そして、顔を上げて彼を見た瞬間、彼女は息を呑んだ。男は漆黒のコートを纏っていた。風に揺れる裾、額にかかる黒髪が踊るその佇まいは、洗練された、奔放で、野性的な色気を孕んでいた。彼の肌は初雪のように白く、陽の光の下に長く立っていれば、そのまま溶けて消えてしまうのではないかと錯覚するほどだ。だが、最も視線を逸らせないのは、やはり彼の瞳だった――色香を湛えた切れ長の瞳。褐色の瞳は春の泉に浸された琥珀のようで、目を細めれば、その奥底に漣のような波紋が揺らめくようだった。圧倒的な美しさ。蒼真とはタイプが違うが、彼と互角に渡り合えるほどの美貌を持っていた。彩葉の感謝の言葉に対して、男は一言も発しなかった。「さっきは本当にありがとうございました。ただありがとうと言うだけでは軽すぎることは分かっています。命を救っていただいたんですから」彩葉の心臓はまだ早鐘を打っており、激しく息を弾ませながら続けた。「でも、どうお礼をすればいいか分かりません」男は依然として彼女を見つめたまま、沈黙を守っている。「あの……お話は、できないのですか?」彩葉は胸を痛め、すぐに手話で話しかけた。彼女の細い指先が焦ったように動くのを見て、男の目をわずかに見開き、明らかに驚いた様子を見せた。だが、彼は結局沈黙を貫いたまま、身を翻して淡々と去っていった。彩葉はその背中を見つめ、人一倍情の深い性格ゆえに、心が少し痛んだ。なんて素敵な男性なのだろう。気品があり、優しい人だ。でも残念なことに、言葉が話せない方だったなんて。「蒼真さん、お姉ちゃんの様子を……見に行かなくていいの?」雫は心配そうな表情を作った。「さっき車に轢かれそうになったのよ。大丈夫かしら?」男の立ちはだかる背中が彩葉の姿を完全に遮っており、二人がどんなやり取りをしていたのか、彼らからは見えなかった。「知ったことか。ちゃんと別の男に守られているじゃないか。行くぞ」蒼真は冷たく吐き捨て、大股で歩き去った。まるで、彩葉のことなど赤の他人であるかのように。雫も足並みを揃えて彼に従ったが、その澄んだ瞳の奥には、陰湿な光が宿っていた。あのコートの男、本当に余計なことを!もし彼が現れなければ、今日は人生で最高の一日になっていたのに!……彩葉は家に帰り
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