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79.アゼルの目覚め、そしてもう一度

Aвтор: 中道 舞夜
last update Последнее обновление: 2025-07-23 21:22:51

「うう、ん……」

小さいが確かなうめき声が耳に届き、私はハッと顔を上げた。数時間前まで高熱にうなされ苦しそうにしていたアゼルがゆっくりと目を開けたのだ。彼の瞼が震え、碧い瞳が私を捉える。

「あ、アゼル!起きた!?調子はどう?大丈夫!?」

私は、彼の額にそっと触れた。薬の効果か熱も明らかに下がっている。先ほどのつらそうで見るに耐えなかった表情はどこにもなくいくらか血色が戻っていた。

「葵……。」

アゼルがか細い声で私を呼んだ。そして真っ直ぐに私を見つめ、ゆっくりと手を差し出す。私は彼の言葉を聞き漏らすまいと耳を彼の口元に近づけようとした。まだ、喋るのも大変なのだろうか。

その瞬間、アゼルはふわりと私を抱き寄せた。彼の差し出した手が、私の頭にそっと触れ、私の唇を自身の唇へと導いていく。薬を飲ませた時のような弱々しさはなく、アゼルの唇ははっきりと意思を持って、そして力強く動いている。

「ん、んっ!!!」

驚きに目を見開く。唇が重なり、薬の苦みなど一切ない、アゼルの温かい吐息が私を包む。

一瞬の戸惑いの後、私は慌てて唇を離した。アゼルは口元を手の甲で拭い、私の反応を楽しんでいるかのようにニヤリと笑って見せた。

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