All Chapters of 極道と、咲き乱れる桜の恋: Chapter 11 - Chapter 20

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11.蔵之介

「どうやって…入ったんですか?」 「言ったろ?兄貴のマンションなんだから、鍵くらい持ってるってこと」 龍之介より線の細い、美青年…といった雰囲気の蔵之介。 組んだ手も足も細く見えるが、このマンションに移動する時、部屋を訪ねた時の裸の上半身を思い出す。 …極道というよりモデルみたいだけど、この人もいざという時は戦うんだろうから、きっと鍛えているのだろう。 そう思ったら、室内で2人でいることに息苦しさを感じた。 じっと見つめられて、心臓が妙な速さで拍動し始める。 …大丈夫。 苦しかったら、そっと後ずさりをして、玄関を出ればいい。 ソファに座る蔵之介と、リビングの入口に立つ自分には距離がある。…手を伸ばしてすぐに届く距離ではない。 大丈夫…自分に言い聞かせた。 「何やってんの?遠慮しないで入っておいで。別に、何もしないよ?」 組んだ手と足を解いて、前かがみになって桜を見つめる蔵之介。 「い…いえ」 辛かったら逃げていいんだ。…そうやって逃げ出したからこそ、今私はここにいられるんだから。 そう思うのに、ふいに足の力が抜けた。めまいを感じて、その場に崩れ落ちる。 「え…ちょっと、桜ちゃん…大丈夫?」 近寄ってきた蔵之介に、思わず強い視線を向けてしまう。 「…そんな目で、見る?」 「すいません、近寄らないでもらえますか?」 「でも、冷や汗かいてない?」 言ってから、その理由が自分にあると気づいたらしい。言われた通り、桜に近寄らないように壁に張り付いた。 「もしかして、男嫌い?…」 「過去にいろいろあったせいです。…それより」 意外にもこちらの様子を気にかけてくれて…それは龍之介より気遣いを感じるほど。だから、用件を聞く余裕ができた。 「私に用があるって言ってましたよね?どんな用件ですか?」 もしかしたら…Black Roseを抜け出してきたペナルティが課せられるのかと思った。 あの店に連れて行かれ、店長と面接して小部屋に入れられ、売られるまで丸一日世話になった。その間の食事代や光熱費を取るというなら、納得だ。 与えられたのは、コンビニのパンやお菓子、おでんのゆで卵、水…といった、栄養バランスも何もない食べ物ばかりだったけど。 「桜ちゃん、龍之介とはどんな関係なの?」 「関係…」 考えたこととまったく違う事を言われ
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12 打ち明ける

12 蔵之介の拳が顎の下に入り、勢いで後ろに吹っ飛んだ龍之介。 ぶつかったサイドボードのガラス扉が派手な音を立てて割れ、桜は驚いてソファから立ち上がった。 「…今回は俺に指図するんじゃねぇぞ」 「や…やめてください」 仰向けに倒れた龍之介の胸ぐらをもう一度掴んだのを見て、桜は反射的に蔵之介を止めた。 「…これは、ズルいだろ」 自分の手に重なる桜の手を払うことができず、蔵之介はその手を握り返す。そして龍之介を離し、立ち上がった。 「全部、教えてください。百合さんというのは、いったい誰なんですか…」 蔵之介が出ていき、唇から血を流した龍之介に手を貸してソファに座らせ、砕けたガラスを拾いながら聞く。 「…危ない。俺がやるから」 せっかく座ったのに、桜がつかんだガラスの破片を奪い、ビニール袋に放り込む龍之介。そんな龍之介を、桜はじっと見つめていた。 そして、そんな桜の強い視線の意味を、龍之介はちゃんと理解していた。 けれど…今はまだ言いたくなかった。 それは、初めて会った時とは違う気持ちが芽生えているからだ。これまでつらい思いばかりしてきた桜を、傷つけたくない。 「誤解させないように話したい。…だから話すまで、もう少し時間をくれ」 「いつですか?」 「…ん?」 「いつになったら誤解のない話ができるようになるんですか?」 桜は強い視線を投げかけ、そんな話ができるはずないと言い放った。 「正直に、話してくれたらいいんです」 …すでに、涙で濡れているように見える桜の大きな目。 今は、正直に話す方が彼女に対して誠実だと思い直した龍之介は、重い口を開いた。 「百合というのは…2年前亡くなった妻だ。結婚して1年で病気になってな…あっという間に、逝ってしまった」 「亡くなった…奥さん…」 それを聞いて納得した。 …いつか、私を抱きしめて名前を呼んだのは… 「私は、奥さんに似ていたんですね」 「…あぁ。目を見張るほど似ている。組の者も…百合のことを知る奴は皆驚いた」 「…だったら、納得です。私が生きる事を許された理由が」 …すべては、百合さんという女性に似ていたから。 「だから怪我を心配してくれたんですね。…あ、そもそも、抱き上げて屋敷に入れてくれたのも、そういうことか」 優しい瞳で見つ
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13.引っ越し

「そうと決まったら…」 「待ってください」 起き上がった龍之介の首筋に、桜はそっと細い腕を絡ませる。 「やっぱり、抱いてください」 そんなことを誰かに言う日が来るなんて…!恥ずかしくて顔に熱が集まる。 龍之介に見られたくなくて、首筋に抱きつく腕の力を強めた。 「いや…しかし、な…」 「今まで、お世話になったので。ここに住まわせてもらって…実家に一緒に行ってもらって…何より、逃げてきたあの日、助けてもらいました」 「…それは」 「…百合さんの代わりでいいです。せっかく、その…機能が回復したなら、私を利用してください」 ハッと息を呑む気配が伝わってきた。 「…百合って、呼んでいいです。あの、百合さんという方は、龍之介さんをどう呼んでたんてすか?…私も同じように…」 「やめろ」 「…え?」 「…泣いてるじゃねぇか。バレてないと思ってんのか」 言われて初めて気づいた。私、また泣いてる… 「桜…」 たくましい腕が体に巻き付いて、苦しいほどギュッと力が込められる。 「桜…」 「はい」 でも、それは生まれて初めて感じる幸せな苦しさ。 「…桜は、百合を忘れさせてくれた」 「…え」 「片時も忘れられなくてつらかった。いつも苦しくて、正直、生きてるのがやっとだった。それを、桜が忘れさせてくれたんだよ」 首筋に巻いた腕をそっと外すと、龍之介も腕を解いて、私たちは正面で向き合う。 「今俺は、桜のことを考えている。…信じてくれる?」 ふと…朝起きて部屋の中にたくさんの観葉植物が置いてあったことを思い出した。 「…バラを…あんなにたくさん見たのは初めてでした」 「植物に囲まれていたいって言ってたから、用意したんだぞ?」 自分を想っているということを伝えてくれたとわかって、思わず頬が緩んだ。 「…桜は、本当に桜の花みたいな女だな」 「…花に例えられたの初めて」 涙で濡れた頬に張り付く髪を、龍之介はそっと小さな耳にかけてやる。 「さっき言ったことは本気だ。婚約者はいるが、それはお互いの組が決めたことに過ぎない。だから桜のことを伝える」 「怒りませんか?」 「怒らない…。実は、桜の存在はもう知ってるんだ。…蔵之介が、言ったみたいで」 百合さんに似ている女が
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14.

「…困ったことは、ないか?」「いえ…全然」答えながら、芋煮の匂いは消えたか気になってしまう…「嘘つけ、布団しかないじゃねぇか」…片付けられたその布団を、ソファ代わりにしている龍之介。「…ちゃんと、役に立ってるじゃないですか」まだテーブルもない殺風景な部屋。龍之介の足元にちんまり座るしかない私は、まるでお殿様と家来みたいだ。フッと笑いがこみ上げて、目の前の龍之介を見上げた。「寂しくねぇか?…」そんな桜と目が合って、慌てて目をそらしながら聞く龍之介。「あ、それは…大丈夫です。慣れてますし…1人の方が安全だったので、落ち着きます」「あー…」ひとこと多かったかな…子供の頃から父親がいないほうが安心だったから、つい余計なことを言ってしまった。「俺がいなくて寂しいとか言え。…少しはサービスしろよ?」自分の唇に触れながら言う龍之介。リップサービス…相手が喜ぶようなことを言うことだとわかる。…なのに私は、何を考えているんだろう。龍之介が自分で触れた唇に目がいって、ついキスをされたことを思い出して顔が赤くなるなんて。そんな桜に気づいたのか気づかないのか…龍之介が話を変えた。「麗香に話した。桜に会いたいって言ってたよ」「…本当ですか。わ、なんだか緊張します」「俺と蔵之介と、小学校の時初めて会ったわけよ。一応…デカい極道の家で育ったもんで、私立で高校まで行ってな。麗香も俺たちと同じで、何となくつるむようになった」そんな子供時代の龍之介を知っている人…きっと百合さんとのすべてを見守ってきた人なんだろうな。「…わかりました。失礼のないように、ご挨拶します」「好きな女だって、言ってあるから」熱っぽいまなざしを向けられて、その言葉の意味を考えるも…恋愛経験ゼロなので、どう反応したらいいかわからない。微妙な表情で固まる桜に何か言おうとした時、龍之介の携帯が着信を知らせた。「…俺だ。あぁ、わかった。お前行って、おさめてこい。小夜子にはあとで行くって伝えとけ」小夜子…という女性の名前がきっちり耳に残る。「櫻川って…クラブを仕切ってんだよ。そこで客が暴れてるらしい。基本、紹介の客しか入れないんだが…何かで紛れ込んだ輩がいたようだな」立ち上がる龍之介に続いて、桜も立ち上がり、小さく「大変ですね…」と言葉をかけた。これから喧嘩の仲裁をするのだ
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15.女に腕を組まれていた人

歩き出そうとした道の先を見た時…近くのビルから出てきた人影。細いストライプ柄のスーツ、夜なのにサングラスをしている男性。でもそれが、嫌味なく似合ってる。傍らに…黒い細身のドレスを着た女性。あらわな肩に、ショールを巻いて、男性の腕に手をかけている。なんというか…写真のような美しさの2人。ドラマを見ているような、現実感のない気持ちで見つめていたら…2人のすくそばまで歩いてきてしまった。「…あ、」男性が桜を見てわずかに声を上げ、同時に女性も桜を見た。反射的なのか、男性にさらに近寄って…「…どうしたの、桜ちゃん」「…あ、ううん」美紀に声をかけられてハッとした。…思わず、立ち止まっていたようだ。男性は、美しい女性を伴って車に乗り込み、走り去ってしまったのに。外では…知らないふりをするんだなぁ。龍之介さんは。カフェは街に溢れていた。2人はその中で、空席が目立つ落ち着いた雰囲気のカフェを選んで入る。…ここでも知らない名前の飲み物に遭遇し、桜は一瞬迷い…美紀の説明を聞いてカフェオレを頼むことにした。そしてチョコチップクッキーを2枚買う。美紀はカップにこんもりと盛られた生クリームの上に、色とりどりの粒を散らしたウィンナコーヒーを手に、席に座った。「…桜ちゃん、大丈夫?」「え…」「さっきの…知ってる人?ストライプのスーツ着た、スゴいカッコいい人…」つい、立ち止まってしまったことを後悔した。ここでは、知らない人だと言った方がいいような気がする。「ううん。なんか…すごく絵になるカップルだったから、つい見とれちゃって…」自分のトレーからクッキーを1枚、美紀のトレーに乗せながら言う。「あ、私の分も買ってくれたの?ありがとう…」笑顔でフルフルと首を振ったつもりだったのに、私はどうやら…どうしょうもなく正直らしい。「…桜ちゃん、涙が…」「あ、これ…これは、その」うまい言い訳なんてできなくて、次々に溢れる涙に翻弄される。一生懸命手の甲で拭いながら、ハンカチを出そうとして、先に美紀が差し出してくれた。「言えないことなら聞かないよ。…でもさ、私の前で涙は我慢しなくていいから、泣いていいよ」美紀ちゃん…こんなに優しい人と出会えて、私はとても幸せだ…。「本当に、大丈夫?」「うん。もう落ち着いたから…遅くまでごめんね」カフェでひとしきり泣いたあ
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16.気づく想い

「やめて…ください…てっ!」押し返す胸が、意外とすんなり離れたので拍子抜けした。「…こんなに強く拒絶されたの初めてかも」「え…」さすがに、失礼だったろうかと考えたものの、突然距離を詰めてくる方が悪い。「よ、よくわからないですけど…急に抱きしめたりしないほうが良いと思いますよ?お、驚くし、やっぱり、自分より大きい人って怖いし…」「急に抱きしめたら、皆キャーキャー言うわけよ。俺の場合…喜ばれて」まぁ…確かに蔵之介はカッコいい。けれど私も同じだと思われたら困る…「でもまぁ、すんなり離せるうちに消えるわ。いよいよヤバくなったら、押し倒しちゃうからさ」「…はっ?!」「あのねぇ、桜ちゃん?男を1人暮らしの部屋に入れるってことは、ソノ気かあると思われても仕方ないんだよ?」グイッと顔を近づけて言われ、思わず後ろにさがる。「そんなつもりは…断じてないです」「なら少し、危機感持とうか。俺がその気になれば、あっという間に桜ちゃんを裸にできるわけ」慌てて距離を取り、思わず言ってしまった。「も、もう来ないでください!」「…嫌だよぉ?会いたくなったらまた来る」バイバイ…と言って手を振り、呆気なく玄関を出ていく蔵之介。…からかわれただけかもしれないけど、ちょっと、怖かった。 蔵之介が放り出した携帯を手に取り、まだ繋がっているのかと、そっと耳に当てた。…さすがに切れている。龍之介さん、なんて言おうとしたのかな。蔵之介が出ると思わずに、やっとつながった携帯で言っていたこと。『…遅くなるけど少し…』少し、ここへ来てくれるのだろうか。思いのほかぐっすり眠ってしまった翌朝、誰か来た気配のない部屋で目を覚ました。龍之介さんは、来なかった。昨日一緒にいた女の人は誰だろう。私だとわかったのに、無視したのはどうしてなのか…嫌な妄想ばかりが頭を駆け巡る。そして、自覚する。私は龍之介さんが好きなんだ。だから昨日は人前なのに涙が出た。こんな気持ちは初めてで…少し迷う。私は、龍之介さんに恋をしていいのかな。出かける支度をして、今日も室井酒店のバイトに行く。ゴミの日である今朝は、キッチンにまとめてある小さなゴミ袋を持って…「あの、お隣さんですよね?」ちょうど同じタイミングで隣の部屋から出てきたのは、龍之介…というより蔵之介の方が年齢が近いだろうと思わ
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17言い訳の車内

それは…背の高い知らない男性だった。年齢は30代くらいだろうか…「あの…」もしかして、不審者…普段、酒屋が開いている時は、母屋に人はいなくなる。こうして昼食を食べに来るか、奥さんが洗濯物や家事で戻る以外、人の気配はない。「…君、誰?」「私は、アルバイトです。室井酒店で、お世話になっています」疑われているのはこちらのような、鋭いまなざしに、ついしどろもどろになってしまう。「あぁ…おじさんたち、またバイトの子にご飯を恵んでるのか…」言い方がとても不快だったが、どうやら身内の方らしい。「はい。ご厚意に甘えさせていただきました。私は仕事に戻りますので、失礼します」軽く頭を下げ、脇をすり抜けた。…不躾な視線を向けられたような気がしてさらに不快に思ったが…その後は気にする暇もないほどの忙しさに追われた。龍之介に送ったメッセージは、ずっと既読がつかないまま…帰る時間になった。途中まで美紀と一緒に帰り、1人になって携帯を取り出す。まだ読んでもいなかったら…いや、読んだのに、返信がなかったら…仕事が忙しいのかもしれない。…龍之介さんの仕事がどんなものかよくわからないけど、とにかく手が離せない状態なのだろう。でも…心のどこかで思う。もしかしたらこのまま、会えなくなったりして。連絡が来なくなることは、十分考えられるくらい、自分と龍之介には接点がないと気付いた。まぁ、私の方はアパートだったり携帯だったり、お世話になったお返しをしなければと思うけど、もしかしたら龍之介さんはそんなもの望んでいないかもしれないし。ウジウジと考えているうちに、携帯を確認することなくアパートについてしまった。「…もういい。ご飯食べてお風呂に入ったら、自分から電話しよ」「…誰に電話するって?」アパートの脇に停まった黒い車の脇をすり抜けながら…心の声を自然と発していたらしい。車の窓からの人影に声をかけられたと気付き、驚いて立ち止まった。「…龍之介さん?!」全開にした後部座席の窓に腕をかけ、見上げてくる人の顔を見てさらに驚いた。「…その、顔…」「あぁ…ちょっと乗んない?」同時に運転席から人が降りてきて、後部座席のドアを開けてくれた。「ども!…久しぶりッス」出てきたのは龍之介の舎弟、和哉。…人懐っこい笑顔に変わりはない。桜が素直に車に乗り込むと、和哉はそのまま車
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18.美しい人

目を凝らしてスモークガラスを見てみると、窓の向こうに2人の人影。龍之介は腕を伸ばし、桜の側のドアロックを確認した。「…外へ出るな。俺が出たらすぐにロックしろ」耳元で言われ、ハッとして龍之介を見上げると、素早く自分側のドアを出ていく。…チラリと桜に目をやって。言われた通り、ロックをかけながら、不安で胸がドキドキする。…誰なんだろう。まさか、ここで事件が起きたら…不安になった瞬間…車の外でドッと笑い声が起きた。途端に緩む緊張感。…え、どういうこと?スモークガラスの向こうは、人影が4つになっている。気付いた瞬間、窓を軽くノックされ、ロックを外してみると…「…いたぁ!君が滝川桜ちゃんだね?」赤いショートヘアの、スラリとした美人。ミニスカートから伸びる脚がすごく綺麗で、胸元が開いたセーターから谷間が覗いている。…今度はセクシーな人すぎて、ドキドキする。「私は志田川麗香。親に決められた、龍之介の…愛のない婚約者ね?」よろしく!…と手を差し出され、握り返した瞬間、後部座席から引っ張り出された。「本当に可愛い…!それにやっぱ似て…」言いかけた麗香を、龍之介が遠慮なく肩を叩いて止める。「あ、いいですよ。百合さんに似てるのは、もう聞いてますから」こういうことには、慣れなくちゃいけない…「はじめまして。滝川桜と申します」ペコリと頭を下げ、麗香の隣に立つ人に目がいく。どうしてここにいるんだろう。この人は確か、隣室の…「あの、お隣の…坂上さん、ですよね?」「あぁ、はい」にこやかに笑みを返してくれたものの…どこか場違いな気がする。「あ、ごめん。聡太はさ、私の友達なんだ」「…は?前に言ってた奴か、弁護士の男がいるって…」「そうそう!…桜ちゃんのお隣さんなんだよ?すっごい偶然でしょ?」困ったような笑顔に変わる坂上と、腕を組んでそっぽを向く龍之介。…そして和哉は、私たちを見てニコニコしていた。「…そんなあからさまにヤキモチ焼かなくてもいいじゃん!」龍之介の腕をバシバシ叩く麗香に、変顔をしてみせる龍之介は、なんだかとても仲が良さそうに見える。…親が決めた愛のない婚約者って言うけど、本当はそうでもないんじゃないかな。「それじゃ、私はそろそろ…」心に影ができたところで、少し唐突に部屋に入ると伝えた。「え…もう?なんだぁ、ご飯でも食べに行こう
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19.龍之介の本音

「…本当にそっくりだね。…ヤバっ」「それ、もう2度と桜に言うなよ。自信がないならもう会わせない」「なによそれっ!せっかく女の子の友達ができそうなのに…」桜と坂上という男がアパートに入っていくのを、恨めしい気持ちで見つめる龍之介。「あの男だろ。いつか言ってた弁護士って」「そうそう!今日もちょっと相談があって行ったの。…で、桜ちゃんらしき女の子の話を聞いたから、くっついてきたわけ!」「わざとじゃねえのか、桜と坂上が隣の部屋って…」「わざとじゃないよ!本当に偶然!」運命かもね〜、と言う麗香を睨み、当たり前のように一緒に車に乗ってきた麗香にため息をついた。「ねぇ、もう夕ご飯の時間だよ。…なに食べていく?」外で食事ができない、という話をした時の桜を思い出した。少し寂しそうな表情…「別に…」「なに別にって…?私ご飯作らないよ?」「わかってるし期待もしてねぇよ」実は麗香に会うのは久しぶりだった。桜が出ていったあのマンションで寝起きしていて、屋敷には帰っていない。「悪かったねー、急に出ていけとか言われてさ」「あぁ、そりゃしょうがねえよ。それにうちは部屋が余ってるから問題ない」「…にしては、帰ってこないじゃん」麗香との婚約は、表向き…少しずつ形を成していった。その第一歩が、西龍会の屋敷での同居。結婚式は、その後だ。「まさか、気にしてないよね?」「…何を?」「私との政略結婚。桜ちゃんを想っているわりに、なんだかおとなしいから」「…そりゃ、」極道が手を出していいのか…桜の幸せを邪魔することにならないか…その答えはまだ出ていないからだ。「悩むということは、あきらめられないってことじゃない?」「別にそんなこと言ってねぇ」「バカだね。…顔に書いてあるよ?!そもそも、ちょっと可愛がりたいだけの女ならとっくに手を出してるんじゃない?…まぁ、今は出せないかもしれないけど、ね?」俺がEDになったと知っている麗香。桜には立派に反応したと聞いたらなんと言うだろうか。…喉から手が出るほど欲しいのに、そうしてしまったら離してやれなくなる気がして、あのときは踏みとどまった。「…ねぇ、本当にご飯どうする?」気づけば屋敷の近くまで来ていた。「俺、ひとっ走り行ってきましょうか?」「うん!そうしよう。デリバリーの兄ちゃん、屋敷に入るの嫌そうだから…!」
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20.このまま忘れられたらいいのに

「あ…ありがとうございます。でも、いいんですか?」人使いの荒い昭仁が仕切る酒屋での仕事は思いのほかハードで…疲労困憊して帰宅した桜。アパートの入り口で、ちょうど帰ってきた坂上に会い、挨拶をしたところで…また、左手にぶら下げる可愛らしい袋を差し出されてしまった。「ケーキ…この前とは別のクライアントさんからの差し入れでもらったんだ。良かったらまた、食べてくれない?」疲れた体が甘い物を欲している…桜は困り顔の坂上から、ありがたくケーキをいただくことにした。「あの…よろしければ、夕飯でも一緒にどうですか?」「え、ホントに?…冷蔵庫に何も入ってないなぁって、気づいたとこだったんだよね!」爽やかな笑顔が弾ける。こんな笑顔を向けられたら、相談に行った人はとても安心するだろう。ケーキのお礼に桜がごちそうすることをやっとのことで承諾してもらい、それぞれの部屋に荷物を置いて、10分後に落ち合う約束をした。「お誘いしたのは私なんですけど…実は外食ってほとんどしたことなくて、ファミレスとかでいいですか?」「もちろん!ファミレスもすごく美味しいよね?」屈託のない笑顔にホッとする。…外食をしたことがないって、きっとこの辺では…という意味だと、坂上は思っただろう。でも私は、生まれてからほとんど外食をしたことがないのだ。母がいる時、買い物の帰りに1度だけ、小さなラーメン屋さんに入った記憶がある。大きな丼から取り分けてもらったラーメンがおいしかった。記憶は、その1度だけ。後は父の傍若無人な振る舞いによって極貧だったため、外食なんて夢の話だった。「わぁ…ラーメンセットだって。美味しそうだよ?」「え…?」ちょうど思い出していた事と重なり、薄く笑顔を作る。「じゃあ私、それにしようかな」「ほんと?じゃあ僕も同じものにしよう。…あ、ミニチャーハンもつけられるよ?餃子も!」「…いいですね!全部乗せにしますか!」「え?乗せちゃうの?…さすがに別々の皿に乗せた方がいいんじゃない?」本気で心配そうな顔をする坂上を笑う桜。「ついでにビールも飲んじゃいましょう!」今日の疲れと昔の思い出…すべて忘れたくて、変なテンションで坂上と乾杯した。「本当にごちそうさま。これからもケーキ横流しするから、また夕飯付き合ってよ」「あ!いいですよぅ。今度は坂上さんが行って美味しかった
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