter 861 - Chapter 870

ボディガードはその言葉を聞き、途端に顔つきを険しくした。この男は、どうして十五階だと正確に知っている？一体誰が教えたのだ？「悪意はありません。本当に、ただ彼女の無事を確認しに来ただけです。これが僕の名刺です。桐生と申します」駿はそう言うと、ポケットから名刺を取り出した。ボディガードの一人がそれを受け取り、そこに書かれた「旭日テクノロジー創業者」という肩書に目を通すと、一言、「社長に確認してまいります」と言って、その場を離れた。駿は静かに、その場で待った。十五階の、さほど遠くない廊下で。アシスタントが雅人に、美月と院長の捕獲状況を報告していると、先ほどのボディガードがやって来て、来意を説明し、名刺を差し出した。雅人は目を落とし、「桐生駿」という三文字を瞥見した瞬間、脳裏にその人物の情報がフラッシュバックする。この男こそ、妹が本当に想いを寄せていた相手。そして、彼の起業資金を援助するために、新井の爺さんの要求を呑み、二億円と引き換えに、あの蓮司に二年間も嫁いだのだ。以前、資料に目を通した時は、まだ何とも思わなかった。だが今、透子が自分の実の妹だと知った以上、この桐生駿という男は――雅人にとって、憎悪の対象でしかなかった。こいつさえいなければ、妹がこれほどの苦難と苦痛を味わうことなどなかったのではないか？一人の男が、起業資金のために女を犠牲にするなど……虫唾が走る。「……追い出せ」雅人は、こみ上げる怒りを押し殺し、氷のように冷たい声で命じた。ボディガードは命令を受け、無言で踵を返した。階段の踊り場で。駿はまだ通してもらえるものと期待して待っていたが、結果として彼が受け取ったのは、無慈悲な拒絶の言葉だった。「我々の社長は、あなた様を歓迎しておりません。お引き取りください」「なぜだ！」駿は食い下がった。「ただ透子の無事を確認したいだけだ。それもダメだと言うのか？君たちの社長は誰だ。直接、話をさせろ」だが、ボディガードたちは動じず、階段の入り口を鉄壁のように固めている。駿はその様子を見て、拳を固めた。なぜだ。なぜ透子に会わせない。理恵でさえ友人として見舞いに来られたのに、なぜ自分はダメなのだ？駿はしびれを切らし、強行突破しようとして、ボディガードたちともみ合いになった。その物音は、さ

駿の全身から、力が抜け落ちていった。先ほどまでの自信と決意は、アシスタントの言葉によって跡形もなく打ち砕かれ、ただ相手を凝視することしかできない。アシスタントは冷静に彼を見つめ、それ以上は何も言わなかった。やがて、エレベーターのドアが閉まり、階数を示す数字が冷徹に下がっていく。駿は、そうして一方的に送り出された。エレベーターが一階に到着し、ドアが開く。駿は、まるで魂の抜け殻のようにロビーへと押し出された。振り返ると、ボディガードたちが無情にもドアを閉めるのが見えた。彼はそのまま呆然と数分間立ち尽くし、それからようやくゆっくりと身を翻すと、うなだれたまま、重い足取りで外へと歩き出した。橘家の調査は、そこまで詳しかったのか。確かに、自分に彼らを責める資格など、微塵もなかった。自分は、透子に恩恵を受けていた側なのだ。彼女が蓮司に嫁いだことで、新井の爺さんから二億円の投資資金を得られたのだから。それなのに、自分には何の力もなく、彼女一人守ることさえできなかった。それどころか、友人の理恵ほど、彼女の力になってやることさえ……深い無力感に、駿は力なく腕を垂らし、空を見上げて目を閉じた。もう、透子の身の安全を心配する必要はない。彼女にとって最大の危険であったはずの存在が、今や彼女の最強の保護者となったのだ。彼女はこれから、安泰で、幸せな一生を送るだろう。それは、喜ぶべきことだ。彼女のために、心から喜んでやるべきなのだ。しかし、橘家のことを思うと……自分の胸を、再びどうしようもない劣等感と悲しみが満たしていく。なぜなら、この瞬間から、自分と透子の間に、もはや何の可能性もなくなったのだから。これまでは、そばにいることでいつか彼女の心を動かし、他の男たちを退けて自分が勝ち上がるという、かすかな望みを抱いていた。しかし、今や、巨大な身分と階級の差を前に、自分が透子と友人であり続けられること、それこそが、奇跡に近い幸運と言えるのかもしれない。駿はすべてを悟り、すべてを理解した。彼は車に戻り、力なく会社へと車を走らせた。理恵から、透子はもう大丈夫だが、まだ昏睡状態だと聞いていた。それなのに、自分は身の程をわきまえもせず、何か特権でもあるかのように、この目で確かめたいなどと思ってしまったのだ。会社に戻ると、理恵から【会

骨の折れる捕物劇の末、勝民はまんまと、自ら墓穴を掘った。これほど急いで国内の口座を空にしようとするとは、死を恐れながらも、なお財産に執着する。その強欲さが、かえって自分の首を絞めることになるとも知らずに。雅人の父と母も状況を知り、あの院長がまもなく捕まると聞いて、昂奮を隠せないでいた。雅人の母は憎々しげに吐き捨てた。「すべて、あいつのせいよ！あいつが透子の記録を破棄さえしなければ、私たちが一歩遅れることなんてなかったのに！」雅人の父は言った。「あの朝比奈が坂本を丸め込み、芝居を完璧に演じきったんだろう。おそらく、最初の時点ですでに透子の記録は処分されていたはずだ」そこまで考えると、雅人の母は怒りに拳を固く握りしめた。もし自分たちが、本当の娘に道でばったり会っていなければ、おそらく一生、この真相を疑うことすらなかっただろう。そして、もし雅人が調査に乗り出さなければ、たとえ将来、美月の偽りの身分に気づいたとしても、その時には本当の娘はとっくに……雅人の母は涙を拭った。昨夜から今日にかけて、彼女はもう何度涙を流したか分からない。娘の境遇に胸を痛め、同時に、どうしようもない自責と罪悪感に苛まれていた。その時、雅人の父が眉をひそめて言った。「坂本は、ただの児童養護施設の院長に過ぎん。どこからそんな大金を手に入れたんだ？しかも、基金会から引き出したとは」彼は推測した。「普段から賄賂を受け取っていたのか？だが、まともな手段で手に入れた金じゃないから、あんな方法を使ったのか？」雅人は言った。「違う。あれは、妹の殺害依頼金だ」雅人の父はその言葉に息を呑んだ。雅人は続ける。「その金はいくつかの基金会を経由して資金洗浄され、僕が派遣した人間の追跡を逃れていた。今回、坂本が空にしたのは、暁光慈善基金会だ」雅人の父はその基金会の名に聞き覚えがあると感じ、そして、はっとしたように目を見開いた。「それは、つい先日、わしをチャリティー昼食会に招待してきた、あの基金会の名前じゃないか……？」話はすでにここまで来て、状況はあまりにも明白だった。母は、悲痛な叫びを上げた。「……私が……私が、この手で、娘を殺すための金を、渡していたっていうの……？」美月が透子を傷つけるのを黙認しただけではない。彼女は、直接、自分の実の娘を殺そうとしていた

斎藤剛の拉致が橘家の仕業であることは分かっていたが、今はまだ物証がない。それが、いずれ「交渉」する際の、決定的な切り札になるからだ。新井のお爺さんは命じた。「山林周辺の防犯カメラ映像を、いかなる手段を使ってでも手に入れろ」執事は頷き、その命を実行するため下がっていった。……時間はこうして一秒、また一秒と過ぎていく。その一瞬一瞬が無限に引き伸ばされているかのようで、あっという間に正午の十二時になった。雅人の父と母は、依然として病室の外で待ち続けていた。中へ入っていく医師の一挙手一投足を、祈るような思いで見守っている。医師は詳細なデータ記録を終えると、ふと、患者の指が微かに動いたことに気づいた。続いて、その瞼がゆっくりと持ち上げられる。意識が、戻りつつある兆候だ。「旦那様、奥様！お嬢様が！」医師は慌てて手招きした。その声に、雅人の父と母は弾かれたようにドアを押し開け、そばで待っていた雅人もそれに続く。三人はもつれるようにして、病室へとなだれ込んだ。医師は言った。「患者さんは、きっと最初に会いたいのはご家族でしょう」雅人の父と母はベッドのそばへ駆け寄り、涙に濡れながら、必死に娘の名を呼んだ。雅人は一歩下がった場所から、ベッドに横たわる、あまりにも弱々しく青白い妹の顔を見つめ、目頭を熱くした。透子の意識は次第にはっきりしてきたが、自分がどこにいるのか、生きているのか死んでいるのかさえも、分からない。まず声が聞こえ、それからぼんやりとした光景が見えた。誰かが泣きながら自分を呼んでいるが、その声はひどく聞き慣れない。それどころか、自分を呼んでいるのかさえ定かではなかった。「娘」や「私の可愛い子」という言葉が、遠くに聞こえる。彼女はふと、ここは死後の世界なのではないかと感じた。でなければ、どうして、もう会えるはずのない両親の呼び声が聞こえるだろうか？「娘よ、透子、私の不憫な子……」「透子、目を開けて私たちを見ておくれ。お父さんもお母さんも、お兄ちゃんだっているのよ。早く目を覚まして……」男女の泣き声が混じり合う。同時に、透子は自分の手が誰かに握られ、厚く温かい感触が伝わってくるのを感じていた。彼女はありったけの力を振り絞って頭を横に向け、重たい瞼を必死にこじ開ける。ゆっくりと、目の前の光景が、

「必要なものは何でも言え。金の心配はするな。ただ、妹を全力で救え」雅人の言葉には、有無を言わせぬ響きがあった。金がいくらかかろうと、薬の入手がどれほど困難だろうと、彼は必ずその日のうちに見つけ出してくるだろう。医師は彼を見つめた。今のところ、これらの最高級栄養剤で十分だった。何しろ、一本十万ドルもする代物だ。それを橘社長は、三十本も直接国内へ空輸させたのである。これだけあれば、文字通り、死体の首に縄を付けてでも閻魔の手から命を引き戻すことができる。橘家の財力とは、まさに規格外だ。もちろん、昨夜、彼が瞬く間に京田市中の専門家を動員して治療にあたらせたことからも、その実力と権力はとっくに証明されていたが。病室内の医療スタッフは全員退出し、雅人の父と母、そして雅人は、再び窓越しに中を覗き込むしかなかった。病院で透子が一時的に意識を取り戻したことは、新井のお爺さんの耳にもすぐに入った。しかし、彼はすぐには駆けつけず、透子が完全に目を覚ますのを待つことにした。今の彼女は、あまりにも衰弱しすぎている。橘家が国内外の医療資源を総動員したからこそ、あれほどの重傷を負った彼女が、これほど早く意識を取り戻せたのだ。もし一般人であったなら、透子はとっくに……持たなかっただろう。……時間はただ苦痛に過ぎていき、雅人の両親は他のことなど全く手につかず、食事も喉を通らない。ただ、娘ができるだけ早く目を覚ますことだけを、祈っていた。両親の悲しみように、雅人自身も胸が張り裂けそうだったが、彼にはまだ、処理すべき重要な案件が残っていた。「父さん、母さん、ここで妹を見守っていてくれ。目を覚ましたら、すぐに電話を。少し席を外す……坂本が捕まって、国内に連れ戻された」雅人の父は静かに頷いた。母はそれを聞くと、その目に憤怒の色を浮かべて言った。「あいつを八つ裂きにしてやる！あの人でなし！絶対に許さない！」「ああ。妹の仇は、必ず討つ」雅人はそう言い、その目には暗い殺意が宿っていた。もしあの男が邪魔をし、故意に事実を歪曲しなければ、自分はとっくに真相を知っていたはずだ。妹が今、病床にいることなどなかった。拉致犯を雇ったのも彼だ。まさに、八つ裂きにしてもまだ、この怒りは収まらない。雅人が去り、アシスタントのスティーブがその後に続いた。