「互いに脅し合って、この場から動けなくなるという選択肢もありますよ」 本当のところ、ヤクザに囲まれて生活している和彦にとって、秦は恐怖の対象にはなりえない。 それどころか実は、立場としては自分のほうが上かもしれない――。そう考えた自分自身が、和彦は怖かった。〈力〉が、物事を考える物差しになるのは、ヤクザの思考そのものだと感じたからだ。 何かに急き立てられるように、バッグを足元に落とした和彦は秦に歩み寄り、強引に顔を上げさせて唇を塞ぐ。すぐに唇を離したが、ベッドに腰掛けたままの秦は艶を含んだ眼差しで和彦を見上げながら、両腕を腰に回してくる。引き寄せられ、逆らえない流れに身を任せるようにして、和彦はもう一度秦の唇を塞いだ。 柔らかく秦に唇を吸われてから、示し合わせたように舌先を触れ合わせ、緩やかに絡める。同時に、腰には秦の腕が絡みつき、抱き締められる格好になっていた。 微かに濡れた音を立てて唇を離すとき、唾液が糸を引く。それを惜しむように秦に軽く唇を吸われた。「……先生は、本当に甘いですね。脅しにもならない脅しに屈して、わたしを助けてくれるんですか?」「ぼくはそんなに優しくない。別に、あんたがどれだけ痛めつけられようが、かまわない。ただ――」「ヤクザの力を頼るのが嫌なんですね。自分の言葉一つで、ある組織が整然と力を振るう様は、興奮できて、甘美でしょうね。ヤクザの世界から抜け出せなくなるほど」 話しながら秦が、和彦が羽織っているパーカーを脱がせ、Tシャツをたくし上げていく。素肌をまさぐられながら、和彦はまた秦と唇を重ね、引き出された舌を優しく吸われた。「――あいにくわたしは悪党ですから、先生の弱みは遠慮なく利用させてもらいますよ」 口づけの合間に秦に甘く囁かれる。女をたぶらかすことに慣れた男は、〈オンナ〉をたぶらかすことにもためらいを覚えないらしい。 力を行使したくない和彦と、力を持っていない秦が、互いの口を秘密で封じ合おうとするのは、ひどく茶番じみている反面、たとえようもなく淫靡だ。 Tシャツを脱がされた和彦は、手を引かれてベッドの中に招き入れられた。
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