Semua Bab 死にゆく世界で、熾天使は舞う: Bab 51 - Bab 60

100 Bab

第二章 第50話 純真無垢なる子供のような

セラフィナたちがアッカドに到着してから、早くも数日が経過しようとしていた。 セラフィナは当初の予定通り、アッカド内を歩き回っては養父たる剣聖アレスの痕跡を探していた。 尤も一度だけ、巫女長ラマシュトゥからの招待を受けて精霊教会本部へと赴き、時間の許す限り茶を啜りつつ他愛もない世間話の相手をさせられたりもしたが……。 アレスの人相書を作成し、それを載せて貰えないか地元の新聞と交渉をしてみたり、アッカドと近隣の都市国家を行き来する商人たちの協力を得るべく、商人組合の拠点に足を運ぶなどした。 人々の反応は、実に様々だった。一昨日来やがれと言って取り付く島もない者、快く協力を引き受けてくれる者。酷い者になると、異邦人だという理由で石を投げてくる者さえいた。 それでも、シェヘラザードや彼女の父親の人脈もあり、喜ばしいことに少しずつではあるがアレス捜索に協力する者は増えつつあった。 それと同時に、セラフィナは狂王とされるアッカドの統治者シャフリヤールとの接触も試みていた。こちらは聖教騎士団長レヴィが協力してくれることになり、彼女の名義で連日のように、シャフリヤールの元に面会を求める書状を送り続けている。 アッカド近郊のオアシス都市で行われた、歴史上でも非常に稀なる大虐殺。シャフリヤールはそれに関与しているのかどうか。仮に関与していたとして、その真意は何処にあるのか。直接、彼の口から確かめたいという思いがあった。 そんな、ある日のことだった。 「……ふぅ」 宿の居室へと戻ったセラフィナはブーツを脱ぐと、草臥れ果てた様子でベッドへと俯せに倒れ込み、そのまま横になった。既に陽は西の方に沈み、アッカドには夜の帳が下りつつある。 華奢な膝を抱えながら、何度も何度も小さく溜め息を吐くその姿は、見ていて何処か痛ましい。 連日のようにアッカド内を歩き回ったことで親指の付け根に血豆が生じ、それが知らぬ間に潰れたのだろう。厚手の白いストッキングに包まれた爪先には、じんわりと赤黒い血が滲んでいた。 「……あの人の手掛かりは、残念ながら今日も見つからず。シャフリヤールからの返事の手紙もなし。今日も空振りだよ、マルコシアス」 ベッドの傍に座っているマルコシアスの顎を指先で優しく撫でてやりながら、セラフィナは溜め息混じりにそう呟く。 「……何時に
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-06
Baca selengkapnya

第二章 第51話 陸の孤島

パズズが引き起こした騒動から数時間後── セラフィナの居室に集まった一同は、レヴィからの報告を聞いて渋い表情を浮かべていた。 ベッドの上では、両足に包帯を巻かれたセラフィナが静かな寝息を立てており、ベッド端に腰を下ろしたキリエが治癒魔法を発動し、傷の治りが少しでも早くなるように、それでいて疲労が蓄積しているセラフィナの身体にこれ以上負担が掛からないように、細心の注意を払って傷を癒している。 その傍らでは、マルコシアスがセラフィナに寄り添うように腰を下ろし、魘されているのか時折呻き声を漏らす彼女の顔を、心配そうに見つめていた。 「……本当に、奴だったのか?」 沈黙を破るように、そう口を開いたのは、ハルモニアからの来賓として精霊教会の記念式典に出席していたアモンである。彼の隣には、同じく聖教会からの来賓として精霊教会の記念式典に出席していたガブリエルの姿もあり、彼女もまたレヴィの報告内容に対し懐疑的なのか、何処か困ったように眉をひそめていた。 「──間違いありませぬ、アモン殿。この目で然と、確認致しました」 真面目な話になると仕事口調になるのか、本来敵である筈のアモンの問いに対し、レヴィは堅苦しい言葉遣いで以て応える。 「姿形こそ、異なっておりましたが──唸り声だけはそのままでした。紛うことなく、あれは奴(パズズ)であると私は考えます」 「ですが、レヴィ……? セラフィナさんは確か、彼の者)パズズ)を象った像を護符として、常にその身に帯びている筈。彼の像さえ護符として所持していれば、彼の大精霊から敵として認識されないのでは?」 レヴィに対し異論を唱えるガブリエル──言葉とは裏腹に、目の奥には護符である筈のパズズ像に対する不信の念が、仄暗い焔となって燃え上がっているのが見えた。 「……そう言えば、シェヘラザードさんという巫女が仰っていましたね。時たまに護符を所持していても、彼の者(パズズ)の姿が見えてしまう者がいる、と。若しかして……」 ちらりと、直ぐ隣に座るアモンを見やるガブリエル。アモンは胸の前で腕を組んだまま、小さく頷く。 「うむ──その若しかして、だろうな。セラフィナは見えてはならぬ者が見えてしまう、所謂"巫女体質"、"霊媒体質"の持ち主であると考えるのが適当だろう。しかしながら、此度の一件はそれだけが原
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-08
Baca selengkapnya

第二章 第52話 シャフリヤール

 セラフィナたちが宿泊している宿に、ひょろりとした体躯の商人が一人の従者を引き連れて現れたのは、それから二日後の正午のことであった。 セラフィナたちが宿を貸し切っていることをメイドたちや支配人が伝えると、その商人は自らをアルと名乗り、セラフィナに依頼されていたアレス捜索について報告したいことがあるので、セラフィナに会わせて欲しいと告げた。 偶然その場に居合わせたガブリエルやレヴィの説得もあり、商人たちはいとも容易く宿の中へと入ることに成功する。 同時刻── 静まり返った居室の中──中央のソファーに腰を下ろしたセラフィナは、胸に小さな手を当てて何度かゆっくりと深呼吸をする。 パズズが接触してきた際に負った傷は、キリエの治癒魔法を以てしても中々思うように回復せず、白のストッキングに包まれた細い両脚からは、今も尚ズキズキと鈍い痛みが発せられていた。 扉をノックする音が耳に届き、隣に座っているキリエが表情を強ばらせる。レヴィに昨日、倒れる寸前まで扱かれたのもあってか、緊張と疲労で手足がぷるぷると震えているのが分かる。 ──遂に、彼がやって来た。「──どうぞ」 セラフィナの言葉を受け、扉がゆっくりと開いてゆく。レヴィとガブリエルに続いて、二人の男が部屋の中へと入ってくるのが見えた。 一人は初老の好々爺然とした背の低い男。そしてもう一人は如何にも人当たりの良さそうな、三十代前後と思われる長身痩躯の男。 男たちが対面のソファーに腰を下ろすと同時、身に纏う雰囲気が変化したのを感じた。 特に若い方の男の変化たるや凄まじく、彼は人当たりの良さそうな雰囲気から一転して、必要とあらば人を殺すことも厭わぬという、まるで刃を思わせる鋭く冷たい雰囲気を全身から醸し出していた。「……セラフィナというのは、貴女であるか」 無表情のまま、若い方の男が厳かな声で尋ねる。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-09
Baca selengkapnya

第二章 第53話 新月の夜、来たれり

セラフィナたちとシャフリヤールが接触してから数日が経過した、ある日の夕暮れ刻── 王宮敷地内の広場に集まった兵たちを、自らも軍装に身を包んだシャフリヤールは、感情の凪いだような目でじっと見下ろしていた。 「──陛下。兵たちの準備が整いました。何時、如何なる時でも出撃が可能です」 「……うむ。ご苦労、ハールーン」 背後に佇む宰相ハールーンには目もくれず、シャフリヤールは手にした書状へと視線を向ける。 死天衆のリーダー格であるベリアルから届けられたその書状には、次のように記されていた。 ──"大天使ガブリエル、並びに聖教騎士団長レヴィの首をハルモニアへと差し出せば、ハルモニアの軍事技術の一部をアッカドへと供与する"。 「……"始祖の天使"ベリアル。中々、魅力的な提案をしてくるではないか。ハルモニアの持つ最先端の軍事技術、その一端でも手に入れることが出来れば、我が国は大きく発展するであろう」 ベリアルからの書状には他にも、"精霊教会が行動を起こすのは新月の夜以外にありえない"こと、"巫女長ラマシュトゥと大精霊パズズを討つことに協力したならば、格別の報酬を約束する"ことなどが記されている。 「……しかしながら陛下。大天使ガブリエル殿との間で取り決めた約定、破れば大いに聖教会からの不興を買いましょう」 「願ってもないこと。元々、我らは聖教会の迫害から逃れた者たちの末裔……聖教会に報いるは、遥か昔より連綿と受け継がれてきた悲願である」 それに、とシャフリヤールは続ける。 「大天使ガブリエルと交わした約定、今はまだ単なる口約束に過ぎない。我がアッカドにとって、より良い条件をこうしてベリアルが提示してきた以上、口約束を守る義理もあるまい?」 「……貴方は変わられた、陛下。昔は、そのような目をしていらっしゃらなかったと言うのに」 濁りきったシャフリヤールの目を見て、ハールーンは何処か悲しそうな表情を浮かべる。彼がまだ純朴な少年だった頃を知っているハールーンにとって、今のシャフリヤールの姿は正に"狂王"だった。 突如として地上に出現した"崩壊の砂時計"、次々と堕罪者へと変貌してゆく民草、世界全土を戦乱の渦へと巻き込んだ未曾有の世界大戦"最終戦争(ハルマゲドン)"の勃発、日に日に発言力を強めてゆく精霊教会、予断を許さない国際情勢
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-11
Baca selengkapnya

第二章 第54話 風の魔王、舞い降りる

セラフィナが目を覚ますと、そこは襲撃を受けた裏路地ではなく見知らぬ場所だった。白い大理石で出来た天井が、視界に映り込む。 「……あ、れ……私……」 どうやら仰向けに横たえられた状態で、四肢を拘束されているらしい。拘束から逃れようと身を捩ると、脇腹に耐え難いほどの激痛が走り、苦悶の声が思わず口から迸る。 「──お目覚めになりましたか。セラフィナさん?」 声のした方へと顔を向けると、そこには端正なる顔に柔和な笑みを湛えたシェヘラザードが優雅に佇んでいた。 「……ここは、大精霊様を祀った大神殿の最奥。皆からは儀式の間、供物の間などと呼ばれております」 「──シェヘラ、ザード……」 そのまま言葉を続けようとしたが、聖痕からの出血に伴う激痛と、流星鎚の直撃を受けた脇腹から発せられる苦痛とに苛まれ、か細い呻き声しか発することが出来ない。 「……治癒魔法で、流星鎚の直撃した脇腹の傷そのものは癒しましたが。どうやら受けた痛みがまだ色濃く、残っているようですね」 「ぐっ……ううっ……!」 「それにしても──驚きました、セラフィナさん。貴方がまさか、聖痕をその身に宿していたとは」 セラフィナの左胸──聖痕が刻まれている箇所を愛おしむように撫でると、シェヘラザードはくすっと笑う。白魚を思わせるその指先には、聖痕から溢れ出たものと思われる赤い血が、べったりと付着していた。 「本当は、別のお召し物をご用意しようと思ったのですが……聖痕からの出血が酷く、本部なら兎も角神殿では止血も儘ならなかったので不本意ながらそのままのご恰好で、大精霊様に捧げることと相成りました」
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-12
Baca selengkapnya

第二章 第55話 絶望に立ち向かう時

アッカド郊外にある、大精霊パズズを祀った大神殿に辿り着いたシェイドたち……そこに広がっていたのは、正に惨憺たる光景だった。 王国軍の将兵や、精霊教会の巫女たち。皆、血を流して事切れている。中には上半身と下半身が真っ二つとなっており、文字通り見るに堪えないような無惨な状態となって息絶えている者も、ちらほらと散見された。 「──うっ……!」 噎せ返るような血の臭いや臓腑の臭いに、キリエは思わず手で口を覆う。少しでも視線を動かせば、必ず血塗れの死体が転がっている。地獄を彷彿とさせる濃厚な異臭と死の気配が、この場を支配していた。 大神殿は半壊し、半ば瓦礫の山と化している。瓦礫に上半身を圧し潰されて息絶えた巫女が、まだ死亡して間もないのか、血塗られた白く小さな手足をぴくぴくと痙攣させている様が何とも生々しい。 「……ここで、一体何が起こった?」 「……分かりません。誰か、せめて一人でも生存者がいれば話を聞けるのですが、この様子では……」 その時── 半壊した大神殿の入り口に倒れている巫女が、わずかに身動ぎしたのを、キリエは見逃さなかった。 居ても立ってもいられず、マルコシアスの背からひらりと飛び降りると、キリエは覚束ない足取りで、血を流して倒れているその巫女の元へと向かう。 「……貴方は」 「……嗚呼。その、声は……若しかして、キリエさん、ですか……」 薄らと目を開くと、倒れていた巫女──シェヘラザードは、キリエの方へと顔を動かした。苦しそうに咳き込む度、ごぼっと不気味な音を立てながら、口から大量の血が零れ落ちる。 「──っ!!」 変わり果ててしまった彼女の有り様を目の当たりにし、キリエは無意識に目を背ける。そんなキリエを見つめ、シェヘラザードは弱々しく笑った。 それもそのはず──シェヘラザードの下半身は巨大な瓦礫に圧し潰され、殆ど原型を留めていなかったのだから。瓦礫の下からじわじわと染み出てくる赤黒い血が、瓦礫の下敷きとなった彼女の下半身がどうなってしまったのかを如実に物語っていた。 誰の目にも致命傷であることは明らか……今のシェヘラザードは、ほぼ気力だけで生き長らえているに等しい状態だった。 如何に治癒魔法の心得があるキリエであっても、こうなっては最早傷を癒すことなど出来ない。治癒魔法とは即ち、身体組織を
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-14
Baca selengkapnya

第二章 第56話 死闘、嘆きの女王

シェイドたちが、セラフィナを奪還すべく大精霊パズズと対峙していた丁度その頃── シェイドたちとは別行動を取っていた聖教騎士団長レヴィと大天使ガブリエルもまた、精霊教会本部へと足を踏み入れていた。 本部の中には、足の踏み場もないほどに将兵や巫女たちの遺体が転がっている。息絶えた巫女の中にはまだ年端もいかない少女の姿もあり、虚ろに見開かれたその目は苦痛と哀しみに彩られていた。 大広間へと通ずる巨大な扉を、レヴィはいとも簡単に蹴り破る。破壊された扉の先──大広間の最奥に彼女はいた。 ──巫女長ラマシュトゥ。 追い詰められた状況であるにも関わらず、彼女は一切動じることなく、軽薄な笑みを浮かべ、優雅に足を交差させながら玉座に腰を下ろしていた。 泰然自若とは、正にこのことを言うのであろう。眼前のラマシュトゥからは、精神的な余裕さえ感じられた。 「──随分と派手にやってくれたのぅ? 聖教会の犬どもよ」 「──先に手を出してきたのは、そちらの方だろう? 巫女長ラマシュトゥ。否……嘆きの女王ラマシュトゥ」 言い終わるや否や、レヴィは被っていた制帽を、円盤投げの要領でラマシュトゥ目掛けて投擲した。ラマシュトゥの首が音もなく宙を舞い、赤黒い血が噴水の如く噴き出した。 だが── 「……くっくっくっ」 地面に転がるラマシュトゥの頭部が、レヴィを見つめてニヤリと笑ったかと思うと、頭部を失った身体ともども黒い液体となって融合し、何事もなかったかのように元の姿で再構築される。 「……よもや、妾の正体を聖教徒が看破するとは思わなんだ。その一点のみは敵ながら天晴れ、よくやったと褒めてやろうぞ。じゃが──」 ラマシュトゥの輪郭が、不規則に変化する。見る見るうちに彼女は、本来の人ならざる者へとその姿を変えてゆく。 引き締まった体躯のパズズとは異なり、巨体ではあるものの痩せ細った体躯の、背に翼を生やした黒き巨獣。大きく裂けた口には無数の牙が生えており、真っ赤な血を思わせる涎が、ぽたぽたと口端から滴り落ちている。 ──"子を亡き者とする嘆きの女王ラマシュトゥ。その魔手は娘とその子に迫り、その抱擁は抗いようのない死へと、哀れな子らを誘うであろう"。 生まれたばかりの子を死へと誘う流行病をもたらす大精霊ラマシュトゥ……それが、長きに渡り精霊教会を
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-15
Baca selengkapnya

第二章 第57話 見えざる影

──"我に! 我らに! 大地の女神シェオルのご加護あれ"!! パズズの叫びに呼応するかの如く、死者たちが黒い液体へと変貌したかと思うと、吸い寄せられるように彼の巨獣の足下へと音もなく収束してゆく。 間もなくパズズの巨体は液体の中に沈み、不規則にその輪郭を変え始めた。その表面に、取り込まれた死者たちの苦悶に満ちた顔が次々と、浮かんでは消える。 その中にはシェヘラザードの、そして先日アッカド国王シャフリヤールと共に宿を訪れた宰相ハールーンの姿もあった。 やがて──黒い炎が轟々と、液体の表面より次々と噴き出したかと思うと、その中から痩せ細った巨獣が……パズズが再び、その姿を現した。 筋骨隆々だった先程までとは異なり、極限まで戦闘に不必要なモノを削ぎ落とし、防御を捨てて敏捷力を高めたその姿は、更に禍々しさを増している。腕は四本に増え、黒い体毛は死者たちの血でぐっしょりと濡れていた。 パズズは自らの手の中で弱々しく呼吸を繰り返すセラフィナの身を案じるかのように、一瞬だけ視線を彼女へと向ける。慈しみと親愛に満ちた眼差しは、明らかにシェイドやキリエに対して向けられていた、侮蔑と憤怒に満ちたものとは異なっていた。 まるで、父が我が子を愛おしむかのような── 刹那──風を切り、巨体に見合わぬほどの凄まじい疾さで、パズズはシェイドたちに向けてスタートを切っていた。 シェイドが瞬時に反応し、キリエを庇うように前へ出て銃弾を放つも、パズズはさも当然かのように、正確無比なるその弾丸を躱してみせた。 「──ちっ!!」
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-16
Baca selengkapnya

第二章 第58話 母なる大地に還る

天地を揺るがすような咆哮を発しながら、パズズが勢い良く跳躍し、アモンの懐へと迫る。 唸りを上げて振るわれた拳……それをアモンはその場から一歩も動くことなく、背に生やした翼で軽々と弾き返した。 衝撃と反動で大きく怯むパズズを見て、アモンはにこりともせずに呟く。 「……悪くない。たった一撃の拳ではあるが、それに万感の思いが込められている。其方のこれまで感じてきた怒り、憎しみ……だが」 翼を大きく広げて飛翔し、間合いを取り直そうとするパズズに肉薄しながら、アモンは抑揚のない声で残酷な現実を突き付ける。 「──その程度の一撃では、この私アモンに傷を付けることなど、到底不可能であると知れ」 音もなく繰り出されたアモンの拳が顎を打ち抜き、直撃をまともに受けたパズズは血飛沫を上げながら地面に叩き付けられた。 身を起こそうとするパズズを嘲笑うようにアモンの拳が何度も何度も振り下ろされ、その度にパズズの巨躯は大きく沈み込み、砂塵が舞い踊る。 「……どうした? 万夫不当の大精霊。其方の持つ力は、この程度のものなのか?」 血濡れた拳を何度も振り下ろしながら、アモンは無表情のままパズズに問う。梟頭の異形は、まるで興醒めしたかの如く目を細め、憐れむようにパズズの顔を見下ろしていた。 ──"この、恥辱……注ぎがたし"!! パズズの目の奥が憤怒に彩られる。アモンもパズズの纏う闘気が増したのを感じたのか、追撃の手を止めて跳躍、素早く間合いを取り直す。 ──"許すまじ、死天衆のアモン……能う限りの苦痛を以て貴様を葬ってくれよう"!! 全身に熱風を纏い、音を置き去りにするほどの疾さで再度、パズズはアモンへと襲い掛かる。 「…………」 言葉にならぬ怒号を発しつつ、次から次へと繰り出されるパズズの強烈な攻撃──斬打突に加え凄まじい威力と速度を兼ね備えたそれらを、アモンは淡々といなしてゆく。 パズズは攻撃の手を緩めず、そればかりか更に手数を増やしてゆく。その威力が絶大であることは、遠目からでも確認出来る、宙を舞う大量の砂塵からも明らかだった。 だが……それを以てしても、アモンに傷一つ負わせることは出来なかった。 パズズの繰り出した猛攻の尽くを、アモンは胸の前で腕組みしたままの状態で、背に生やした翼を用いて容易く捌いてしまったのだから。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-17
Baca selengkapnya

第二章 第59話 都市国家の終焉

同時刻、精霊協会本部大広間── 物音一つ、そればかりか埃一つすら立てずにその場へと悠然と舞い降りると、ベリアルはそのままレヴィの方へと瞬時に間合いを詰める。 「──聖教騎士団創設以来の傑物と称される貴女の実力、如何ほどのものか確かめさせてもらいましょう。くれぐれも、この私を失望させないで下さいよ?」 言い終わらぬ内に、ベリアルの手刀が空間を斬り裂く。レヴィは即座に反応し、最小限の動きでその一撃を躱してみせる。 だが── 「……うっ!?」 胸に鋭い痛みが走ったかと思うと、足腰から急に力が抜けた。紅い華びらを思わせる飛沫が鮮やかに舞い、レヴィはその場に片膝を付く。 手刀を繰り出すと同時、ベリアルはレヴィの片膝を目にも留まらぬ疾さで蹴り抜いていた。それにより、本来想定していた回避行動が出来なかったのだと、レヴィは瞬時に悟った。 立ち上がろうにも、足に力が入らない。蹴られた際に骨の一部が砕けたようだ。そうこうしている間にも、腰に帯びた剣を無音で抜いたベリアルが、ゆっくりと歩み寄ってくる。 「──はい、終わりです」 喉元にすっと剣を突き付けられる。完敗だ。ほんの一瞬で無力化されてしまった。レヴィは諦めたようにほっと一つ溜め息を吐く。 「……斯様な形で幕引き、か。ガブリエル様お一人すら守り切ることが出来ずに死ぬことになろうとは、我ながら情けないものだな」 「いえいえ……私を相手にした割には、良くやった方じゃないですかね? 凡百の輩ならあの時点で反応すら出来ずに、そのまま胴体が綺麗に真っ二つですから。皮膚が若干裂けた程度で済ませたことは、素直に称賛しますとも」
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-18
Baca selengkapnya
Sebelumnya
1
...
45678
...
10
Pindai kode untuk membaca di Aplikasi
DMCA.com Protection Status