All Chapters of 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています: Chapter 91 - Chapter 100

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返事

 応募を済ませてから三日後。 佳苗は朝から落ち着かなかった。 理由は分かっている。 メールだ。 応募した会社からの連絡が来るかもしれない。 そう思うだけで。 何度もスマホを確認してしまう。「気になるなら見ればいいだろ」 コーヒーを飲みながら雄吾が言った。 佳苗は苦笑する。「見てるんです」「じゃあ待て」 正論だった。 佳苗は反論できない。 その時。 スマホが震えた。 二人とも視線を向ける。 佳苗の心臓が跳ねた。 画面を見る。 メール。 応募先の会社だった。「えっ」 思わず声が出る。 佳苗は慌ててメールを開いた。 数秒。 画面を見つめる。 そして。「面接です」 顔を上げた。「面接の日程調整だそうです」 雄吾は小さく頷く。「そうか」 いつも通りの反応。 だが。 佳苗にはそれで十分だった。 不採用ではなかった。 まずはそこが嬉しい。「どうしよう」 思わず呟く。「何がだ」「面接です」「そうだな」「緊張します」 すると。 雄吾は少しだけ考えた。 そして。「落ち着け」 と言った。「それができたら苦労しません」 佳苗は即座に返す。 雄吾は珍しく少しだけ笑った。 その日の夜。 佳苗は面接の練習をしていた。 志望動機。 自己紹介。 職歴。 ノートへ書き出してみる。 だが。
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前日の夜

 面接の前日。 佳苗は朝から落ち着かなかった。 参考書を開いても。 テレビをつけても。 何だか集中できない。「……緊張してる」 誰もいない部屋で呟く。 自分でも分かっていた。 面接なんて何年ぶりだろう。 いや。 十年以上かもしれない。 そう思うだけで胃が重くなる。 その日の夕方。 雄吾が帰宅した。「ただいま」「おかえりなさい」 佳苗はソファから立ち上がる。 雄吾はその顔を見るなり言った。「緊張してるな」 佳苗は固まった。「そんなに分かりやすいですか」「ああ」 即答だった。 佳苗は肩を落とす。「面接ですから」 そう言う。 すると。 雄吾は鞄を置きながら答えた。「そうだな」 珍しく否定しなかった。 佳苗は少しだけ安心する。 緊張して当たり前らしい。 夕食の後。 佳苗はノートを見直していた。 志望動機。 自己紹介。 想定質問。 何度も読み返しているうちに。 逆に不安になってくる。「これでいいのかな……」 その時。 向かいの席へコーヒーが置かれた。 雄吾だった。「ありがとうございます」 佳苗はカップを受け取る。 温かい。 少しだけ肩の力が抜けた。「先輩」「何だ」「私、変なこと言ったらどうしましょう」 雄吾は少し考える。 そして。「言うかもしれないな」 真顔で答えた。
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面接

 面接当日。 佳苗は予定より三十分も早く家を出た。 落ち着かなかったからだ。 忘れ物はない。 履歴書もある。 何度も確認した。 それでも不安になる。 電車へ乗る。 目的地へ向かう。 佳苗は膝の上で手を握りしめた。 大丈夫。 そう自分へ言い聞かせる。 その時。 スマホが震えた。 雄吾からだった。『朝飯は食ったか』 佳苗は思わず吹き出しそうになる。 こんな時までそれなのか。 少しだけ緊張が和らいだ。『食べました』 返信する。 数秒後。『ならいい』 いつもの返事。 佳苗は小さく笑った。 やがて。 目的地へ到着する。 ビルを見上げる。 思ったより大きい。 佳苗は深呼吸した。 そして。 中へ入る。 受付を済ませる。 待合スペースへ案内される。 周囲には他の応募者もいた。 みんな自信がありそうに見える。 佳苗は思わず視線を落とした。 その時。 ふと思い出す。『完璧な人間だと思わせに行くのか』 昨夜の雄吾の言葉だった。 佳苗は小さく息を吐く。 違う。 働きたいから来た。 それだけだ。 名前を呼ばれる。 立ち上がる。 会議室へ案内される。 面接官は二人だった。 挨拶をする。 自己紹介をする。 最初は緊張していた。 だが。 話しているうちに少しずつ落ち着いてくる。「応募された理由をお聞かせください」 面接官に尋ねら
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嬉しい知らせ

 面接を終えてから数日後。 佳苗は朝から落ち着かなかった。 スマホを見る。 何も来ていない。 数分後。 また見る。 やはり何も来ていない。「気になるなら通知音を大きくしろ」 コーヒーを飲みながら雄吾が言った。 佳苗は顔を上げる。「そんなに分かりやすいですか」「ああ」 即答だった。 最近。 本当に隠し事ができない。 佳苗は苦笑した。 その時。 スマホが震えた。 佳苗の手が止まる。 画面を見る。 メールだった。 応募先の会社。「え……」 心臓が大きく跳ねる。 佳苗は息を呑んだ。 だが。 すぐには開けられない。 指先が少し震えていた。「どうした」 リビングにいた雄吾が声を掛ける。 佳苗はスマホを見せた。「来ました」 雄吾は画面を見る。 そして。「開けろ」 と言った。「先輩は簡単に言いますね」「中身は変わらん」 正論だった。 佳苗は観念する。 ゆっくりメールを開く。 数秒。 画面を見つめる。 そして。 固まった。 もう一度読む。 見間違いじゃない。「佳苗?」 雄吾が呼ぶ。 佳苗は顔を上げた。「採用です」 声が震えていた。「採用されました」 次の瞬間。 自分でも驚くくらい嬉しくなった。「本当に?」 思わず笑ってしまう。 何度もメールを読み返す。
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ご褒美

 採用通知が届いた翌日。 佳苗は朝から少し浮かれていた。 もちろん。 離婚協議はまだ終わっていない。 資格試験も残っている。 だから。 手放しで喜んでいい状況ではない。 それでも。 嬉しいものは嬉しかった。 その日の夕方。 雄吾が帰宅する。「おかえりなさい」「ああ」 いつものやり取り。 だが。 佳苗は少しだけそわそわしていた。 昨夜の言葉が気になっていたからだ。『週末空けとけ』『採用祝いだ』 あれは本気だったのだろうか。 その時。 雄吾がネクタイを緩めながら言った。「土曜」 佳苗は顔を上げる。「はい」「十時に出る」 佳苗は瞬きをした。「本当に行くんですか」「何だと思ってた」 雄吾は真顔だった。 どうやら冗談ではなかったらしい。 佳苗は思わず笑う。「ありがとうございます」 すると。 雄吾は少しだけ眉を寄せた。「礼を言われることか」「言いますよ」 佳苗は即答した。「採用祝いなんて初めてです」 その言葉に。 雄吾の動きが止まる。「そうか」 短い返事。 けれど。 どこか納得していない顔だった。「普通やらないと思います」 佳苗は苦笑する。 採用された。 それだけだ。 家族ならともかく。 わざわざ祝いの席を設ける人は少ない気がする。 だが。 雄吾は首を横に振った。「やるだろ」「そうですか?」「ああ」
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採用祝い

 土曜日の朝。 佳苗は珍しく目覚ましが鳴る前に目を覚ました。 カーテンの隙間から差し込む光を見ながら、ぼんやりと天井を見上げる。 今日は採用祝いの日だった。 そう思うと、自然と口元が緩む。 まるで遠足を待つ子供みたいだ。 自分でもそう思って苦笑した。 リビングへ向かうと、雄吾はすでに起きていた。 コーヒーを飲みながら新聞を読んでいる。 いつもの光景だ。「おはようございます」「ああ、おはよう」 佳苗はキッチンへ向かいながら尋ねた。「どこへ行くんですか?」「着いてからのお楽しみだ」 即答される。 佳苗は思わず顔をしかめた。「教えてくれてもいいじゃないですか」「つまらないだろ」 そう言われると反論しづらい。 結局、行き先を知らされないまま家を出ることになった。 電車を乗り継ぎ、しばらく移動する。 車窓の景色を眺めながら、佳苗は首を傾げた。「もしかして都内じゃないんですか?」「もう少しだ」 雄吾はそれしか答えない。 やがて駅を降りる。 改札を出たところで、佳苗は目を丸くした。「ここ……」 目の前に広がっていたのは、大きな植物園だった。 色とりどりの花が咲き誇り、休日らしく家族連れやカップルで賑わっている。「前に花を見て喜んでただろ」 雄吾が当然のように言った。「だからここにした」 佳苗は思わず笑った。 覚えていたのだ。 ずっと前に連れてきてもらった時、自分が思った以上にはしゃいでいたことを。「ありがとうございます」 今度は素直に言えた。 園内をゆっくり歩く。 春の花が咲くエリアを抜け、温室へ入る。
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帰り道

 植物園を出た頃には、すっかり夕方になっていた。 西日に照らされた並木道を歩きながら、佳苗は小さく息を吐く。 思った以上に楽しかった。 それが正直な感想だった。 花を見て。 お茶を飲んで。 他愛のない話をする。 ただそれだけの一日だったのに、不思議なくらい心が軽い。「疲れたか」 隣を歩く雄吾が尋ねる。「少しだけです」 佳苗は笑った。「でも楽しかったです」 その言葉に、雄吾は小さく頷く。「ならよかった」 相変わらず短い。 けれど、その言葉にはどこか満足そうな響きがあった。 駅へ向かう途中、佳苗はふと足を止めた。 ショーウィンドウの中に、小さな花のモチーフのブックマーカーが並んでいたからだ。 金属製で、押し花を閉じ込めたようなデザインになっている。「どうした」「綺麗だなと思って」 佳苗はガラス越しに眺める。 資格の勉強を始めてから、本を開く時間が増えた。 こういうものがあると少し楽しいかもしれない。 ただ、それだけだった。 雄吾は値札を見た。 佳苗もつられて見る。 千円もしない。「入るぞ」「え?」 雄吾はそのまま店の扉を開けた。 佳苗は慌てて後を追う。「いや、別に欲しいって言ったわけじゃ」「採用祝いの追加だ」 当然のように言われる。 佳苗は思わず苦笑した。「先輩、それを言えば何でも通ると思ってません?」「思ってる」 即答だった。 結局。 佳苗はそのブックマーカーを買ってもらうことになった。 帰りの電車の中。 小さな箱を膝の上に置いて眺める。 まるで子供みたいだなと思う。
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現実へ

 採用祝いの翌朝。 佳苗はいつもより少し遅く目を覚ました。 休日だったこともある。 だが何より。 久しぶりに心からリラックスできた気がしていた。 ベッドの脇には昨日買ってもらったブックマーカーの箱が置いてある。 佳苗はそれを手に取り、小さく笑った。 こんなことで嬉しくなるなんて。 少し前の自分なら想像もしなかった。 リビングへ向かう。 すると。 雄吾はすでに起きていた。 ノートパソコンを開き、何か作業をしている。「おはようございます」「ああ」 佳苗はキッチンへ向かう。 コーヒーを淹れようとしたところで。 雄吾のスマホが震えた。 ふと画面を見る。 その瞬間、佳苗の表情が少し引き締まった。 送信者は三浦だった。 離婚協議についての案内。 日時と場所が正式に決まったらしい。 佳苗は画面を見つめる。 採用祝いの余韻が一気に消えたわけではない。 だが。 現実へ引き戻された感覚はあった。「来たか」 雄吾が言う。 佳苗は小さく頷いた。「来ました」 雄吾はパソコンを閉じる。 そして。 佳苗の向かいへ座った。「出る必要はない」 開口一番そう言った。 佳苗は少し驚く。「まだ言ってませんよ」「顔に書いてある」 佳苗は思わず苦笑した。 最近本当に読まれてばかりだ。「気になってるんだろ」 佳苗は素直に頷いた。「少しだけ」 離婚したい気持ちは変わらない。 それでも。 悟が何を考えているのかは気になった。 今どうしているのか。 元気なの
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協議の前に

 離婚協議の日まで、あと二日。 佳苗は落ち着かない気持ちを抱えながら問題集を開いていた。 資格試験も近い。 新しい職場への入社日も決まった。 やることはたくさんある。 だから本来なら忙しいはずだった。 それなのに。 気がつくと離婚協議のことを考えてしまう。 ページをめくる手が止まる。 ため息が漏れた。「進んでないな」 声がして顔を上げる。 リビングでは雄吾がパソコンを閉じたところだった。「分かります?」「ああ」 即答だった。 佳苗は苦笑する。 最近、本当に隠し事ができない。「考えるなと言われても無理ですよ」 正直に言う。 すると雄吾は立ち上がり、キッチンへ向かった。 しばらくして戻ってくる。 手にはマグカップが二つあった。 一つを佳苗の前へ置く。「ありがとうございます」 カップを受け取る。 温かい。 少しだけ肩の力が抜けた。「何が気になる」 雄吾が尋ねる。 佳苗は少し考えた。 そして。「悟さんが何を言うのかなって」 ぽつりと答えた。「離婚したくないって言うかもしれないし」 それは十分あり得る。 今までもそうだった。 離婚の話になるたびに拒否されてきた。「責められるかもしれません」 自分でも驚くほど冷静に言葉が出た。 昔なら泣いていたかもしれない。 だが今は違う。 怖いというより。 覚悟を決めようとしている感覚だった。 雄吾はしばらく黙っていた。 やがて。「責められても変わらないだろ」 と言った。 佳苗は顔を
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離婚協議当日

 離婚協議の当日。 佳苗は朝から落ち着かなかった。 時計を見る。 まだ集合時間までは余裕がある。 それでも。 何となく座っていられなかった。 リビングを行ったり来たりする。 キッチンへ行く。 また戻る。 そんなことを繰り返していた。「座れ」 雄吾が言った。 ソファに座りながら新聞を読んでいる。 佳苗は思わず足を止めた。「無理です」「そうか」 雄吾は特に驚いた様子もない。 分かっていたのだろう。 佳苗は苦笑する。 その時。 テーブルの上にマグカップが置かれた。「飲め」「ありがとうございます」 佳苗は受け取る。 温かい。 少しだけ肩の力が抜けた。「先輩」「何だ」「私、変なこと言わないですかね」 雄吾はしばらく考えた。 そして。「言うかもしれないな」 真顔で答える。 佳苗は思わず顔をしかめた。「またですか」「でも問題ない」 続く言葉に顔を上げる。「三浦がいる」 佳苗は少しだけ笑った。 確かにそうだった。 今日は一人ではない。 三浦がいる。 雄吾もいる。 以前とは違う。 そう思うと少しだけ安心できた。 約束の時間が近づく。 佳苗は立ち上がった。 鞄を持つ。 深呼吸をする。 その時だった。「佳苗」 雄吾に呼ばれる。 振り返る。 雄吾はいつもの落ち着いた表情のまま言った。「無理するな」 短い言葉。
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