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血と束縛と의 모든 챕터: 챕터 361 - 챕터 370

471 챕터

第10話(11)

**** 組お抱えの医者は、こういう仕事もこなさなければならないのかと、内心でうんざりしながら、和彦は箸を動かす。「先生、遠慮しないで、どんどん飲んでください」 中嶋の言葉に半ば反射的に頷く。和彦の好みをすでに把握しているらしく、膳とともに出されているのは、グラスワインだ。口当たりのいい美味しいワインだが、飲みすぎにだけは気をつけている。 中嶋の手前、形だけグラスに口をつけた和彦は、視線を泳がせたついでに、座敷を眺める。総和会の幹部がよく利用しているというだけあって、とにかく高そうな料亭だ。 総和会から呼び出しがかかったとき、いつものように、どこかの組から依頼された患者を診るものだと思ったが、そうではなかった。 中嶋に連れて行かれたのはこの高級料亭で、もちろんここで患者を診るわけではなく、昼食としては豪華すぎる食事をとることになった。 長嶺組の庇護を受けている和彦は、書類上は、総和会にも加入している。数か月前、長嶺組の加入書にサインしたあと、改めて場が設けられ、和彦は総和会の人間が見ている前で、今度は総和会の加入書にもサインをさせられた。その瞬間から、長嶺組だけでなく、総和会の身内となったのだ。 だからこそ、総和会から回ってくる仕事もこなしてきたのだが、和彦が直接引き受けるのではなく、長嶺組が仲介する形となっているため、正直なところ和彦には、自分が総和会の人間だという意識は希薄だった。 総和会側も、和彦については、仕事を依頼するたびに長嶺組から派遣されてくる医者、という認識だろう。傷一つつけないよう和彦を丁重に扱うが、それ以上でも、以下でもない。 ビジネスライクだが、面倒事に巻き込まれる可能性が低いのはありがたい。和彦は今日まで、そう考えていた――。「クリニックの開業日は決まりましたか、先生?」 さきほどから話しかけてくるのは、総和会の藤倉だ。縁なし眼鏡をかけた印象の薄い容貌で、愛想よく話しかけてくる様子は、やはりビジネスマンのようだ。総和会の加入書に名前を書くよう求められてからのつき合いだが、こうして顔を合わせたのは、まだほんの数回ほどだ。 文書室筆頭と
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第10話(12)

「いえ、まだです。ただ、年明けには間に合わせるつもりです。クリニックそのものは、開業準備は順調に進んでいますから、あとは役所や関係機関への申請さえ無事に済めば……」「なるほど。普通の医者が開業をするのとは、わけが違いますからね。その辺りは、細心の注意を払う必要があるというわけですか」「ヤクザの道楽というには、金も手間も、何より、ぼくの人生がかかってますから」 和彦の言葉に、中嶋がちらりとこちらを見た。何を考えているかわからない眼差しに、居心地の悪さに拍車がかかる。 ここのところ明らかに、中嶋の和彦に対する態度は変わった。馴れ馴れしくない程度に和彦と親しくしていた中嶋だが、今はどこかよそよそしい。冷たくなったとか、悪意を向けられるとか、そういうわかりやすいものではないのだ。 おそらく、意識されている。そして、値踏みされている。和彦が秦にとってどういう人間なのかと。 秦のシンパといっても過言ではない中嶋としては、長嶺組組長のオンナである和彦と秦がキスする場面など見てしまっては、こんな態度を取って当然なのかもしれない。 状況を説明するべきなのかもしれないが、実のところ和彦にも、秦の考えなどわからないし、キスされたことも事実なのだ。それに、キスどころか――。 妖しい記憶が蘇りそうになり、和彦は慌ててワインを飲み干す。 ヤクザに接待されるという状況ですら肩が凝るのに、中嶋の態度を意識してしまうと、食事の味がわからなくなりそうだ。「今の先生の言葉ですが、クリニックを開業するとなると、かかる金額も大きいんじゃないですか? 門外漢のわたしですら、医療機器は高価だと想像がつくぐらいです」「ええ、まあ……。医者のぼくも、見積り金額に驚いたぐらいです」 食事中に出す話題としてはあからさまだと、思わず身構えた和彦に対して、藤倉は単刀直入に切り出した。「――先生のクリニックに、総和会も協力させてもらえないだろうかと、そういう話が幹部会で挙がっているんですよ」 幹部会、と口中で反芻した和彦は、眉をひそめて藤倉に問いかける。「総和会の、ですか?」
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第10話(13)

「はい。先生とは、まだ短いおつき合いですが、そんなことを感じさせないぐらい、うちはお世話になっています。その恩と、これからの友好な関係のためにも、先生のクリニックのために何かできないかと、総和会として考えているんです」 あまりに思いがけない申し出に、和彦は即座に言葉が出なかった。それどころか、どんな顔をすればいいのかすらわからない。「もちろん、金銭的なものだけではなく、クリニックで働くスタッフについても、うちは力になれると思います。秘密保持という点から、信頼できる人間を側に置きたいとお考えでしょう? それに、警備も。これらを何も、長嶺組だけが負う必要はないのではないかと……」 淀みない藤倉の話に呑み込まれそうになり、和彦は慌てて片手を上げて制止する。「ちょっと待ってくださいっ……。非常に大事なお話ですが、長嶺組長には、もう相談されているんでしょうか?」「いえ、まだです。正式なお話ではなく、あくまで、雑談としてお考えください。こういう話があると、先生に知っておいていただきたいというだけですから。長嶺組長には、総和会の上の者が正式な場を設けて、話すことになると思います。――先生の反応が前向きであれば、ですが」 雑談と言いながらも、見えない圧力のようなものを感じる。一見、ヤクザとは思えない風貌をしている藤倉だが、十一の組をまとめている総和会という組織に身を置く男だ。普通の青年の顔をして野心家である中嶋と同じ、ヤクザなのだ。「……金銭面に関しては、ぼくは長嶺組に世話になっているだけの身なので、個人的な意見を述べるつもりは……」「大げさなものじゃありませんよ。先生に何かしてもらうというわけではなく、ただクリニックに、総和会の資本が入るかどうかというだけですから。先生さえ気にしないとおっしゃるなら、長嶺組長も大げさに考えないのでは? 今の長嶺組と総和会は、昵懇の間柄でもありますし」 こんな言い方をされては、結論は一つしか許されていないようなものだ。困り果てた和彦が、無意識のうちに視線を中嶋に向けると、こちらも口出しはできないとばかりに、柔らかな苦笑で応えら
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第10話(14)

 ジャケットのポケットから素早く取り出した携帯電話を握り締め、和彦は立ち上がる。「すみません。組からの連絡かもしれないので、ちょっと出てきます」 藤倉は笑顔で頷き、慌てて座敷を出た和彦は、襖を閉めると同時に、相手も確認しないまま電話に出ていた。『――まさか、素直に電話に出るとは思わなかった』 人を小馬鹿にしたような話し方と声に、瞬間的に鳥肌が立つ――はずだったが、和彦の体が最初に示した反応は、体温の上昇だった。 めまいがしそうなほど体が熱くなると同時に、激しく動揺してしまう。ほんの数秒の間に和彦の中で駆け巡ったのは、電話の相手である鷹津から受けた、恥辱に満ちた行為の数々だった。「なんの、用だ……」 和彦はようやく声を絞り出したが、その時点ですでに後悔していた。電話の相手が鷹津だとわかったのなら、このまま電話を切ってしまえばよかったのだ。そうすれば少なくとも、鷹津の声を聞くという苦痛からは逃れられる。『お前に聞きたいことがある。これから俺と会え』「……あんた、何様だ」『刑事だ』 挑発的ですらある鷹津の答えに、ようやく和彦の中で、どうしようもない嫌悪感が湧き起こる。こんな男に自分は体を弄ばれたのだという事実が、いまさらながら和彦にのしかかる。「強姦魔の間違いじゃないのか」『まだ、ヤッてないだろ』 電話の向こうで鷹津が低く笑い声を洩らす。「今、取り込み中だ。切るぞ」『――クラブにいた男について、知りたい』 突然、鷹津の口調が真剣なものに変わる。何事かと思ったときには、和彦は電話を切るタイミングを失い、ある意味、刑事の術中に陥っていた。「クラブにいた男?」『その前は、家具屋でお前と一緒にいただろ。そのとき俺は、そいつに殴られた』 鷹津が言っているのは、秦のことだ。一体何を企んでいるのかと、沈黙して警戒する和彦に苛立ったように、鷹津が声を荒らげた。『聞いてるのかっ。とにかく今から、俺と会え』「……あんたには、ぼくに命令できる権利
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第10話(15)

『天気もいいことだし、会うのは外だ。人目があれば、いくら俺でも、〈あんなこと〉はしないぜ? お前の飼い主と違って、人が見ていると萎える性質なんだ』 知るか、と口中で吐き出した和彦は、視線を襖に向ける。この襖の向こうで、総和会の男二人が待ち構えている。密室で二人がかりで説得されては、どんな迂闊なことを口走るかわからない。 人と会うというのは、この場を穏便に抜け出すためには、いい口実なのかもしれない。「――会ってやってもいいが、会ったら、一発殴らせろ」『殴ってもいいが、次の瞬間に、お前にキスするぞ。濃厚なのを。……俺とのキスは、感じただろ?』 和彦はギリッと唇を噛んでから、込み上げてくる怒りと嫌悪感をどうにか堪える。「……こっちも事情があるから、今日はあんたの頼みを聞いてやる」『そうこないとな』 待ち合わせ場所を告げられ、和彦はここからの移動時間を素早く計算する。三十分で行けることを告げ、二人は会う約束を交わした。** 鷹津と待ち合わせをしたのは、いかにも女性ウケしそうな、シャレたオープンカフェだった。本当は、この近くの居酒屋を指定されたのだが、和彦がささやかな意趣返しとして、この店に変更させたのだ。しかも、通りに面したテラス席に座るよう付け加えて。 中嶋を伴って和彦が現れると、イスにふんぞり返って座った鷹津は、睥睨するようにこちらを見た。すでに定番になりつつある、黒のソリッドシャツにジーンズという格好で、今日はその上からブルゾンを羽織っているが、服装どうこうの問題ではなく、鷹津の存在そのものが物騒で、テラス席で異彩を放っている。 店としては、華やかな女性客が大半を占めているテラス席に、この男を座らせたくなかっただろう。通りを歩いているときから、鷹津の姿は悪目立ちしていた。 傍らに立った和彦と中嶋を、じろじろと舐めるように見つめた鷹津は、皮肉っぽく鼻先で笑った。「今日は、連れている番犬が違うな。これまた、えらく爽やかなサラリーマンに見えるが……、こいつもヤクザか?」 和彦は遠慮なく
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第10話(16)

「――冗談じゃない」 答えたのは鷹津だ。それはこっちの台詞だと、心の中で呟いてから和彦は、端的に説明する。「この男は、刑事だ。しかも君らの天敵ともいえる、暴力団担当係」 さすがの中嶋も驚いたらしく、目を見開いて、和彦と鷹津を交互に見る。もっとも、切れ者ヤクザらしく、即座に澄ました顔で鷹津に一礼した。「先生は、変わったお知り合いがいますね」「……つきまとわれているんだ。長嶺組長も把握している。なんなら、総和会にも報告していいが」 中嶋はちらりと笑みを浮かべ、今度は和彦に一礼すると、ウェートレスに声をかけて店内の空いたテーブルへと案内される。 やはり、中嶋の態度はいままでとは違う。中嶋の背を見送りながら、和彦は思う。 急用が入ったからと言って、藤倉との食事を切り上げて中座したのだが、ここに来るまでの車中、中嶋とは必要最低限の会話しか交わせなかった。言いたいことがあれば言ってもらったほうが和彦としては楽なのだが、ヤクザにとっては、それは弱みを握られるのと同義なのかもしれない。「なかなか、イイ男だな」 和彦がイスに座ると、嫌な笑みを浮かべて鷹津が呟く。そんな男を睨みつけてから、コーヒーを注文した。「あれも、長嶺のオンナか?」 そう問いかけきた鷹津の足を、和彦はもう一度蹴りつける。鷹津は悪びれた様子もなく、それどころか下卑た笑みを浮かべた。和彦を刺激するためにわざと、和彦が嫌がる表情を見せるのだ。 こんな男に体に触れられたのだと思うと、怒りや屈辱はもちろん、気分がどん底まで沈み込みそうになる。こうなることがわかっていながら会った理由が、秦の話をするためだというのも、我ながら度しがたいと思う。「……クラブで会った男について聞きたいなんて、目的はなんだ。まさか今になって、殴られたから訴えたいというわけじゃ――」「あの男、名前はなんというんだ?」 問いかけてきた鷹津の顔は、これ以上なく真剣だった。いつも、人の神経を逆撫でるために、嫌な笑みを浮かべている印象が強い鷹津だが、こういう顔をすると、それなりに刑事らしく見える。だからといって
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第10話(17)

「さあな。本名なのか、そうじゃないのか、本人が語ったことはないようだ。人当たりは柔らかだが、掴み所がない。ぼくは最近知り合ったばかりだが、つき合いの長い人間にとっても、何かと謎の多い人物らしい。一応今は、元ホストの実業家という肩書きを持っているが、あちこちの組関係者とつき合いがあるみたいだ」 コーヒーが運ばれてきたので、物騒な会話を一旦中断する。和彦はコーヒーにミルクを入れて掻き混ぜながら、さりげなく視線を中嶋のほうに向ける。どこにでもいそうな普通の青年の顔をしたヤクザは、携帯電話を手に、どこかにメールを送っているようだった。「――あいつ、俺たちの姿を携帯で撮ったぞ」 突然かけられた言葉に、ハッとして鷹津を見る。だらしない姿勢で頬杖をついている鷹津だが、眼差しだけは鋭い。「画像をどこかに送信したんだろうな。無害そうな勤め人みたいな顔して、なかなか抜け目がないな」「長嶺組の組長のオンナと、暴力団担当係の刑事という組み合わせが、いつか何かに利用できるとでも思っているんだろう。彼はぼくより年下だが、総和会の人間だ」「なるほど。暴対法が厄介だと感じるのは、こんなときだな。一般人を威嚇するなってことで、外で組バッジを付けられなくなったから、頭のいいヤクザほど、その一般人と見分けがつきにくくなった」「その一方で、一目で物騒だとわかる、あんたみたいな刑事もいるわけか」 鷹津がニヤリと笑いかけてきて、次の瞬間、和彦はピクリと肩を揺らす。テーブルの下で、靴の先に何かが触れた感触があったからだ。鷹津がわざと、靴の先を触れさせてきたのだとわかり睨みつけるが、鷹津はニヤニヤと笑うばかりだ。「……嫌がらせのためにぼくを呼び出したんなら、帰るぞ。だいたいぼくは、秦のことはよく知らない。むしろあんたのほうが、秦の名前さえわかれば、住んでいるところや、どんな店を経営しているか、すぐに調べられるだろ」 和彦は、あえて大事なことは鷹津には告げなかった。長嶺組組長である賢吾も、秦に興味を持ち、調べていると。この男相手に、そこまで親切に教える必要は感じなかった。 足が露骨にすり寄せられ、顔を強張らせながら和彦は立ち上がろうとする。
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第10話(18)

 立ち上がりかけた姿勢で、反射的に鷹津の顔を凝視してしまう。この時点で和彦の厄介な好奇心は、わずかながら鷹津に対する嫌悪感を上回っていた。 ちらりと中嶋を見ると、和彦が帰ると思ったのか、同じく立ち上がりかけている。なんでもない首を横に振って見せ、和彦はイスに座り直した。満足そうに鷹津が頷く。「……秦のことで何か知っているんなら、早く話せ」 和彦の言葉に、もったいぶるようにゆっくりとコーヒーを啜った鷹津は、ようやく口を開いた。「家具屋で会ったときは、なんとなく、どこかで見たツラだな、というぐらいにしか感じなかったんだ。多分、あんな明るい照明の下で会ったせいだろうな。しかもあの、あざといぐらいの紳士ぶりだ。すっかり騙された」「二度目に会ったとき、気づいたのか」「ああ、あの薄暗い店で見かけて、ようやくピンときた。――俺は昔、こいつを見かけたことがあると。髪の色や身につけているものを変えても、あのきれいな造りのツラだけは、整形でもしない限り、変えようがない」 鷹津がテーブルに身を乗り出すようにして、和彦の顔を覗き込むふりをする。この男が何を言いたいのか、すぐにわかった。乱暴に息を吐き出して、投げ遣りな口調で答える。「ああ、美容外科医のぼくの目から見て、秦の顔に不自然な施術の痕跡はない。あんたが昔見た顔のままだというなら、順調に年齢を重ねてきたはずだ」「ということは、決まりということか……」「――何がだ。はっきり言え」「また胸に射精させてくれたら、続きを話してやる。その、色男のツラでもいいが」 カッと頭に血が上った和彦は、反射的に鷹津を殴りつけようとしたが、手を振り上げる前に手首を掴まれ、テーブルの上に押さえつけられた。この間の行動はどちらも素早く、おそらく周囲の客は、殺気立ったやり取りに気づきもしなかっただろう。「冗談だ。そうカッカとするな」 神経を逆撫でる嫌な笑みを浮かべながら、鷹津は掴んでいた手首を離す。和彦は、いつの間にか熱くなっていた頬を乱暴に撫でると、気を落ち着かせるためにコーヒーを飲む。そんな和彦を、鷹津は無遠慮に見つめてくる。
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第10話(19)

 カップを置いた和彦は髪を掻き上げてから、鷹津に問う。「秦は、何者なんだ」「俺も知らん」 冗談を言っているのだろうかと思ったが、無精ひげの生えたあごをしきりに撫でる鷹津の表情は真剣だ。そして、和彦をじっと見つめながら、思いがけないことを話し始めた。「――俺が警官になったばかりの頃、秦そっくりの顔をしたガキは、他のガキどもをまとめ上げて、いろいろと悪さをしていた。頭の切れる奴で、少年課が目をつけていたが、尻尾を掴めなかった。それに、ヤクザともつき合いがあると噂になっていた。が、見た目はあの通り、きれいなツラをして、いい物を身につけたお坊ちゃまだ。派手にやっていたようだが、いつの間にか姿を見かけなくなった」「今になって、消息がわかったということか……」「そのときのガキに関しては、俺が直接関わっていたわけじゃないから、詳しくは知らん。ただ、確実にわかっていることがある」 鷹津が指先を動かし、顔を近づけろと言われる。和彦は露骨に眉をひそめて嫌がったが、話の続きが気になることもあり、仕方なく身を乗り出す。すると鷹津も顔を寄せ、囁くような声で言った。「当時の秦は、〈日本人〉じゃなかった」 一瞬意味がわからず、和彦はますます眉をひそめる。「あいつは当時、香港国籍だった。もちろん、名前は『秦静馬』じゃない。警察に補導も逮捕もされてないから、当時の名前は記録に残ってないし、俺の記憶にも残ってない。帰化したんなら、今は日本人の名前であっても不思議じゃないしな」「調べて、ないのか……?」 すっかり鷹津の話に聞き入ってしまい、思わずそう尋ねてしまう。鷹津はわずかに唇を歪めた。「俺〈たち〉の好奇心を満たすためだけに、一般市民のプライバシーを暴くのか?」 かつて、鷹津に部屋に踏み込まれかけたとき、和彦が自分のことを『一般市民』だと言い張ったことへの当て擦りらしい。和彦は吐き捨てるように言った。「……こんなときに、ぼくに対する皮肉を言うな」「それは失礼」 恭しく頭を下げる鷹津が、本気で忌々しい。話題が話題で
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第10話(20)

**** 書斎のイスに腰掛けた和彦は、手にシャープペンを持ったまま、目まぐるしく思考を働かせる。 糸が絡み合うように、和彦を取り巻く人間関係が複雑になっており、自分でも事態の把握がまったくできない。厄介なことを避けたくても、すでにもう、どこにどんな糸が張り巡らされているのかもわからないのだ。足掻けば足掻くだけ、搦め捕られてしまう。それでも考えずにはいられない。 和彦は自覚もなく、コピー用紙に無意味な円を描いていたが、ふと我に返り、頭を整理するため、秦や中嶋についてわかっていることを書き出していく。ついでに鷹津のことも。 賢吾の名も書くべきだろうかと、他人にとってはどうでもいいことを真剣に悩んでいると、デスクの上の子機が鳴った。電話に出た和彦は、すぐに表情を和らげる。「どうしたんだ、こんな時間から。――千尋」 和彦の呼びかけに、顔を見ることができなくても、満面の笑みを浮かべていると容易に想像できる声が応じる。『今、じいちゃんの家から、本宅に戻ってきたところなんだ。まずは、先生の声を聞こうと思って』「それは光栄だな。ゆっくりできるのか?」『一眠りしたら、また夕方から出かける。いろいろ仕込んでやるって、張りきるのはいいけどさ、元気すぎるんだよ、じいちゃん』「お前が本気でやる気になって、嬉しいんだろ」 これだけ聞けば、家業の跡を継ぐために奮闘する若者との会話なのだが、肝心の家業が問題だ。和彦自身、千尋に励ましや労いの言葉をかけるのは正しいのだろうかと、考えなくもない。「休みたいなら、あまり長電話すると悪いな」『先生の甘い声を聞くだけで、元気になる自信あるけど』「残念だな。ぼくはそんな声を出せない」 笑いながら和彦が言うと、電話の向こうから、千尋の大げさな声が上がる。あまりに他愛なくて、だからこそリラックスできる会話を交わしながら和彦は、飲み物を取りに書斎を出る。『――……そういえば先生、オヤジからなんか聞いてる?』 冷蔵庫を覗き込み、オレンジジュースを取り出そうとしていると、突然、千尋が声
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