セラフィナたちが、国境へと移動している丁度その頃、聖教騎士団長レヴィと大天使ガブリエルの二名もまた、精霊教会の本部がある都市国家アッカドを目指し、旅を続けていた。 砂漠地帯某所── 都市国家アッカドに向かうと言う行商人との交渉を終えたレヴィは、広場で現地の子供たちと戯れているガブリエルの元へと足早に向かった。 レヴィたちが立ち寄っているのは、やや小規模なオアシス都市であった。砂漠地帯の中にはオアシスと呼ばれる、絶えず水が得られる場所がある。そうした場所には人が集まりやすく、場合によっては血で血を洗うような争いに発展することもしばしばあると言う。「──ガブリエル様。ただいま、アッカドへと向かうという行商人との交渉を終えて参りました」 レヴィの言葉に、子供たちに御伽噺を語って聞かせていたガブリエルは髪を指先でかきあげつつ顔を上げる。天使であることに気付かれぬよう、彼女は魔術で翼を巧妙に隠していた。「ふふっ……ご苦労様です、レヴィ。それで、如何でしたか?」「はい。交渉の結果、喜んでアッカドまで我らを同行させてくれるとのことに御座います。代わりに、少しばかり報酬を弾むことになってしまいましたが……」 若干不満そうに、レヴィは白い頬をぷくっと膨らませる。商人という生き物には、強欲な者しかいないのか……そう言いたげな様子である。 もっと、もっとと子供たちがガブリエルに御伽噺を聞かせてくれとせがむ。どうやら、この短時間ですっかり懐かれてしまったようだ。 異なる存在を信仰する異教徒が相手であろうとも、聖教徒と同じように接するガブリエル。慈愛と優しさに満ちたその様は正しく、神の代理人と呼ぶに相応しい。あの邪智暴虐なる枢機卿クロウリーでさえ、彼女には頭が上がらないのも納得である。 そんなガブリエルのことを、レヴィはほんの少し羨ましく思った。先代騎士団長たる親の七光りと、クロウリーを始めとする年寄り連中から小馬鹿にされ、まるで相手にして貰えないレヴィにとって、尊崇を集めるガブリエルは憧れ以外の何者でもなかったのだ。「──お待たせ致しました」
Last Updated : 2025-05-26 Read more