だから、真琴自身も目が回るほど忙しかった。信行のあの夜の強引な振る舞いのことなど、ほとんど頭から消えかけていた。その後二日間、信行からの連絡はやはりなかった。帰国したという報告すら、まだない。……この日の午前、真琴は智昭や淳史と共に市庁舎での会議に出席していた。他の幹部たちの到着を待つ間、手持ち無沙汰でLINEのタイムラインを眺めていると、長い間動きのなかった由美のアカウントが更新されているのが目に入った。一枚の写真がアップされていた。背景は病院だ。彼女が左手を掲げ、薬指にはめられた指輪を強調している。それは、信行がしているものと同じデザインの指輪だった。逆光を利用して撮られたその写真は、幻想的で美しかった。添えられたメッセージは一言。【あなたが忘れるはずがないと、知っていたから】写真の右端に見切れるように、背の高い男の人影が写り込んでいる。体の一部しか写っていなくても、真琴には一目で分かった。信行だ。長年そばにいたので、見間違えるはずがない。真琴は写真をタップして拡大することもなく、一瞬目を留めただけで、淡々と画面をスクロールさせた。そして、紗友里のふざけた投稿を見つけ、思わず吹き出して「いいね」を押した。間もなくして幹部たちが到着すると、真琴はスマホを伏せ、ペンを握ってノートを開き、会議の記録に集中した。昼食は智昭、淳史と共に庁舎の食堂でとったが、そこで偶然、貴博に会った。貴博は自腹で料理を追加注文してくれた。何度か食事を共にして、真琴が牛肉料理が好きだと知っていた彼は、気を利かせて牛肉のスタミナ炒めと牛すじ煮込みを頼んでくれた。配膳係が料理を運んでくると、貴博は真琴を見てにこやかに言った。「辻本さん、ここの調理場の田村(たむら)さんが作る牛肉料理は絶品ですよ。ぜひ食べてみてください」そう言って、まだ手をつけていない自分の箸で、真琴の皿に取り分けてくれた。真琴は恐縮して礼を言った。「ありがとうございます、五十嵐さん」貴博は笑って、智昭と淳史にも声をかけた。「高瀬社長、森谷さん、お二人はもうここの常連でしょうから、お構いしませんよ」淳史が豪快に笑って答えた。「気なんて使わなくていいですよ。これからは追加注文する時は、五十嵐さんのツケにしときま
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