哲也は葵の部屋を隅から隅まで探し回った。調度品は以前のまま、何一つ動かされた様子はなかった。だが、彼はすぐに何かがなくなっていることに気づいた。しかし、その「何か」が何なのか、すぐには思い出せなかった。やがて、葵の身分証明書類がすべて消えていることに気づき、彼は確信した。だが、彼女は一体どこへ行ったのか。天涯孤独な身の上である彼女に、彼のもと以外に行くあてなどあっただろうか?そのときちょうど、秘書から連絡が入った。葵の最新の足取りが報告され、三時間前に飛行機で出国したこと、目的地がアメリカのロサンゼルスであることが伝えられた。「アメリカで......何をするつもりだ?」「分かりません」秘書は彼の怒気を察してか、慎重に答えた。哲也は短く「わかった」とだけ返し、無言で電話を切った。次に彼は里菜の家を訪ね、葵がアメリカへ向かった理由を尋ねた。しかし返ってきたのは、皮肉まじりの一言だった。「私が知るわけないでしょ?そもそも、あんたは葵の彼氏じゃなかった?毎日一緒にいたんでしょ?だったら、私よりよっぽど詳しいんじゃないの?」哲也は言い返す言葉もなく、ただ黙り込んだ。里菜は鼻で笑った。「なんだ、あんたも知らないのね。だったらもう、葵がどこへ行こうと、どうでもいいんじゃないの?」「葵は俺の彼女だ。どこにいるか気にするのは、当然のことだろ!」哲也は声を荒げた。だが、里菜も負けなかった。「今さら気にしてどうするの?半月も連絡なしで放ったらかしだったくせに。まるで他人みたいだったわよ?」哲也は馬鹿ではなかった。これ以上問い詰めても何も得られないと察し、諦めて引き下がった。別荘へ戻った彼は、秘書に翌朝一番のロサンゼルス行きチケットの手配を命じ、再び葵の部屋にこもった。無人となった部屋を見渡すと、胸の奥がむず痒くなるような不快感に襲われた。葵が自分を愛していたことは、彼にもわかっていた。彼女が自分なしでは生きていけないことも、疑いようのない事実だった。それなのに、その葵が、自分の前から姿を消した。抑えきれない苛立ちが、哲也の胸を満たした。彼は部屋にある物を手当たり次第に破壊し、葵が黙って去ったことへの怒りと困惑をぶつけた。その隙をついて、外で様子を窺っていた麻美が、そっとドアを開けて入ってきた。「哲也、明日
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