All Chapters of 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています: Chapter 101 - Chapter 110

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再会

 三浦に案内され、部屋へ入る。 佳苗は静かに息を吐いた。 思っていたより広い部屋だった。 中央にはテーブルと椅子が並んでいる。 まだ相手は来ていないらしい。「こちらへどうぞ」 三浦に促され、席へ座る。 佳苗の隣には雄吾。 向かい側は空席のままだ。 緊張で喉が渇く。 だが不思議なことに。 逃げ出したいとは思わなかった。「大丈夫ですよ」 三浦が穏やかに言う。「今日は私がいますから」 佳苗は小さく頷いた。 その時。 廊下から足音が聞こえた。 ドアが開く。 佳苗の身体がわずかに強張る。 入ってきたのは男性二人だった。 一人は相手方の弁護士。 そしてもう一人。 悟だった。 佳苗は思わず息を呑む。 最後に会った時より痩せていた。 スーツは着ている。 髪も整えている。 だが。 以前のような余裕は感じられない。 悟もまた佳苗を見ていた。 言葉はない。 ただ。 目だけがこちらを見つめている。 三浦が立ち上がった。「それでは始めましょう」 協議は淡々と進んだ。 別居期間。 財産分与。 今後の手続き。 主に話すのは弁護士同士だ。 佳苗は必要な時だけ答える。 悟もほとんど口を開かなかった。 思っていたよりも静かな時間だった。 怒鳴り声もない。 責める言葉もない。 ただ。 結婚生活を終わらせるための話が進んでいく。 それだけだった。 やがて協議は終了した。 三浦と相手方弁護士が今後の流れを確認する。
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帰り道の言葉

 事務所を出たあと。 佳苗はしばらく黙ったまま歩いていた。 三浦は次回の流れについて簡単に説明し、その場で別れた。 残ったのは佳苗と雄吾だけだ。 駅へ向かう道を並んで歩く。 空は薄曇りだった。「疲れたか」 雄吾が尋ねる。 佳苗は少し考えた。「思ったよりは」 それが正直な感想だった。 もっと辛いと思っていた。 もっと苦しくなると思っていた。 けれど。 実際は違った。「怒られませんでしたし」 佳苗が言うと。 雄吾は小さく息を吐いた。「怒る理由がないだろ」「悟さんはそう思ってないかもしれません」 つい口にしてから。 佳苗は首を振った。「いえ、違いますね」 自分で否定する。 雄吾は何も言わない。 続きを待っていた。「前ならそう考えてたんです」 佳苗は歩きながら言う。「悟さんが怒るのは私が悪いからだって」 少し笑う。 今思うと不思議だった。 どうしてあんなふうに考えていたのだろう。「でも今日は」 佳苗は空を見上げる。「そう思いませんでした」 悟は怒らなかった。 責めもしなかった。 そして佳苗も。 必要以上に怯えなかった。 それだけのことなのに。 大きな変化だった。「先輩」「何だ」「悟さん、痩せてましたね」 ぽつりと呟く。 雄吾は少し考えた。「そうだな」 短い返事。 佳苗もそれ以上は言わなかった。 心配しているわけではない。 未練があるわけでもない。 ただ。
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区切り

 離婚協議から数日後。 佳苗は少しずつ普段の生活を取り戻していた。 資格の勉強をする。 入社の準備をする。 家事をする。 忙しいはずなのに、不思議と気持ちは落ち着いている。 あの日。 悟と会ったことが大きかったのかもしれない。 佳苗はそう思った。 会えば揺らぐかもしれない。 苦しくなるかもしれない。 そう考えていた。 だが実際は違った。 終わったのだと実感しただけだった。 その日の夕方。 佳苗は新しい職場へ着ていく服を見に出掛けていた。 派手すぎず。 地味すぎず。 事務職らしい服装。 鏡の前でジャケットを羽織る。「どうかな……」 小さく呟く。 悪くはない。 けれど。 どこかしっくり来ない気もする。 その時だった。 スマホが震える。 雄吾からだった。『終わったか』 佳苗は思わず笑った。 まるで保護者である。『まだです』 返信する。 すると。『写真』 短い。 本当に短い。 佳苗は苦笑しながら鏡越しに一枚撮った。 送信する。 数分後。 返信が来る。『それでいい』 佳苗は画面を見つめる。『理由は?』 送る。 すぐに返事が来た。『普通だから』 佳苗は吹き出した。「褒めてるのかな……」 多分褒めているのだろう。 雄吾なりに。 買い物を終え。 マンションへ戻る。 リビングには雄吾がいた。
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初出勤前夜

 入社日の前日。 佳苗は朝から何となく落ち着かなかった。 何度も時計を見る。 明日の持ち物を確認する。 バッグの中を見る。 また確認する。 自分でも少し呆れてしまう。「遠足前の子供か」 リビングから声がした。 佳苗は思わず振り返る。「先輩まで言うんですか」 雄吾は新聞から目を上げる。「三回見たぞ」「四回です」 訂正すると。 雄吾は少しだけ笑った。 佳苗はバッグを抱えたままソファへ座る。「緊張するんです」 正直に言った。 採用された時は嬉しかった。 今も嬉しい。 でも。 実際に働くとなると話は別だった。「失敗したらどうしようとか」「するだろ」 即答だった。 佳苗は目を丸くする。「そこは大丈夫って言うところでは?」「初日から失敗しない人間はいない」 雄吾は平然と言う。「俺もした」 佳苗は少し驚いた。 雄吾が失敗するイメージがあまりない。「先輩でも?」「ああ」「何をしたんですか?」 尋ねると。 雄吾は少しだけ考えた。「書類を別の部署に送った」「普通ですね」「十分怒られた」 佳苗は吹き出した。 何だか少し安心する。 完璧に見える人でも失敗するのだ。「だから」 雄吾はコーヒーを口に運ぶ。「最初は覚えて帰ればいい」 その言葉に。 佳苗は肩の力を抜いた。 そうかもしれない。 完璧を目指さなくていい。 まずは慣れることだ。 ◇◆◇
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初出勤

 初出勤の朝。 佳苗は目覚ましが鳴る前に目を覚ました。 時刻はまだ六時前。 いつもなら二度寝する時間だ。 だが今日は無理だった。 緊張している。 自分でもよく分かった。 ベッドから起き上がる。 カーテンを開ける。 朝の光が部屋へ差し込んだ。「よし」 小さく呟く。 洗面所へ向かう。 髪を整える。 メイクをする。 新しく買ったジャケットを羽織る。 鏡の前へ立った。 少しだけ。 社会人らしく見える気がした。 リビングへ向かう。 すると。 雄吾はすでに起きていた。 コーヒーを飲みながら新聞を読んでいる。「おはようございます」「ああ」 雄吾は顔を上げる。 そして。 一瞬だけ佳苗を見る。「似合ってる」 佳苗は目を瞬いた。「え?」「服」 それだけ言う。 佳苗は思わず笑った。「ありがとうございます」 何だか少し照れる。 朝食を食べる。 緊張しているせいか、あまり食欲はなかった。 それでも。 雄吾の視線を感じて無理やり食べる。「ちゃんと食え」 案の定だった。「食べてます」「少ない」 佳苗は苦笑する。 初出勤の日までこれである。 やがて出発の時間が来た。 バッグを持つ。 昨日もらったボールペンも入っている。 玄関へ向かう。 靴を履く。 その時だった。「佳苗」 雄吾に呼ばれる。 振り返る。 雄吾は壁にもたれながらこちら
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お疲れさま

 初出勤を終えた頃には、佳苗はすっかり疲れていた。 覚えることが多かった。 人の名前もまだ一致していない。 パソコンのシステムも慣れない。 それでも。 思っていたほど失敗はしなかった。 定時になり、佳苗は小さく息を吐く。「終わった……」 思わず呟く。 周囲では社員たちが帰り支度をしていた。 佳苗も慌てて荷物をまとめる。 挨拶をして会社を出る。 外へ出た瞬間。 肩の力が抜けた。 緊張していたのだと改めて気づく。 駅へ向かう途中。 スマホを取り出した。 少し迷う。 だが結局メッセージを送った。『初日終わりました』 送信する。 すると。 珍しくすぐに返信が来た。『お疲れ』 短い。 だが。 佳苗は少し嬉しくなる。『思ったより大丈夫でした』 送る。 数秒後。『そうか』 やっぱり短い。 佳苗は苦笑した。 マンションへ戻る。 玄関のドアを開ける。「ただいま帰りました」「ああ」 リビングから声が返ってくる。 その瞬間。 佳苗はほっとした。 家に帰ってきたのだと実感する。 荷物を置く。 靴を脱ぐ。 そしてソファへ座った。「疲れたか」 雄吾が聞く。「疲れました」 佳苗は即答した。 雄吾は少しだけ笑う。「正直だな」「無理です」 佳苗は天井を見上げた。「何かもう、頭がいっぱいです」 会社の説明。 社員の名前。
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少しずつ

 初出勤から一週間が過ぎた。 佳苗はようやく朝の支度にも慣れ始めていた。 最初の頃は出発の一時間前には準備を終えていたのに、今では余裕を持ちながら朝食を食べられるようになっている。 もちろん。 仕事そのものはまだ慣れない。 覚えることは多いし、分からないことも山ほどある。 それでも。 会社へ行くことが苦痛ではなかった。「おはようございます」 出勤すると、隣の席の女性が笑顔で挨拶してくれる。「おはよう、佳苗さん」 そのやり取りだけで少し安心する。 職場の人たちは思っていたより親切だった。 質問をしても嫌な顔をしない。 失敗しても頭ごなしに叱られない。 佳苗にとっては、それだけでも驚きだった。 昼休み。 社員食堂で一人昼食を取っていると、同じ部署の女性が声を掛けてきた。「ここ、いい?」「もちろんです」 佳苗は慌てて頷く。 女性は笑顔で向かいへ座った。「少し慣れた?」「まだまだです」 佳苗は苦笑する。「毎日、新しいことばかりで」「最初はみんなそうだよ」 女性は気軽に言った。「私なんて入社初日にコピー機壊したし」 佳苗は思わず吹き出した。「本当ですか?」「本当」 女性も笑う。 何だか気持ちが軽くなった。 失敗するのは自分だけじゃない。 当たり前のことなのに、最近まで忘れていた気がする。 その日の夕方。 帰宅した佳苗はソファへ腰を下ろした。「ただいまです」「ああ」 雄吾はいつものようにリビングにいた。「今日はどうだった」 最近は毎日のように聞かれる。 佳苗は少し考えた。「今日は電
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変化

 入社して二週間が過ぎた頃。 佳苗は少しずつ職場にも馴染み始めていた。 まだ分からないことは多い。 それでも。 毎日緊張で胃が痛くなることはなくなった。 電話対応も慣れてきた。 来客対応も何とかこなせる。 書類整理も以前より早くなった。 小さなことばかりだ。 けれど。 佳苗にとっては大きな変化だった。「佳苗さん」 午後。 上司に呼ばれる。「はい」「この資料、まとめてもらえる?」「分かりました」 佳苗は資料を受け取った。 少し前なら。 こんな頼まれ方をするだけで緊張していた。 失敗したらどうしよう。 迷惑をかけたらどうしよう。 そんなことばかり考えていた。 だが今は違う。 もちろん不安はある。 けれど。 分からなければ聞けばいい。 そう思えるようになっていた。 その日の帰り道。 佳苗は駅前の本屋へ立ち寄った。 資格試験の参考書を探すためだ。 棚の前で本を選ぶ。 気がつけば三十分近く経っていた。「これにしようかな」 手に取った一冊をレジへ持っていく。 以前なら。 こういう買い物にも少し躊躇していた。 自分のためにお金を使うことに慣れていなかったからだ。 けれど。 今は違う。 必要なものだと思えた。 だから迷わなかった。 マンションへ戻る。「ただいまです」「ああ」 雄吾はソファで書類を読んでいた。 佳苗は紙袋を掲げる。「参考書買いました」「そうか」「資格試験、ちゃんと受けようと思って」
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思わぬ誘い

 金曜日の夕方。 佳苗はようやく一週間の仕事を終えた。 まだ二週間ほどしか働いていないのに。 金曜日がこんなに嬉しいとは思わなかった。「お疲れさま」 隣の席の女性が声を掛けてくれる。「お疲れさまです」 佳苗も頭を下げた。 帰り支度を始めようとした時だった。「あの」 声を掛けられる。 振り返ると、同じ部署の女性が少し申し訳なさそうな顔をしていた。「来週、歓迎会をやるんだけど」 佳苗は目を瞬く。「歓迎会?」「うん。佳苗さんと、もう一人中途で入った人の歓迎会」 佳苗は少し戸惑った。 歓迎会。 そういうものに参加したのはいつ以来だろう。「もちろん無理なら大丈夫なんだけど」 女性は慌てて付け加える。「参加できそうかな?」 佳苗は少し考えた。 以前なら。 断っていたかもしれない。 人付き合いは苦手だ。 知らない人ばかりの場所も得意ではない。 けれど。「参加します」 気がつけばそう答えていた。 女性はぱっと笑顔になる。「よかった!」 佳苗もつられて笑った。 その笑顔を見ていると。 断らなくてよかった気がした。 帰宅後。 佳苗はいつものようにリビングへ向かった。「ただいまです」「ああ」 雄吾はソファで資料を読んでいた。 佳苗はバッグを置きながら言う。「歓迎会に誘われました」 雄吾が顔を上げる。「歓迎会?」「会社のです」 佳苗はコートを脱ぎながら続けた。「来週あるらしくて」「行くのか」「はい」 答えてから。
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歓迎会の夜

 歓迎会当日。 朝から佳苗はどこか落ち着かなかった。 仕事には少しずつ慣れてきた。電話応対も、簡単な事務作業も、最初の頃ほど緊張せずにこなせるようになっている。 けれど、歓迎会となると話は別だ。 仕事中なら会話にも目的がある。何を話せばいいのかも分かる。 だが、仕事を離れた場となると自信がなかった。 朝食の席でそんなことを考えていると、不意に雄吾が口を開いた。「顔が硬いな」 佳苗は思わず頬に手を当てる。「そんなにですか?」「ああ」 迷いのない返事だった。「歓迎会だろ」 図星を突かれ、佳苗は苦笑する。「分かってるなら聞かないでください」 そう言うと、雄吾はコーヒーを飲みながらわずかに口元を緩めた。「仕事じゃないんだ」 その声音はいつも通り落ち着いている。「失敗しても死なない」「先輩、それ好きですね」「便利だからな」 真顔で返され、佳苗は思わず吹き出した。 それだけで少し肩の力が抜ける。 こういう何気ないやり取りにも、最近は随分助けられている気がした。 仕事を終えたあと、佳苗は歓迎会の会場へ向かった。 駅前の居酒屋にはすでに何人か集まっていて、店の奥から声が飛んでくる。「佳苗さん、こっち!」 顔見知りの女性社員が大きく手を振っていた。 その姿を見た瞬間、胸の中にあった緊張が少し和らぐ。 席に着き、乾杯が始まる。 最初はぎこちなかった会話も、料理が運ばれてくる頃には自然に続くようになっていた。「佳苗さんってもっと静かな人かと思ってた」 隣に座った女性が笑いながら言う。「そうですか?」「うん。でも話してみると全然違う」 佳苗は少し照れた。 そんなふうに言われたのは久しぶりだった。 仕事の
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