Masuk「わたしも、先生にハマったと言ったら、四人目に加えてもらえますか?」
「何、言って……」「秘密を共有するという前提抜きでも、先生とこうするのは、麻薬めいた魅力があるんです。一度味わうと、やめられなくなりそうな――」 秦の逞しい欲望が、蕩けて弱くなっている内奥の入り口に擦りつけられたかと思うと、ゆっくりと侵入を開始する。「あっ……」「先生、力を抜いてください。絶対に、乱暴にはしませんから。そう振る舞いたくても、わたしの今の体では無理なので、安心してください」 一度は、薬の力を借りて強引な行為に及ぼうとした秦だが、今はとにかく優しく、紳士的だった。それとも、怪我のせいなのか。和彦には判断がつかない。 そもそも、秦とこんなことをしている理由が、快感に霞む頭ではわからなくなってきている。 互いを秘密で雁字搦めにして、秘密を守る。そうして新たに生み出した秘密は、とてつもない罪悪感と恐怖を与えてくるだろう。 この男は、和彦がそれらにもうこれ以上は耐えられないと、救いを求めるように周囲を見回してから、なんとかタクシーを停めて乗り込む。行き先を問われて一瞬言葉に詰まったが、咄嗟にある住所を告げる。 誰もいないと確信があったわけではなく、賭けのようなものだったが、タクシーがその場所についたとき、辺りの様子は普段と変わらないように見えた。普通の人たちが往来する、穏やかな日常的な光景が繰り広げられる場所。そんな中に建つ、まだ新しいアパート。 不自然な場所に停まる車や、こちらをうかがう人の姿がないことを視界の隅で確かめながら、和彦は足を引きずるようにしてアパートの、三田村が借りている部屋へと向かった。 三田村から受け取っていた合カギを使って部屋に入ると、ようやく一心地つけた。同時に、三田村の存在を強く感じさせる空間に、胸が苦しくもなる。 和彦はベッドの足元に座り込み、膝を抱えて顔を埋める。疲弊しきって、もう何も考えたくなかった。 どれぐらいの時間同じ姿勢でいたか、突然、玄関のドアが乱暴に開く音がした。カギをかけるのを忘れていたのだ。 一体誰だろうかと、和彦は顔を上げる。しかし、警戒は数秒と持たなかった。部屋に飛び込んできたのが、この部屋の借り主だったからだ。「……三田村」 和彦が小さく声を発すると、三田村が側までやってきて、同じく床に座り込む。次の瞬間、引き寄せられてきつく抱き締められた。「よかったっ……」 腕に込められた力強さと、呻くように洩らされた三田村の声に、ぐっと胸が詰まった。そこに、昨日からの出来事も加わり、あっという間に目から涙が溢れ出る。何度も三田村を呼びながら背にしがみついていた。「すまない、連絡しなくて――」「謝らないでくれっ……。俺は、先生が手の届かないところに行かなかったというだけで、嬉しいんだ。しかも、この部屋にいてくれた」 三田村は、昨日、和彦が鷹津に連れ去られたという連絡を受けてから、数時間置きにここを訪れていたのだという。「鷹津に連れられて、どこか遠くに行った可能性が高いとわかっていても、もしかしたらという思いが捨てられ
総和会か長嶺組に、無事であることと、居場所をすぐに知らせるべきなのだろうが、手が動かない。 裏の世界に戻る自分の姿が、頭に思い描けなかった。俊哉と話したことで図らずも、かつての自分の生活が蘇り、現状との落差に戸惑う。どちらの生活がより幸せだったか、満たされていたか、比べるつもりはない。ただ、体に馴染んでいる感覚というものがある。 こんな状態では、とてもではないが総和会や長嶺組の男たちとは会えなかった。きっと、怯えてしまう。そして、異変を悟られてしまう。 睡眠薬による強烈な眠気の中に晒されていた和彦だが、鷹津から受けた忠告はしっかりと覚えていた。 電話越しとはいえ和彦が俊哉と接触したこと、俊哉と鷹津が繋がっていることを、誰にも知られてはいけない――。 和彦は落ち着きなく再び辺りを見回してから、そろそろとベッドから下りる。途端に、鷹津との行為の残滓が内奥から溢れ出してきた。 うろたえた和彦は、裸のまま逃げるようにバスルームに駆け込むと、時間をかけてシャワーを浴びる。鷹津の痕跡を少しでも洗い流してしまいたいというより、全身を湯で叩かれながら、混乱した頭をすっきりとさせたかったのだ。 バスルームから出て、のぼせたような状態のまま髪を乾かしたあと、ためらった挙げ句、鷹津が買ってくれた服を着込む。 このときになっても、いまだにどうするべきか決断が下せなかった。だからといって部屋にこもっているわけにもいかず、とりあえずチェックアウトを済ませる。 ホテルを出たものの、精力的に移動できる気力も体力もないため、すぐに近くのカフェに入った和彦は、途方に暮れる。 見知らぬ世界に放り出されたような心細さを感じていた。今の自分は、どこにも属しておらず、誰も守ってはくれないのだと、ふとそんな気がしたのだ。 実際は、総和会でも長嶺組でも、連絡をすればすぐに迎えにきてくれるはずなのに。しかし、携帯電話の電源を入れる踏ん切りすらつかない。 自分はあの世界に戻れるのだろうかと、つい考えてしまう。そもそも、戻るべき世界なのだろうか、とも。 グラグラと気持ちが揺れ続けている。まだ、鷹津の腕の中にいるようだった。 連れて逃げてやると言っ
意識を必死に留めようとするが、ふっと意識が揺らいで堪らず目を閉じる。すかさず鷹津に軽く頬を叩かれ、再び内奥を突き上げられる。普通であれば、とっくに欲望は萎えてしまい、行為そのものを苦痛に感じるはずなのに、睡眠薬の効き目は正常な思考力さえ抑えつける。 それとも、異常すぎる状況に、和彦の本能が精神を保つために、なんらかの働きをしているのかもしれない。「うっ、あぁ……」 欲望が萎えないというなら、鷹津は、和彦以上だった。内奥でますます熱く猛り、今にも爆ぜそうなほど膨らんでいる。ゆっくりと大きく腰を動かされ、掠れた悲鳴を上げさせられる。 電話の向こうではどんな顔をしているのかは予測もつかないが、少なくとも俊哉の声の調子は変わらなかった。『あの男との交渉には、万全を期したい。忌々しいが、お前の身はその準備が整うまで、総和会と長嶺組に預けておこう。お前は従順な〈オンナ〉でいて、何も知らないふりをしていろ。わたしと話したことは、絶対に誰にも悟られるな。交渉がこじれる恐れがある。――用があれば、いつでも連絡してこい』 そこで電話が切れ、鷹津はすぐに携帯電話の電源自体を切った。和彦が物言いたげな表情をすると、鷹津から皮肉に満ちた笑みを向けられた。「俺の携帯の留守電に、総和会や長嶺組からの脅しのメッセージばかり吹き込まれていた。連中、血眼になって俺を捜しているみたいだな」「……当たり前だ。あんた、頭がおかしくなったんじゃないか……」 和彦は、鷹津の頬を殴りつけようと懸命に手を伸ばしたが、途中で力なく落ちる。鷹津は悠々と唇を塞いできた。 荒々しく唇を貪り、口腔を舌でまさぐりながら、律動を続ける。和彦は両手を投げ出したまま、されるがままになるしかない。「これはこれで、やみつきになりそうだな。具合のいい人形を抱いているみたいだ」 性質の悪い冗談を窘めることもできず、和彦は何度も瞬きを繰り返し、必死に鷹津を見つめる。すでにもう焦点を定めることすら難しい。 和彦の意識が限界まできていると察したらしく、ふいに表情を改めて鷹津が話し始めた。「―
鷹津は何も言わず緩く腰を動かし始める。電話の向こうの俊哉に悟られまいと、和彦は声を押し殺しながら必死に逃れようとするが、睡眠薬の効き目はどんどん和彦の体と意識を侵食していく。『お前に言いたいことはいろいろあるが、今はやめておこう。ただ、これだけは言っておく。――お前をずっと自由にはさせていたが、お前を手放すつもりは、まったくない。わたしそっくりの、大事で可愛い息子だからな。この言葉がウソでないことは、お前自身、よくわかっているだろう?』 電話から聞こえてくる俊哉の言葉が恐ろしかった。必死に記憶の片隅に追いやってきた光景が生々しく蘇り、当時、自分が抱いた感情すらも、思い出してしまう。 唇を戦慄かせ、呼吸すらも止めてしまいそうになっていると、和彦の異変に気づいた鷹津が、強く頬を撫でてくる。それでは足りないと思ったのか、内奥を強く突き上げてきた。 和彦は我に返り、うろたえる。意識を、電話の向こうにいる俊哉に向ければいいのか、目の前の鷹津に向ければいいのか、混乱していた。「今は、やめてくれ。父さんに――」 何をしているか悟られてしまう、と言いたかったが、鷹津は酷薄な笑みを浮かべた。「安心しろ。お前の父親は全部知っている。お前が長嶺の男たちのオンナになっていることも、俺とも寝ていることも。直接会って話したが、さすが、切れ者大物官僚……いや、お前の父親だな。顔色一つ変えなかった」 和彦が、自分の現状を実家に知られたくなかったのは、家族に迷惑をかけたくないという気持ちは当然だが、何より、佐伯家――俊哉が、長嶺の男たちを敵として認識することを恐れていたからだ。何もかも知られたとき、自分の扱いについて無難な解決がなされることはありえないと、和彦はよくわかっている。 佐伯家と接触するのは自分一人で、万が一にも、長嶺組や総和会の存在は一切匂わせてはいけないと考えていたが、和彦の希望は楽観的であり、悠長だったのだろう。 思いがけない人物に、先手を打たれてしまった。「……どうして、あんたがそんなことを……」 鷹津は一瞬苦しげに顔をしかめたあと、携帯電話をちらり
言葉で辱められながら、ゆっくりと律動を繰り返される。「ふっ……、んっ、んっ、んくっ……、うぅっ、いっ……、気持ち、いぃ」「ああ。だが、あまり飛ばすなよ。もう少し、ゆっくり楽しもうぜ」 鷹津に両手を掴まれてベッドに押さえつけられる。和彦は荒い呼吸を繰り返しながら、すがりつくように鷹津を見上げる。頭がぼうっとしてきて、体中が火照っている。ワインの酔い――とは少し様子が違う気がするが、大した問題ではない。 手をしっかりと握り合うと、鷹津が顔を近づけてくる。そっと唇が重なり、柔らかく吸い上げられてから、和彦は吐息をこぼす。やはり、この男と交わす口づけが好きだと思った。 鷹津の唇が耳に押し当てられ、耳朶に歯が立てられる。和彦は痛みに声を上げたが、鷹津が低く笑い声を洩らして指摘した。「中、締まったぞ。痛くされるのが好きなのか?」「そんなわけないだろ。……痛いのは、嫌いだ」「だったら、俺が相手だからか?」 その問いかけに返事はできなかった。和彦が唇を噛むと、鷹津はもう一度耳朶に歯を立ててきた。同時に、内奥深くで欲望が蠢く。 鷹津の攻めはおそろしく緩慢で、じっくりと時間をかけてくる。和彦は思うさま乱れさせられ、声を上げさせられ、わずかに残っていた体力のすべてを奪い尽くされてしまいそうな、甘い恐怖を覚えるほどだった。 ふっと意識が遠のきかけて、目が空ろになる。鷹津が顔を覗き込み、手荒に頬を撫でてきた。「まだ寝るなよ」「……もう、無理だ。疲れて、いるんだ。それに、頭がぼうっとする……」「だが、お前の体はまだ俺を欲しがっているぞ」 違うと首を横に振ると、それだけで頭がふらつく。「なんか、おかしい……。何も、考えられなく、なる……」「――どうやら、効き目は本物らしいな」 唐突な鷹津の言葉に、和彦の思考はすぐには追いつかなかった。何度も目を瞬き、自分を
蜜を含んだように手足が重く、頭もぼうっとしている状態の和彦だが、それでも羞恥を感じることはできる。「嫌だ。見るな……」「俺には見る権利がある。俺が、お前をここまでトロトロにした」 鷹津は、愛撫は加えてこない。ひたすら、食い入るように見つめてくる。和彦は羞恥に喘ぎ、弱々しく上体を捩って鷹津の視線から逃れようとするが、しっかり両足を押さえられているため、どうすることもできない。鷹津が愉悦を含んだ声で言った。「見られるだけで、感じるのか? ひくつき始めたぞ」「……うる、さいっ……」「尻から、ダラダラと俺の精液を垂らして言う言葉じゃないな。また、注ぎ込んでほしいだろ」 露骨な言葉で嬲られ、煽られて、和彦は息を喘がせる。鷹津が顔を寄せてきて、戯れのように軽く唇を吸い上げてきたが、それだけで和彦の胸の奥が疼き、尽きたはずの官能の泉が噴き上がる。自分から鷹津の頭を引き寄せて、唇を重ねていた。「んっ、ふぅ……」 情熱的に唇と舌を貪り合う一方で、鷹津の指が再び内奥の入り口をまさぐり始める。中に指を迎え入れたくて和彦が腰を揺らすと、鷹津に片手を取られ、下肢へと導かれた。半ば強引に触れさせられたのは、自身の内奥の入り口だった。鷹津に言われるまでもなく自覚はあったが、蕩けて潤った部分は、浅ましくひくついている。「俺が欲しいなら、誰にも見せたことのないような媚態で、俺を誘ってみせろ」「無理だ……。できない、そんなこと……」「俺が見たいと言ってもか?」 無理だ、と弱々しく答えた和彦は顔を背けるが、自身の内奥の入り口から指を退けることはできない。耳元で鷹津が笑った息遣いを感じ、羞恥と高揚感から眩暈がした。 和彦の下腹部の陰りをまさぐりながら、鷹津が囁いてくる。「俺の頼みが聞けないなら、本当にここを剃ってやろうか。俺は、どっちでもいいがな。――あとで、長嶺の男たちが、お前のここを見るたびに、顔をしかめるだけだ」 欲望の根元をそっと擦られ
外から男二人のにぎやかな話し声が聞こえてくる状況で、求められるまま、やむをえず舌を絡め合い、唾液を交わす。引き出された舌を痛いほど吸われると、たまらず和彦は鷹津の肩にすがりついていた。 ますます鷹津の腕の力が強くなり、和彦の中で奇妙な変化が起こっていた。鷹津のことがどうしようもなく嫌いで、嫌悪しているのに、そんな男にねじ伏せられるように口づけを交わしていると、高揚感に襲われ、体の奥深くから強引に官能を引き出される。 官能に形を借りた、サソリの毒かもしれないと、ふとそんな考えが脳裏を過る。鷹津の毒を注入され、体も心も侵されていくのだ。 思わず身じろごう
さすがの賢吾も、和彦の心を煩わせるものすべてを見通すことは不可能らしい。「……最初にぼくを狙って、あんなことをした人間が、どんな顔をして、そんなことを言うんだ」「俺はいい。俺は、許されるんだ」 さすがに図々しい発言だと思って和彦が顔を上げると、待っていたようなタイミングで唇を軽く吸われた。「先生を狙って自分のものにして――見事に、骨抜きにされたんだ。そんな哀れなヤクザを、愛情深い先生なら、たっぷり甘やかしてくれるだろ?」 本当に図々しいと思いながらも、和彦はつい笑みをこぼしてしまう。 自
「――冗談じゃない」 答えたのは鷹津だ。それはこっちの台詞だと、心の中で呟いてから和彦は、端的に説明する。「この男は、刑事だ。しかも君らの天敵ともいえる、暴力団担当係」 さすがの中嶋も驚いたらしく、目を見開いて、和彦と鷹津を交互に見る。もっとも、切れ者ヤクザらしく、即座に澄ました顔で鷹津に一礼した。「先生は、変わったお知り合いがいますね」「……つきまとわれているんだ。長嶺組長も把握している。なんなら、総和会にも報告していいが」 中嶋はちらりと笑みを浮かべ、今度は和彦に一礼すると、ウェートレ
「俺を潰したいからなんて理由で、こいつに近づくなよ。大事な大事な、俺たちのオンナだ。お前みたいな下衆が近づいていいような、安い人間じゃない」「蛇みたいな男が、薄ら寒くなるようなことを言うな。……お前は、弱みを晒すような男じゃねーだろ。それとも、弱みを隠し切れないほど、そいつに骨抜きにされたか? 俺を失望させるようなことを言うなよ、クズどもの親玉ともあろう男が」「しばらく辛酸を舐めたようだが、相変わらず口汚いな、鷹津。そんなんじゃ、誰にも好かれんだろ。それこそ、女だろうが、男だろうが――」 急に賢吾の腕が肩に回され、抱き寄せら