卒業式当日。同級生たちの家族で賑わう中、乃愛はあの冷たい両親の姿を探したが、どこにも見当たらない。はなから来るとは思ってはいなかったから、そんなものかと思い、自分の席でじっとしていた。 誰かと別れを惜しんだり、抱き合って涙を流したりすることなどなく、卒業式を終えると、恭介からLINEが来ていた。父からのLINEなど、小学生以来だ。乃愛に連絡をするのはいつも聖愛か黒崎で、業務連絡しかしたことがない。『今夜7時、最後に会おう』 そんな短い一文と共に送られたのは、個室の飲食店の住所。高級な料理店ではなく、どこにでもあるチェーン店だ。父はそういった店を嫌う。そんな父が高級料亭などではなく、チェーン店を選んだのは、個室から出入りする際、顔見知りと鉢合わせたら厄介だからだろう。 なんたって、娘を捨てるために会うのだから。 月野グループほどの大企業となれば、度々メディアに出演する機会がある。そういう場合、伴侶も一緒に映ったりするが、水樹は1度もメディアに顔を出したことがない。乃愛もそうだ。 表向きでは「病弱の妻を守るため。幼い子供をメディアに出してトラブルに巻き込まれないため」ということになっているが、恭介に後ろめたいことがあるからだろうと、乃愛は推測する。 それを肯定するかのように、聖愛と修斗はよくメディア出演している。そのことについて聞かれれば、「妻の容態が安定したし、息子も将来について考えているから」とのたまっているのを、偶然テレビで見たことがある。 恭介はメディアの前で、聖愛としか結婚したことがないように振る舞い、美しい馴れ初めを語っていた。そこには水樹と乃愛の気配はひと欠片もない。恭介の中ではもう、ふたりは存在していないのと同じなのだろう。 夜6時50分。乃愛はスマホを握りしめて指定された店に行く。スマホを返すつもりだ。「予約していた月野です」「お連れ様ですね。こちらへどうぞ」 店員に声をかけると、奥の個室に案内される。中に入ると月野夫妻が座っていた。テーブルにはひとり分の豪華な食事と3人分の飲み物。料理は乃愛が座るであろう席に置かれ、夫妻の前にはお茶があるだけ。「ごゆっくりどうぞ」 店員が下がって個室のドアを閉めると、乃愛はふたりの向かいの席に座った。「修斗は来てないの」「あなたみたいな低能に、会わせるわけないじゃない。修斗はあなた
Zuletzt aktualisiert : 2025-12-18 Mehr lesen