Alle Kapitel von 奴隷王女は宵獅子の愛に溺れる: Kapitel 21 – Kapitel 30

44 Kapitel

21話

 夕食と入浴を終わらせたマリアネラは、改めて増えた本棚を見る。陽の国にあった本棚の中は、半分以上が教養本で、マリアネラが自分で選んだ本は少なかった。だが、ここにある本棚は、すべて自分で選んだ本。そう思うと、この本棚が特別なものに見えてきて、愛着が沸いてきた。 ドレッサーの隣に置かれた収納棚の引き出しを開ければ、裁縫道具が綺麗に並んでいる。下の段には毛糸と生地が入っている。 個性のなかった客室は、ゆっくり、しかし確実に、マリアネラの部屋になっていく。それが嬉しかった。「ふふ、明日は何からしようかしら?」 毛糸に触れ、微笑む。今までは読書とナイフを扱うための稽古しかすることがなかったが、今は子供の頃からやりたかった裁縫ができる環境がある。それに、メリーと一緒なら台所を使ってもいいと許可ももらえた。やりたいこと、やれることが急に増えたことで、子供のようにわくわくしている。  明日の予定を考えていると、ノックもなしにドアが開く。無断で開けられることには、もう慣れた。 「チェセル、それは……」 チェセルはワゴンを押して入ってきた。ワゴンには薄紫色のジュースと、小さなパイがのせられている。 「今宵の月は青いのでな。ミルクにブルーベリーの果汁を混ぜて作ったジュースを持ってきた」  チェセルは壁際にあったテーブルセットの2脚の椅子を窓際に運び、その間にワゴンを置いてテーブル代わりにする。彼がカーテンを開けると、青白い満月が浮かんでいた。「さぁ、座れ」「はい」 チェセルの向かいに座ると、彼はグラスを手に持った。マリアネラもグラスを手に持ち、乾杯をする。グラスを軽くぶつける涼やかな音が、静かな部屋に大きく響く。「ん、美味しいですね」 ジュースをひと口飲むと、ミルクのほのかな甘味と、ブルーベリーの酸味が口いっぱいに広がり、頬が緩む。「気に入ったようで何よりだ」 チェセルは満足げにマリアネラを見ると、自分もグラスを傾ける。「たまにはジュースも悪くないな」「いつもはお酒を?」「あぁ、そうだ。兵士共と飲むことが多い」
Mehr lesen

22話

「ですが、私は母上に言われて、あなたとは極力関わらないようにしていましたよ?」「あぁ、そうだな。だが、まったくというわけではなかっただろう? その時、お前はまっすぐ私の目を見て話していた。他の者は、男でも私と目を合わせるのを嫌がるというのに」「決定打に欠けると思います」 マリアネラの発言に、チェセルは一瞬きょとんとし、声を出して笑った。「はは、お前は本当に素直で面白い。もちろん、目が合ったから好きになったなど、馬鹿げた理由だけではない」「では、他にどんな理由が?」「そうだな。まずは、容姿と演奏」「はい?」 あまりにもふわっとした理由に、素っ頓狂な声が出る。(この人がそんな軽い理由で人を好きになるとは思えない……。って、私、何を期待しているの?) 表情は微笑を浮かべたままだったが、心の中は忙しない。マリアネラは自分がチェセルに特別な何かを求めていることに気づき、困惑した。「1番は、人間性だろう。数年前、妹をそちらへ送るついでに、散歩がてら視察をしていたら、子供がいじめられていた。お前がそれを助けるのを、遠くから見ていた」 悲しいことに、幸せの国と言われた陽の国でも、いじめはあった。マリアネラはそういった現場を見かける度に間に入り、いじめをやめさせ、話し合いをさせた。そういった卑劣な行為は、どう頑張ってもなくならないのかもしれない。それでも、ひとりでも救おうと努力し続けていた。「当然のことをしただけです」「その当然ができない者は多い。他国に視察に言った時も、そういった場面に何度か出くわしたが、見て見ぬふりをするか、軽蔑の目で見るかだ。お前のように止める者はおらん」「自覚が足りないのです」 そこまで話して、論点が変わっていることに気づく。かといって、話題を戻すのも気恥ずかしい。何を話そうか考えていると、サクッという小気味良い音が聞こえた。チェセルを見ると、小さなパイをナイフで切り分けていた。「就寝前の甘味はあまり褒められたものではないが、これくらいならいいだろう」
Mehr lesen

23話

 翌日、チェセルの許可を得たマリアネラは、街を歩いていた。念の為、フードで顔を隠し、メリーを連れて。メリーと稽古をする時間ができたおかげで体力は少しずつ戻ってきたが、ずっと城にいては気が滅入ってしまう。昼には戻るという条件付きで、こうして街を歩かせてもらえることになったのだ。「とても綺麗ね」 今マリアネラ達が歩いているのは、占い市場。ここでは様々な占い師が商売をしているだけではなく、占いに使う道具なども売られている。水晶や宝石、ガラスなどで出来た道具が多いため、市場は神秘的な輝きを放っていた。「占い市場は、見習い占い師の修行の場でもあるので、比較的リーズナブルなんですよ。時々、熟練の占い師が初心を思い出すために出店することもあるので、暇さえあればここに来る人も多いんです」「面白そうね。ねぇ、メリー。あれは何かしら?」 マリアネラはガラス細工を売る店を指さしながら聞く。店には星をかたどったガラス細工が並び、1角ずつ色が違う。青、赤、紫、緑、黄色の5色で彩られている。「あれは星盤といって、本当に占いたいことを占うための道具なんですよ」 メリーはマリアネラを店に連れて行くと、ひとつの星盤を手にする。近くで見ると、星盤はガラス製のピンとセットで売られている。「占いを決めるための占い? なんだか変ね」「ふふ、ユニークですよね。青は未来、赤は恋愛、紫は仕事、緑は過去、黄色はお金に関することを指すんです。ピンを星盤の真ん中に立てて、離した時に倒れた色について占うんです」「面白いわね。ひとつ買おうかしら?」 部屋には占いの本もある。これでどの占いの練習をするか決めてもいいかもしれない。マリアネラが大きめの星盤を手に取った瞬間、星盤が割れた。「きゃ!?」「マリアネラ様!」 メリーはとっさにマリアネラを抱き寄せる。市場は騒然とし、人々は逃げ惑う。「敵襲……」 メリーが消え入りそうな声でつぶやいたのが聞こえた。商品棚を見ると、砕けた星盤に矢が混じっている。「私の後ろへ!」 メリーは太ももに固定してい
Mehr lesen

24話

「チェセル様、マリアネラ様!」 メリーは男を引きずりながら、慌てて駆け寄る。「申し訳ありません、私が至らぬばかりに……」「いや、よい。お前は最善の動きをした。相手が1枚上手だっただけだ」「そうよ、メリー。それに、私なんて、何も出来なかったわ。普段、あなたに稽古をつけてもらっているのに」「お前も考えすぎだ。ほんの数日しか稽古をしていない素人が、咄嗟に動けるわけがないだろう」「チェセル……。ありがとうございます。ところで、どうしてここに?」「怪しい人を見たと聞いて見回りをしていたのだ。おそらく、夕の国の人間だろう。お前を私に売ったのは、あの国の連中だ。様子見をし、場合によっては始末をしろとでも命令されたのだろう」 チェセルは忌々しげに言うと、横目で店を見る。星盤の店は、半分近くの商品が壊れてしまった。店主の女性は怯えきり、奥で震えている。「店主よ、こちらへ」「は、はい……」 30代くらいの細身の女性は、震えながら出てきた。割れた星盤を見ると、絶望しきった顔で手を伸ばす。「やめろ」 チェセルは女性の腕を掴む。「守りきれず、すまなかった。ここの片付けは、うちの兵士にさせる」「そんな、とんでもないです!」「これくらいの罪滅ぼしはさせてくれ。それと……」 チェセルは懐から財布を出すと、無造作にお札を引っ張り出し、女性に押し付けるように渡す。お札は分厚く、最低でも20枚はありそうだ。「弁償は、これで足りるか?」「受け取るわけには……」「受け取れ。王族の金は、お前達の税金だ。税金は国民のために使う金だ。私を愚かな王にしたくないのなら、受け取るのだ」「ありがとうございます、チェセル王子」 女性はお金を受け取ると、何度も頭を下げながら、感謝を伝える。「マリアネラよ」「はい」「星盤を買おうとしていたのか?」「えぇ、とても美しかったので」「ならそれをひとつ買お
Mehr lesen

25話

 城に着くと、チェセルと共にマリアネラの部屋へ行く。マリアネラは色んな意味でドキドキしていた。先程の襲撃の恐ろしさ、移動中、いつもより無口なチェセル。そして、彼が2年前にマリアネラを助けた命の恩人である可能性。これらがマリアネラの胸をかき乱す。「危険な目にあわせてすまなかった」 部屋に入るなり、チェセルはマリアネラに謝罪をする。まさか謝られると思っていなかったため、気が動転してしまう。「そ、そんな! あなたのせいではありません。それに、守ってくださったではありませんか」「守るのは当然だ。今後は、警備を強化する必要がありそうだな」「あまり、ご自分を責めないでください。それより、私はあなたに聞きたいことがあるのです」「ほう、なんだ?」「2年前、戦争が始まる少し前に、私は暗殺されかけました。その際、助けてくれた男性がいるのです。顔も見えませんでしたし、名前も教えてもらえませんでした。チェセル、あなたが、私を助けてくれたのではありませんか?」 マリアネラの問いに、チェセルは小さく笑う。その笑みの意味は、マリアネラには分からない。「そんなこともあったな」「やはり……!」「あの日は、シュリを陽の国に送り届けたのだ。その帰りに、不審な人影があったから尾行したら、お前が殺されかけていた」「改めて礼を言います。あの時は、ありがとうございました。ですが、何故名乗らなかったのです?」「私が助けたと知ったら、陽の国は私に恩を感じるだろう。お前の両親は優しすぎる。だから、関係のバランスが崩れる可能性が高い。そんなこと、誰も望まぬ」 陽の国と宵の国は、友好関係にあった。国同士の友好関係は片方が優位に立つことが多いが、この2国はほどよくバランスが取れ、対等に接していた。チェセルの言うように、彼がマリアネラを助けたと知ったら、彼女の両親はチェセルに感謝し、貿易などでそのことを持ち出し、不利な条件を自分から作りかねない。 ふたりは優しすぎるが故に、公務とプライベートを分けるのが下手だった。そのことでマリアネラと何度も言い争いをしたこともある。
Mehr lesen

26話

 翌朝、目を覚ましたマリアネラは、ドレッサーの前に座ると、ペンダントトップを出した。美しい台座の中央に嵌められている石は、どう見てもそのへんに落ちてるような石ころを加工したようにしか見えない。 マリアネラは他のネックレスからチェーンを外すと、ペンダントトップを付け替えた。 両手で握って祈りを込めた後、ネックレスを窓際に置く。 このペンダントトップは、夕の国の兵士に捕まる前、父が握らせたものだ。陽の光があたった時間と同じ時間だけ輝く特殊な石で、時間が切れるとただの石のような見た目になる。ペンダントトップは、長い地下ぐらしで輝きを失ってしまった。 マリアネラはこのペンダントトップを、口の中や下着の中などに入れ、兵士や奴隷市場の商人に見つからないように、必死に守ってきた。 「これだけ宝石があるんだもの。いいわよね」 もしチェセルに指摘されたら、彼に買ってもらったと言えばいい。  石は陽の光を吸収し、淡い黄色に変化していく。本来ならもっと濃い黄色になる。だが、そこまで輝くには、更に時間が必要だろう。「マリアネラ様、朝食の準備ができました」 ドアの向こうから、メリーの声が聞こえる。「ごめんなさいね、まだ着替えてないの。着替えたらすぐ向かうわ」「かしこまりました。チェセル王子に伝えておきます」 メリーの足音が遠ざかっていくのを聞きながら、マリアネラは今日のドレスを選び、着替える。(ひとりで着替えるのも、だいぶ慣れてきたわね……) 陽の国でいた頃は、使用人に着替えさせてもらったものだ。ここに来てからは、自分で着替えるようにしている。メリーは手伝うと言ってくれたが、これを機に、できることを増やしていこうと思った。  着替え終えた後、ネックレスを手に取る。数分しか日光浴をしていない石は、まだ本来の輝きを取り戻していない。 マリアネラは不安を抱えながらもカーテンを閉め、食堂へ向かった。「お待たせしました」「大して待っていない」 チェセルはマリアネラを待っていてくれてたらしく、食事に手をつけていなかっ
Mehr lesen

27話

「チェセル……! どうかなさったの?」「あぁ、言い忘れていたことがあってな。悪いが、しばらくは護衛付きでも、城から出ないでほしい。また夕の国の輩が、お前を襲うかもしれん」「えぇ、分かっています。私も、城の外から出ようとは思いません。ですが、中庭には……」「あぁ、それなら構わん。ただし、メリーを同行させること。良いな?」「はい、ありがとうございます」 マリアネラが礼を言うと、チェセルは顔をしかめる。「礼など言うな。私はお前が自由に街を歩く機会を奪ったのだ。まったく、不甲斐ない……」「そんなこと、おっしゃらないでください。あなたは、私のために色々してくださっています。街に行くことを禁じたのも、私のためでしょう? 中庭に出られるだけでも、充分です」「ふ、お前は本当にいい女だ」 チェセルはマリアネラを抱き寄せ、触れるだけのキスをする。キスもそれ以上のことも、何度もしているが、未だに慣れない。顔が熱くなっていくをの感じながら、チェセルを見上げる。「口づけだけで赤くなるとは、相変わらずウブだな。だが、そんなところも愛おしい」「チェセル……。恥ずかしいです……」「恥じらうお前もそそる」 耳元で囁かれ、背筋が粟立つ。魅惑的な低い声で囁かれると、夜を思い出してしまう。「城内外の警備は強化してある。中庭に輩が現れることはないだろう。ゆっくりしてくれ」「はい」 マリアネラが返事をすると、チェセルは彼女の髪を撫で、踵を返す。マリアネラは熱くなった頬をおさえ、遠ざかる背中を見つめていた。 チェセルの姿が見えなくなると、メリーに声をかけ、中庭に出る。「外は気持ちいいわね」「そうですね。特に、朝の空気が格別です」 メリーはマリアネラの隣で気持ちよさそうに伸びをする。朝特有のひんやり爽やかな風が、ふたりの頬を優しく撫で、花々の香りを運んでくる。「ふふ、そうね。天気もいいし、穏やかに過ごせそう……」 風に吹かれながら花々を見下ろす。手入れの行き届い
Mehr lesen

28話

 夜、マリアネラは中庭を散策したおかげで輝きを取り戻した石に触れる。午後は室内で過ごしていたため、完全でなくなったが、宝石と言っても誰もが納得する輝きを放っている。(父上、母上……。どうか、ご無事で……) 国宝を見つめながら両親の無事を祈っていると、チェセルがまた勝手に部屋に入ってきた。「まだ起きていたか」 「はぁ……、ノックしてください」 慣れたとはいえ、やはりノックがないと心の準備ができないというか、居心地が悪い。 「必要ない」  堂々と言い切るチェセルに、再びため息をつく。 「眠れないのか?」 「えぇ……」  体力や気力が回復したことによって考える余裕が出来、ずっと彼らのことを考えてしまう。稽古をしたり、チェセルに買ってもらった裁縫などで気を紛らわせようとしても、昨日の襲撃のせいでどうしても両親や国民達のことが気になってしまうのだ。 「国を奪われ、両親や使用人達と離れ離れになっては、眠れないか。これで少しでも眠れるようになればいいのだがな」 「え?」 「お前の両親は、夕の国の城の一室にいる。牢獄ではなく客間に幽閉されているようだ」 両親の知らせに驚き、目を見開く。希望の光が差し込んだ気がした。 「他に、他に情報は!?」 「質素ではあるが、食事は食べさせてもらっている。どうやら夕の国の連中は、陽の国に代々伝わる国宝を狙っているらしい。国宝が手に入るまで、殺しはしないだろう」 「そう、よかった……」 両親の無事を知り、胸を撫で下ろす。夕の国に捕まっていても、無事ならそれでいい。 「それにしても、愚かだな。娘であるお前を人質に取れば、すぐに国宝を手に入れられたというのに、奴隷市場なぞに売りおって。だから私がお前を手に入れられたのだから、奴らの愚かさには感謝すべきか」 チェセルの言葉に、マリアネラは沈黙する。国宝が手元にあるからこそ、どう返せば怪しまれずにすむのかが分からなかった。 「これは私の憶測に過ぎないが、お前が大事にしているその首飾りがそうなのではないか?」 「違います……!」 「
Mehr lesen

29話

「勘違いするな。私は国宝なんぞに興味はない。私がほしいのはお前の心だ」 「どういうこと?」 「惚れた女の心を欲しがるのは、普通のことだろう? 話を国宝に戻すが、陽の国の首飾りには、豊穣の力が宿ると聞く。実際、お前が宵の国に来てから、毎日少し暑い。陽の国では普通の気温なのだろうが、宵の国では異常だ」 その話は、マリアネラも知っている。豊穣の力はその地を作物にとって程よい気候にしてくれる。宵の国は、他国よりも照射時間が短く、夜が長いせいか、肌寒い日が多い。 「気の所為でしょう」 苦し紛れなのは重々承知だが、焦っているせいか、それ以外に言葉が見つからない。 「気の所為というには、偶然が重なりすぎている」 「どういうことです?」 「我が国の国宝は、先導者の水晶玉。この水晶玉は国の行く末を我々に知らせる。毎年どの作物を植えるかも、先導者の水晶玉が決めるのだ。今年は雨が例年より多いから、それに適した作物を指示してきたというのに、お前が来た日から、陽の光を好む作物を植えるように指示しだした。お前が豊穣の力を宿した首飾りを持っていると考えるのは、当然のことだろう」 「……っ!」 不安が込み上げ、国宝を強く握りしめる。陽の光を吸収した国宝は、マリアネラの指の隙間から光を放つ。その光が、ただの宝石ではないとチェセルに証明してしまった。 「大事に首飾りを握るということは、私の推測が正しいと言っているようなものだ。何度も言うが、私は国宝に興味はない。陽の国ほどではないが、作物は穫れる。山に行けば肉と山菜が穫れ、海に行けば魚と海藻が穫れる。陽の国の特産品がほしければ、輸入する。わざわざ豊穣の力を奪わなくても、宵の国は困らん。だが、夕の国は違う。そうだろう?」(やはり、この方に隠し事はできないわ……) 観念したマリアネラは、こくりとうなずく。「あなたの言う通り、これは国宝です……。御存知の通り、その地に豊穣の力を授けることができます」 「やはりな。まったく、食糧も心も貧しい夕の国には呆れ返るばかりだ」 「お願いがあります」 「お前から願い事とはな。なんだ? なんでも叶えてやるぞ」
Mehr lesen

30話

「いくつかの国に、スパイを送っている。その封筒はスパイを通じて入手した」「スパイを……」 彼の用意周到さに感心するのと同時に、恐ろしさも感じた。もしかしたら、陽の国にもスパイがいたかもしれない。「そんな顔をするな。陽の国には送っておらん。今では送っておけばよかったと、後悔しているがな」「後悔、ですか?」「スパイを送っておけば、もっとお前の好みが知れて、更に快適な部屋を用意できただろう」 身構えていたが、理由を聞いて嬉しくなる。それでもスパイを送られるのは嫌ではある。「それより、開けてみてはどうだ?」「そうですね」 丁寧に開封して中身を出す。それは淡い黄色のスカーフだった。母が好んでよく身に着けていたものだ。「ほう、上質なスカーフではないか」 チェセルはマリアネラの手元にあるスカーフを、興味深そうに見る。最上級のシルクで作られたスカーフは、彼の言う通り、上質なものである。「母のものです……。記念日に、父からもらった大事なものだと言ってました」 マリアネラは母が嬉しそうにスカーフの話をしていたのを思い出しながら、そっとスカーフを撫でる。『あの人ね、このスカーフを見る度に思い出してほしいなんて、キザなこと言ってたのよ』 母は幸せそうに笑いながら、そう離していた「そうか、女王のものか。通りで美しいわけだ。何か挟まっているようだが」「え?」 スカーフを広げると1枚の紙が床に落ちた。チェセルは紙を拾うとマリアネラに手渡してくれる。「ありがとうございます」 ドキドキしながら小さく折りたたまれた紙を広げる。そこには「私達は無事」「どうか生きて」と書かれている。それぞれ、父と母の文字だ。「父上、母上……」 両親への想いが溢れ、紙とスカーフを抱きしめ、涙を流す。チェセルはそっと頭を撫でてくれた。「チェセル、ありがとうございます」「礼はいらん。愛をくれ」「愛って……」 マリアネラは返答に困った。彼に好意を抱き始めているが、愛というほど確かなものではない。何より、ここまで尽くしてくれるチェセルに、偽りの愛を囁くのはあまりにも無礼だ。そんな真似、マリアネラにはできない。「まだその気にはなれんか。まあよい。3日後、夕の国に送り込んだスパイと会うことになっている。それまでに手紙を書いておけば、届けてやらなくもない」「本当に?」「あぁ、私
Mehr lesen
ZURÜCK
12345
CODE SCANNEN, UM IN DER APP ZU LESEN
DMCA.com Protection Status