(あの方は……戦っていらっしゃる) 高橋のガラス玉のような瞳が、あの日の無遠慮なカメラのフラッシュと重なったのだろう。 昨夜の「俺の許可なく触らせない」という独占欲。それと同じ熱量の、痛々しいほどの守護の意思が隼人の中に見える。 小夜子の胸の奥で、くすぶっていた火種が大きく燃え上がった。 朝の不機嫌もコーヒーを突き返したのも、すべてはこの「恐れ」の裏返しだったのだ。自分を遠ざけることで、巻き込まないようにしていたのかもしれない。(貴方は、私を道具だと言いながら……どうしてそんなに必死に、矢面に立とうとなさるの) その不器用な誠実さが愛おしかった。同時に腹が立った。 他人の傷口に塩を塗って楽しむハイエナに対して、そして自分を「守られるだけの弱い存在」だと決めつけている夫に対しても。「……交渉決裂ね。残念だわ」 高橋は肩をすくめ、鞄を手に取った。「なら、遠慮なく書かせてもらうわよ。アーク・リゾーツ経営者の正体、『母の愛を知らずに育った冷血漢』と『仮面夫婦の悲惨な実態』ってね」 高橋が背を向け、ドアノブに手をかけた瞬間。「お待ちください」 凛とした声が部屋の空気に響いた。小夜子が一歩、前に出ていた。「おい! 何を言っている!」 隼人が血相を変えて立ち上がる。小夜子は夫に向き直り、優雅に一礼した。 その表情にはいつもの卑屈な色はない。いたずらを企む子供のような、それでいて芯の強い微笑みが浮かんでいた。(旦那様。貴方がその不器用な優しさで私を守ろうとするなら、私はこの身一つで、貴方の汚名をすすいでみせましょう) 実家で義母たちに向けられた冷遇や理不尽に比べれば、マスコミの取材など何の問題もない。(それに、私は貴方に「上書き」された女なのだから) 小夜子は一瞬だけ手の甲を押さえた。それから高橋の方を向き、まっすぐにその目を見据えた。「インタビュー、お受けいたします」「……ほう?」 高橋が面白そうに振り返る。「た
Last Updated : 2026-01-01 Read more