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78.初めてのキス、アゼルへの想い

last update Last Updated: 2025-07-23 17:22:32

私は急いで薬草を煎じて調合し始めた。苦さはあるが、即効性が高く、今のアゼルには良薬だ。しかし、私が調合している間に、アゼルの身体はどんどん熱くなり、呼吸もどんどん苦しそうになっていった。額には脂汗がびっしりと浮かんでいる。

出来上がった頃には、彼の呼吸は「はあはあ」という声が聞こえるほど浅くなっており、自力で薬を飲むことすら難しくなっていた。唇は乾き、意識も朦朧としているようだ。

「アゼル……お願い。飲んで」

私は、彼の枕元に膝をつき必死に呼びかけた。アゼルは、うっすらと目を開け、こちらをじっと見つめている。普段の覇気に満ちた瞳とは違い、今はその瞳が弱々しく助けを求めるように映り、胸を切り裂かれるような気持ちになった。

(なんとしてもアゼルを助けたい。どうやったらこの薬を飲んでもらえるだろう……)

焦燥感が募る。このままではアゼルは危険だ。その時、私の頭に一つの方法が閃いた。躊躇する暇などなかった。考えることもせず、次の瞬間には、私は薬と水を自分の口に含んでいた。

そして、ゆっくりとアゼルに顔を近づけ、震える唇を彼の唇に重ねた。熱を帯びたアゼルの唇が、私の唇に触れる。それは、私にとって人生で初めてのキスだった。

薬をこぼさないように、ゆっくりと口を開いていく。唇を少し動かすたびに、柔らかく弾力のある熱を帯びたアゼルの唇や舌の感触が伝わってくる。薬の苦さに、顔をそむけようとするアゼルの頬を、私は両手で優しく包み込み、少しずつ、少しずつ、薬と水を彼の口の中へと流し込んで

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