「が、それは裏を返せば、総和会に加入している組の名さえ表に出なければいいということだ。先生ならわかるだろ。うちの組は、長嶺組という一つの組織で成り立っているわけじゃない。傘下の組やフロント企業、下部組織……、名前や形態は違えど、長嶺組の代紋を使っているところは、いくらでもある」「つまり、長嶺組の身内が薬を扱っていても、〈長嶺組の組員〉という肩書きでない限りは、総和会は見ないふりということか」「総和会の活動資金の半分は、十一の組からの〈寄付金〉が占めている。肝心の組から寄付金が取れなきゃ、困るのは自分たちだ」 賢吾は短く声を洩らして笑い、和彦の機嫌を取るように唇を啄ばんでくる。今度は応えず、きつい眼差しを向け続けていると、軽く息を吐き出した賢吾が体を離した。ただし、和彦の片手を握ったままだ。「……そう睨むな、先生。例えとしてうちの組を出しただけだ。総和会にいる組のいくつかは薬を扱っているが、うちは違う。ただしそれは、任侠だとか美学とかいう立派な理由からじゃない。――俺は、臆病で慎重なんだ。非合法な稼ぎとして薬は魅力的だが、リスクが半端なくでかい。そのリスクをあえて冒すほど、長嶺組のシノギは悪くない」 賢吾が、こんなことで和彦にウソをつく必要はない。ひとまず、この言葉を信じることにした。 賢吾に後ろ髪を撫でられ、和彦はわずかに顔を背ける。「こんな生活を送っていて、ぼくはいまさら綺麗事を言うつもりはない。何もかも買い与えられているが、その金は長嶺組が稼ぎ出したものだからな。薬も……、手を出す奴が愚かなんだと思っている。自業自得だ。ただ、あんなものを使って、ぼくの知っている人間が壊れていくのは見たくないと思っている」「先生は優しいし、現実的だ」 再び賢吾の唇が、手の甲に押し当てられる。「エゴイストだと言いたいんだろう……」「いいや。優しいんだ。それに、甘い」 バリトンの魅力を最大限に引き出す囁きに、和彦の顔は熱くなってくる。後ろ髪を撫で続けている手に頭を引き寄せられ、賢吾の肩に額を押し当てた状態で会話を交わす。
Last Updated : 2025-12-06 Read more