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20.独身女で何が悪い?(前編)

last update Huling Na-update: 2025-06-02 18:03:02
私が結婚を意識するようになったのは、プロポーズの1か月前。啓介と付き合ってすぐのことだった。

「片井さんかー、仕事は出来るけれど独身だもんな。恋愛がダメだったから仕事にかけるしかないんじゃないの。」

「仕事が恋人ってやつ?寂しいよな。もっとも今年も昇進は難しいだろうけどな」

喫煙所から出てきた男性の役職者たちが話をしているのを、私は偶然耳にしてしまった。

片井さんは、私の会社の法務部に所属する40代後半の独身女性だ。

化粧っけがなくいつも落ち着いた色の服を着ている。服のサイズも少し大きいため体型が分かりにくく、実年齢よりも上に見える。物事をはっきり言う勝ち気な性格で、自分の信念は決して曲げない。そのせいか社内では「男勝りな片井」と影で呼ばれている。

しかし、片井さんは誰よりも努力家だった。難関の国家資格を独学で取得し法務部でも男性社員顔負けの活躍を見せていた。その知識量と実務能力の高さから、周囲の信頼も厚く私も個人的に尊敬していた。

当時の会社は、長らく女性の管理職が不在だった。しかし、数年前から社会の流れを受け女性管理職の育成に力を入れ始めた。片井さんは、その資格とこれまでの実績が評価され課長候補に名前が挙がった。社内では初の女性管理職誕生かと期待する声も上がっていた。

しかし、最終面接の結果は不合格。理由は、公にはされていないが彼女が独身であることだった。

『40代にもなって結婚していないのは性格に難があるかもしれない』、『結婚が女性の幸せ』面接官たちは、古い価値観を振りかざし片井さんの生き方を否定したそうだ。彼女の能力や実績には一切触れずただ「結婚していない」という一点だけをもって管理職としての適性がないと判断したのだ。そして3年連続で課長職への昇進試験は不合格となっている。

面接官の一人が飲みの席で独身が理由で不合格にしたことを話してしまったが、事の重大さに気が付き翌朝には否定。評価シートにも別の理由に書き直して保存されているので真実は闇の中だが、火のないところに煙はたたないのではと勘ぐっている。

早ければ30代前半で昇進する男性社員たちの中で、一人、女性で40代後半の片井さんは、嫌でも目立つ存在だった。そして、その「目立つ」ということが、彼女の昇進を阻む大きな要因になったのだ。

(片井さんと同じ資格を後から取得した同世代の男性は、どんどん出世しているという
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