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Nox.V『その悔恨は毒のように』Ⅳ

Auteur: 皐月紫音
last update Date de publication: 2025-08-19 18:27:10

◆◇◆◇

「話は、これでお終いよ。その500年前の戦いを最後に私は、あの暗君に申し出て隠棲することにしたわ」

長い昔話を終えて嘆息を漏らすヴィオレタと、その隣でかけるべき言葉を探るレイフを蒼月の淡い月明かりが照らしていた。

廊下の気温が先ほどよりも、心なしか下がった気がする。

心を預けてきた仲間たちを失い、信じてきた|主人《あるじ》には裏切られ、彼女は一体どのように生きてきたのだろうか。

彼女と比べるようなものでもないが、孤独な人生を送ってきたのはレイフも同じだ。

だが、自分には姉がずっと側に居てくれた。

そして、今は多くの仲間と言える存在が周囲に居る。

それは彼女――ヴィオレタのおかげだ。

だが、彼女には長い間、その哀しみを分かち合うことができる存在が居なかった。

そしておそらくは、想いを寄せていたであろう相手と彼女は――。

そこまで考えたとき、レイフの心の奥に、わずかに針で突っつかれたような痛みが走った。

「俺は……あんたの側から居なくならねぇよ。もう二度と、死んでやる気もさらさらねぇし、あんたのことも……その、俺がこれから護ってやる」

言った後で顔に熱いものが込み上げてくる。

今、ヴィオレタがどのような|表情《かお》をしているのか、それを見る勇気がなく、思わず目を逸らしてしまう。

数秒の|後《のち》――聴き違いでなければ、微かな苦笑を含んだ嘆息が耳朶をくすぐり、頬に心地良く、冷たいものが触れた。

振り向けば、ヴィオレタの白く、ほっそりとした指に頬を突っつかれていた。

そこには、ある意味で予想どおりの無表情があるだけだった。

「生徒が、なにを生意気なことを言ってるのよ。黙って、子供は大人に護られていれば良いのよ」

「子供扱いすんじゃねぇ……。死神なんだから、もう大人も子供も関係ないだろ。見た目も変わらねぇし」

レイフは、軽くヴィオレタの指を振り払うと、頬をわずかに朱に染めて、ぶっきらぼうに言葉を返す。

「17年しか生きてない子供には変わりないわよ。屁理屈を並べないの」

「あんたにだけは、言われたくねぇよ……」

今まで、どれだけ滅茶苦茶な理屈で、こき使われてきたのかを思い出し、レイフはげんなりとする。

ちょっと、そういう雰囲気になったかと思えば、このようにいつもの調子に戻ってしまう。

それを少しだけ残念に思い、レイフは嘆息をこぼした。

「もう遅いわ。部屋に戻りましょう。眠くては頭も回らないし、お菓子とお茶くらいは出してあげる」

ヴィオレタは、冷たい声音でそう告げると、部屋へと踵を返した。

「おっ! でも、あんた、甘いもの嫌いじゃなかったか? もしかして俺のために……いでっ!?」

レイフが次の言葉を紡ぐ前に、ヴィオレタの手に出現した杖が無情に彼の頭に振り下ろされた。

「うるさいわよ……」

「わ、悪かった……」

両手で頭を押さえるレイフに、彼女は腕を組みながら呆れ混じりのジト目を向ける。

「……さっきの話、気持ちだけは、ありがたく受け取っておくわ」

「えっ? 今、なんて……」

「……いいから行くわよ。今夜は、まだ長くなるわ」

そう告げると、ヴィオレタは再び踵を返して部屋へと歩き出す。

レイフの気のせいでなければ、彼女の顔には、ほんの一瞬だけ微笑みが浮かんでいた気がした。

「……おう!!」

二人で肩を並べて歩いてゆく廊下は、もう先ほどのような肌寒さは感じなかった。

「ヴィオレタ先生の執務室を訪ねるヤツって、この学院に俺以外は生徒も教師にも居ないよな。ってことは、やっぱり俺のために……」

「貴方、舌を引っこ抜かれたいの?」

「いや、恐ぇよ」

■あとがき■

いつも『Pale Moon』を読んでくださり、本当にありがとうございます。

作者の皐月紫音です。

今日は皆さんに大切なお知らせがあります。

次の章から、この作品は有料公開へと移行することになりました。

ここから物語は一気にラストへ向かい、クライマックスと呼べる展開に入っていきます。

自信を持って面白いと言えるものをお届けしますので、ぜひ楽しみにしていてください。

『Pale Moon』は、私がGoodNovel様で初めて契約した長編作品でもあり、とても思い入れのある物語です。

これからも皆さんを湧かせていくような物語を作っていくつもりですので、是非応援していただけると嬉しいです。

そしてもしよければ、今後の活動を見逃さないために作者フォローもしていただけたら励みになります。

これからもどうぞよろしくお願いします。

皐月紫音

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