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Alle Kapitel von 罪状『無知』: Kapitel 31 – Kapitel 40

51 Kapitel

さよなら

 卒業式当日。同級生たちの家族で賑わう中、乃愛はあの冷たい両親の姿を探したが、どこにも見当たらない。はなから来るとは思ってはいなかったから、そんなものかと思い、自分の席でじっとしていた。 誰かと別れを惜しんだり、抱き合って涙を流したりすることなどなく、卒業式を終えると、恭介からLINEが来ていた。父からのLINEなど、小学生以来だ。乃愛に連絡をするのはいつも聖愛か黒崎で、業務連絡しかしたことがない。『今夜7時、最後に会おう』 そんな短い一文と共に送られたのは、個室の飲食店の住所。高級な料理店ではなく、どこにでもあるチェーン店だ。父はそういった店を嫌う。そんな父が高級料亭などではなく、チェーン店を選んだのは、個室から出入りする際、顔見知りと鉢合わせたら厄介だからだろう。 なんたって、娘を捨てるために会うのだから。 月野グループほどの大企業となれば、度々メディアに出演する機会がある。そういう場合、伴侶も一緒に映ったりするが、水樹は1度もメディアに顔を出したことがない。乃愛もそうだ。 表向きでは「病弱の妻を守るため。幼い子供をメディアに出してトラブルに巻き込まれないため」ということになっているが、恭介に後ろめたいことがあるからだろうと、乃愛は推測する。 それを肯定するかのように、聖愛と修斗はよくメディア出演している。そのことについて聞かれれば、「妻の容態が安定したし、息子も将来について考えているから」とのたまっているのを、偶然テレビで見たことがある。 恭介はメディアの前で、聖愛としか結婚したことがないように振る舞い、美しい馴れ初めを語っていた。そこには水樹と乃愛の気配はひと欠片もない。恭介の中ではもう、ふたりは存在していないのと同じなのだろう。 夜6時50分。乃愛はスマホを握りしめて指定された店に行く。スマホを返すつもりだ。「予約していた月野です」「お連れ様ですね。こちらへどうぞ」 店員に声をかけると、奥の個室に案内される。中に入ると月野夫妻が座っていた。テーブルにはひとり分の豪華な食事と3人分の飲み物。料理は乃愛が座るであろう席に置かれ、夫妻の前にはお茶があるだけ。「ごゆっくりどうぞ」 店員が下がって個室のドアを閉めると、乃愛はふたりの向かいの席に座った。「修斗は来てないの」「あなたみたいな低能に、会わせるわけないじゃない。修斗はあなた
last updateZuletzt aktualisiert : 2025-12-18
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さよなら2

「そう」 スマホを下げる。眼の前には美味しそうな料理。湯気と共に食欲をそそるにおいを、乃愛の鼻腔に届ける。けど、食べようとは思えない。「簡潔に行こう。まず、月野家の苗字をもう名乗るな。役所で手続きをしてこい」「はい」 捨てられると知った15歳の夜、決めていたことだ。手続きについて調べ、やることノートにも書いてある。「ないとは思うが、月野家の関係者か聞かれても、否定しろ」「分かってます」「よろしい」 乃愛の返事に、恭介は満足そうにうなずいた。それを見て、自分は彼にとって汚点でしかないのだと再認識して、悲しくなった。非情になりきれない自分にうんざりし、テーブルの下で片手を強く握る。 恭介は自分の足元に置いていたアタッシェケースを、テーブルの上に置いて乃愛の方へ押し出した。テーブルとアタッシェケースが擦れる音を聞いて、テーブルが傷つくのではないかと、妙な心配をする。「ここに1億入ってる。大学に行ったとしても、数年は暮らせる額だ」「手切れ金として充分です、ありがとうございます」 乃愛が深々と頭を下げると、恭介は苦虫を噛み潰したような顔をする。「ふたつ、聞いてもいいですか?」「なんだ?」「母が、どこにいるのか分かりますか?」 数秒の沈黙の後、ふたりは笑った。「あははは、あんたが追い出したあの地味女ねぇ。さぁ、知らない」「今更受け入れてもらえると思うなよ」 受け入れてもらえると思うな。まったくもってその通りだと、乃愛は思う。あれだけの仕打ちをしたのだ、許されるはずがない。「それで、もうひとつはなんなの? はやく言ってよ。こんなやっすい店に、いつまでもいたくないのよね」 聖愛は吐き捨てるように言うと、室内を見回り、ため息を付いた。ブランド志向のある彼女にとって、チェーン店は牢屋と変わらないのだろう。実際、ブランド品を身にまとう聖愛は、この店で浮いている。「母の旧姓を知りたいんです」「そんなこと、覚えてるわけないだろ。くだらない。もう質問はないな?」 恭介の言葉は、問いというよりも、圧だった。これ以上の質問は受け付けないという意思が滲み出ている。「はい」「料金は払ってある。それと、それも飲んでいいぞ」「私達、手を付けてないから。こんな店の飲み物なんて、何が入ってるか分かったものじゃないし」 ふたりは個室から出ていく。間際、ぴ
last updateZuletzt aktualisiert : 2025-12-18
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新居

卒業した乃愛は、新居に引っ越した。女性専用マンションだ。オートロック付きの、セキュリティがしっかりした物件。乃愛がこのマンションを選んだのは、駅の近さとセキュリティの高さから。元々、手元にコツコツ貯めていた大金がある。通帳には400万近く入っている。それだけでもプレッシャーだというのに、予期せぬ1億円が手元にある。それも現金で。まとまった額をもらえるとは聞いていたが、せいぜい千万円だと思っていた。もちろん千万円も大金であることは重々承知ではあるが、あの月野グループの会長をしている恭介なら、簡単に出せる額だ。大学に行くには、数百万かかる。それなら多く見積もって千万円というのが、乃愛の考えだった。「どうしよう……」荷解きを終えた乃愛は、部屋を見回してため息をつく。家具家電だけでなく、食器や寝具も揃っているため、特に大きな買い物はない。正直好みではないが、今はそんなことを言ってる場合ではない。「まずは、家庭裁判所かな」乃愛はやることノートを開いた。このノートには、学校を卒業してからすべきことが書いてある。例えば、部屋が決まってから、インターネットや、ライフラインの契約をすること、住所変更手続きをすること、といった具合だ。住所変更手続き、インターネット、ライフラインの契約は終えたが、苗字と改名がまだ終わっていない。「えっと……、必要なものは、戸籍謄本、800円の収入印紙、連絡用切手か……」乃愛は地図を頭の中に描き、どんなルートが最適なのか考える。近いのは郵便局だ。「郵便局で切手と収入印紙買って、市役所で戸籍謄本……。その前に、銀行でお金下ろさなきゃ……」予定を声にしながら、荷物をまとめると、外に出た。春風が乃愛の頬を優しく撫でる。少しだけ、気持ちが軽くなる。銀行で数万円ほど下ろし、郵便局と市役所に立ち寄り、必要なものを買うと、バスに揺られて家庭裁判所へ向かう。なんとなく車窓を見ていると、ほんの一瞬、どこかで見た顔を見た気がした。何かの看板に、女性の写真が使われており、その女性に見覚えがあった気がする。ぼんやりしていて、よく見ていないのが悔やまれる。「看板になるような知り合いなんて、いないはずなんだけど……」ポツリとつぶやく。家族とは縁を切ったし、同級生に友達はいない。机の上ばかり見ていたから、同級生の顔なんてひとつも覚えていない。(考え
last updateZuletzt aktualisiert : 2025-12-20
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決別

 乃愛は淡々と空欄を埋めていく。彼女の手を止めたのは理由を書く欄。手が震え始めたことに気づくと深呼吸をして落ち着かせ、ペンを握り直す。『私は以前、改名しました。優子というのは、実母がつけてくれた名前です。当時、小学生で何も知らなかった私は、父の不倫相手である聖愛に改名をしてもらいました。当時は嬉しかったのですが、今となっては苦痛でしかないので、実母がくれた優子に戻したいと思います』 まるで懺悔している気分だ。何度落ち着かせようと深呼吸をしたり、ペンを握り直したりしても、手が震える。おかげで文字が少々汚くなってしまった。 次に書くのは苗字の書類だ。こちらが厄介で、大抵の場合、もうひとりの親の苗字に変更する。乃愛の場合は、母の苗字に変えるのが妥当だ。だが、母の苗字を知らない。こういう時は、自分で苗字を決められるそうだが、これといって思いつかない。「んー……。探偵雇って、ママを探してからにしたほうがいいかな……」 適当な苗字に改める気もないので、苗字変更の書類は丁寧に折りたたみ、カバンにしまった。書類を提出すると、面談があるから待つように言われる。 椅子に座る間もなく、小さな面談室に呼び出された。中には椅子とテーブルのみ。刑事ドラマでよく見る取調室に少し似ていた。 中年の優しそうな女性が、窓を背にして座っている。「月野乃愛さんですね。おかけになってください」「はい」 女性の前に座ると、名刺を差し出される。「私は参与員の秋田和子です。よろしくお願いします」「はい」「今から、改名に関する面談をします。重要なお話をしますが、肩の力を抜いて、あるがままにお話してくださいね」 和子の柔らかな笑みに安堵し、少しだけ緊張がほぐれる。 誰かがドアをノックし、緊張が残る乃愛の心臓を跳ねさせた。「失礼します」「どうぞ」 和子が返事をすると、受付の女性が入ってきて、ふたりの前にペットボトルのお茶を出す。「ありがとうございます」「では、ごゆっくり」 受付が立ち去ると、乃愛は早速お茶を流し込んだ。緊張で干上がった喉が潤うのはほんの短い時間で、すぐに再び干上がってしまう。「そう緊張なさらないで。世間話感覚でいいから」 和子は笑いかけると、眼鏡を掛けて、先程乃愛が書いた書類に目を通す。「以前改名したことがあるんですね。それも、子どもの頃に」「えぇ、ま
last updateZuletzt aktualisiert : 2025-12-20
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決別2

「す、すいません……」「大丈夫、気にしないで。続き、話せる?」「は、はい……。えっと、聖愛さんは、どんどん私を洗脳していったんです。スマホを与えないのも、愛してないからだとか。あと、LINEで動画のリンクを時々送ってきて……」 送られてきた動画の内容を断片的に思い出し、気分が悪くなる。顔に出ていたのか、和子は心配そうに顔を覗き込む。「大丈夫?」「すいません、大丈夫です……」「どういう動画だったんですか?」「YouTubeにある、毒親の特徴っていう動画です。他にも、やばい女の特徴とか、母に当てはまると思い込ませるようなタイミングで、そういう動画を送ってくるんです」「例えば?」「学校帰り、聖愛さんに誘われて、母のプレゼントを選びに行った日とか……。その日、帰ってすぐ、母に叩かれたんです。母としては心配してたのに、私は、ひどい親だって思ってしまって……。確か、その時聖愛さんが後から家に来てて……。それで、虐待する親の特徴、みたいな動画を……、見せてきて……」 当時のことを思い出しながら話をしていて、また苦しくなる。子供だったとはいえ、自分の愚かさと母への罪悪感に、押しつぶされそうだ。「どんな動画だったか、覚えてますか?」「はい、ぼんやりとですけど……。そういう親は、子供を怒る理由を常に探してるから、門限を作って、1秒でも遅れたら暴力をふるう、とか……。それで、母のことだって思ってしまって。名前だって……」「名前? 名前について、なにか言われたってことですか?」「はい。宿題で、親に名前に込められた意味を聞こうっていう宿題があったんですよ。その宿題を出された頃はもう、私は母を嫌ってたんですけど、聖愛さんが、その嫌悪感を強めたんです……。ごめんなさい、こんな言い方すると、言い訳みたいですね」 自嘲する乃愛に、和子は首を横に振り、柔らかな笑みを浮かべ、背中をさすってくれる。「いいえ。小学校低学年の頃の話でしょう? 何も分からなくて当然です。それを利用したその聖愛さんって方が悪いんです。ゆっくりでいいので、続きを話してくれますか?」 和子は欲しい言葉をくれ、乃愛の心を和らげてくれる。きっと、母に言ってもらえたら、胸に刺さった黒い刃は消えるだろう。そう思いながら、彼女の言葉に耳を傾ける。「はい……。学校から帰って、母に聞こうとした時、父と聖愛さん
last updateZuletzt aktualisiert : 2025-12-20
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決別3

「落ち着いて、深呼吸をしましょう」 和子は安心させようと、乃愛の手を握る。彼女のぬくもりが、乃愛に安心と勇気をくれた。「はい……」 乃愛は深呼吸をすると、重たい口を開いた。「当時、私は小学2年生でした。だから、子宝って意味が分からなくて、あとで聖愛さんに子宝の意味を聞いたんです。そしたら、う、うぇ……!」 おぞましい記憶を思い出しかけて、吐きそうになるのを、必死に堪える。お茶を飲みたいけど、飲み干してしまったのを思い出し、焦る。「大丈夫、大丈夫。さぁ、これを飲んで」 和子に差し出されたお茶を一気に半分ほど飲み干すと、吐き気はだいぶマシになった。「ア、アダルトビデオを、見せられたんです……」「なんですって!?」 和子の目に、怒りが滲む。それを見て、やはり普通のことではなかったのだと再認識し、安堵する。「それも、レイプものを……。聖愛さんは、私が見たくないって言っても、無理やり見せてきて……。こう言ったんです。『子宝っていうのは、こういうことをして、女の子が妊娠することなの。ねぇ、気持ち悪いでしょ?』って」 乃愛を抱きしめる和子の腕に、だんだん力が込められる。痛いくらいの抱擁が、守られてるようで安心した。「まだ小さい子に、なんてことを……! 優子さん、あなたは何も悪くない。大丈夫、私が絶対に、あなたの名前を戻してあげるから」「秋田さん……」 約10年ぶりに優子と呼ばれて、言いようのない感情と共に、涙が溢れる。和子は優子が落ち着くまで、優しく抱きしめ、背中をさすってくれた。 どれくらいそうしていたのか分からない。落ち着いて顔をあげると、和子のスーツは、乃愛の涙と鼻水で濡れていた。「す、すいません!」「いいんですよ。面談は以上となります。気を付けて帰ってくださいね」「は、はい……。ありがとうございました」 乃愛は深々と頭を下げると、面談室から出てお手洗いに行く。顔を洗って涙の跡と火照りを取り、1階にあった自販機で水を買う。 外に出ると木陰のベンチに座り、水分を摂りながら、気持ちを落ち着かせていった。 木陰で30分ほど休憩するとだいぶ気持ちは落ち着いてきて、買い物をすることにした。買い物は元々予定していた。きっと、家庭裁判所を出たら、陰鬱な気持ちになると思っていたから。実際は少し晴れやかに近い感情だ。 複合施設に入ると、いつも利
last updateZuletzt aktualisiert : 2025-12-20
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手がかり

「お客様、mizukiっていうデザイナーさん、ご存知ですか?」 店員から出たデザイナーの名に、ドキッとする。母と同じ名前だ。「い、いえ、デザイナーさんとか疎くて」「そうなんですね。最近話題のデザイナーさんで、今日からmizukiさんとのコラボ商品が出たんですよ。よかったら見ていきませんか?」「はい」 ドキドキしながら着いていくと、懐かしい顔がそこにあった。「こちらなんですけど」 店員が示す先には、mizukiのコラボ商品。そして、mizukiのパネルがあった。「ママ……」「お客様?」 乃愛の声は店員には聞こえなかったらしい。「あ、あの、この人って……!」「この方がmizukiさんです。40代後半なんですけど、若々しいですよねぇ。見てください、このシャツ。可愛くないですか?」 店員が示すシャツを見て、出し切ったと思っていた涙が再び流れそうになる。シャツに使われているモチーフは、兎と林檎。かつて乃愛が好きだったものだ。「あ、あの、ゆっくり見ても?」「えぇ、どうぞ」 店員は笑顔で立ち去る。乃愛はパネルの横に置いてある小さなモニターを見る。mizukiのインタビュー動画が繰り返し流れていた。 下に質問のテロップが出て、mizukiが答えていく。 Q,ブランド、ふわリンゴを立ち上げたきっかけは?「知り合いの女の子に、肌が弱くて、好きな服を着れない子がいたんです。その子が可哀想で可哀想で……。私も肌が弱いから、他人事じゃなかったんですよね。今はオシャレなものも多少増えては来ましたけど、その頃の綿100%の服って、無地のものばかりでオシャレなものなんてなかったし、子供用のが特に少なくて。だから、ふわリンゴを立ち上げました」 Q ,素敵な理由ですね。ブランド名の由来を教えて下さい。「さっき話した女の子が、林檎好きだったんです。それと、綿ってふわふわしてるじゃないですか。それを合わせてふわリンゴにしました」 Q,その女の子は喜びましたか?「どうでしょう? その子、引っ越してしまったので。女の子の親御さんとは、ちょっとした喧嘩別れしたまま離れてしまったので、連絡取ってないんですよ。でも、私の存在に気づかなかったとしても、その子が喜んでくれたら、とても嬉しいです」 Q,こだわりはなんですか?「1番のこだわりは、デザインです。シンプルなデ
last updateZuletzt aktualisiert : 2025-12-20
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手がかり2

 母が未だに自分を想ってくれてるという喜びと、娘ではなく知り合いの子として紹介されたことへの悲しみで、感情がぐちゃぐちゃになる。「会いたい……」 乃愛はコラボ商品のアイテムをいくつかカゴに入れ、会計を済ませてバスで帰宅する。途中、見覚えのある女性の看板を再び見ることになる。それは母だ。自社ブランドの新商品宣伝の看板だった。 マンションに帰ると、買ってきたばかりの服のタグを切り、洗濯機に入れる。新品の服には糊がついてることがあるため、1度洗わなければいけない。これを知ったのは、寮生活で肌荒れを起こしたからだ。 洗濯機が回っている間、乃愛はふわリンゴの公式ホームページを見る。トップ画像には兎と林檎を組み合わせてできたマスコットキャラクターがいる。 商品やデザイナーの紹介には目もくれず、お問い合わせを見つけると、メールフォームを開く。カテゴリをその他にし、問い合わせ内容を打ち込む。「mizukiさんの知り合いの、林檎と兎が大好きな女の子です。mizukiさんに直接会ってお礼を言いたいです」 名前の欄には、月野優子と書いた。改名はまだ終わってはいないし、月野の苗字を名乗るなと言われているが、この名前じゃないと会ってもらえない気がした。それに、苗字はまだ、月野のままだ。「ママ、お願い……。会って」 祈りながら、メールを送った。 それから数日、乃愛は悶々とした日々を過ごした。改名後に探偵を雇って母を探し、謝罪するつもりでいた。それが思いも寄らない形で母を見つけてしまった。 会うのは改名の後と決めていたが、大きな手がかりを見つけてしまったのだ、動かずにはいられなかった。 嬉しい誤算ではあるが、ひとつ、問題が発生した。「どうしよう……」 やることが案外ないのだ。探偵にも頼るつもりでいたが、自分の足でも母を探すつもりでいたので、大学受験も、就活もしていない。つまりは、ニート。 スマホの契約もしに行ったし、買い物をするものもない。このマンションには、食器まで揃っているのだから。 バイトをしようにも、面接までに時間がかかるだろう。そう考えると、仕事を探す気力もなかった。それなら単発バイトでもすればいいのだろうが、18年の短い人生で、バイトすらしたことのない乃愛には、思いつかなかった。 メールを送ってから3日後、ふわリンゴがら返信メールが来た。「4月1
last updateZuletzt aktualisiert : 2025-12-20
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母との再会

 4月11日、午前9時半。乃愛は緊張した面持ちで、母に会うための準備を進める。服はこの前購入した、mizukiとのコラボ商品。髪を高い位置でポニーテールにし、薄化粧を施した。 1億が入ったアタッシェケースに、通帳、印鑑、パスワードが書かれた紙をまとめたポーチをカバンに入れると、鏡の前で最終チェックをする。「大丈夫かな……」 乃愛は電車を乗り継いで、ふわリンゴの本社を目指す。途中、手土産を買ったほうがいいのではと思ったが、10年ぶりに会う母への贈り物など思いつかず、結局やめた。 大きな駅から歩いて5分のところに、ふわリンゴの本社はあった。この辺では小さめの、5階建てのビルだ。「ここが、ふわリンゴの……」 緊張した面持ちで中に入ると、暖色系の照明と、ビタミンカラーのカラフルポップな装飾が視界に飛び込む。受付には、兎と林檎を組み合わせてできたマスコット、うさりんがちょこんと座っている。「いらっしゃいませ。どのようなご要件でしょうか」「あの、mizukiさんに会いに……」「私が案内するから、大丈夫よ」 声がする方を見ると、見覚えのある顔があった。使用人のひとりだ。名前は覚えていない。「あなたは……」「えりよ。久しぶり、優子ちゃん。今は乃愛ちゃん、だったかしら」 えりの言い方には棘がある。無理もない。彼女達にもひどい仕打ちをしたのだから。「こっちよ」「はい」 えりの案内で、エレベーターに乗る。エレベーターの中には、うさりんのイラストが描いてあってにぎやかだ。だが、凍りついた空気の中では、浮いていた。「あの、えりさん。あの頃は本当にごめんなさい。私、ひどいことをしました」 深々と頭を下げると、えりの笑う声が聞こえた。「ふふ、私はもう気にしてない。さっき嫌味を言ったから、それで充分」「え……?」「ま、あくまでも私は、ね。他のふたりと奥様は知らない」「そう、ですか……」 エスカレーターは最上階で止まる。ゆっくり開くと、1階とは違い、どこにでもあるオフィスビルのように、白い壁紙にグレーのカーペットだった。「こっち」 えりについていくと、リラックスルームと書かれた部屋に通される。中はフィットネスコーナーと、カフェコーナーに分かれており、フィットネスコーナーには様々なグッズが並び、アロマディフューザーが置いてある。カフェコーナーには、4
last updateZuletzt aktualisiert : 2025-12-20
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母との再会2

「ママ、本当にごめんなさい! わた、私、最低なことをした……。謝って許されることじゃないって、分かってる。でも、どうしても謝りたくて……」 深々と頭を下げる。「頭を上げて」 冷たい声に、肩が震える。恐る恐る顔を上げると、水樹は相変わらず冷たい目で乃愛を見ていた。「言いたいことはたくさんあるけど、あなたの話も聞きましょう。今日は、お互いぶつけ合いましょう」「えっと……」 頭が真っ白になった。会って謝ることしか考えていなかったから、話せと言われても、何を話せばいいのか分からない。「私ね、愛情いっぱい込めて育ててたのよ、あなたのこと。ワガママになったらいけないから、あなたのお願いを聞くのは3回に1回って決めてたし、浪費家になったら困るから、ちゃんとした金銭感覚が身につくように、お小遣いを管理して。肥満になったらいけないから、甘いものも控えて。私に似て、肌が弱いから、綿が多い服を売ってる店を調べたり、自分で作ったりして」「うん、うん……。そうだね。ママは、いつだって私を愛してくれた。分かってたはずなのに、聖愛さんの言うことを、信じ切っちゃって、馬鹿だった……」「何を言われてたのかは知らないけど、あなたに服を切られたり、ひどいことを言われたりして、すごく悲しかった」 水樹の表情がようやく変わった。悲しそうな母の顔を見て、息苦しくなる。「本当に、ごめんなさい……」「まずは、話を聞かせて。あの女と、聖愛と会った時のことから、覚えてる限り全部」「分かった……」「喉、渇くでしょ。アイスティーを淹れるから、その間に考えをまとめて」 水樹は立ち上がり、カウンターへ行くと、電気ケトルでお湯を沸かし始めた。乃愛はその間、過去を遡り、自分なりに整理する。 電気ケトルのお湯が沸き、紅茶が淹れられるまでの時間では、すべてまとまり切らなかった。「お待たせ、話せる?」 水樹はそれぞれの前にティーポットを置き、真ん中にはピッチャーに入ったアイスティーとお菓子を置いた。「なんとか……。初めて会ったのは、小学2年生の頃だったと思う。そう、確か、学校帰りに……。パパのお友達だけど、ママに聖愛さんを紹介したら、ママがやきもち焼くから秘密って言われてたの。親友が他の子と遊んでたら嫌でしょって言われて……。それで、アイスを3人で食べたの。コンビニとかに売ってるやつじゃなくて、
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ZURÜCK
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