どれだけ頭を捻っても、「実花がRoseの絵を盗作していると疑われ、番組で公開処刑されようとしている」などという沙耶たちの浅はかな陰謀には思い至らなかったのだ。なぜなら実花は、浅見実花名義で発表する作品と、Rose名義で発表する作品とで、意図的に全く異なる二つの画風を完璧に使い分けていたからだ。そんな言いがかりをつけられる余地など、どこにもないはずだった。まあ、どんなくだらない罠が張ってあろうと、行かなければいいだけの話だけど。実花は淡々と文字を打ち込み、実花のアドレスとRoseのアドレス、その両方から全く同じ定型文を返信した。【スケジュールの都合上、出演は辞退させていただきます。お声がけいただきありがとうございました】送信完了の画面を見て、実花はふうっと短く息を吐いた。なぜだろう。最近、体が妙に気だるいせいか、ふとした瞬間に湊の顔が脳裏をよぎる。以前よりもずっと頻繁に。彼の温かい腕の中だけが、今の実花にとって唯一、心から安心できる絶対的な安全地帯だった。湊……今頃、どうしてるかな。実花が密かに想いを馳せていたその頃――当の篠宮湊は、決して平穏とは呼べない血生臭い状況の只中にいた。極秘裏にP国へ帰還した湊は、電光石火のごとき冷徹な采配で、自身に忠誠を誓う精鋭部隊をまたたく間に再編した。現在は、命を狙われている祖父・守三のベッドの傍らに自ら陣取り、そこを絶対の司令塔として、奪われた鉱山を制圧するための総攻撃を仕掛けている。裏切り者たちを一切の容赦なく追い詰めるその苛烈な手口により、奪還計画自体は恐ろしいほどスムーズに進展していた。だが、今回の反乱の首謀者である伯父・建三。この男は、決して天才的な頭脳を持っているわけでも、圧倒的なカリスマ性があるわけでもない。能力だけを見れば、どこにでもいるごく凡庸な男に過ぎないのだ。しかし、そんな「ただの凡人」こそが、この二十年という長きにわたり名門・篠宮家の内部をかき回し、泥沼の争いを引き起こしてきた張本人だった。二十年前、湊の父親を謀略で死に追いやり、幼い湊の体に毒を盛って海浜市での長い逃亡生活へと追いやった元凶。そして今、当主である守三を生命の危機に晒しているのも、すべてこの男が引き起こしたことである。凡庸な建三がなぜここまでやれたのか。理由は二つある。一つ目
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