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血と束縛と のすべてのチャプター: チャプター 371 - チャプター 380

471 チャプター

第10話(21)

 オレンジジュースのボトルを乱暴にワークトップに置き、和彦は大きく息を吸い込む。一瞬、頭が混乱したため、落ち着く必要があった。まさか、ほんの一時間ほど前に鷹津から聞いた秦の名を、今度は千尋から聞くとは思わなかった。『なんでそんな奴を、事務所じゃなくて、本宅に呼んだのかと思ったんだ。それで、先生は承知してるのかなって……』「承知も何も、その家は、お前の父親が主だ。ぼくに口出しできる権利はない」『そうだけどさ……。でも、なんかすげー、ムカつく』「お前の食えない父親のことだ。しっかり何か企んでいるんだろ。――手荒なマネはしないが、只では済まさないといった感じだった」 賢吾が、秦について語っていた内容を思い返す。和彦に手を出したことを口実に、秦を利用する気満々といった様子だった。 一体秦の何に目をつけたのか、もちろん和彦にはわからない。だからこそ、わざわざ本宅で会っているということが、秦の存在の重要性を物語っているように感じる。単なるチンピラ相手なら、賢吾のような男は自分の時間を使ったりはしないはずだ。 一方で、利益になると考えれば、賢吾は誰であろうが利用する。〈オンナ〉という和彦の今の境遇は、賢吾の思惑に搦め捕られた結果だ。 和彦は大きく身震いする。自分の周囲で常に、いくつもの思惑が蠢いているのは感じていたが、それがリアルな感覚を伴い、肌を撫でていったような気がした。 その瞬間感じた不快さは、和彦の中からある記憶を呼び覚ます。鷹津に体をまさぐられ、胸元に精を散らされた、あの出来事だ。さきほどまで鷹津に会っていたため、生々しさは例えようもない。 あれもまた、賢吾の思惑が引き起こした事象の一つだ。『先生?』「……なんでもない。お前、疲れているんだろ。早く休め」 千尋には悪いが、半ば強引に電話を切った和彦は、オレンジジュースを注いだグラスと子機を、ダイニングのテーブルの上に置く。 まだ夕方にもなっていないというのに、ひどい疲労感があった。 総和会の人間との会食や、そこで思いがけない提案をされている最中に、今度は鷹
last update最終更新日 : 2025-12-26
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第10話(22)

 自分では、何がどうなっているのか判断すらできなくて、頭と気持ちがオーバーフロー気味だ。こめかみを指で軽く押さえた和彦は、テーブルの上に置いた小物入れに目を留める。そこに、処方してもらった安定剤が入っているのだ。 千尋に倣うわけではないが、少し横になろうかという考えに、強く惹かれる。だが、和彦にはわかっていた。安定剤で一時の眠りを手に入れて何も考えなくなったところで、自分の体にこびりついた不快さは消えないと。 安定剤の入った袋ではなく、再び子機を取り上げ、登録してある番号の一つにかける。呼出し音を根気よく聞き続けていると、ようやく途切れた。『――どうかしたのか、先生』 電話の向こうから聞こえてきたのは、淡々としているが、優しさも滲ませたハスキーな声だった。 三田村の声を聞いただけで、和彦の気持ちは柔らかな感触で満たされる。それに何より、安心できる。 和彦と鷹津の間にあった出来事を知ってから、三田村は毎夜、電話をくれる。忙しくて会いに行けないことを、優しい男なりに別の形で埋め合わせようとしてくれているのだ。三田村の気持ちが素直に嬉しいし、ありがたくもあった和彦だが、今日はどうしても我慢できなかった。「三田村、今すぐ会いたい……」 和彦のわがままとも言える願いを、三田村は断ったりしなかった。『これから、迎えの人間をそこに向かわせる。申し訳ないが、先生、俺が今いる場所の近くまで来てもらっていいか? それに、あまり時間が取れない……』「もちろんだ。ぼくがわがままを言っているんだから」『違う。俺のわがままだ。先生の声しか聞けないことが、苦しくてたまらなかった。だから、先生に来てもらいたい』 突然の電話であるにもかかわらず、こんなふうに囁いてくれる三田村が愛しかった。「すぐに迎えを寄越してくれ。なんなら、ぼくがタクシーで行ってもいい」 それは絶対ダメだと、強い口調で言ってくれるのが嬉しい。和彦は笑みをこぼして頷いた。「……わかった、三田村」
last update最終更新日 : 2025-12-27
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第10話(23)

** ダブルの部屋に入るなり、三田村に手荒く肩を抱き寄せられ、ベッドへと連れて行かれる。押し倒されると同時に三田村がのしかかってきて、有無を言わせず唇を塞がれた。 和彦は気が遠くなるような高揚感と、胸を掻き毟りたくなるような強烈な疼きを味わいながら、三田村に強くしがみつく。 唇と舌を激しく貪り合いながら、三田村の手が下肢に伸び、コットンパンツのベルトを外し、ファスナーを下ろしていく。一方の和彦も、三田村のジャケットを脱がせると、ネクタイを解いて、もどかしい手つきでワイシャツのボタンを外していく。 剥かれる、という表現しかないような手つきで、コットンパンツと下着を下ろされた拍子に、まだ履いたままだった靴がベッドの下に落ちた。 ここまで会話は必要なかった。互いに、欲しいものはわかっている。 唇が離され、和彦は息を喘がせる。険しい表情で三田村が顔を覗き込んでくるが、怒っているわけではない。普段は優しい男が、抑え切れないほど激しく欲情しているのだ。「――……三田村」 掠れた声で和彦が呼びかけると、和彦の唇を痛いほど吸い上げてから、三田村が体の上から退く。そしてすぐに和彦は、ベッドの上で大きく仰け反り、息を詰める。大きく広げられた両足の間に三田村が顔を埋め、期待のためすでに身を起こしかけた和彦のものを、口腔に含んだからだ。「はっ……、んああっ」 熱く湿った感触が、容赦なく和彦の欲望を包み込み、吸引してくる。技巧も優しさも必要ない。まさに、むしゃぶりつくような愛撫だ。「あっ、あっ、三田村っ――」 和彦は身をくねらせながら、三田村の髪に指を差し込む。 今、こうしているのが信じられなかった。ほんの数十分ほど前まで、和彦は自分の部屋にいて、三田村と電話で話したあと、寄越された迎えの車に乗り込んだ。向かったのは、三田村が仕事をしている事務所近くのシティーホテルだった。 ロビーでは、すでに部屋のキーを受け取った三田村が待っており、こうして部屋に辿り着いたのだ。あとは、限られた時間の中、貪り合うだけだ。 あっという間に反応した和彦の
last update最終更新日 : 2025-12-27
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第10話(24)

 先端に歯が掠めるたびに、本能的なものと、肉体的な反応から、ビクビクと腰を震わせる。三田村は貪欲だ。武骨な愛撫を施してきながら、和彦が好む愛撫を探り当て、すぐに覚えてしまう。そうやって、和彦に肉の悦びを与えてくれるのだ。 しっかりと両足を抱え上げられて、露わになった内奥の入り口にまで三田村の舌が這わされる。「あうっ、うっ」 和彦は腰を揺らしながら、三田村の髪を掻き乱す。指と舌によって内奥を性急に解されていた。付け根まで挿入された指を蠢かされながら、まだ慎みを失っていない内奥の入り口にたっぷり舌を這わされる。かと思えば、指が引きぬかれた内奥に熱い舌が入り込み、浅い侵入にもかかわらず、和彦は全身を震わせて感じてしまう。 三田村が、身につけているものを脱ぎ捨てるため体を離すわずかな時間すら、苦痛だった。 だからこそ、熱く滾った欲望を内奥の入り口に擦りつけられただけで、和彦は蕩けそうな幸福感を味わう。 三田村が、肉を押し開く感触を堪能するように、ゆっくりと腰を進める。「あっ、ああっ――」 甘苦しい感覚がじんわりと腰から広がっていき、顔を背けて和彦は呻き声を洩らしていた。感じる苦痛は、特別な行為に及んでいるという証だ。だからこそ、すべてを呑み込んでしまうと、信じられないような悦びが湧き起こってくる。 和彦の両足を抱え直した三田村が、緩やかに内奥深くを突き上げ始めた。「……先生」 呼びかけられて三田村を見上げると、何かを耐えるように唇を引き結んでいる。和彦が両腕を伸ばして三田村の頭を引き寄せると、きつく抱き締められた。同時に、繋がった部分では、激しく肉が擦れ合う。「んっ、んうっ、はあっ、はっ……あぁ、三田村、三田村……」 内奥で感じる三田村の欲望は、熱く逞しい。和彦の襞と粘膜は強く擦り上げられるたびに歓喜し、まるで媚びるように三田村のものに吸い付き、まとわりつく。意識しないままきつく締め付けてしまうのは、どうしようもない反応だった。「このまま、先生を壊しそうだ……。加減を忘れそうなぐらい、気持ちい
last update最終更新日 : 2025-12-27
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第10話(25)

「できないだろ。ぼくの〈オトコ〉は、そんなこと――」「……でも、そうしたくなる。先生とこうしていると、自分の立場を忘れる。先生が誰のものなのかということも」「あんたのものだと言っただろ、ぼくは」 間近で見つめ合ってから和彦は、三田村の頬に自分の頬をすり寄せる。内奥深くで、三田村のものがさらに逞しさを増した気がした。 繋がったまま抱き起こされ、あぐらをかいた三田村の腰を跨ぐ。ゆっくりと内奥を突き上げられるたびに和彦は腰を揺らし、小さく声を洩らす。三田村が、強い衝動を堪えるためにこの格好になったのだと、すぐにわかった。これ以上なくしっかりと繋がりはしたものの、奔放に快感を貪ることはできない。ただ、深く結びついている感触を堪能できる。 三田村が胸の突起に強く吸い付き、和彦は背をしならせる。「はっ……あぁ。んっ、んっ、んくぅ……」 凝った突起に歯が立てられ、そっと引っ張られる。胸に疼きが走ると、その反応はダイレクトに、内奥で息づく男のものを求める淫らな蠕動となって表れる。三田村が微かに呻いたあと、心地よさそうに吐息を洩らした。 自分が快感を貪る以上に、この男にもっと快感を味わわせてやりたい――。 そう思った和彦は、三田村の耳元で囁いた。「……三田村、自分で動きたい」 意味をわかりかねたように目を丸くする三田村の肩を、かまわず押す。虚を衝かれる形となり、三田村の逞しい体は簡単に仰向けで倒れた。和彦はその三田村の胸に両手を突き、ゆっくりと腰を前後に動かす。「先生っ……」「まだ――、少しだけ、ぼくの自由にさせてくれ」 返事の代わりなのか、三田村の両手が腰にかかり、愛撫するように撫でられる。和彦はちらりと笑みをこぼしたが、すぐに行為に夢中になる。 内奥深くまでしっかりと埋まった三田村のものを、腰を浮かせてギリギリまで引き抜いたあと、再び腰を落として襞と粘膜を擦り上げてもらい、蠕動を繰り返す内奥できつく締め付けて包み込む。 何度となく吐息を洩らした三田
last update最終更新日 : 2025-12-27
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第10話(26)

 電流にも似た感覚が体中を駆け抜け、気がついたときには和彦は絶頂に達していた。三田村の下腹部から胸元にかけて、白濁とした精を迸らせて汚してしまい、うろたえる。「ごめんっ――。汚して、しまった……」 動揺する和彦とは対照的に、三田村は不快そうに眉をひそめるどころか、楽しそうに表情を綻ばせた。「俺みたいな人間に、そんなふうに素直に謝ってくれるのは、先生だけだろうな。しかも、悪いことなんてしてないのに」「でも、汚した」「汚してない。できることなら、もっと俺の手で搾り出したいぐらいだ」 そう言いながら三田村の手は、まだ和彦のものを扱いている。喘ぎながら和彦は、悩ましく腰を揺らし、内奥に三田村の欲望を擦りつける。「先生、そろそろ俺も……」 和彦が頷いて抱きつくと、体の位置が入れ替えられ、ベッドに押し付けられる。覆い被さってきた三田村がすぐに激しい律動を始め、しどけなく乱れながら和彦は、三田村の背の虎を両てのひらで愛してやる。「あうっ、うっ、三田村っ、はあ……、い、い」 突き上げられるたびに、目も眩むような快感に襲われていた。 安定剤など必要ない。三田村がたっぷり与えてくれる快感で、何も考えられなくなる。こんな三田村だからこそ、和彦には頼みたいことがあった。 あごの傷跡を舌先でなぞり、そっと吸い上げてから、三田村の耳元に唇を寄せる。ひそっ、と明け透けな言葉を三田村の耳に注ぎ込んだ。「先生っ……」 驚く三田村に対して、言葉を続ける。「嫌なんだ。あの男に、あんなことをされた感触が消えない。自分が汚れたままのようで、ずっとイライラしている。だから、あんたに――」 三田村は、これ以上なく高ぶってくれた。和彦の頼みを聞くために。 内奥を力強く突き上げたかと思うと、円を描くように掻き回し、奥深くを丹念に抉ってくる。頭上の柔らかな枕を握り締めて、和彦は思うさま乱れる。
last update最終更新日 : 2025-12-27
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第10話(27)

「んうっ、あんっ、あっ、あっ、ああっ」「先生、もうっ――……」 三田村の動きに余裕がなくなり、息遣いが切迫している。和彦は喘ぎながら求めた。「……出し、て、くれ。三田村、早く」 内奥を力強く突き上げられてから、一息に三田村のものが引き抜かれる。体に馬乗りになった三田村が、和彦の胸元に向けて勢いよく精を迸らせた。 快感の余韻からまだ冷めないまま和彦は、震える吐息をこぼして自分の胸元に触れる。そこに、確かに三田村の精を感じた。荒い呼吸を繰り返しながら三田村は、和彦の姿を見下ろしている。その目は、三田村の背にいる刺青の虎と同じで、猛り、力を漲らせていた。「これで、鷹津の感触が消せる。……嫌で、たまらなかったんだ」「俺で、よかったのか……?」「――あんたじゃないと、嫌だった」 次の瞬間、体の上から退いた三田村に片足を抱え上げられ、まだ力を失っていない欲望が内奥に捩じ込まれる。和彦は大きく仰け反りながら、悦びの声を上げていた。** 時間がないからこそ、とにかく早く欲望の火を消してしまいたいという思いと、もっとこの激しい交わりを堪能したいという思いが、いつになく和彦を惑乱させ、淫らにさせる。それは三田村も同じらしい。 内奥深くを抉るように強く突き上げ、そのたびに嬌声を上げて身を捩る和彦をきつく抱き締めてくる。このときの腕の強さは、和彦に対する気遣いは一切ないが、その代わり、三田村が抱え持つ執着心の強さを教えてくれる。 見た目はストイックな男だからこそ、こんなときに感じる熱さと激しさが、和彦には甘美であり、媚薬にもなる。 数え切れないほど擦り上げられて、内奥の襞と粘膜が爛れたように熱を持ち、おそろしく敏感になっている。それでもなお、嬉々として逞しい欲望に絡みつき、ぴったりと吸い付く。 意識しないまま三田村のものをきつく締め付けた和彦は、自分でも予測しなかった心地よさに、三田村の耳元で深い吐息をこぼす。「先生、つらくないか? …&helli
last update最終更新日 : 2025-12-28
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第10話(28)

 和彦が喉を反らして声を洩らすと、露わになった喉元を三田村の舌先になぞられる。ゾクゾクするような愉悦が体を駆け抜けていた。深く繋がっている三田村にも、その反応が伝わったらしく、腰を揺すられ、それでなくても感じやすくなっている襞と粘膜を擦り上げられる。「はっ……、あっ、あっ、あぁっ――」 三田村のものが慎重に内奥から引き抜かれ、淫らな収縮を繰り返す部分の感触を堪能するように、すぐにまた奥深くまで挿入される。同じ行為を数回繰り返された。 三田村の引き締まった下腹部に擦られたこともあり、さきほどからずっと反り返って、悦びの涙をはしたなく滴らせていた和彦のものは、精を噴き上げる。 声も出せずに快感にのたうつ和彦を、優しい男は容赦なく貫きながら、精で濡れそぼった和彦のものを片手で扱いてくる。「ダメ、だ……。三田村、もう、これ以上はっ……」「なら、舐めようか?」 三田村は、和彦を羞恥させるためにこんなことを言っているのではない。本気で、そうしようとしているのだ。 和彦は三田村に両腕でしっかりとしがみつくと、両足も逞しい腰に絡みつかせる。「――これがいい」 和彦の囁きは、すぐに激しい律動となって応じられる。そして今度こそ内奥で、三田村の熱い精を受け止める。 声を洩らして全身を震わせる和彦に対して、残った欲望の欠片すら与えようとするかのように、三田村は緩やかに内奥を突き上げてくれる。 触れ合っている部分が燃えそうに熱く、このまま蒸発しても惜しくないとすら思え、和彦は恍惚とする。まだ筋肉が硬く張り詰めている三田村の背を撫で、自分の〈虎〉を可愛がる。行為の最中は獰猛な三田村も、今は、ただ優しい。「……先生、どこか痛めなかったか?」 真剣な顔で問いかけてくる三田村の顔をぼんやりと見上げながら、和彦は小さく首を横に振る。ふと、あることを思い出し、三田村の片手を取る。スーツを脱ぎ捨てても、仕事から離れられない状況のため、腕時計を外せないのはやむをえない。「三田村、そろそろ仕事に戻らないと&helli
last update最終更新日 : 2025-12-28
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第10話(29)

 シャワーの水音を聞きながら和彦は、三田村が与えてくれた愛撫をいとおしむように、自分の体を指先でまさぐる。そうしているうちに、シャワーを浴びた三田村が部屋に戻ってきて、和彦が見ている前で淡々とスーツを身につけていく。 優しく激しいオトコが、長嶺組の若頭補佐に変わる様に、つい和彦は惚れ惚れと見入ってしまう。そんな和彦の視線に気づいたのか、三田村がふっと表情を和らげた。 しどけなくベッドの上に横たわる和彦を、スーツ姿で覆い被さってきた三田村が見下ろしてくる。簡単にシャワーを浴びただけだというのに、すでにもう三田村には、情交後の気だるい様子は微塵もなく、端然として鋭いヤクザとしての佇まいを取り戻している。「……すまない。できることなら、先生ともっと一緒にいたいんだが……」 まだ汗と精で濡れている和彦の体を撫でてきながら、三田村が心底申し訳なさそうに言う。和彦は微笑みかけ、首を横に振った。「ぼくのわがままにつき合ってくれただけで、十分だ」 三田村も柔らかい笑みを浮かべ、和彦の唇をそっと吸い上げてくる。戯れのような軽いキスを繰り返しながら和彦は言った。「あんたに仕事を抜けさせたことは、ぼくから組長に謝っておく」「先生は気にしなくていい。それに、組長から言われているんだ。――先生を寂しがらせるなと。そのためなら、多少の無茶をしてもかまわないと」 そんなやり取りをしていたのかと、和彦は複雑な心境になる。「……子供扱いされているみたいだ」「違う。先生を大事にしたいんだ。俺も、組長も」 情欲の熱以外のものによって、顔が熱くなっていくのを和彦は感じた。妖しい衝動が胸の内でうねり、和彦の変化に気づいたのか、三田村のキスが変わる。唇と舌をきつく吸われ、たまらなくなった和彦は舌を絡める。 行為の成果を確かめるように三田村の指に、蕩けて綻んだ内奥の入り口をまさぐられ、慎重に挿入された。「あっ……、うぅっ」 ゆっくりと指が出し入れされるたびに、内奥に注ぎ込まれた三田村の精が溢れ出してくる。さんざん逞しい
last update最終更新日 : 2025-12-28
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第10話(30)

**** 普段よりスピードを上げてランニングマシーンで走りながら、和彦は正面の大きな窓の向こうに広がる景色を一心に見据えていた。当然のように、いくら走ったところで景色は変わらない。 体を動かすだけなら、スポーツジムで問題はないのだが、そこに、外の空気も吸いたいという希望が加わると、なかなか難しい。 せめて、マンションの周囲でジョギングぐらいしたいと思っていても、賢吾に切り出す前に返事は予測がついた。わかった、と返事をしたあと、毎朝組員と一緒に走ればいいと、当然のように言うだろう。「――先生、心拍数がちょっと上がりすぎじゃないですか」 突然、傍らにやってきた人影に話しかけられ、ぎょっとする。いつの間に側にやってきたのか、中嶋がランニングマシーンのパネルを覗き込んでいた。 答えるには息が上がっており、和彦はひとまずマシーンを降りてから、肩で大きく息をする。滴り落ちる汗を拭ってようやく、中嶋と向き合った。どうやら中嶋のほうも、すでに体を動かしたあとらしく、Tシャツが汗で濡れている。「ちょっと考え事をしていたら、いつもよりペースを上げすぎたみたいだ」「俺も、ウェイトのほうでがんばりすぎましたよ。……体を動かしていないと、いろいろと考え込んでしまうんで」 ゆっくりと腕を回しながら、中嶋は笑う。いつもと変わらない表情に見えるが、和彦はなんとなく身構えてしまう。 そんな和彦に対して、中嶋は自然な口調でこう切り出した。「――先生、ラウンジで休みませんか?」「ああ……、そうだな」 ぎこちなく応じた和彦は、汗を拭きながら中嶋とラウンジに移動した。 仕事抜きで中嶋と相対するのは、正直きつい。先日、接待されたときも、中嶋の反応がひどく気になったのだ。和彦相手に感情を吐露する男でもなく、ただ視線だけが突き刺さる。だがこれは、和彦の後ろ暗さの表れでもある。 中嶋は、秦を慕っている。ホスト時代の後輩と先輩、ヤクザとヤクザのごく側に身を置く男。何より、中嶋にとって秦は恩人だ。筋者らしい表情で、秦は自分の手札に
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