Share

8.連れ去り事案

last update Last Updated: 2025-12-20 17:00:00

「もしもし山口さん ? 今日は結香がお世話になって〜、いえありがとうございました〜。

 あのお聞きしたいことがあるんですけど、結香のお迎えは……。え ? 伯母さん ? わたしの娘が !? 

 ……あ、いえ……そうでしたか。いえ、なんでも……」

 母親が電話を切りしばらくの沈黙。

「母さん !! 」

「だってまさかこんな事になるなんて ! だいたい保育園は確認もしないで結香を引き渡したの !? 」

「そ、それが身分証を見せて貰ったとか聞いたけど……」

「身分証 !? 」

 その後、岩井は姉に確認をとったが姉は都会に就職したまま多忙で本日もまだ勤務中だった。リモート映像から見えるデスク後ろの社員たちが慌ただしくも通りすがる様子を映していた。

『え !? そんな事があったの !? ちょっとちょっとヤバいよ〜。

 実はわたし、二週間前に財布落としたの ! 』

「落とした !? 身分証も !? 」

『落としたって言うか忘れたっていうか……気付いたらバッグから無くなっててさ。

 口座とかは止めて貰ったから、実害は現金五千円くらいだったんだけど……。

 それ本当にわたしの身分証だった ? 免許証だと思うけど……』

「明日……保育園で確認してみるよ」

 □□□

「それで今日も、保育園に行っていたんだ」

「解決してないの ? 」

 岩井はなんとも言いにくそうに額をサリ……っと撫で付けた。

「それがさ。その次の日、すぐに保育園に確認しに行ったんだよもしかしたら偽の不審者が姉貴の身分証使ったとしたら、誘拐じゃん ? 

 でも話を聞いた保育園側に平謝りされて……」

「はぁぁぁ !?

Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 大衆中華 八本軒〜罪を喰う女〜   8.連れ去り事案

    「もしもし山口さん ? 今日は結香がお世話になって〜、いえありがとうございました〜。 あのお聞きしたいことがあるんですけど、結香のお迎えは……。え ? 伯母さん ? わたしの娘が !? ……あ、いえ……そうでしたか。いえ、なんでも……」 母親が電話を切りしばらくの沈黙。「母さん !! 」「だってまさかこんな事になるなんて ! だいたい保育園は確認もしないで結香を引き渡したの !? 」「そ、それが身分証を見せて貰ったとか聞いたけど……」「身分証 !? 」 その後、岩井は姉に確認をとったが姉は都会に就職したまま多忙で本日もまだ勤務中だった。リモート映像から見えるデスク後ろの社員たちが慌ただしくも通りすがる様子を映していた。『え !? そんな事があったの !? ちょっとちょっとヤバいよ〜。 実はわたし、二週間前に財布落としたの ! 』「落とした !? 身分証も !? 」『落としたって言うか忘れたっていうか……気付いたらバッグから無くなっててさ。 口座とかは止めて貰ったから、実害は現金五千円くらいだったんだけど……。 それ本当にわたしの身分証だった ? 免許証だと思うけど……』「明日……保育園で確認してみるよ」 □□□「それで今日も、保育園に行っていたんだ」「解決してないの ? 」 岩井はなんとも言いにくそうに額をサリ……っと撫で付けた。「それがさ。その次の日、すぐに保育園に確認しに行ったんだよもしかしたら偽の不審者が姉貴の身分証使ったとしたら、誘拐じゃん ? でも話を聞いた保育園側に平謝りされて……」「はぁぁぁ !?

  • 大衆中華 八本軒〜罪を喰う女〜   7.お迎え

    「女を見かけた三日後かな。郵便物が荒らされてたの。ビリビリに破かれてて。うちのアパートって郵便受けに鍵とか無いから。  でも、その前にも頼んだはずの置き配が届かなかったり、取り寄せた講習会のパンフレットが届かなかったりしてたんだ。  どこからが被害なのか分からないけど、とにかくカフェ勤務始めた頃から始まって……」 ──その後。  帰り道でも視線を感じるようになった。「付けられてる感じがするんですよね。でも振り返っても、知らない通行人ばかりだし、あの夜見たような女っぽい奴もいなくて」 一番最初に岩井の相談を受けたのはカフェの店長だった。「本当に元の奥さんじゃないの ? じゃあ……客の中にいるのかもね。心当たりない ? 」 彼女は至って真面目に事情を聞いた。「男性客が殆どですし。でもだとしたら余計にあの不審者とは合わないです」「恐怖心で見間違えたり、相手が変装してたり可能性はあるんだし。  郵便物荒らしだけでも実害が出てるんだから警察に相談とかどうかな ? 」「警察…… !? 」「もしもの話をしたらキリが無いけどさ。実害が出てるって事は、結構な執着だよね ? 警察に行く岩井さんの姿や情報を、相手が見たら抑止にならないかな ? って思うんだよね」「あぁ、そういう……。でももしかしたらアパートの……例えば他のご家庭からの嫌がらせとかかもしれませんし……」「うん。そうだね。でも、岩井さんが悪いわけじゃないんだから、念頭に置いてみたら ?  その為の警察なんだしさ」「母と……相談してみます」 勤務中、女性スタッフ目当てに楽しむ客たちを眺めながら、疲労で回らない記憶を頼りに不審者を当てはめていく。女性客も来るが、どうにもあの闇夜に佇んでいた不気味さを彼女たちからは感じ取れなかった。それどころか、ここでは海希や他のコスチュームを来た女性達がメインの空間だ。一応、迷彩服風のコックコートに身を包んだ岩井達やホールのボーイもいるが、ただの裏方。岩井に執着心を向けてくる客は身に覚えがなかった。 おかしな

  • 大衆中華 八本軒〜罪を喰う女〜   6.不審な影

    「ストーカー ? 」「いや、まだ断定は出来ないんだけどね」 突然話し出した岩井のワードに、海希が一番不信げに反応した。「え、何 ? どういう事 ? 女性関係複雑だったりするの ? 」「無いよ ! 本当にそれは ! 」 突然ストーカーが付くというのは、事実七割以上が顔見知りである。特に多い年代が二十代〜三十代。ストーカー法が出来た後、検挙率は徐々に低下傾向にはあるものの、あくまで警察に相談をした中での統計となる。 岩井も現在、警察に相談はしていないという。「心当たりがないから、余計に警察沙汰にしようがなくてさ」 話を聞いていた紫麻が岩井を見つめる。  嘘をついている風でもない。  海希とも、そう深い仲ではないように聞こえる会話。しかし今、悩みを話してしまっているのは追い詰められている証拠でもある。近すぎる周囲には相談できる人間がいないのだろう。「良ければ話をしてみませんか ? わたし達のような部外者の方が、割と安全かとも思いますよ」「……あぁ。確かに……そうですよね ? じゃあ、聞いて貰えますか ? 」 鹿野と海希も何となく岩井の卓に座り、次の言葉を待つ。「どこから話せばいいかな……まずは……俺が海希と同じ職場にいた頃から始まるんですけど」「え !? その期間も ?! 」 海希は予想だにしない岩井の告白に目を丸くした。「まぁ、聞こうじゃねぇ〜かぁ〜」「海希さん、馬鹿鹿からお酒を取り上げてください」「紫麻さん、笑顔で無茶振りやめて……」「これは俺の酒だぁ ! 渡さん〜」「あぁぁっ !! 集中出来ん !! いちいち絡むな !!  ……。  ……失礼いたしました。どうぞお話ください」「は、はぁ……」 □□□□ 岩井の話はコンセプトカフェに勤務していた頃に遡る。 その日、勤務を終えた岩井は店長に挨拶を告げるとすぐに帰路へついた。 まず最初に気

  • 大衆中華 八本軒〜罪を喰う女〜   5.番茄炒蛋スープと餃子の憂鬱

    「非日常感ねぇ〜。そんなもんがあるのかぁ」「これが当時の俺達ですよ」 岩井が海希と写ったスマホの写真を見せる。他のスタッフもいるが、海希は『ヒロミ』というネームを付け、白のタンクトップにレザーのミニスカート、そして邪魔そうなマシンガンを背負いながらドリンクを持っている。 岩井は厨房にいたのか白いコック姿で端にドカンと立っていた。「……素晴らしいです。店の内装も凝っていますね。古いと言うより、荒廃した雰囲気が伝わってくるようです」「メニューも『カレー味レーション』とかあるんですよ。実際は岩井が作ってる物にレーションっぽいラッピングだけ添えて出すんですけど」「それは、意味があるのでしょうか ? 」「外国人のお客さんなんかが記念に持って帰ったりするんで綺麗な方が喜ばれるんです」「ふむ。あくまでコンセプトだから、リアリティは二の次なのでしょうか ? 」「そこは店によりますね。『濾過煮沸水ソーダ』とかもソーダ水にクラッシュコーヒーゼリーを浮かべたりして」「創造的でございますね」「それにしても、元気そうじゃん ? 確か岩井は傷病休暇とってから辞めたよね ? もっと参ってるのかと思ったけど ? 」 海希の言う通り、岩井は精神を病んで退職していた。しかし、目の前にいる岩井は病むどころか筋肉は当時の倍。顔色もそう悪くないように見える。「実は……。 あ、その前に注文しますね ! えー……っと」 紫麻のお品書きで品定めする岩井に海希の喉がゴクリと鳴る。一体、次はどんな奇怪な料理が出来るのかと。「じゃあ、この番茄炒蛋《ファンチェチャオダン》スープと餃子を、どちらも単品で」「ご飯とスープは無料ですがよろしいですか ? 」「はい」「かしこまりました。少々お待ちください」 紫麻が厨房でガスに向かう。 海希のソワソワした感じに鹿野はニヤニヤする。「すぐにマズメシを出す罪悪感な

  • 大衆中華 八本軒〜罪を喰う女〜   4.岩井 剣

     紫麻は無言でわざとらしく広げた新聞を読んでいる。見た目の美しさに反して、そんな子供のような仕草をする紫麻が、海希は親しみ深くて仕方がなかった。 鹿野に対して、ゴミを溜め込んでいたのもそうだ。 完璧超人などいない事を目の当たりにし、自身の精神バランスを保っている。海希は元の元気を取り戻しつつあった。「紫麻さん、海から人型で上がっ来たなんて人魚姫みたい ! 一番最初に何に驚きました ? 車とか !? 料理とか ! ?」 紫麻は即答した。「煙草だな。水中では火が使えんから驚いた」「……聞くんじゃなかった……。そんな不健康でヤサグレた紫麻さんの話 !! 紫麻さんは人魚姫ってより、浦島太郎を振り回す乙姫様っぽいです ! 」「わたしは構わないが ? 魚人でも、乙姫でも。だが乙姫も神じゃないか」「うぅぅ〜 ! 開き直ってるぅ〜 ! 」「わたしが乙姫なら浦島太郎に玉手箱いっぱいの煙草をプレゼントするな。 さて、そろそろ十一時だ。暖簾を出す。 鹿野、いつもの席に行ってくれ」 鹿野はブツブツと浮世絵集を見ながら、カウンター席の隅に座る。「玉手箱の煙が煙草〜 ? そりゃあ老化も激しいでしょうよ……」 海希は赤いエプロンを着けると、卓をアルコールスプレーで綺麗に拭きあげて行く。 紫麻が暖簾を出してから暫くして、そろそろ昼時と言う時だった一人の男性が八本軒の引戸を開けて入店した。 カラリンッとベルが鳴る。「いらっしゃいませ」 紫麻が厨房から声をかけると同時に、海希が驚いた顔で「いらっしゃいませ」と小さく呟く。「あれ…… ? ヒロミ ? 」 男性は海希を見て動揺していた。「う、うん。もうあそこ辞めたから。今はここでお世話になってんの」「あ、ごめん。じゃあ……海希ちゃんだっけ ? 」

  • 大衆中華 八本軒〜罪を喰う女〜   3.メルカバーの守護天使

    「ところで、紫麻さんの変身 ? って魔法なんですか ? 魔法使いなの ? 」 この質問には鹿野もスッと顔を上げた。 ただいま泥酔レベル20%だ。まだ酒は回っていないが、近所の煩わしいオッサンレベルだ。「世には色々な宗教があるだろう ? 人間は信仰の違いで争いになる事もあるようだが、実際にはどこの宗教の神も互いに認識しあっている。『隣の家の○○神さん』くらいのものなんだ」「へぇ……神様同士で争ったりしないんですね」「昔は対立もあったし、そもそも一つの宗教の中に悪がいるパターンもあるから、争いの相手はそっちの方が主だ。 つまり天使と悪魔というものがまさにそれらだ」「なるほど〜。えー ? でも仏教って悪魔いなくないですか ? 」「厳密に言えば仏教にも『修行の妨げをするよう仕向けるモノ』がいるが……。 まず、悪役が無い宗教は無い。何故なら宗教ってのは悪の心を収め、正しい道を照らすものだ。悪を説明出来なければ、例えが俗物的になってしまう」「あぁ〜宗教とかはあたし、よく分かんないですね。 で ? お二人はどんな存在なんですか ? 」「聖書の天使に、ガブリエルという大物がいてな……」 紫麻が煙草を咥えると、鹿野が取り上げる。「俺に副流煙を吸わすな ! 緩やかに自傷行為するな ! 」「煙草は自傷行為じゃないし、それで言うとお前の酒もどうかと思うが ? 」 このままでは話が逸れてしまう。海希が慌てて聞き返す。「あ ! ガブリエルって知ってる。ゲームで聞いたことあるかも ! 」「その大天使に仕えていたのが我々二人だ。 わたしは『神の願いを現す者』、鹿野は『力と知恵の調和を現す者』として存在し、神器である『神の戦車』を守護していた」「戦車 ? 神様が戦車を運転するんですか ? 」「神の戦車は『メルカバー』と呼ばれている。その存在は先日見た通りだ。 わたしが鹿野に乗る事で『メルカ

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status