鷹津から言われた言葉が、ずっと頭の中を駆け巡っている。あの男は嫌いだが、今のこの状況から和彦を引き上げてくれる唯一の存在かもしれない。それがわかっていながら、即座に鷹津を頼れなかったのは、あの男の放つ胡散臭さのせいばかりではない。 今の生活から本当に抜け出したいのか、和彦の中でもはっきりしていないからだ。仕事の見返りとして与えられる報酬以上に、自分を縛り付けてくる怖い男たちの執着が、何よりもの充足感を与えてくれる。 それを失って元の生活に戻れる自信が、和彦にはなかった。 黙り込んでしまった和彦のあごの下を、賢吾がくすぐってくる。「秘密を持つ先生の顔は艶っぽくて好きだが、今、抱えている秘密は性質がよくないものだな。せっかくの色男ぶりがくすんで見える。それはそれで、妙に嗜虐的なものを煽られるが」 賢吾が身を屈め、もう一度和彦の唇を塞いでこようとする。今度は、素直に受け入れた。柔らかく唇を吸われ、ぎこちなく和彦も応じているうちに、舌先を触れ合わせるようになる。賢吾は優しかった。 和彦の頬を撫で、髪を梳きながら、思いがけない提案をしてきた。「――明日一日、先生に三田村をつけてやる。その間、組からは一切連絡を入れない。自由に二人で過ごせ」 目を丸くする和彦に賢吾は笑いかけてきたが、身の内に大蛇を潜ませている男は、ヒヤリとするようなことを言った。「その一日で、抱えた秘密を三田村に吐き出せ。三田村は、その秘密を抱えて俺のところに戻ってくる。俺に直接話すより、気は楽だろ?」 この男は実は、和彦が抱えてしまった秘密をすでに把握しているのではないかと思い、身震いする。 鷹津から、元の生活に戻してやれると唆されたことだけでなく、秦が何かしら企んでいることも、すべて――。 賢吾の唇が耳に這わされ、和彦は声を洩らす。羽毛でくすぐるような愛撫を施してきながら、さらに賢吾は、魅力的なバリトンで鼓膜を震わせてきた。「お前は、大事で可愛いオンナだから、俺はここまでしてやるんだぜ。傷つけないよう、怯えさせないよう、な。お前は何も怖がる必要はない。そうだろ?」 怖気とも疼きとも取れる感覚が背筋を駆け抜ける。優しい囁きだけで屈服させ
Last Updated : 2025-12-10 Read more