**** 組お抱えの医者は、こういう仕事もこなさなければならないのかと、内心でうんざりしながら、和彦は箸を動かす。「先生、遠慮しないで、どんどん飲んでください」 中嶋の言葉に半ば反射的に頷く。和彦の好みをすでに把握しているらしく、膳とともに出されているのは、グラスワインだ。口当たりのいい美味しいワインだが、飲みすぎにだけは気をつけている。 中嶋の手前、形だけグラスに口をつけた和彦は、視線を泳がせたついでに、座敷を眺める。総和会の幹部がよく利用しているというだけあって、とにかく高そうな料亭だ。 総和会から呼び出しがかかったとき、いつものように、どこかの組から依頼された患者を診るものだと思ったが、そうではなかった。 中嶋に連れて行かれたのはこの高級料亭で、もちろんここで患者を診るわけではなく、昼食としては豪華すぎる食事をとることになった。 長嶺組の庇護を受けている和彦は、書類上は、総和会にも加入している。数か月前、長嶺組の加入書にサインしたあと、改めて場が設けられ、和彦は総和会の人間が見ている前で、今度は総和会の加入書にもサインをさせられた。その瞬間から、長嶺組だけでなく、総和会の身内となったのだ。 だからこそ、総和会から回ってくる仕事もこなしてきたのだが、和彦が直接引き受けるのではなく、長嶺組が仲介する形となっているため、正直なところ和彦には、自分が総和会の人間だという意識は希薄だった。 総和会側も、和彦については、仕事を依頼するたびに長嶺組から派遣されてくる医者、という認識だろう。傷一つつけないよう和彦を丁重に扱うが、それ以上でも、以下でもない。 ビジネスライクだが、面倒事に巻き込まれる可能性が低いのはありがたい。和彦は今日まで、そう考えていた――。「クリニックの開業日は決まりましたか、先生?」 さきほどから話しかけてくるのは、総和会の藤倉だ。縁なし眼鏡をかけた印象の薄い容貌で、愛想よく話しかけてくる様子は、やはりビジネスマンのようだ。総和会の加入書に名前を書くよう求められてからのつき合いだが、こうして顔を合わせたのは、まだほんの数回ほどだ。 文書室筆頭と
최신 업데이트 : 2025-12-24 더 보기