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Alle Kapitel von 罪状『無知』: Kapitel 41 – Kapitel 50

51 Kapitel

母との再会3

「あの、私からも、聞いていい?」 乃愛は遠慮がちに聞く。水樹に話しかけるのは怖いけど、はっきりさせておきたいことがあった。「なに?」「贈り物を捨てたのはどうして? やっぱり、聖愛さんからだから?」「あぁ、あれね」 水樹は思い出すような仕草をすると、紅茶をひと口飲んでため息をつく。「贈り物にはね、マナーがあるの。例えば、入院してる人には、植木鉢やパジャマを贈ってはいけないとかね。それらはずっと入院してろって捉えることができるから、禁止されてるの」「聖愛さんが贈ったものも、マナー違反だったってこと?」「そうよ。忘れもしない。割れ物とスリッパだったわね。割れ物は関係が壊れることを連想させるからNG。靴、靴下、スリッパなんかは、踏んで使うものでしょ? だから、相手を下に見てるって思われるからNG。普通の人から贈られたら気にしないけど、あの女、あれでも大手企業の秘書でしょ? そのへんのマナーは分かってるはず。なのにそれを贈ってきたってことは、宣戦布告ってことでしょう。そんなもの、使いたくもない」 一生懸命選んだ贈り物に、そんな意味があったとは知らなかった乃愛は呆然とするのと同時に、聖愛の恐ろしさを知った。子供の親を思う気持ちを利用するなんて、どこまで狡猾なのだろう。「私、知らなくて……」「小学2年生だったんだから、仕方ない。贈り物騒動の後、あのふたりと出ていったじゃない? どこで何をしてたのか、教えてくれる?」「大きなホテルに泊まった。かなり広い部屋だったから、スイートルームだったと思う。次の日に、買い物してたんだけど、リュックにママが作ったワンピースが入ってて……。贈り物をあんなふうにされた後だったから、着るのが嫌で……。そしたら、ふたりがたくさん服を買ってくれたの。いつも決まったお店でしか買ってもらえなかったけど、ふたりはなんでも買ってくれた。 今思えば、ママは私の肌を気遣ってくれてたんだよね……」 買ってもらった服を来た乃愛を見て、青ざめていた水樹のことを思い出す。当時は贅沢したから怒られたと思っていたが、あれは愛情ゆえのものだった。幼いから仕方ないといえばそれまでだが、後悔がずっと残っている。「名前の宿題のこと、覚えてる?」「もちろん。ずっと忘れなかった。一生懸命考えた名前を、あそこまで貶されるなんて、思ってもみなかったから」「ごめ
last updateZuletzt aktualisiert : 2025-12-20
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母との再会4

「そうだったみたいね。顔に苦労が滲み出てる。弟が産まれた後、どうしてたの?」「聖愛さんは、私に家事を押し付けるようになった。けど、小学生だったから、まともにできなくて……。ベビーシッターと使用人を雇ってた。雇われた人と一緒に私をいじめてたよ」「あの人は?」 一瞬誰のことか分からなかったが、父のことだと気づき、言い淀む。「どうしたの?」「パパは、私に無関心だったよ。聖愛さんと使用人にいじめられてるって、パパに何回か言ったんだけど、うるさいとか、お前が悪いんだろって言われて、相手にしてくれなかった」 水樹は頭を抱えてため息をつく。ぶつぶつとなにか言っているが、乃愛には聞き取れない。「ママ?」「あぁ、ごめんなさいね。続けて」「うん。その後は、完全寮制の、中高一貫校に入れられたの。小学校では友達だった子もいたんだけど、その子が私の話を広めて、孤立させてね……。私が悪いんだけど……」「どうして自分が悪いって思うの?」「ママを追い出したことを、悪い魔女を追い出したような気持ちでいて、武勇伝みたいに語ってたんだ。自分は特別って思ってたし、周りは特別な自分を僻んでるって思ってた。いくら聖愛さんに色々言われたからって、流石にあれはひどすぎたって、自分でも思う」「悪い魔女、ね……」「毎日のように、毒親の特徴とか、やばい親の特徴とか、そういう動画のリンク送られて、そういうの見てたから、そう思っちゃったの……」「それで、中高はどうだった?」「親を追い出したヤバい奴って認識が広まってたから、ずっといじめられたし、助けてくれる大人はいなかった。寮室のシャワーは使うなって言われてたから、銭湯に行ったりしてたっけ。先生も、厄介者だって思ってたみたい。けど、自業自得だよね」「……そう」 うつむき加減の水樹の表情は読めない。乃愛は水樹の言葉を、じっと待った。だが、なかなか口を開かない。秒針の音が、痛いくらいに響く。「あの、これ……」 沈黙に耐えきれなくなった乃愛は、アタッシェケースを差し出し、カバンからポーチを出してアタッシェケースの上に置いた。「これは、何?」「お金。アタッシェケースには1億、通帳には、300万近く入ってる。お金で償える問題じゃないし、これはパパのお金だけど、受け取ってほしい」 水樹は数秒ほどアタッシェケースを見つめた後、押し返した。乃愛
last updateZuletzt aktualisiert : 2025-12-20
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母との再会5

「私はね、こうして話を聞くまで、あなたを許せなかった。私が愛した優子は、もういない。あのふたりと一緒に、威張り散らしながら生きてるんだって思ってた。けど、あなたも結局捨てられて、ずっと罪悪感を抱えながら、苦労してたって知って、今は分からなくなってる」 水樹の声は震え、目には涙が浮かんでいる。そんな母の姿を見て、胸が熱くなる。「だからね、時間をちょうだい……。気持ちの整理ができたら、私から連絡するから」「ママ……」「電話番号、教えてもらっていい?」「うん……!」 母との繋がりができるのが嬉しくて、声が弾む。スマホを出して連絡交換をすると、まだ話さなくてはならないことがいくつかあることを思い出す。「あの、まだちょっと話したいことあるんだけど、いい?」「いいけど、何?」「私今、名前を戻す手続きをしてるの」「え……?」 水樹は目を丸くする。心做しか、驚きの中に僅かな喜びがあるように見える。「この前、公式ホームページからメールしたでしょ? その日に、いつも行くふわりっていうお店に、ふわリンゴとのコラボ商品があって、それでママがブランドを立ち上げたことを知ったの。バスで移動してる時、看板も見えたよ」「そうだったの……」「それと、えりさんには謝ったけど、他のふたりはまだで……。他のふたりも、ここで働いてるの?」「えぇ、そうね。けど、今はふたり共、出張に行ってるの」「そうなんだ……。そうだ、ママの苗字、聞いてもいい?」「真田だけど、それがどうかしたの?」「パパに……、ううん、あの人はもう、パパじゃないね……。月野さんに、言われたの。月野の名前を名乗るなって。だから、苗字も変えたいんだけど、ママの苗字がいいなって、思って……」 水樹は軽くうつむき、数秒考えた後、顔を上げる。「ごめんなさい。今のあなたを娘として受け入れられるか、まだ分からない。次会う時までに決めておくから、それまで待って」「……そっか、分かった。もうひとつだけ」「それで終わりにしてね」「うん……。ふわりで、インタビュー動画を見たの。その動画で言ってた女の子って、私のこと……?」「あなたであって、あなたじゃないわ。あの女の子は、私が愛した優子のことであって、あなたじゃない」「そう、だよね……。今日はありがとう」 乃愛はポーチをしまい、アタッシェケースを持ち、リラックス
last updateZuletzt aktualisiert : 2025-12-21
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葛藤

 乃愛が去った後、水樹は大きく息を吐いた。「大丈夫?」 様子を見に来たえりが、顔を覗き込む。「私、あの子を許すつもりなんてなかったの。あのふたりと一緒になって、私を追い出したんだから。あの子に言われた言葉、今も全部覚えてるくらい、憎い。けど、あの子も被害者って知って、混乱してる。あの子が、私をママって呼ぶ度に、気持ちが揺らいで、抱きしめたくなったの……」 涙を流す水樹をえりは優しく抱きしめる。「そうなって当たり前よ。あなたはやっとの思いで優子ちゃんを授かって、何よりも、誰よりも大事にしてきたんだから。それに、ふわリンゴは優子ちゃんのために作ったブランドじゃない」「そうだけど、違う……。私は、素直で優しかった、小さかった頃の優子のために作ったの。今のあの子は、私の優子じゃないもの……」「そう? 私には、可愛くて優しい、あの頃の優子ちゃんに見えたよ」「え?」 水樹が顔を上げると、えりは懐かしむように目を細めている。「私達が追い出された頃の優子ちゃんだったら、『こんなダサいブランド作って私の気を引こうとしたの? ダサいんですけど』とか言ってきそうじゃない。でも、あの子は私の目をまっすぐ見て、深々と頭を下げて謝ってくれた。あの子に何があったか知らないけど、反省はしてる。そうでしょ?」「そう、だけど……」「けど、すぐに答えが出せないっていうのも分かる。だから、今は落ち着きましょう」 水樹は返事もせず、俯いている。彼女が深く傷つき、悲しんでいると悟ったえりは、水樹をそっと抱きしめる。「あの子、私達がいなくなってから、苦労ばかりしてたの。なのに私、名前を呼ぶことも、抱きしめてあげることもできなかった……!」 水樹はボイスレコーダーのスイッチを入れて、先程の会話を流した。もし危害を加えられたら、証拠として使うつもりでいた。監視カメラも、分かりにくいところに設置してある。 話が進んでいくにつれ、えりの顔色は徐々に悪くなっていく。終わる頃には顔面蒼白で、怒りと恐怖で震えていた。「なんてひどい……! 優子ちゃん、可哀想……」「あの人のことだから、修斗って子が産まれたから、あの子はいらなくなったんでしょうね。跡取りは男がいいって思ってたし」「だからって、こんな……」 誰かがドアをノックし、ふたりは同時に顔を上げる。「社長、みかです」 その声に、
last updateZuletzt aktualisiert : 2025-12-21
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懺悔。そして前へ

 乃愛がマンションに帰ったのは、翌日のこと。目が覚めると深夜だったので、ネットカフェにそのまま泊まったのだ。 シャワーを浴びると、ベッドに倒れ込む。腹は空いているが、食べる気力も、何かを作る気力もない。「ママ、結局名前を呼んでくれなかった……」 会う前は、どちらの名前で呼ばれるのかドキドキそわそわしていたが、水樹は結局、優子とも乃愛とも呼ばず、〝あなた〟と呼び続けた。他にも乃愛にショックを与えた要因はあるが、1番は今の乃愛を娘として見れるか分からないと言われたことだ。「許されるわけないって分かってたけど、つらいな……」 枕をぎゅっと抱きしめる。涙は枯れてもう出ない。それ故に、悲しみをはじめとした負の沈殿物が、心にどんどん溜まっていく。吐き出そうにも、吐き出す術を知らない。「こういう時、皆はどうしてるんだろ……?」 頼れる身内も友もいない乃愛には分からない。気を紛らわせる方法も、どうすれば発散できるのかも。だから、溜めて溜めて、押さえ込むしかない。「友達、欲しいな……」 ネットで〝友達 作り方〟とまで打ち込み、指が止まる。もし学生時代だったら、「学校」と打っただろう。どこかで働いてたら、「職場」か業種を入れるだろう。だが、今の乃愛は働いていない。なんとなくだが、「ニート」と入力するのはためらわれた。 そのまま検索をかけると、学生か社会人向けが多い。SNSをおすすめするサイトもあるが、そういったことに詳しくないため、手を出すのは少し怖い。 他のサイトを見てみると、「習い事やイベントに参加してみましょう」というのがあった。「習い事かぁ……」 くすんでいた子供の頃の好奇心が、再び光を放つ。思い出すのは、水樹や使用人達が、楽しそうにミシンを動かしていた光景。「手芸教室とか、あるのかな……」 検索してみると、手芸店や地域主催の手芸教室がいくつか見つかった。乃愛が選んだのは、近場にある手芸店。ショッピングモール内にあるから、意気投合したら、そのままカフェやランチに行くことができるかもしれない。それに、作りたいものがあれば、その場で材料を購入することができる。 幸いなことに、手芸教室は明日開催されるらしい。乃愛は早速予約をした。 当日、意気揚々と出かけていったが、正直がっかりした。乃愛と歳の近い人が見当たらないのだ。ほとんどが40から50代で、1
last updateZuletzt aktualisiert : 2025-12-21
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最終判決

 家庭裁判所に行って3週間、母と再会してから半月、審判書謄本が届いた。そこには乃愛が優子になることを認めるといった旨が書いてある。「よかった、よかったぁ……!」 嬉しさと安堵で、涙が溢れる。審判書謄本が涙で汚れないようにテーブルに置くと、クッションを抱きしめ、声を殺して泣いた。嬉し涙を流すのは、短い人生で初めてのことだった。 泣き終わると晴れ晴れとした気持ちになる。希望の光が見えた気がした。「市役所、行かないとね」 顔を洗って薄化粧をすると、乃愛は市役所へ行き、手続きをした。「3日から7日ほどお時間いただきますね」「分かりました。お願いします」 深々と頭を下げると、マンションへ戻る。道中、スマホの通知音が鳴る。見てみると母からのメールで、来週の午後1時に会いたいとのこと。場所は前回と同じく本社だ。「いよいよか……」 スマホを握る手に、力が入る。まるで最終判決を待つ気分だ。 1週間、乃愛は再び悶々とした日々を過ごさなければならなかった。手芸教室は半月に1回で、言われた日時までには1回もない。ようやく見つけた夢中になれる刺繍も、身に入らない。ほんの数分やったら、すぐに手が止まってしまう始末だ。 映画館に行ってもだめで、母親が出てくると、水樹のことを考えて不安になってしまう。 連日寝不足が続き、絶不調の中、水樹と再会する日が来た。 早めに家を出ると、駅ではなく、市役所に向かう。あの時受付は3日から7日かかると言っていた。それなら、もう改名手続きは済んでいるはずだ。 自分でも確認したいという意思があるのはもちろんのことだが、水樹に見てもらいたいというのが1番の理由。 市役所に行くと、戸籍謄本取得申請をする。 そわそわしながら待つこと5分。受付に呼ばれて戸籍を受け取りに行く。恐る恐る見てみると、名前は優子になっていた。「やった……やったぁ!」 受付に咳払いをされ、軽く頭を下げてそそくさと市役所を後にする。再び戸籍謄本を見て、口角が上がる。「よかったぁ……」 封筒に戸籍謄本を戻し、抱きしめると、駅に向かって歩き出した。その足取りは羽のように軽く、気持ちとしてはひとっ飛びでふわリンゴの本社に飛んでいけそうなほど。 じれったいと思いながら電車を乗り継ぎ、速歩きで本社に行くと、えりが待ち構えていた。「久しぶり、乃愛ちゃん」「はい、お久
last updateZuletzt aktualisiert : 2025-12-21
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最終判決2

「私はみか」「私はみな」「知ってるだろうけど、私はえり」 3人はファーストネームだけを名乗ると、名刺を差し出す。それぞれローマ字でmika、mina、eriと書いており、肩書はふわリンゴのデザイナーだった。「3人ともデザイナーさんなんて、すごい」「ふわリンゴは私達4人で作ったの」 そう語る水樹の目は前回よりも柔らかで、誇らしげだ。「あの、ママ。これを見てほしくて……」 ドキドキしながら、昔のように彼女が優子と呼んでくれることを祈りながら、発行したばかりの戸籍謄本を渡した。「何、これ」「とにかく、見て」 うまく言葉にできず、震える声で促すことしかできなかった。水樹は一瞬訝しげな顔で優子を見たが、封筒の中を取り出し、目を見開いた。「あぁ、本当に……。優子……!」 水樹は戸籍謄本をテーブルの上に置くと、立ち上がって優子を抱きしめた。10年ぶりの母のぬくもりが、においが、涙腺を刺激する。「ママ、ママぁ!」 優子は母の胸で子供のように大声で泣きじゃくった。その後ろで、3人の元使用人達は戸籍謄本を覗き込んで喜びを分かち合った。「優子ちゃんだ!」「優子ちゃんが戻ってきたんだ!」 3人もふたりに抱きつき、涙を流した。しばらくの間、親子は空白の時間を埋めるようにお互いの名前を呼び、3人はふたりが再び親子としての時間を紡ぐことを喜んだ。 落ち着くと、それぞれが席に座り、アイスティーで喉を潤した。「優子、本当にありがとう。あなたを娘として受け入れるわ」「こちらこそ、ありがとう……」「苗字の件だけど、今度一緒に家庭裁判所に行きましょう。真田の苗字、是非名乗って。戸籍も、親子関係にしましょう」「うん……!」「よかった、本当によかった……」 リラックスルームは、涙と幸福にあふれていた。「優子は、今はどうしてるの?」「女性用マンションに住んでるよ」「仕事とか、大学は?」「してない。ママを探すつもりでいたし、やりたいこともなかったから」「そう……」 水樹は目を伏せ、息を吐く。愛娘の将来を憂いた息だ。「これから、どうしたいの?」「最近ね、手芸教室に通い出したの。ママ達がミシンでなにか作ってたのを見て、自分もやってみたいって思ってたの、思い出して。まだ1回しか行ってないし、刺繍しかしてないけど……」「嬉しい……。もしよかったら、うち
last updateZuletzt aktualisiert : 2025-12-21
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和解

「4人って、そんなに仲良しだったんだ……」「あぁ、私達ね、同じ地区に住んでたの。幼馴染ってやつ」「嘘!?」 予想すらしてなかった真実に、声が裏返る。4人はそんな優子を見てクスクス笑う。「登下校はもちろん、遊ぶ時も、クラブも一緒だったの。いつかこの4人で、会社作りたいねって話してたから」「私達は使用人として、付かず離れずそばにいたってわけ」「それより、今後のことを決めましょう」 女性というのは話好きだ。思い出話やお互いの近況を挟みつつ、話すこと6時間以上。決まったのは、優子が4人と住み、ふわリンゴでバイトをしながらデザインの基礎を学ぶことと、来年は服飾専門学校に通うこと。 そして、古いスマホを水樹に手渡すこと。乃愛としての優子が、彼らとどのようなやり取りをしていたのか知りたいのだと言う。「じゃあ、来月迎えに行くからね」「うん、楽しみにしてるね」 話が終わる頃にはわだかまりは解け、約10年の空白も埋まり、親子らしく笑い会えるようになっていた。 翌月、水樹は優子が住んでいたマンションまで迎えに来る。大きめのキャリーケースとアタッシェケースしか持っていない優子を見て、目を丸くする。年頃の若い女性にしては、荷物があまりにも少ないと感じた。「荷物、それだけ?」「うん。ここ、家電も食器も全部揃ってるから」「へぇ、今のマンションって、すごいのね」 感嘆する母を見て、優子は懐かしい気持ちになる。子供の頃、優子が綺麗な野花や四つ葉のクローバーを持ってくると、大げさに喜んだり驚いていた。「さて、お城に行く前に、優子の日用品を買い揃えに行こうか」「え?」「一緒に住むんだから、ちゃんと専用の食器とかタオル用意しないとね」 水樹は優子をデパートに連れて行くと、タオルや食器、スリッパなどを買い与えた。荷物が増える度に、これから母達と一緒に暮らせるのだという実感が強くなる。「お腹空いたし、なにか食べましょうか」 デパート内のレストランに行き、食事をする。母と向かい合って食事をするのも、久しぶりだ。「スマホ見たけど、本当に酷かったのねぇ」「ある意味自業自得だけどね」 自嘲する優子の手を、水樹は力強く握った。「そんなこと言わないで、優子。あなたはもう、充分罪を償った。それに、何も知らなかったんだから」「何も知らなかったのが、私の罪だったのかな」「
last updateZuletzt aktualisiert : 2025-12-22
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罪状『無知』

 優子がシェアハウスを始めてから10年。優子は立派なデザイナーとして、ふわリンゴで働いている。あんなにあくせくしていたシェアハウスでの生活にも慣れ、すべてが順調だ。「ねぇ、優子。来月ちょっとしたパーティがあるの。一緒にどう?」「パーティ?」「月野グループが、ファッション業界に進出するから、それを発表するパーティみたいね」 月野グループと聞いて、息が詰まる。おぞましい記憶がフラッシュバックして、気分が悪くなる。「そんな顔しないで。面白いものが見れるから」「そもそもどうやって行くの……」「じゃーん、招待状」 水樹はいたずらっぽく笑いながら、招待状を見せる。招待状には確かに、ふわリンゴの名前と、送り主である月野グループの名前が書いてある。「なんで!?」 思わず大声で言うと、水樹は両手で耳を塞ぐ。「うるさい」「ごめん……。でも、なんで!?」「ふわリンゴはもうすぐ20周年。ファッション業界では、月野グループの大先輩。無視するわけにはいかなかったんでしょ。もちろん、向こうは私だって分かってる」「うわぁ……」「そんな顔しないでってば。行きましょうよ」「はぁ、分かったよ……」 優子が渋々了承すると、水樹は子供のように無邪気に喜ぶ。「でも、やっぱり気乗りしないなぁ」「まぁまぁ。ところで優子。1億はまだある?」「あるよ。なんなら、少し増えた。それがどうかしたの?」「もしいやじゃなかったら、お買い物しない?」 楽しそうに笑う水樹だが、どことなく恐ろしいものがあった。  パーティ当日。広々としたホテルの会場には、経営者、デザイナー、モデルなど、ファッション業界の関係者が溢れかえっていた。「あらぁ、なんだか見覚えがあるような、ないような」 あいさつ回りをしていると、聖愛がニヤニヤしながら近づく。その隣には、若い青年がいる。顔立ちが恭介と聖愛に似ている。きっと修斗だろう。「お久しぶり、泥棒猫さん」「ダッサイ……失敬。独特な服を作ってるふわリンゴの社長さん。と、それは?」 わざとらしく、優子を見てニヤニヤ笑う。不愉快でたまらない。だが、それ以上に聖愛を見て、もったいないと思う。美しさや若々しさは健在だが、最後に会った時と顔が違う。整形して、元々どういう顔だったのか分からないほどに。「私の娘です」「お久しぶりです、聖愛さん」 修斗がぷ
last updateZuletzt aktualisiert : 2025-12-22
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罪状『無知』

 挨拶が終わると、白い布がかけられたマネキンがいくつか運ばれてくる。左側と右側に3体ずつ、計6体。左側に聖愛が、右側に修斗が立つ。「私の妻である聖愛と、優秀な息子の修斗が、ブランドを立ち上げました。是非、御覧ください」 恭介が聖愛に目配せをすると、聖愛は1歩前に出て優雅に一礼をする。「皆様、はじめまして。私は月野聖愛と申します。この度、新ブランドLuxeを立ち上げました。テーマはラグジュアリーです」 スタッフが白い布を取ると、豪華な服を着たマネキンが姿を表す。それぞれ宝石が散りばめられ、照明が反射して眩しい。(ダサいのはどっちだか……) 10年デザイナーとして働いてきた優子には、聖愛のブランドは笑ってしまうくらいしょうもないものだった。ただギラギラ装飾をつけただけ。実用的ではないし、洗うことを考えられていない。3流といってもまだ足りない。それほどひどいものだった。 恭介は妻がデザインした服を初めて見たのか、一瞬渋い顔をする。「次は息子のブランドをお見せしましょう」 修斗は前に出てお辞儀をするが、聖愛のような優雅さはひと欠片もない。雑で、みっともない印象を与えるようなお辞儀だ。「えー、俺のブランドは、これです」 スタッフが白い布を取ると、ダメージ加工し、はねたペンキがついた服が照明に照らされる。「気取らないかっこよさをテーマにしてまっす」 会場は苦笑いとお世辞の拍手。無理もない。出来があまりにも悪すぎる。例えるなら、有名なオーケストラが入るようなコンサートホールに、数名の小学生で結成された音楽隊が演奏するようなものだ。「では、偉大な先輩方から色々学ばせていただきましょう」 恭介が言うと、スタッフ達はマネキンを片付け、プロジェクターを出す。招待状に書かれている数字の順番で、各社3分の紹介が始まる。ふわリンゴは最後だ。 残すはふわリンゴのみとなると、恭介が司会からマイクを受け取り、紹介する。「最後はふわリンゴさん、お願いします」 意地悪な笑みを浮かべて、恭介はこちらを見る。「行きましょう」「うん」 水樹は書画カメラの前に立つと、マイクを片手に握る。「ふわリンゴの社長を務めさせていただいております、真田水樹です。本日は我が社の紹介ではなく、私の過去を紹介したいと思います」 言い終わるのと同時に書画カメラの前に置いてスクリーンに
last updateZuletzt aktualisiert : 2025-12-22
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