Share

76.私の居場所

last update Last Updated: 2025-07-22 17:22:49

「おい、葵!大丈夫だったか!?」

彼の声は、安堵とそして怒りが混じったような響きを持っていた。アゼルは私の両肩を掴み、まっすぐと私を見つめている。

「心配したんだぞ!なんでこんな無茶したんだ!」

アゼルが私を心から心配してくれていたことが言葉の端々から伝わってくる。その優しさに私の緊張の糸はプツリと切れた。

「ごめんなさい、ごめんなさい……!」

私は堪えきれず子どものように泣きじゃくった。

「私、もっと誰かの役に立ちたくて……それで、知識だけ詰め込んでも駄目だと思って、無理言って連れてきてもらったの。でも、怖かった……怖かったよ……!」

言葉にならない嗚咽とともに、これまでの不安や孤独、そして今経験した恐怖が涙となって一気に溢れ出す。アゼルはそんな私を力強く抱き寄せた。

「とりあえず無事でよかった……。それに葵は、今のままで十分、役に立っている、というより……」

彼の声が、私の耳元で震える。

「俺にとって ”大切な存在” なんだ。だから、もう勝手にいなくならないでくれ……」

アゼルはそう言って、顔を歪めて

Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 愛されなかった武士の娘が寵愛の国へ転身~王子たちの溺愛が止まらない~   77.アゼルの急変、命の危機?

    アゼルに助けられ、安堵と心細さが入り混じるまま、私は王宮への帰路についていた。アゼルは私を馬に乗せ、彼は隣を歩いていたのだが、先ほどから、私の傍らを歩くアゼルの身体が、少しずつ左右に大きく揺れている気がした。彼の歩調が、どこか不自然に感じられる。小休憩を取るために馬を降りた時、私はアゼルに近づいた。アゼルの顔は心なしか赤く、いつもの覇気がなく元気がないように見えた。その表情には、私を助け出すために駆けつけてくれた時の、あの力強い輝きはなかった。「アゼル?どうしたの?体調でも悪いの?」私の問いかけに、アゼルはゆっくりと顔を上げた。その瞳は、わずかな倦怠感が浮かんでいた。「……なんでもない。大丈夫だ」そう言って立ち上がろうとしたアゼルだが、ふらつき、危うくバランスを崩しそうになった。慌てて手を差し伸べると、その腕は信じられないほど熱い。「熱い!アゼル、もしかして熱があるの!?」「これくらい大丈夫だ」そう言って出発しようとするアゼルを制し、近くの木陰に座らせた。彼の首に触れると、明らかに熱を帯びている。そして、彼の左の二の腕に赤く腫れ上がった何かに刺されたような跡があるのが見えた。「もしかして、これが原因……?」

  • 愛されなかった武士の娘が寵愛の国へ転身~王子たちの溺愛が止まらない~   76.私の居場所

    「おい、葵!大丈夫だったか!?」彼の声は、安堵とそして怒りが混じったような響きを持っていた。アゼルは私の両肩を掴み、まっすぐと私を見つめている。「心配したんだぞ!なんでこんな無茶したんだ!」アゼルが私を心から心配してくれていたことが言葉の端々から伝わってくる。その優しさに私の緊張の糸はプツリと切れた。「ごめんなさい、ごめんなさい……!」私は堪えきれず子どものように泣きじゃくった。「私、もっと誰かの役に立ちたくて……それで、知識だけ詰め込んでも駄目だと思って、無理言って連れてきてもらったの。でも、怖かった……怖かったよ……!」言葉にならない嗚咽とともに、これまでの不安や孤独、そして今経験した恐怖が涙となって一気に溢れ出す。アゼルはそんな私を力強く抱き寄せた。「とりあえず無事でよかった……。それに葵は、今のままで十分、役に立っている、というより……」彼の声が、私の耳元で震える。「俺にとって ”大切な存在” なんだ。だから、もう勝手にいなくならないでくれ……」アゼルはそう言って、顔を歪めて

  • 愛されなかった武士の娘が寵愛の国へ転身~王子たちの溺愛が止まらない~   75.葵の危機、救世主の登場

    恐怖で体が動かない。商人の不気味な笑みを見た瞬間、足がすくんで地面に縫い付けられたように一歩も動けなくなっていた。商人はそんな私を品定めするように、ゆっくりと私に近づいてくる。指先がガタガタと震え始めた。その様子を見てニヤリと唇の端を吊り上げ、いやらしい笑みを浮かべていた。その笑みはまるで獲物を見つけた獣のようで私の背筋をぞっとさせた。(怖い、怖いよ……助けて……誰か……)心の中で何度も叫んだ。声にならない声が喉の奥で詰まる。このまま捕まってしまうのだろうか。奴隷にされる?そんな想像が頭をよぎり全身の震えが止まらなくなったその時だった。「おい、そこで何をしている。」聞き慣れた、力強く、そして少し荒々しい声が響いた。顔を上げると、そこにいたのは、白馬に乗り腰に武器を携えたアゼルだった。(まさかアゼルがここまで来てくれるなんて……。)商人は武器を持ち白馬に乗ったアゼルを見て、瞬時に只者ではないと悟ったようだ。先ほどまでの不気味な笑みは消え失せ、一転して愛想の良さそうな笑顔に変わっていた。「いや、別に。ただ珍しい野草を摘んでおられるようでしたので、何をしているか声を掛けただけですよ。」

  • 愛されなかった武士の娘が寵愛の国へ転身~王子たちの溺愛が止まらない~   74.葵の危機、商人の悪意

    王宮の騒乱を知る由もなく、私はゼフィリア王国との国境に近い静かな森の中で薬草の採集に没頭していた。そう、背後から視線を感じるまでは。一人の男が私の姿を遠巻きに観察していた。それはゼフィリア王国の商人だった。彼は、珍しい野草を真剣な様子で調べ、時折何かを呟いている私をじっと見つめていた。(変わった容姿の女がいるな。この黒髪に、透き通るような白い肌……バギーニャの連中とはまるで違う。そう言えば最近、噂でバギーニャに王子たちを夢中にさせる『異国の女』がいると聞いたな。まさか、あれがその『魅惑の女』か?まあ、もし違ったとしても、これほど珍しい顔立ちの若い女だ。東方のどこかの貴族の娘か、あるいは珍しい奴隷としてでも、高値で買い取る者がいるかもしれない……)商人の脳裏には金儲けの算段が次々と浮かんでいた。私の存在は、彼にとってただの「商売道具」だったのだ。その瞳には、すでに獲物を見定めた獣のようなギラつきが宿っていた。護衛たちの目を盗むように商人はゆっくりと私に近づいていった。この場所にはバギーニャの国民も薬草採集に来ることがあるため、護衛たちは見た目だけでは判別がつかず、疑わしい動きがない限り遠巻きに見守るしかできない。そのわずかな隙を商人は見逃さなかった。「何をしているんですか?」そうにこやかに声を掛けられて私はハッと顔を振り向けた。そこに立っていたのは、一見して人の好さそうな笑顔を浮かべた商人だった。しかし、その瞬間、私の背筋には

  • 愛されなかった武士の娘が寵愛の国へ転身~王子たちの溺愛が止まらない~   73.葵をかけて国の戦い勃発?

    自分の下した決断が最善策だと思い込んでいたが、それが葵を深く傷つけ、結果として危険に晒すことになった。後悔の念が津波のように押し寄せる。「もう過ぎたことはしょうがない!俺は葵のところへ行く!」アゼルは、そう言い放つと迷うことなく扉へ向かっていった。「待て!ゼフィリア王国の近くなら、万が一に備えてもっと人数を多くしてから行った方がいいのではないか!」サラリオは冷静であろうと努めながら、焦燥と後悔に揺れる心でアゼルを呼び止めた。国家を統べる者として感情に流されるわけにはいかない。最善のリスクヘッジを考えなければ。しかし、アゼルはサラリオの言葉に聞く耳を持たなかった。彼の頭の中にはただ一点、危険な場所に向かってしまった葵の姿しかなかった。「そうしたければそうしろ!後から来ればいい!とにかく葵の身が心配だ!俺は今すぐ助けに行く!」アゼルは、そう叫び執務室を飛び出していった。その背中には一切の迷いがなかった。「あいつはもう……。」サラリオは大きくため息をついた。その場に膝をつきたいほどの絶望感と無力感に襲われたが、同時にアゼルが少しばかり羨ましかった。自分も

  • 愛されなかった武士の娘が寵愛の国へ転身~王子たちの溺愛が止まらない~   72.困惑する王宮と葵の危機

    その頃、王宮はにわかに騒然とした空気に包まれていた。「葵様が、ゼフィリア王国近くに行ってしまいました!」メルの悲痛な叫びが執務室に響き渡った瞬間、それまでサラリオとアゼルを隔てていた張り詰めた空気は一瞬にして凍りついた。兵士たちがざわめき、奥からルシアンとキリアンも駆けつけてくる。「ゼフィリア王国の近くに行くなんて……危険すぎる!それでなくともゼフィリア王国は葵の存在に好奇と、そして危機感を示しているのだ。もし、万が一、捕らえられたりしたら……!」サラリオの顔からは血の気が引き、言葉の端々に焦りが滲む。彼の脳裏には、ゼフィリア王国から送られてきた書簡の文面とアンナ王女が漏らした「誘惑する異国の女」という言葉が鮮明に蘇っていた。「おい、兄さんどういうことだ。ちゃんと説明してくれ!」アゼルはサラリオの胸ぐらから手を離し、今度は彼の両肩を掴み問いただした。その瞳には混乱と、何よりも葵への途方もない心配が宿っている。サラリオは大きく息を吸い込んだ。もはや隠している場合ではない。彼はアゼルと、そしてその場にいたメルとルシアン、キリアンにアンナ王女が再訪した際にルシアンが聞き出したゼフィリア王国の真の目的――「葵」の存在を探るために送り込まれたこと、そして葵を守るために、彼女との接触を控え情報を秘匿していたことを全て説明した。

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status