若いビジネスマンのような外見ながら、実は切れ者のヤクザである中嶋に、あれは秦の冗談だと話しかけるのも、わざとらしい。 秦が何かしらフォローしていればいいが――。 頼んだコーヒーを啜った和彦に、中嶋は静かな迫力を湛えた眼差しを向けてくる。そのくせ口元には笑みを刻んでいるのだ。 中嶋にしてみれば、長嶺組の組長のオンナが、自分の慕う人物をたぶらかしていると思っているのかもしれない。 自分で自分を追い詰めるようなことを考えた和彦は、居たたまれなさから、つい視線を周囲へと向ける。すると、こちらの緊張が伝わったのか、笑いを含んだ声で中嶋が言う。「先日の秦さんの行動なら、別になんとも思っていません。あの人はホストをしていた頃から、気に入った相手には、ボディータッチが激しかった。キスなんて、それこそしょっちゅう、していましたよ。……まあ、あんなことをする秦さんは、久しぶりに見ましたけど」 秦にされた行為がキスだけなら、和彦のこの言葉に心底安堵しただろう。だが現実は、和彦は秦と、危うく関係を持ちそうになった。あれは、ボディータッチが激しかったというレベルのものではない。 中嶋は秦のそんな面を知っているのか、そのうえで鎌をかけられているのかと、和彦は疑心に陥る。そこで、反対に探ってみることにした。「……ということは、君もされたのか。あの傍迷惑な行為を」 和彦の問いかけに、中嶋は苦みを感じたように唇を歪める。「どうやら俺は、秦さんの好みじゃないらしい。あの人は、冗談に対して、ムキになって反応する人がタイプなんですよ。男女関係なく。俺はそういうのは苦手なんです。ホストをしていたから、演技として相手の会話に乗ることは得意だけど、素で反応して見せろと言われたら、本当に困ってしまう」「君のそういうところが気に入っているから、彼は助けてくれたり、今もつき合いがあるんじゃないのか」「どうでしょうね。俺が、秦さんのことを突っ込んで知りたがらないから、気楽なのかもしれません。俺はこれでも、総和会のヤクザですからね。名前を出せば、あの人の番犬にはなる」「そんな――」「俺も、秦さ
最終更新日 : 2025-12-28 続きを読む