All Chapters of ノクスレイン~香りの王国物語~: Chapter 1

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第1話 悪役令嬢に転生したので破滅フラグを回避したい

「――あら、そこまでおっしゃるのでしたら」  その身体の主、蜂蜜色の髪を持つ令嬢の声には、それまでの微笑みとは違う響きがあった。  軽薄そうな若い男――貴族の得意げな顔が、初めてこちらを向く。 「そんなにご不満でいらっしゃるなら、この婚約、わたくしの方から破棄させていただきますわぁ」  周囲の空気が、凍りついた。  何よりも相手の男が凍りついている。 「お――ほっほっほっ!」  ――その高笑いを聞いて、白石香澄は慌てふためいていた。 物理的にそうしていたのではなく、何とも奇妙な奇妙な状況で。  具体的には、自分の身体ではない誰かの身体の内側で彼女の意識が、魂が、慌てふためいていた。  § § §  ――少しだけ時は遡る。  香りの王国、オーブレーヌ。  華やかな夜会の広間は、魔力灯によるシャンデリアの光に満ちていた。 「いやぁ、君には勿体ないくらい、盛大な婚約式になったものだね」  金髪の若い男――オズワルド・ヴァンダール。次期侯爵という肩書きにふさわしい、整った顔立ちに、余裕の笑みを浮かべ、彼女に語りかけている。 「そういえば先日の剣術大会でも、私の腕前には皆驚いていたよ。いやぁ、困ったものだね」  取り巻きらしき令嬢たちが、扇の陰でくすくすと笑いながら聞いていた。誰ひとり、その婚約者の隣に立つ娘へ、気遣うような視線を寄越さない。 {――え、待って!?}  その声は、どこからともなく響いた。 {ここ、どこ。この体、誰。なんで私、こんな豪華なドレス着て突っ立ってるの}  ――白石香澄は、混乱していた。  ついさっきまで、彼女は自分のデスクにいたはずだった。締め切り間際の資料、冷めきったコンビニのコーヒー、点滅する体調不良のアラート。  それから――真っ暗になった記憶。  冷たく走る、胸の痛み。きっとあれは死の感覚だったのだと彼女は理解した。 {うそでしょ、これ絶対まずいやつだ!}  目の前では、金髪の男が芝居がかった仕草で語り続けている。自分はその正面に立ち、何も言わずに微笑んでいる――らしい。表情筋の動きひとつ、香澄の意志ではない。 {え、私、この状況で笑ってるの。なんで!?}  混乱する香澄をよそに、体
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