「お前が犬じゃないことは覚えてるがな」蒼真は嘘をついていなかった。蒼真は本当に三十時間以上何も食べていなかった。拘置所から出てきてからずっと嫁さんを探し追いかけ、そしてまた飛行機に飛び乗ってチューリッヒまで来た。実は飛行機の中や道中で食べる時間はあった。ただ蒼真は食欲がなかっただけだ。界人は重箱を提げてやって来た。会うなり第一声がこうだった。「天城蒼真、この野郎。国内の羊は全部死に絶えたのか。わざわざこっちまで来てラム串を食おうなんて」蒼真はもうその香ばしい匂いを嗅いでいた。手を勾配した。「匂いはなかなか本格的だな」「チューリッヒ中を走り回ってようやくこの店を見つけたんだぞ。それに店では焼いてくれなくて俺が良いことを言い尽くしてようやく焼いてもらったんだ。何で焼いてくれたか知ってるか」界人は手に持っていた串焼きの包みを渡した。蒼真は眉を上げた。「尿瓶で焼いたとか言わなければそれでいい」「もしそうだったら、お前まだ食うか」界人は邪悪に笑った。蒼真はアルミホイルを開けた。黄金色に焼かれ油が滴るラム串は一目で本場ものだと分かった。「界人、サンキュー!」蒼真はそう言うとそれを持って外へ歩き出した。界人は訳が分からなかった。「どこへ行くんだ」「うちの嫁さんに届けに行く」界人の口元が引きつった。「でもそれっぽっちしかねえじゃねえか。お前は食わねえのか」「食うさ。うちの嫁さんの残りを俺が食う」蒼真は先ほど苑がデリバリーの配達員にここで串焼きを売っているかと尋ねているのを聞いていた。蒼真は苑が食べたがっているのだと分かった。だから直接界人に電話してどうしても串焼きが食べたいと言ったのだ。苑はノックの音を聞いても応じなかった。蒼真は直接話しかけた。「ハニー、串焼きが来たぞ」苑はもう匂いを嗅いでいた。蒼真が嘘をついていないと分かった。だが先ほど配達員はここで串焼きは売っていないと言っていた。それにネットで検索しても確かになかった。「まだ熱いぞ。冷めたら美味しくなくなる。俺に会いたくないならドアの前に置いとくからな」蒼真はドアに張り付いていた。「早く取りに来いよ。俺は部屋に戻るから」蒼真はそう言うとそれを置き去り際にまた言った
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