로그인「うう、ん……」
小さいが確かなうめき声が耳に届き、私はハッと顔を上げた。数時間前まで高熱にうなされ苦しそうにしていたアゼルがゆっくりと目を開けたのだ。彼の瞼が震え、碧い瞳が私を捉える。
「あ、アゼル!起きた!?調子はどう?大丈夫!?」
私は、彼の額にそっと触れた。薬の効果か熱も明らかに下がっている。先ほどのつらそうで見るに耐えなかった表情はどこにもなくいくらか血色が戻っていた。
「葵……。」
アゼルがか細い声で私を呼んだ。そして真っ直ぐに私を見つめ、ゆっくりと手を差し出す。私は彼の言葉を聞き漏らすまいと耳を彼の口元に近づけようとした。まだ、喋るのも大変なのだろうか。
その瞬間、アゼルはふわりと私を抱き寄せた。彼の差し出した手が、私の頭にそっと触れ、私の唇を自身の唇へと導いていく。薬を飲ませた時のような弱々しさはなく、アゼルの唇ははっきりと意思を持って、そして力強く動いている。
「ん、んっ!!!」
驚きに目を見開く。唇が重なり、薬の苦みなど一切ない、アゼルの温かい吐息が私を包む。
一瞬の戸惑いの後、私は慌てて唇を離した。アゼルは口元を手の甲で拭い、私の反応を楽しんでいるかのようにニヤリと笑って見せた。
たくさんの人々が見守る中、戴冠を終えたエリアンは、頭に王冠をつけて民衆に笑顔で応えている。その黄金の光を放つ王冠は、三百年の歴史と、三国それぞれの紋章が新たに刻まれた、統一の象徴だった。私もその隣で、溢れんばかりの幸福感を湛えた笑顔で人々に笑顔で微笑んで手を振っていた。太陽の光が、新しく作られた巨大な旗、三色の紋章を掲げた旗を鮮やかに照らしている。歓声の波が、広場全体から津波のように押し寄せてくる中、エリアンは初代国王としての決意を力強く国民たちに宣言した。彼のまっすぐな思いに、みなが両手を上にあげて歓声と拍手を送っている。その音は地鳴りきのように全体に響き渡る。エリアンが、そっと私に視線を送り「次は君だ」と目で合図した。私は、一段と強くマイクを握り締め深く深呼吸した。民衆の歓声が一瞬静まり、エリアンから私へとすべての視線が集まる。私は、初代統一王妃としての使命と誇りを胸に静かに口を開いた。「ただいま、この時より初代統一
アイリside「アイリ、準備はいいかい?」「ええ、でも……とても緊張するわ。」私の声は、自身でも驚くほど震えていた。バギーニャ、ルーウェン、ゼフィリアが三百年もの長きにわたり友好を保ってきた三国が統合されることになり、初めての国王就任式典に参加していた。私は、ただの参加者ではない。夫のエリアンと共に、この新しい統一王国の未来を導いていく初代王妃として、この場に立っているのだ。胸の前に手を当てて深く深呼吸する私に、エリアンは私のもう一方の手を優しく握った。彼の掌の熱が私の冷たい指先に確かな力を注ぎ込む。「アイリ、こっちを向いて。」エリアンの方を向くと、彼は私の背中に両手を回して優しく包み込んだ。彼の身体から伝わる温かさと、彼が纏う心地よい香りが、私の張り詰めた心を少しずつ解きほぐしていく。「アイリ、大丈夫。君は素晴らしい王妃になるよ。僕が保証する。君は、初代国王サラリオと王妃葵の血を受け継ぐ者だ。誰よりも勉強熱心で、誰よりも祖先を崇拝し、自分も慣れるようにと時間を割いてきたじゃないか。もうすでに君は王妃としての器を持っているよ。歴史は、君の味方だ。」
私は、遥か三百年前に生きた祖先の魂を継ぐ者として、今、図書館で史実を読み歴史を振り返っていた。かの時代、サラリオ、アゼル、ルシアンという三人の初代国王と、彼らが愛した妃たちが築き上げた三国間の友好関係は、その後の歴史に巨大にして恒久的な影響を及ぼした。私たちの祖先が生きた時代が終わり、幾度となく世代が交代した後も、この三国同盟の強固な絆は、微塵も揺らぐことはなくその友好関係は三百年の長きにわたり続いたのだ。サラリオが示した温かな誠実さ、アゼル王が体現した情熱的な連帯、そしてルシアン王が確立した冷静な信頼。この三つの異なる統治スタイルが永遠の基盤となっている。三国王に世代交代されてからは、バギーニャ、ルーウェン、ゼフィリアの三国は、もはや国境という無意味な線引きを意識することなく、あたかも一つの大きな共同体のように機能したそうだ。かつて国境紛争や不信感で閉ざされていた扉は、今や文化、経済、学術の交流が盛んに行われる大通りへと変わった。ルーウェン王国の進取の気風と商業の活気は、ゼフィリア王国の深い学術と歴史によって支えられ、そしてバギーニャ王国の安定した統治と豊かな農業が、全体の平和と国民の生活の基盤を保証した。国民は、国境を越えて学び、働き、愛し合う。一代目となるサラリオ、アゼル、ルシアンたちが庭園で遊ばせていた十二人の子どもたちも、それぞれの国で新しい時代の担い手となり、彼らの子孫がこの平和な繁栄を次世代へと受け継いでいった。初代国王時代に恐れられてい
葵side翌年、私たちは結婚して二十年が経った。バギーニャ王国の広大な庭園に植えられた古い樫の木が、季節ごとに葉を茂らせるのを、私たちは共に見てきた。子どもたちはすっかり成長して成人を迎え旅立っていき、私たち夫婦の夜の時間は、以前のように静かで穏やかなものへと戻っていた。ある夕暮れ時、サラリオ様と二人で王宮の図書室で過ごしていると、彼は手に持っていた古びた文献を閉じ、私に向かって静かに尋ねた。「葵、この国に伝わる神話の話を、今でも覚えているか?」彼の声は穏やかだったが、その碧い瞳は、私と出会った頃の情熱的な光を帯びていた。「ええ、もちろん覚えています。女神が降臨するという言い伝えでしょう?そして、あなたは初めて私に会った日から、それが私だと言ってくれていたわ。」私は微笑みながら、その神話の核心を諳んじた。『バギーニャ王国──女神の王国。危機が訪れる時、聖なる滝より女神が降臨し混迷を極める国を導く。その者は異邦の地から来たる純粋なる魂を持ち、知と愛をもって国を繁栄させるであろう』
葵sideこの日、私たちの一番下の子どもが『十七の儀』を終え、愛する子どもたちが晴れて全員成人となったのだ。「庭で遊んでいたあの子どもたちが、もう全員成人したのね。なんだか感慨深いわ。」私が、そう呟くと、サラリオ様が私の手をそっと握りしめた。その手は、出会った頃と同じくらい温かく、そして国を導いてきた者の力強さに満ちていた。「ああ。長かったな。」私は、隣に立つサラリオ様と共に、王宮のテラスから夕暮れに染まる広大な庭園を見渡しいた。そこでは、成長した子どもたちが、昔と同じように賑やかに笑い合い、新しい未来について語り合っている。子どもたちは、それぞれの愛の形や使命を背負って生き始めている。外交官として他国へ渡った者もいれば、学者としてキリアンの研究を継いだ者もいた。「この十七の儀が終わって、本当に肩の荷が下りたよ。これで、ようやく子どもたちの未来へと繋がった。」「ええ。でもサラリオ様、私たちの物語はまだまだ終わりませんよ。そのうち、孫たちの物語が始まります。」私が茶目っ気たっぷりに言うと、サラリオ様は苦笑いをしながら、私の頭をそっと撫でた。
葵sideサラリオ様がバギーニャ国王に即位して以来、私たちの宮殿は以前にも増して活気に満ちた場所になった。単に公務が増えたからではない。三つの隣国が、兄弟によって血縁と深い信頼で結ばれたからだ。サラリオ様は、温かさと誠実さで国を統治している。彼は人の意見に耳を傾ける優しさと、王としての断固たる決断力を兼ね備えていた。私自身も王妃として彼の隣に立ち、特に医療の分野で力を尽くした。あれから薬学は少しずつ普及をして、今では各家庭の家の前には用途に応じた薬草が栽培されるようになっていた。私たちは、国の資源を活用し、隣国に販売することで揺るぎない安心感を国民に与えている。毎晩、寝室でその日の出来事を語り合う時間が、私にとっての最大の支えであり、内政の基盤だった。一方、ルーウェン国王となったアゼルとリリアーナ王女の統治は、激しくも美しい火花を散らしていた。彼らの統治は、情熱と挑戦に満ちている。リリアーナ王女が持つ卓越した外交の才能と、アゼルの大胆な行動力が組み合わさることで、ルーウェン王国は驚異的な速度で改革を進めた結果が功を奏し、経済成長をしていた。二人は公務中も互いに意見をぶつけ合い、その結果、最も最適で迅速な政策を導き出す。そして、失敗を恐れずに挑戦をし、他国への外交や取引にも力を入れて経済力を高めていった。彼らの統治の仕方は、私たちとは違うけれど、強い使命と知的な共鳴に満ちた、彼らならではの形だった。







