LOGIN翌日連れ出したのはルダーとイラードにオギン。
ガーブラの推薦だ。 二つの山脈の麓に広がるなだらかな丘陵地帯にあった元々の村は東西一カル南北一カル半。 ちなみに一カルは三千シャッケン。 十スンブで一シャッケン。 三シャッケンで一シャル。 千シャルで一カルというのがこの国の長さの単位だ。 変換がちょっとめんどくさい。 そして、近代化前の世界の常識というか、統一された長さじゃないのが困りものだ。 親指の先から第一関節までの長さが一スンブ、いわゆる尺骨の長さが一シャッケン。 だいたい十倍なだけで厳密に十倍なわけじゃない。 一シャルは紐を親指に挟み肘の下をぐるっと回してもう一度親指で挟み肘の下まで垂らした長さなので、これも実際には三シャッケンよりちょっと長い。 そしてなぜだかちょうど千シャルで一カルになる。 この村では僕の今のそれぞれの長さが基準長として測られた。 さて、改めて村の大きさだ。僕はこう見えても村のリーダーだ。 まだ十六……いや、日付変わって十七歳か。 若くて経験不足だと思われてるんだろうけど前世では半世紀近く生きていたわけだし、会社でそれなりの地位についていた。 いわゆるプロジェクトリーダーを任されて十人以上の部下を率いていたことだってある。 そんな経験豊富な僕が、歴史オタクの知識を総動員して戦術を練った対野盗戦だぞ。 初陣だからって遅れをとると思っているのか? …………。 なんて一人で興奮していたらあらかた戦闘が終わってた。 あらぁ?「何人か生き残ってますが、どうします?」「え?」 慌てて辺りを見回すと、確かに重症だったりで虫の息なやつや戦意喪失で無抵抗に縛られてる男たちが全部で四人。 頭目はイラードたちが倒したらしい。 手引き役の男は……ああ、南無南無……。「こちら側の被害状況は?」「ジャスほか数名が切り傷を受けていますが、重傷者はいません」 ほっ、それは良かった。「チャールズとガブリエルを呼んで傷の手当てをしてもらってくれ。彼らも……」 と、野盗の生き残りを指差す。「同様に」「本気ですか!?」 と、抗議の色を出して訊いてきたのはザイーダ。 うむ、いつも通りの冷徹な反応だな。「本気だよ」 情報は乱世の生存戦略に最も必要なものだからね。 聞きたいことはいっぱいあるんだ。 口を割ってもらうにはこっちにいい印象を持ってもらわなきゃならないんだよ。 心を開いてもらうのも大事なことだよ? 拷問で口を割らせる手もあるけど後味悪いし、その後の使い道も考えられるからね、フフフフフ……。 相手は頭目を失った野盗なんだし、根性なさそうな下っ端っぽいから、こっちの方が有効でしょう。「何人助かりそうかな?」 彼らに聞こえないようにオギンに耳打ちすると、「一人でしょうね」 との
セオリーなら万が一のためにも二人残すべきだ。 でも、村人と野盗の戦力を考えると不安が大きいのもまた事実。 こっちに回されたのはどうせ頭数の方だったんだろう。 数で押せばあるいは……と踏んだ時間稼ぎと見るべきだ。 というか、自分でもたぶんそうする。 村人側に死者が出ていないことを祈りつつ先を急ぐ。 何人かに矢が当たっているので地面に血の跡が続いていて、月明かりを頼りに後を追うのは難しくなかった。 たどり着いた先では四シャッケンの槍を構えた村人が、野盗の一団を囲んで膠着状態にあった。 個人の戦闘力での彼我の差を武器のリーチで補い、槍衾を作ることで閉じ込めることには成功していた。 何人かの野盗に深手を負わせてもいる。 けど、決定打が足りないようだ。 でも、それでいい。 無理をして村人に死なれても困る。 そこら辺の手綱捌きはザイーダがしてくれていたようだ。 野盗の攻撃にはオギンがフォローに入って味方の損害を最小限になるように頼んでいた。 二人ともよくやってくれている。 男尊女卑の傾向がある文化水準で二人の指示に従ってくれている村人たちも偉いぞ。「五人組に編成!」 駆けつけて最初に発した命令だ。 今回戦闘に参加したのは十五人。 五人一組で三組ができる。 それにイラードとガーブラ、僕とオギン、ザイーダの二組を合わせて五組が出来上がる。「各個撃破っ!」 命令一下五組が動き出す。 一般村人組はオギン、ザイーダの指示する相手に攻撃する。 二人が一連の攻防で野盗の序列みたいなものを把握して出した指示だ、僕がどうこう口を挟む必要がない。 そして、イラードとガーブラは野盗の頭目とみられる男に向かう。 こっちは僕でも誰が頭目か判るぞ。 あのダミ声で指示を出している大柄な男だ。 頭目を討たれるわけにいかないと二人がイラードたちの前に立ちはだかる。 僕らのところに三人がやっすい威嚇をしながらやってくる。 あ
足下では断末魔が二つ。 野盗団はそこで自分たちがはめられたことに気づく。 頭目だろうか? 大柄な男がこちらを確認して指示を出し、六人がこちらに走ってくる。「サビー、逃げるやつらにあと一、二射!」「了解」 僕は僕でこちらに迫る六人のうち一人を狙い撃ち。 ……といっても狙うのは確実に当てられる胴体部分だ。 同じ男を狙って二射。 どちらも命中はしたけれど、一矢は左の二の腕だ。 その間にサビーは水平射撃で三矢、最後の一矢を天に向かって射かける。 当たったかどうかは判らない。 盗賊団から割かれた男たちをイラードとガーブラが二十シャルほど先で迎撃。 その間に僕とサビーは櫓を降りる。 何がすごいって、僕らが地面に降りるまでイラードが二人、ガーブラが三人を抑えてくれていたことだ。 最後の一人は僕が手負いにしていたので、サビーが先に降りて迎え撃つ。 負傷した野盗に遅れをとるわけもなく、サビーは野盗を斬り伏せると、ガーブラの助勢に向かう。 僕はイラードと戦っているうちの一人に殴りかかる。 上段からの面ってのが本筋なんだろうけど、いろいろ想像しちゃってちょっと躊躇しちゃいまして、決めたのはイラードに斬りかかった右手への小手。 いやぁ、前世での防具に守られた部位を竹刀で打ち付けるあの感覚でいたけど、返ってくる手応えが全然違うのね。 不意打ちを食らって男は剣を落とす。 ……っていうか、折れたでしょ、腕。 うわ、ヤベー。 心臓ドッキドキだよ。 面打たなくて正解だわ。 最初の対人戦でスプラッターはトラウマもんだよ? いや、前世の記憶があるってだけで、こっちで生まれてこっちで育っているし、二年前には野盗に村を全滅させられているんで悲惨な現場には多少耐性もあるけどさ。 自分がその加害者になること考えたらやっぱりちょっと……ねぇ? ま・もっともそんなチャンスを見逃すわけもなく、イラードがそいつを斬り殺すわけなんだけど。 そして気づいたら、全
何も知らない野盗は男の先導で正面門から入ってくる。 準備の整った村はしんと静まり返っているので寝静まっているものとたかをくくっているのか、辺りに気を配るような慎重さに欠けている。 さすが野盗だ。 いいぞいいぞ、その調子だ。 十九人のうち二人が出入り口となる門を見張る役のようだ。 ふむ、さすがにそこまで抜けちゃいないか。 でも、これは想定内だ。 いや、むしろこちら側にとって好都合というものだ。 僕は櫓の中で合図用の小石を手に取り、奥へと進む野盗たちとの距離を測る。 なにせ相手は荒くれた十九人の男たちだ。 近すぎると四対十九と圧倒的に不利になる。 遠すぎると村の主戦力三人を欠いた迎撃隊が不利になりかねない。 もちろん、ただの村人でも野盗に対抗するための戦術は用意している。 けど、肚の据わった野盗相手に善良な村人が命懸けの戦いで気合い負けしないとも限らない。 できれば敵戦力を二分したい。 五十シャルを少し超えたくらいが狙い目だ。 それ以上だとちょっと僕の技量が怪しくなる。 十分に見極めた(つもりの)僕は、手にした小石を隣の櫓に投げつける。 コツンと板に当たる音がして、小石が地面に落ちていく。 同時に櫓の上から僕らは身を乗り出して弓をキリキリと引きしぼる。 チラリと下を見ると呆けた顔で見上げる野盗の二人とそれを今まさに斬り伏せようとする二人の姿。 僕は結果を確認しないで野盗団の中央あたりに撃ち下ろすように矢を射込む。 この距離なら僕だって当てることくらいはできる。 狩猟で鍛えているし、神様の恩恵とやらで人より少し優秀らしいから。 ただ、この距離では急所にでも当てなければ生き物は簡単に絶命はしない。 僕は立て続けに射た三矢中二矢が命中し、その間にサビーは四矢すべてを命中させいてた。 くそがっ! 全然優秀になってないじゃないじゃないか、神様!
「明るい月夜だし、近づいたら判るかね?」「どうでしょう。暗闇の中なら松明でも持って近づいてくれたかもしれませんがね」 あー、そっちの方がありがたかったな。「お館様」「何?」「野盗の規模、どれくらいを想定してるんですか?」 お、おぅ……想定してなかった。「村の規模より大きいとは思ってない……かな?」 確か、あの日の野盗は十人ほどだった。 今回、サビーたちがいることを判ってなお村を襲おうと思っているんだから十人規模だろうなんて思っていない。 …………。 てことは、前回の野盗とは違う野盗ってことかな?「確かに三十人規模の野盗がこんな辺境の村なんて襲いませんね」 その発言はちょっと傷付くなぁ。 いや、ありがたいことなんだけどさ。「さて、そろそろ集中しましょうか」 サビーはそう言って通話を切り上げ、月明かりに照らされた道の先に視線を向ける。 僕は村に視線を向ける。 村の中はなんとなく緊張した気配がする。 櫓の足元にはイラードとガーブラが到着していたので、一旦降りることにした。「お館様」「準備完了?」「さあ、それは判りませんね」 む、そりゃそうか、進行状況を確認する伝令係が必要だな。 すっかり抜けていた。 反省反省。「じゃあ、手はずどおりに」 二人は頷いて門の両脇に陣取る。 野盗の目的は略奪だ。 無理して戦士と戦うとは思えない。 ……とまぁ、僕の想定が当を得ていれば、この作戦は図に当たる。 目論見どおり完勝できるかどうかはその一点にかかっている。 櫓を昇り直すと、サビーの様子が緊張しているのが見て取れた。 姿勢を低くして隠れているようにも見える。 同じ姿勢になって道の先に目をこらすと、粛々と近づく一団が月明かりにさらされていた。 ざっと数えて十九人。 かなりの規模だ。
この一年、木刀を振り続けてきたけど、まだまだ前世の感覚が戻ってこない。 現世の体のせいなのか、ブランクのせいなのか。 ともかく、僕は支度を整えて月明かりの下に飛び出す。 行き先は正面門。 途中でザイーダと出会う。 彼女が戻ってきたということは村の外へ出たということだ。 事前にそう指示を出している。「お館様の予想通り、男は村の外へ出て行きました」 予想というか、男が連絡用に用水路に流した「手紙」をリリムに確認してもらっていたからね。 押し込み強盗働こうと思っているんなら、迎えに行くより引き込んだ方が能率上がるのにね。 ここら辺は文化水準・知的水準の低さなんかな? こっちとしてはありがたいけどね。 ザイーダと別れて門に着くと、すでに東の櫓にサビーが登っている。 さすがに場慣れしているわ。 役割分担としてはサビーがいち早く正面門の櫓に登って警戒を、イラードとガーブラが中央通り沿いの家々を巡って戦闘準備を促すことになっていた。 それ以外の家は連絡を受けた家の住人が学校の連絡網のように次々と連絡に走ることになっている。 ほどなくみんなが所定の持ち場に着くだろう。 西の櫓に登ると、糸電話でサビーに連絡を取る。「状況は?」「まだ音も気配もありません」 かなり遠いところで合流する手はずになっていたようだ。 村に手練れの戦士が何人かいることはすでに知られている。 櫓は昼の見張りにしか使われていない。 というか、意図的に夜の監視に使ってこなかった。 まず一つに夜の監視は遠くが見通せないのでほとんど意味がないから。 夜警の人員を配する余裕がないのも理由だ。 外で暖をとったり篝火を焚く余裕もないしね。 でも最も意識したのは、男に夜の警戒はしていないと思わせるためだった。 こんなに図に当たるとは思わなかったけどね。
「で、僕のステータスはどうやったら確認できるの?」「なにそれ、美味しいの?」 え?「うそうそ、そんな便利機能現実世界にあるわけないじゃない」 だよねー。「数値が知りたいなら体力測定とかIQ検査でもしてみる?」「それって実際あてになるの?」「参考程度には」 だめじゃん、そんなの。「まぁまぁ。ホラ、そろそろ準備始めなきゃまた木の上で寝ることになるよ」 リリムに言われて気がついた。 お日様がだいぶ西に傾いているらしく、僕の影
「じゃあ次は概要ね」 と、リリムは言う。「世界の概要は現世の知識があるから割愛ね」 あらま。「あなたは転生の際にDNAってやつに細工されていてね、神様曰く人よりちょっと優秀になってるそうよ」 え? ちょっと?「そこはとても優秀になってんじゃないの? テンプレ的に」「いくら世界に干渉できる環境にある神様だってそんなことホイホイしたら世の中のバランスが狂っちゃうでしょう?」「異世界転生は世界のバランスを崩さないのか?」「崩すわよ。それなりに。そもそも
村に戻った僕は村人の埋葬をする。 人の死には慣れている。 現世の僕が、だけど。 この世界は前世の世界と違って文明水準が高くない。 当然医療水準も高くない。 田舎だからってのはあるかもしれない。 大きな街はもしかしたらすごく発展しているのかもしれない。 魔法のある世界だから、当然治癒魔法もあるはずだ。 でもそれがどれくらいの効果があるかもわからない。 だからこの村はよく人が死んだ。 子供は特によく死んだ。 僕にも姉と妹がいたらしい。 妹の方はかす
僕は十五歳の朝を木の枝の上で迎えた。 この世界の元服、つまり成人の儀式が行われる日だ。 確かに一生忘れられない日にはなったけど……切ない。 あまりにも切ない。 秋とはいえ、昼頃になればそれなりに暖かくなる。 今日は天気もいいので昼頃にはむしろ汗ばむほどの陽気になった。 慎重にあたりの気配を確認しつつ、木から降り集落に戻ると、まだプスプスとくすぶっている焼け跡の中を歩く。 あたり一面、嫌な臭いが立ち込めているのは、村人の焼けた臭いだろう。 昨日から何も食べてないのに込み上げてくる胃液を吐き出し