เข้าสู่ระบบ面接の前日。
佳苗は朝から落ち着かなかった。
参考書を開いても。
テレビをつけても。
何だか集中できない。
「……緊張してる」
誰もいない部屋で呟く。
自分でも分かっていた。
面接なんて何年ぶりだろう。
いや。
十年以上かもしれない。
そう思うだけで胃が重くなる。
その日の夕方。
雄吾が帰宅した。
「ただいま」
「おかえりなさい」
佳苗はソファから立ち上がる。
雄吾はその顔を見るなり言った。
「緊張してるな」
佳苗は固まった。
「そんなに分かりやすいですか」
「ああ」
即答だった。
佳苗は肩を落とす。
「面接ですから」
そう言う。
すると。
パーティーからの帰り道。 車の中で、佳苗はほとんど話さなかった。「佳苗」「はい?」「さっきの話、気にしてるだろう」「……少しだけ」 嘘をついても、もう雄吾には分かってしまう。「でも、昔の話ですから」 佳苗は笑おうとした。「雄吾さんと一条さんが婚約していたわけじゃないことも、ちゃんと分かっています」「ああ。一度もない」「はい」 はっきり否定してくれる。 それだけで十分なはずだった。 それでも、胸のもやは消えなかった。 絢子だけがそう思っていたわけではない。 周囲の人たちも。 そしておそらく、雄吾の母親も。 二人がお似合いだと思っていた。「それに……」 佳苗は小さく呟く。「一条さん、本当に距離を置いていましたね」「……そうだな」「私のせいですよね」「違う」 雄吾は即座に否定した。「でも――」「佳苗が気にすることじゃない」 雄吾の声は強かった。「俺が絢子に言ったんだ。佳苗には関係ない」「……はい」 それ以上、佳苗は何も言えなかった。 ◇ マンションへ戻ってしばらくした頃。 雄吾のスマートフォンが鳴った。 画面を見た雄吾が、わずかに眉を上げる。「母さん?」 その言葉に、佳苗の身体が固まった。 雄吾は気づかないまま電話に出る。「もしもし」『雄吾? 今いいかしら』「ああ」『今日、パーティーに出ていたでしょう?』「出てたけど」『あなたに恋人がいるって聞いたのよ』
数日後。 雄吾は佳苗を伴い、取引先企業の創立記念パーティーへ出席していた。「緊張してる?」 会場へ入る前、雄吾が尋ねる。「少しだけ」 佳苗は笑って答えた。 以前ほどではない。 何度か雄吾とこうした場所を訪れるうちに、少しずつ雰囲気にも慣れてきた。 ただ――。 今日は別の意味で落ち着かなかった。(もしかしたら、一条さんも……) そう思った直後だった。「榊原さん」 年配の男性に声を掛けられ、雄吾が足を止める。「ご無沙汰しております」 雄吾が挨拶を返す。 佳苗も隣で頭を下げた。 そのとき。 少し離れた場所に、見覚えのある女性の姿が見えた。(……一条さん) 絢子だった。 淡い色のドレスをまとい、数人の招待客と談笑している。 相変わらず美しく、華やかな場所がよく似合っていた。 やがて絢子もこちらに気づいた。 目が合う。 佳苗は反射的に笑顔を浮かべた。 けれど――。 絢子は遠くから軽く会釈をしただけだった。「……」 そして、そのまま別の招待客との会話へ戻ってしまう。 胸がちくりと痛んだ。 以前なら、笑顔でこちらへ来てくれたのに。『私から少し距離を置くことにするわ』 本当に、その通りにしているのだ。 ◇ しばらくして、雄吾も絢子に気づいた。「絢子」 ちょうど近くを通りかかった絢子へ声を掛ける。 絢子が足を止めた。「雄吾さん」 以前と変わらない笑顔。 けれど、どこかよそよそしい。「久しぶりだな」「ええ」
「絢子と二人で会うのは、しばらくやめてくれ」 雄吾の言葉に、佳苗は戸惑いながら頷いた。「……分かりました」「佳苗を責めているわけじゃない」「はい」 分かっている。 雄吾は自分を心配しているのだ。 それでも、胸の奥には別の感情が生まれていた。(私が話したから……) 雄吾と絢子は、子供の頃からの付き合いだ。 家族同士も親しい。 そんな二人の関係に、自分が割って入ってしまったような気がした。「雄吾さん」「ん?」「一条さんを、あまり責めないでくださいね」 雄吾が眉を寄せる。「佳苗」「だって、本当に悪気はなかったのかもしれません」「……」「私が気にしすぎただけかもしれないから」 雄吾は何か言おうとした。 けれど結局、小さく息を吐いただけだった。「分かった」 その答えに、佳苗は少しだけ安心した。 ◇ 翌日。 雄吾は仕事の合間にスマートフォンを手に取った。 連絡先から絢子の名前を選ぶ。 電話はすぐにつながった。『もしもし、雄吾さん?』「少し話がある」『どうしたの?』「佳苗に、俺たちの昔の話をいろいろしたそうだな」 一瞬の沈黙。『……ええ』「母のことも」『もしかして、佳苗さんが気にしていたの?』「絢子」『ごめんなさい』 雄吾が続けるより早く、絢子が謝った。『そんなつもりじゃなかったの。本当に』「……」『佳苗さんが昔のあなたのことを知りたいって言ってくれたから、嬉しくなって
『ずっと誰かを守り続けるのは、とても大変なことだから』 佳苗は何度もその文章を読み返した。 悪意のある言葉ではない。 少なくとも、表面上は。 絢子はきっと、自分が自立しようとしていることを応援してくれている。 それなのに。(雄吾さんは……私を守ることに疲れているの?) そんな考えが浮かんでしまう。 佳苗は慌ててスマートフォンを伏せた。「違う……」 雄吾はそんなことを一度も言っていない。 迷惑そうな顔をされたことだってない。 むしろ、いつも自分を大切にしてくれている。 分かっている。 分かっているのに――。「佳苗?」「……っ」 突然声を掛けられ、佳苗は肩を震わせた。 振り返ると、風呂から上がった雄吾が立っている。「どうした?」「何でもありません」 佳苗は反射的に答えた。 雄吾の視線が、伏せられたスマートフォンへ向かう。「誰かから連絡か?」「一条さんです」「絢子?」「はい。今日のお礼を……」「そうか」 雄吾は佳苗の隣へ腰を下ろした。 その距離が近い。 いつもなら安心するはずなのに、今は絢子の言葉が頭から離れなかった。「雄吾さん」「ん?」「私……」 佳苗は膝の上で両手を握った。「最近、一人でできることが増えたと思いませんか?」 唐突な質問だった。 雄吾は少し驚いたようだったが、すぐに頷く。「ああ」「仕事も始めて、お給料もいただけるようになって」「ああ」「少しずつですけど、自分のことは自
「ただいま」 雄吾の声が聞こえる。 佳苗はようやく立ち上がった。「……おかえりなさい」 リビングへ入ってきた雄吾が、佳苗を見て足を止める。「どうした?」「え?」「元気がない」 すぐに気づかれてしまった。「そんなことないですよ」「そうか?」「はい」 佳苗は笑ってみせる。「今日は一条さんとお買い物に行って、少し歩き疲れただけです」「絢子と?」「はい。この前、誘っていただいて」 雄吾はジャケットを脱ぎながら頷いた。「そうだったのか」「とても素敵なお店に連れていっていただきました」「何か買ったのか?」「私は何も」 佳苗は苦笑する。「私にはまだ少し高くて」「そうか」「一条さんはドレスを買っていました。とても似合っていて……」 そこまで話したところで、佳苗は口を閉じた。 絢子が言っていた。 雄吾の母親も好きな色なのだと。 そのことを話そうとして、やめた。「佳苗?」「何でもありません」 雄吾はしばらく佳苗を見つめる。「絢子に何か言われたのか?」 心臓が跳ねた。「どうしてですか?」「この前、絢子と会ったあとも様子がおかしかった」「……」「今日も同じだ」 佳苗は視線を逸らした。「何も言われていません」 嘘ではない。 絢子は何も酷いことなど言っていない。 仕事を応援してくれた。 一人でも歩いていけるようになると言ってくれた。 雄吾の昔の話を教えてくれた。 ただ、それだけだ。「
「佳苗さん、お待たせ」 試着室から出てきた絢子を見て、佳苗は思わず息を呑んだ。「……すごくお似合いです」「本当?」「はい。とても綺麗です」 深い色合いのドレスは、絢子の華やかな顔立ちによく似合っていた。 店員も笑顔で頷く。「一条様にぴったりでございます」「じゃあ、これにしようかしら」 絢子は鏡の前で一度確認すると、迷うことなく購入を決めた。 その姿を見ながら、佳苗は先ほど絢子が言っていたことを思い出す。『雄吾さんの隣に立つって、案外大変なの』 確かにそうなのかもしれない。 絢子なら、こういう場所でも戸惑うことはない。 パーティーへ行っても堂々としている。 雄吾の仕事関係の人とも自然に話せる。 雄吾の家族とも昔から親しい。 自分とは、あまりにも違った。 ◇ 買い物を終えたあと、二人は近くのカフェへ入った。「今日は付き合ってくれてありがとう」「いえ。私も楽しかったです」「本当に?」「はい」 それは嘘ではなかった。 絢子と過ごす時間そのものは楽しい。 話題も豊富で、気遣いもできる。 嫌いになる理由など一つもなかった。「佳苗さんは優しいのね」「そんなこと……」「雄吾さんが放っておけなかったのも分かる気がする」 また、その言葉だった。 佳苗の胸が小さくざわつく。「……一条さん」「なあに?」 少し迷ってから、佳苗は尋ねた。「雄吾さんって、昔から女性に優しかったんですか?」「そうね……」 絢子は少し考える。「誰にでも愛想がいい人ではなかったわ」
ホテルへ入る佳苗と雄吾。 暗い夜道で撮られたはずなのに、驚くほど鮮明だった。「……どうして」 佳苗の指先が震える。 まるで誰かに見張られていたみたいだった。『ねぇお姉ちゃん』『その人、誰?』『もしかして浮気?』 次々届くメッセージ。 佳苗は顔を青ざめさせた。 浮気。 その言葉に胸が痛む。 裏切っていたのは悟たちの方なのに、なぜ自分が責められなければいけないのだろう。「見せろ」 雄吾が静かにスマホを受け取る。 メッセージ画面を見た瞬間、その目が冷えた。「……なるほど」「先輩」「撮られていたな」 低い声。 感情を押し殺したような響き。「どうしよう……」
「俺は昔から、お前しか欲しくない」 低い声が耳元で響く。 佳苗は息を呑んだ。 車内の空気が熱い。 逃げ場がない。 雄吾の視線は真っ直ぐで、冗談の気配なんて微塵もなかった。「……先輩」 喉が震える。 理解が追いつかない。 昔から? ずっと? そんなはずない。 自分は特別な人間じゃない。 妹みたいに愛嬌があるわけでも、美人なわけでもない。 ただ都合よく利用されるだけの女だった。「信じられないか」 雄吾が静かに言う。 佳苗は答えられなかった。 すると雄吾は小さく息を吐き、身体を離す。「まあいい」「え……」「今すぐ答えを求める気はない」 その言葉に、佳苗は
もう二度と、お前をあいつらのところへ戻したりしない。 その言葉が、佳苗の胸に重く落ちる。「……どうして」 気づけば口にしていた。 雄吾が視線を向ける。「どうして、そこまでしてくれるんですか」 本当に分からなかった。 大学時代、少し関わりがあっただけ。 卒業後は一度も会っていない。 それなのに、この男は突然現れて、自分を助けると言う。 しかも、まるで最初から全部知っていたみたいに。「昔世話になった」 雄吾は短く答えた。「レポート、覚えてるか」 佳苗は目を瞬く。 大学二年の頃。 雄吾が長期入院していた時期があった。 単位が危ないと聞いて、佳苗は講義ノートをまと
「やっと捕まえた」 耳元で囁かれた低い声に、佳苗の心臓が大きく跳ねた。 捕まえた。 その言葉は、優しいのにどこか危険だった。「榊原、先輩……?」 佳苗が戸惑う中、雄吾は佳苗の手首を掴んだまま、ゆっくり顔を上げる。 その視線の先には、こちらへ歩いてくる悟がいた。「佳苗!」 苛立った声。 悟は佳苗を見るなり、露骨に顔をしかめた。「何やってんだよ」 だが次の瞬間、雄吾の姿に気づき、動きが止まる。「……誰?」 警戒した声音。 雄吾は答えない。 ただ静かに佳苗の前へ立った。 庇うように。 その背中の広さに、佳苗は息を呑む。「佳苗、こっち来い」 悟が手を伸ばす。