Share

読書の秋

Author: 結城慎二
last update publish date: 2026-06-30 06:00:45

「そろそろ村長は頭脳労働中心に動いたらどうだ?」

 イラードにそう言われたのはジョーが再訪する三日前だった。

 いつものように建築作業をしている時だ。

「え?」

「肉体労働は頭も疲労するからな、ここのところ村長から先の展望の話を聞かないぞ」

 お・おおっ!

 それはやばいな。

 村の再建は順調だし、そろそろ次のフェーズに移ってもいいか。

「ありがとう。イラードって冷静だね。サビーとどっちが年上か判らなくなるよ」

「よく言われる」

 ははは、言われるんだ。

 僕は、お言葉に甘えてイラードに現場監督を任せて、小屋に戻る。

 小屋の中は木炭の副産物、木酢液から蒸留したアルコールを使ったランプを照明に利用するくらいに文明化されている。

 まだまだ希少なので使えるのは村長の僕だけ。

 権力者特権だ。

 まだ十六歳なんだけどね。

 まずは汚部屋と化している小屋の掃除から。

 小屋を作った時からその
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    みんなワクワクソワソワ

    「貴重な話が聞けたよ、ありがとう」 すっかり打ち解けた気になっていた男は「なんのなんの」と横柄に手をふる。「君の処遇は改めて明日決定するつもりだけれど、今日のところはこのまま部屋に戻ってもらうことにしよう」 なんというか、ジャスは阿吽の呼吸でも心得ているかのようになにも言わないうちに男に縄をかけ出す。「ちょっ、ちょっとこれは?」「君が囚われの身であることに変わりはないんだよ?」 そう金魚みたいに言葉もなく口をパクパクされても対応は変わらないよ?  ま、対応は最初から決まっているんだけど今日はこれから村をあげての大宴会だからね、不測の事態は困るんだ。  ジャスが部屋に男を押し込むのを確認して僕は家を出る。「終わったのかい?」 外では律儀に見張りについていたルダーが声をかけてきた。「終わった終わった。今後の村の計画になかなか有意義な情報があったよ」「そりゃあよかった」 遅れて鍋を抱えたジャスが出てくる。「見張りの当番はいつまでなんだい?」「日暮れまで」 とルダーに鍋を返しつつ答える。「じゃあ、宴で待ってるよ」 僕はそう言い残してルダーとその場を離れた。  向かったのは正面門。  二棟の櫓にはサビーとオギンがいる。「お館様」 僕らを見つけたオギンがスクワラーのようにするすると降りてくる。「見張りは通常体制に戻すよ」「襲撃の危険はない……と?」「そ。あいつの情報だ。信憑性は僕が保証する。二人とも宴まで休んでいいよ、ご苦労様」 そう告げて、今度はルダーの家へ。  家の前ではアニーがカルホと遊んでいた。  年の近い友達がいるのはいいことだよ。  多すぎるとそれはそれでややこしいことになるんだけどね。  あ、これは前世の経験だわ。  二人に軽く挨拶をして家に入ると、ヘレンは宴の準備で大鍋に食材を放り込んでいた。  僕は彼女にスープ

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    お館様はネゴシエーター

     まずは飴の方で行ってみることにしよう。「申し遅れたかな? 僕はこの村の村長をしている」 まだカッコ仮……だけどね。「村……長?」 惚けた顔で男は繰り返す。「意外だろうね」 あ、こいつあっさり頷きやがった。「噂で聞いているだろうけど、この村は二年前に野盗に襲われて一度壊滅しているんだ。僕は唯一の生き残りとして暫定的に村長をやっている」 そこ! 「なるほど」なんて納得するんじゃない!  僕が顔を引きつらせたのをどう解釈したのか、男が蒼ざめた顔で見上げてくる。  いけね、話の振り方間違えたか?「あー……でも、そんなことはどうでもいいんだ。今はこの町でひっそりと暮らしていられれば」 たぶん無理だけど。  リリムが吹き出す。  チッ、また独白を読みやがった。「そこでだ、君にこの村でひっそり生きるための情報提供をしてもらいたい」「ジョウホウテイキョウ?」 これはどういう意味でのおうむ返しなんだ?「君の知っていることを教えてくれればそれでいい」「見返りはあるのか?」 いや、君は本来そういう立場じゃないって自覚ないの?「情報次第だ」「…………」 …………。「……なにが知りたい?」 ホッ。  第一段階の交渉はクリアした。  僕は彼の縄をほどき、リビングへ案内する。  おっと、ひと鞭くれてやるのを忘れちゃダメだな。「逃げ出すつもりなら死ぬ覚悟をしてくれよ。危害を加えるような人間に情けをかける気はないからね」 はい、ぶるっちゃいましたね。  ま・実際、彼以外はみんな死んでるし、説得力あるべ。  イスに腰掛けると、ジャスが温めたスープをよそってそれぞれの前に置く。「まずは食事といこう」 と、僕がいうと「うまいぞ」 と、ジャスがいう。  いいフォ

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    秋だけど春なんです

    「ヘレンは順調かい?」「ああ、おかげさまで安定期だよ。そうでもなきゃスープなんて作ってもらえてないだろ」 確かにちょっと前までつわりがひどくてルダーが食事の支度をしてたな。「どっちかな?」「さあな。前世世界じゃあるまいし、生まれてくるまで判らんよ」「違いない」「アニーは妹ができると信じてるみたいだけどな」「そうか。村が復興して初めての子供だね」「そうだな。どうでもいいが、ジャリの視線が痛いわ」 憧れの姐さんだったみたいだからねぇ。「そういや、チャールズとガブリエル。正式に結婚することにしたそうだ」「そりゃめでたい」 なんてとりとめもなく話していると案外すぐに着くもんだ。  見張りにはジャスが立っていた。「ケガは大丈夫かい?」「ザイーダが言うにはこれくらいの傷なら痕も残らないんじゃないかって」「そりゃあよかった」「うまそうですね。ヘレンさんのスープでしょ」 よく判るねぇ……。  ああ、もともと同郷ってか、ヘレンを慕ってついてきたんだっけか。「一緒に食う?」「いいんすか?」「いいよ」「ルダー、ごめん。ちょっとの間代わりに見張りお願い」「はいはい」 ルダーは二つ返事で引き受けてくれた。  中に入ると殺風景な家だった。  腰を据える気なんかサラサラないって言うのが家財道具から見て取れる。  奥の部屋のドアを開けると、ベッドの上に後ろ手に縛られた男が、心配そうにこちらを見てくる。  僕は辺りを見回して武器になりそうなものを確認する。  椅子とか鍋釜程度だな。  包丁さえないってのはどうやって調理してたんだ?  ジャスに指示して縄を解く。「腹が減ったろ? 一緒に食おう」 その提案はよっぽど彼の想定外だったんだろうか?  惚けた顔して返事一つ返ってこない。  スー

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    肩の荷が下りると体調を崩すことが多い…らしい

     階下から漂ってくるおいしそうな香りに起こされた。  体は少し重い。(仕合の後はこんな感じになるとこが多かったな) などと妙に懐かしく思いながら下に降りる。「よう、やっと起きてきたな」 と出迎えてくれたのはルダーだった。  むーん……微妙に嬉しくないな。(やっぱり女性に起こされたい) などと思いつつも、なんでまたルダーが僕の館にいるのか疑問に思っていると。「ヘレンにな」 と、まるで僕の心が読めるかのように説明してくれる。「ヘレンがな、ずっと気を張ってたやつは肩の荷が下りると体調を崩すことが多いから、あったかくてうまいもんを食べさせてやれって持たせてくれたんだ」 なるほど。  おじいさん商隊長さんが亡くなったのもそんな感じだった。「滋養にもいいぞ。デーコンポモイトスープだ。肉はラバトの塩漬けを使ってる」「それはうまそうだ。じゃあ、遠慮なくごちそうになるよ」「おぅよ」 もう随分前から自炊になっていて、最近は食べる機会もめっきり減ったけど、ヘレンの料理はうまいんだ。  食事をしながら僕は村の様子を訊ねる。「今日はみんなゆっくり起きて今は村人総出で宴の準備をしてるぞ」 農作物の収穫作業も一段落ついてるし、雑木林の収穫はピサーメ以外まだ少し早いと聞いてるからちょうどよかったのかもしれない。「誕生会と収穫祭と戦勝記念の宴だね」「おお、景気がいいな」「捕虜の容体は?」 そう訊ねると、ルダーの声のトーンが少し落ちる。「二人はお館様が去って間もなく死んだ。もう一人は『苦しい、殺してくれ』って言うんでイラードが楽にした」 そうか。「生き残りは例の男の家で見張られている」 手引き役の男は戦闘で死んでいるから、今は空き家ってことになるんだし有効利用ってやつだな。「様子は?」「縛られてるからって

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    神様、今年の誕プレは最 The 高です!

    「みんな!」 と、事後処理にあたっている村人を呼び止める。  みんな、初めての戦闘だったろう、勝ったのも初めてに違いない。  表情には興奮冷めやらぬって色がありありと見える。「ご苦労様。まだ後片付けもあってしばらく寝られないかも入れないけど、明日は僕の誕生日でもあるから戦勝祝いも兼ねて宴を催すよ!」 それを訊いて、全員が拳を突き上げて喜びの声を上げる。 !「ああ、そうだ!」 僕が声を張り上げると、再びみんなの注目が僕に集まる。「勝鬨をあげよう」「かちどき?」 ジャリが、不思議そうにその単語を繰り返す。「うん、勝ったことを喜ぶちょっとした儀式があるんだ」 と、やり方を説明すると、みんな面白そうだと一度僕の前に集まってくる。  事後処理に村人全員集められているようだ。「行くよ」 鉄剣を少し明るくなりかけている空に掲げる。「えいっ、えいっ」 僕の呼びかけにみんなが応える。「オォッ!」 うおおぉっ!!  たかまるっ! たぎるっ!!  これ、クセになるね。  団結したーって気になるんだね、勝鬨すげえや。  村人たちもおんなじ気分のようだ。  前世じゃ、ダサいと思ってたんだけどなぁ……なにかな? シチュエーションの問題だったのかな?「オギン」「はい、お館様」「サビー」「なにか?」「二人は僕と一緒に家に戻って寝るの命令ね」「かしこまりました」「イラードはここの指揮を任せる」「かしこまりました」「ガーブラとザイーダは正面門の見張りを頼むよ」「了解!」「サビーとオギンは昼前に見張りの交代をよろしく」「なるほど、了解です」 それにしたって、彼らにおんぶ抱っこだな。  今回は小規模な野盗相手の戦

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    完勝なので感傷にはひたりません

     僕はこう見えても村のリーダーだ。  まだ十六……いや、日付変わって十七歳か。  若くて経験不足だと思われてるんだろうけど前世では半世紀近く生きていたわけだし、会社でそれなりの地位についていた。  いわゆるプロジェクトリーダーを任されて十人以上の部下を率いていたことだってある。  そんな経験豊富な僕が、歴史オタクの知識を総動員して戦術を練った対野盗戦だぞ。  初陣だからって遅れをとると思っているのか? …………。 なんて一人で興奮していたらあらかた戦闘が終わってた。 あらぁ?「何人か生き残ってますが、どうします?」「え?」 慌てて辺りを見回すと、確かに重症だったりで虫の息なやつや戦意喪失で無抵抗に縛られてる男たちが全部で四人。  頭目はイラードたちが倒したらしい。  手引き役の男は……ああ、南無南無……。「こちら側の被害状況は?」「ジャスほか数名が切り傷を受けていますが、重傷者はいません」 ほっ、それは良かった。「チャールズとガブリエルを呼んで傷の手当てをしてもらってくれ。彼らも……」 と、野盗の生き残りを指差す。「同様に」「本気ですか!?」 と、抗議の色を出して訊いてきたのはザイーダ。  うむ、いつも通りの冷徹な反応だな。「本気だよ」 情報は乱世の生存戦略に最も必要なものだからね。  聞きたいことはいっぱいあるんだ。  口を割ってもらうにはこっちにいい印象を持ってもらわなきゃならないんだよ。  心を開いてもらうのも大事なことだよ?  拷問で口を割らせる手もあるけど後味悪いし、その後の使い道も考えられるからね、フフフフフ……。  相手は頭目を失った野盗なんだし、根性なさそうな下っ端っぽいから、こっちの方が有効でしょう。「何人助かりそうかな?」 彼らに聞こえないようにオギンに耳打ちすると、「一人でしょうね」 との

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    五日ぶりの温かい飯

    「で、僕のステータスはどうやったら確認できるの?」「なにそれ、美味しいの?」 え?「うそうそ、そんな便利機能現実世界にあるわけないじゃない」 だよねー。「数値が知りたいなら体力測定とかIQ検査でもしてみる?」「それって実際あてになるの?」「参考程度には」 だめじゃん、そんなの。「まぁまぁ。ホラ、そろそろ準備始めなきゃまた木の上で寝ることになるよ」 リリムに言われて気がついた。  お日様がだいぶ西に傾いているらしく、僕の影

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    都市伝説は真実だった

    「じゃあ次は概要ね」 と、リリムは言う。「世界の概要は現世の知識があるから割愛ね」 あらま。「あなたは転生の際にDNAってやつに細工されていてね、神様曰く人よりちょっと優秀になってるそうよ」 え? ちょっと?「そこはとても優秀になってんじゃないの? テンプレ的に」「いくら世界に干渉できる環境にある神様だってそんなことホイホイしたら世の中のバランスが狂っちゃうでしょう?」「異世界転生は世界のバランスを崩さないのか?」「崩すわよ。それなりに。そもそも

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    さゔぁいぶ-後篇-

     村に戻った僕は村人の埋葬をする。  人の死には慣れている。  現世の僕が、だけど。  この世界は前世の世界と違って文明水準が高くない。  当然医療水準も高くない。  田舎だからってのはあるかもしれない。  大きな街はもしかしたらすごく発展しているのかもしれない。  魔法のある世界だから、当然治癒魔法もあるはずだ。  でもそれがどれくらいの効果があるかもわからない。  だからこの村はよく人が死んだ。  子供は特によく死んだ。  僕にも姉と妹がいたらしい。  妹の方はかす

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    さゔぁいぶ-前篇-

     僕は十五歳の朝を木の枝の上で迎えた。  この世界の元服、つまり成人の儀式が行われる日だ。  確かに一生忘れられない日にはなったけど……切ない。  あまりにも切ない。  秋とはいえ、昼頃になればそれなりに暖かくなる。  今日は天気もいいので昼頃にはむしろ汗ばむほどの陽気になった。  慎重にあたりの気配を確認しつつ、木から降り集落に戻ると、まだプスプスとくすぶっている焼け跡の中を歩く。  あたり一面、嫌な臭いが立ち込めているのは、村人の焼けた臭いだろう。  昨日から何も食べてないのに込み上げてくる胃液を吐き出し

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status