星は、葛西先生の顔に泥を塗るような真似はしなかった。堂々とした態度で、礼を失することもなく、その立ち居振る舞いは見事だった。会場の人々は口々に彼女を称え、「葛西先生は人を見る目がある」と感心していた。葛西先生は、まるで子どものように嬉しそうにそれを受け取り、照れもせずに笑顔で相づちを打った。――褒め言葉はすべて、素直に受け入れる。その様子を見て、「この人は褒められるのが好きなタイプだ」と、周囲の誰もが察した。とりわけ「弟子をよく選んだ」「星野星は非凡だ」といった言葉が飛ぶたびに、葛西先生の表情はますます柔らいでいく。気がつけば、会場は星を持ち上げる空気に包まれていた。――それは、星にとっては初めての体験だった。雲井家にいた頃も、神谷家に嫁いでからも、彼女はほとんどこうした場に呼ばれたことがない。神谷家では「品位に欠ける」「恥をかかせる」として、常に留守番を命じられた。雲井家では「若く、まだ礼儀を覚えていない」という理由で、外に出されることはなかった。ましてや、その頃はまだ彼女の身分が公になっておらず、連れて歩くのも気まずかったのだ。そんな彼女が今――堂々と注目を浴び、称賛を受けている。胸の奥で、何か温かいものが膨らんでいった。そのとき、一人の男が言った。「葛西先生、あなたの弟子は本当に才色兼備ですな。あの社交界の華、雲井明日香にも引けを取りませんよ」その言葉に、葛西先生は腹の底から笑った。「はっはっは!当然だ。うちの弟子が一番に決まっておる!」謙遜という言葉を知らぬかのように、誇らしげに胸を張る。周囲も笑顔で頷きながら、同時に心の中では、「雲井明日香と張り合うなど無理だろう」と、冷静に判断していた。雲井明日香は、名門・雲井家が徹底的に仕込んだ令嬢。星がいかに幸運を掴もうと、その世界で肩を並べるのは、まだ遠い。だが、誰も口に出しては言わなかった。せっかく葛西先生が上機嫌なのに、水を差す者はいない。星を連れて次々と名士たちに挨拶を済ませたあと、葛西先生はふと視線を前方へ向けた。そこには――神谷家と山田家の一行がいた。葛西先生の口元に、冷ややかな笑みが浮かぶ。「星。あちらの方々にも、挨拶しておこうか」星は葛西先生を見上げて頷いた。「は
Read more