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第37話……グラストヘイム要塞戦

last update publish date: 2026-06-10 15:23:04

 グラストヘイム要塞内・司令部。

 巨大な作戦円卓の中央で、淡く青白いホログラムが踊っていた。

 第六総管区艦隊の編隊が、まるでじりじりと獲物ににじり寄る狼のように描かれている。

 この要塞の指揮官は、カタコン上級大将。

 銀髪を撫でつけ、片眼鏡越しに戦況を見据える老将であり、爵位は男爵家当主。

 帝国への忠誠は厚く、無駄口を嫌うことで知られた人物であった。

「第六総管区の艦艇群、射程距離に入りました!」

 情報将校が声を上げる。

 だが老将カタコンは、わずかに顎を引いて肯定しただけであった。

「敵、ビーム砲撃開始! 着弾まで二秒!」

 報告と同時に、艦橋全体が青い光に包まれる。

 数百条のビームが要塞外郭に突き刺さった。

 だがその多くは、濃密なガス雲を潜る過程で減衰し、さらに液体金属層に反射されることで力を削がれていく。

「敵、ミサイル艦群が前進!」

 ビーム砲艦列が後退し、代わって腹部に巨大な弾頭を抱えたミサイル艦の戦列が前へ。

 参謀たちは息を呑む。

 数百隻規模の巨大ミサイルでの飽和攻撃は、いかなる巨大構造物といえど無視できなかった。

「敵、ミサイル発射!」

「うむ」

 老将カタコンはゆっくりと立ち上がり、静かに宣告した。

「逆徒を塵と化す刻ぞ。重力制御装置へ電力供給開始」

「供給開始! 電力網最大負荷!」

 要塞内部の巨大な電力網がうなりをあげ、液体金属の海が引き潮のように沈んでいく。

 その奥から現れたのは、常識外れの巨砲――。

「要塞砲ギガント、砲口露出完了!」

 ガス雲が中心に向かって収束し、巨大な台風の渦のように外へ巻き上がっていく。

 渦の中心だけが晴れ渡り、射線が開いた。

「制御第二段階へ!」

「了解! 射線確保!」

 老将カタコンは剣の柄を握るように手を背に回し、声を発した。

「帝国万歳。反乱軍へ――最後の慈悲を与えよ」

 ごくり、と誰かが息を呑む。

「ギ、ギガント砲――斉射!!」

◇◇◇◇◇

 周囲の宙域が、瞬間的に真白へと塗りつぶされた。

 閃光は超新星爆発を想わせ、要塞内部の主センサーにさえ飽和エラーを走らせる。

 うねるエネルギーの奔流が、敵艦隊右翼を直撃した。

 艦艇の外殻は剥がれ、艇体は波に呑まれる流木のように千切れ飛ぶ。

 そして、押し流された残骸が爆ぜ、火花を散らしながら暗黒空へ鋳物のように散っていった。

「……め、命中確認」

 報告の声が震えていたのは、

 敵を憐れんだのではなく――

 この巨砲の威を、改めて知ったからであった。

◇◇◇◇◇

「敵艦隊へ命中確認!」

「……す、推定撃破二百隻以上、詳細は不明!」

 各艦の標準乗員は約二百。

 さらに惑星攻撃を前提に地上戦力まで積載している。

 つまり今の一撃で、訓練を施された五万余のベテラン兵が痕跡もなく吹き飛ばされたという計算になる。

 司令部に張り詰めた空気の中、老将カタコンが低く命じた。

「砲身冷却を急げ。敵の反撃が来る。防御スクリーン再構築」

「了解!」

「各変電所へ指示伝達!」

 再び要塞の外殻に液体金属の海が満ち、先ほど開いていた巨大な「渦の目」も厚いガス雲の嵐に覆われて閉じていく。

「敵砲撃、着弾!」

「複合セラミック装甲の被害――軽微!」

 安堵しかけたその時、復旧した視界に異様な光景が飛び込んだ。

 それは数千にも及ぶ氷を帯びた岩塊群――

 小惑星の欠片を民間から徴発した艦艇で牽引し、加速させ、巨大投石機(カタパルト)さながらに撃ち出したものだった。

「なんと……」

 大小無数の岩塊は、濃密なガス雲に揉まれながら落下し、液体金属層に激しく「着水」。

 その瞬間、要塞表面に巨大な金属津波を生み出した。

 その猛威は浮遊砲台や気圏戦闘機用の洋上基地を吹き飛ばし破壊した。

 そして大質量の暴威は、液層を乱し、周囲を泡立たせ、金属液体層の底部の複合セラミック装甲に大きな衝撃を与える。

「セラミック複合装甲、損害軽微!」

「第二派来ます!」

 さらに、次の岩塊群が着弾。

 また液体金属の海が大きく波立ち、電磁層などが揺らぐ。

「損害軽微!」

「第三派、第四派接近!」

 それは決定打とは言えない攻撃だった。

 しかしハルダー元帥の狙いは要塞を砕くことではなく――要塞側が防御スクリーンを解いて反撃に移れないよう封じ続けることだった。

 老将カタコンは唇を引き結び、参謀に問うた。

「敵は愚策に見えて愚策にあらずか……」

 参謀は悔しげに答える。

「はっ。スクリーンを下ろせば第二撃のミサイル飽和が待ち構えております。下ろせませぬ……!」

 こうして、要塞側は攻撃能力を温存したまま反撃不能。

 一方の第六総管区艦隊も決め手を欠くようで、艦列を維持したまま時間が過ぎていったのだった。

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