さらに厄介なのは、翔太の存在だった。清子という愛人のせいで離婚にまで至り、ついには刃傷沙汰にまで発展した――そんな話題、上流社会においては格好の酒肴となる。神谷家も雅臣も、これ以上の醜聞は許されない。その意図を察した航平は、しばし黙考したのちに口を開いた。「星......それは賭けだ。もし雅臣が本当に意地を通すつもりなら、君自身を犠牲にすることになる」だが星はあっさりと笑った。「それでもね。この鬱憤を晴らさなきゃ、いつか本当に手を下してしまうかもしれない」航平は言いかけて、結局は口をつぐんだ。――もうここまでこじれてしまったのだ。奏の件が雅臣の仕業でないことも、今さら伝えるべきではないだろう。そのころ。影斗は部下の報告を聞き、眉をわずかに上げた。「つまり、彩香にちょっかいをかけた遠藤とかいうのは、雅臣の差し金じゃないと?」「はい。実は......川澄奏の身内です」「身内、か」影斗は渡された資料に目を走らせ、漆黒の瞳を細める。「奏のスキャンダルを流したのも、雅臣じゃなくて川澄家?」「その通りです。川澄家の人間は奏を家に戻したがっています。しかし本人が拒否したため、強引に追い込もうとしたようです」「本人は、それを知ってるのか?」「恐らく知っているはずです。家族が何度か接触しています」影斗はソファに身を預け、唇の端に皮肉めいた笑みを浮かべた。「分かっていながら、星ちゃんには黙っていた......あの男も腹黒いな」部下がさらに報告を続ける。「調査の途中で、航平も同じ件を探っているのを見ました。彼も恐らく、事情を把握しているはずです」影斗の唇に、意味深な弧が浮かぶ。「奏は黙っているし、雅臣の親友であるはずの航平まで、口を閉ざしている。本来なら星ちゃんに情報を流しているはずの彼が、わざと黙っていて、雅臣に濡れ衣を着せている......面白いじゃないか」宿題をしていた怜が顔を上げた。「お父さん、じゃあ星野おばさんに教えてあげないの?」影斗はちらりと息子を見下ろし、どこか楽しげに答える。「奏も航平も、そろって沈黙を選んだ。なのに俺がわざわざ口を出すと思うか?雅臣の人望のなさは明らかだ。親友すら庇わない。俺が助け舟を出
続きを読む