──夜が明けた。 あれほどの絶叫と謎に満ちた夜が嘘だったかのように、穏やかな秋の朝が訪れる。教室の窓から差し込む陽光は柔らかく、空はどこまでも高く澄み渡っていた。 けれど、僕の心は晴れない。あの昨夜の出来事が頭から離れず、重く沈んでいた。 (……あの怯え方は、異常だった) 脳裏に蘇るのは、恐怖に歪んだ老婆の顔と、耳の奥にこびりついて離れない断末魔の叫び。 (一体……何に脅えていたんだ……?) 「よっ、悠斗」 「……翔太か。おはよう」 不意に声をかけてきた親友に、僕は力なく返す。 「なんだよ、浮かない顔しやがって。昨日のばあちゃん、そんなにヤバかったのか?」 「……え?」 そんなに顔に出ていただろうか。結局、僕は翔太に、昨夜の廃校での出来事をかいつまんで話した。もちろん、美琴や僕の能力のことは、翔太も知っている。 「……っていう訳なんだ」 「へぇー。でもよ、それっておかしくねぇか?」 僕の話を聞き終えた翔太は、腕を組んで唸る。 「いや、俺は詳しくねぇけどさ。幽霊って普通、成仏したら光になって消えるとか、そういうもんだろ?」 その、あまりにも単純な言葉に、僕はハッとさせられた。 そうだ。霊という存在を知らない翔太の感覚の方が、むしろ正常だ。未練を断ち切れば、彼らは還るべき場所へ還る。それが道理のはず。 でも、昨日の老婆は明らかに違った。恐怖に歪んだあの顔。断末魔の叫び。そして、まるで存在そのものが「喰われた」かのような、痕跡の消滅……。 何かが、絶対におかしい。 僕は込み上げる違和感を頭の片隅に押しやり、無理やり教科書に視線を落とした。 *** 昼休み。僕たちは、久しぶりに二人で屋上のベンチに座り、弁当を広げていた。 「なぁ、悠斗」 「なに?」 唐揚げを口に放り込んだ翔太が、唐突に言った。 「お前、いつになったら美琴ちゃんに告白すんだよ」 「ゴホッ…! ゲホッ、げほっ…!」 その一言に、僕は盛大に麦茶を噴き出しそうになった。 「お、図星か? 動揺しまくりだな、お前」 ニヤニヤと笑う翔太を、僕は涙目で睨みつける。 「いきなり、何を言い出すんだ!」 「いやいや、見てるこっちがもどかしいんだよ。お前らが互いに意識しまくってるの、周りから丸分かりだって、前も言ったろ?」 その言葉に、僕の脳裏に美琴の顔が浮かぶ。
Last Updated : 2025-07-03 Read more