夕食と入浴を終わらせたマリアネラは、改めて増えた本棚を見る。陽の国にあった本棚の中は、半分以上が教養本で、マリアネラが自分で選んだ本は少なかった。だが、ここにある本棚は、すべて自分で選んだ本。そう思うと、この本棚が特別なものに見えてきて、愛着が沸いてきた。 ドレッサーの隣に置かれた収納棚の引き出しを開ければ、裁縫道具が綺麗に並んでいる。下の段には毛糸と生地が入っている。 個性のなかった客室は、ゆっくり、しかし確実に、マリアネラの部屋になっていく。それが嬉しかった。「ふふ、明日は何からしようかしら?」 毛糸に触れ、微笑む。今までは読書とナイフを扱うための稽古しかすることがなかったが、今は子供の頃からやりたかった裁縫ができる環境がある。それに、メリーと一緒なら台所を使ってもいいと許可ももらえた。やりたいこと、やれることが急に増えたことで、子供のようにわくわくしている。 明日の予定を考えていると、ノックもなしにドアが開く。無断で開けられることには、もう慣れた。 「チェセル、それは……」 チェセルはワゴンを押して入ってきた。ワゴンには薄紫色のジュースと、小さなパイがのせられている。 「今宵の月は青いのでな。ミルクにブルーベリーの果汁を混ぜて作ったジュースを持ってきた」 チェセルは壁際にあったテーブルセットの2脚の椅子を窓際に運び、その間にワゴンを置いてテーブル代わりにする。彼がカーテンを開けると、青白い満月が浮かんでいた。「さぁ、座れ」「はい」 チェセルの向かいに座ると、彼はグラスを手に持った。マリアネラもグラスを手に持ち、乾杯をする。グラスを軽くぶつける涼やかな音が、静かな部屋に大きく響く。「ん、美味しいですね」 ジュースをひと口飲むと、ミルクのほのかな甘味と、ブルーベリーの酸味が口いっぱいに広がり、頬が緩む。「気に入ったようで何よりだ」 チェセルは満足げにマリアネラを見ると、自分もグラスを傾ける。「たまにはジュースも悪くないな」「いつもはお酒を?」「あぁ、そうだ。兵士共と飲むことが多い」
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