Alle Kapitel von 婚約破棄されたあとに再会した幼なじみからの溺愛が止まりません: Kapitel 91 – Kapitel 100

126 Kapitel

第九十一話 小さな箱と道具箱

 直哉が警察に連行された翌日、澪は一度家に帰って着替えてから出社した。すると、同僚たちは澪と仁のことをしきりに聞きたがった。もうすっかり公認の仲になっているのだが、自分の気持ちを半分ほど仁に伝えてしまった今となっては、同僚たちの反応がこそばゆい。「結婚式はいつですか?」 そんなことを聞かれて、ほおが熱くなる。「いえ、そんな……」 プロポーズどころか、まだ付き合ってもいない。澪が返事を保留しているからだ。「高宮社長って普段、どんな感じなんですか?」 外見はチャラそうに見えるが、実はとても真面目で一途だ。「まあ、真面目な人ですよ」「いいなー! 真面目でかっこよくて仕事もできて。もうスパダリですね」「はあ……まあ」 まだ恋人にもなっていない相手のことを、これほど話すことになるなんて。でも、それも悪くないと思える自分がいた。  その日の仕事終わりに、仁とともに警察へ行き、事情聴取を終えた。 警察署の前で「じゃあね」と手を振り、その場を後にしようとしたとき、仁に「澪」と呼び止められた。「どうしたの?」「あ……いや」 仁は視線をさまよわせ、なんだか落ち着かない様子だった。「いや、明日の打ち合わせよろしくな」 なんだ、そんなことか。澪はおかしくなって、ふふふと笑った。「もちろん。こちらこそよろしくお願いします、高宮社長」 からかうように言うと、思わずふたりで吹き出した。 今度こそ手を振って、その場を後にする。互いに背を向け、別々の方向へ歩いていく。お互いの気持ちを知った今となっては、大きな不安はない。まったく不安がないわけではないが、ちょっとしたことで気持ちが揺らがなくなったのは確かだ。 また明日、仕事で会うことができる。 プライベートで会うわけではなく、仕事で会うだけだ。たったそれだけなのに、体の芯がじんわりとあたたま
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-30
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第九十二話 今度はあたしがあなたを調べる番

 練り香水を作るのは、それほど難しくはない。広い範囲に塗るものではないため、スキンケアほど肌質を重視しなくてもいいからだ。 けれど、肌に触れるからには、使う人の肌質をきちんと知っておきたい。 さて、どうしたものか……。 直接聞くのが一番早い。けれど、そんなことを聞いたら、「なんでそんなことを気にするんだ」と返されるに決まっている。嘘が下手な澪のことだ。きっと、すぐにボロを出してしまう。 澪はスマホで仁のSNSアカウントがないか検索した。ダーマコードの公式アカウントはヒットするのに、個人のアカウントはヒットしない。本名で登録していない可能性は高い。下の名前やローマ字など、考えられるものはすべて試した。けれど、どれも仁のアカウントではなかった。 こうなったら、本人に直接聞くしか――。 そう考えて、ふと頼れそうな人の顔が浮かんだ。 真壁なら、仁のアカウントや好みを知っているかもしれない。 次回の打ち合わせでこっそり聞いてみよう。 澪のほおは自然とゆるんだ。  次のダーマコードでの打ち合わせの日、会議室に行くと、真壁はすでにそこにいた。「お疲れさまです、真壁さん」「朝倉さん、お疲れさまです」「高宮社長はまだですか?」「それが、今は少し急ぎの案件があるとのことで……。先に打ち合わせをしておいてくれと言われています」 それを聞いて、澪は胸の中でガッツポーズをした。「それでは始めましょうか」 真壁に促されて席につき、雑談のような調子で口を開いた。「真壁さん、高宮社長って個人のSNSアカウントはお持ちじゃないんですか?」「あー、そうですね。昔はアカウントを作っていましたが、今は動かしてないんじゃないですかね。ほとんど見るだけでしたし」「そのアカウントで投稿したりしていましたか?」「うーん」 真壁は顎に手をやった。「確か、たまに試作品に
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-01
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第九十三話 母たちの回線

 急に実家へ電話をしたのに、母は明るく応じてくれた。『あら、澪。元気?』 からりと明るい母の声は、いつも澪を元気にしてくれる。「うん、元気。今、大丈夫?」『大丈夫よ。なにかあったの?』 普段から、実家にはほとんど電話をしない。メッセージもあまり送らない。だから急に連絡があれば、なにかあったのかと心配するのも当然だ。「たいしたことじゃないんだけどさ。お母さん、覚えてるかな? 小さいころ、仁があたしに花束をくれたの」 母は「うーん」とうなってから、しばらく黙り込んだ。そして、「あー」と声を上げた。『そういえば、そんなことあったわね』 よかった。母が覚えているのなら、あの花の名前もわかるかもしれない。『それがどうかしたの?』「その花の名前、わかる?」『ああ、あれ? シロツメクサよ。あなたたち、春先はいつも原っぱで花冠を作ったりして遊んでたでしょう? ああ、でも、あれを持って帰ってきたのは秋だったかしら? シロツメクサは花の時期が長いからねぇ。秋はあの辺にキンモクセイも植わっていて、いい香りがするのよね』 シロツメクサ。それに、キンモクセイ。 その名前を口の中で転がすと、ぼやけていた記憶の輪郭が、急にくっきりとしてきた。 夕方になるまで、仁とふたりで原っぱを駆け回った。しゃがみ込んで白い花を一本ずつ摘み、不器用な手つきで花冠を編んでは、途中でほどけてしまって、ふたりで笑った。 帰り道、夕焼けに染まる道の真ん中で、仁が後ろ手に隠していたものを差し出した。茎の長さもばらばらの、小さな白い花束。受け取ると、ふわりと甘い香りがした。 あの香りは、白い花だけのものではなかったのかもしれない。 澪は、この前、仁とふたりで原っぱに行ったときのことを思い出した。確かに緑の絨毯の中に、白くて小さな丸い花がたくさん咲いていた。そして、キンモクセイの甘い香りが漂っていたように思う。 ――あ……。 もしかして、誕生日に仁がくれた香水も、この香りではな
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-02
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第九十四話 あきらめるための挨拶

 澪の結婚式の前に、仁が実家を訪れていた。 不意にもたらされた事実に、澪の胸は、なにかにぎゅうっと掴まれたように締めつけられた。 息が苦しい。 一生懸命吸っているのに、肺に入ってこない。 胸元を掴み、浅い息を何度も繰り返す。 そのうちに、ようやく空気が肺に入ってくるのを感じた。「お母さん、それって……」 やっと絞り出した声は、かすれていた。喉の奥がひりつく。『ああ、あれね。急に仁くんがうちに来たのよね。もう、びっくりしちゃって』 母の声は、びっくりした人のものとは思えないほど、楽しそうに聞こえた。『どうしたの? って聞いたら、「あきらめる宣言をしに来ました」って言うじゃない。なにをあきらめるの? って聞いたら、「澪のことをあきらめます」って、しっかり私の目を見て言うんだもの。本当にあの子は真面目よね』 「澪のことをあきらめる」と、仁は母に確かにそう言ったのだ。それは、それまでずっと澪を想い続けていたということだ。その気持ちを、仁はわざわざ母に伝えに来た。かなり勇気のいることだったに違いない。『それにね』 母は続けた。『「澪が幸せになるなら、もう、会いません」って言うのよ。よっぽど澪のことが好きだったのねぇ』 この声の様子だと、母は笑みを浮かべているのだろう。そのときのことを思い出して、気持ちが和んでいるに違いない。『それからね、ちゃんとスーツを着てきてね、まるで結婚の挨拶をするみたいに、別れの挨拶をするのよ。手土産を持ってきて、頭を下げて。あの子は本当にいい子よね』 母はそこまで言うと、急に黙り込んだ。しばらくして、ようやく口を開いた。『澪。仁くんは誠実で真面目で、すごくいい子よ。あなたのことをすごく想ってくれてる。大切にしなさいよ』 母は知っていた。この前の騒動も、澪が仁を好きだということも。そのうえで、そっと背中を押してくれたのだ。そのことに気づくと、目頭が熱くなった。母のやさしさが心に染みる。「うん、ありがとう。
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-03
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第九十五話 雨と賭け

 最近、澪は打ち合わせに来るたび、スマホを眺めてはため息ばかりついている。 今日もそうだった。資料をめくる手を止めて、仁は澪に目を向けた。けれど澪はこちらを見ることなく、またスマホに視線を落としている。 仁の指先が、テーブルの上を小さく叩いた。一度、二度。「なんか心配事か?」 仁が問いかけると、澪はパッと顔を上げて、ぶんぶんと首を横に振った。「ううん。なんでもないの。気にしないで」 大げさな笑顔が、こちらに向けられる。やけにわざとらしい笑顔だった。 仁は澪をじっと見つめた。澪はすぐに目をそらし、視線を資料に落とした。 仁はペンを置いた。しばらく黙ったまま、伏せられた澪のまつげを見ていた。「澪、なんかあったら俺に相談しろよ。また変なやつにつきまとわれてたら、たまったもんじゃないからな」「そ、そんな……。なにもないから安心して」 澪の目が、また泳いだ。 仁はそれ以上、なにも聞かなかった。ただ長い息をひとつ吐いて、手元の資料に目を戻した。 ページは、しばらくめくられなかった。 *  奈央は久しぶりに、ダーマコードとの打ち合わせに参加することになった。今日はダーマコードの面々が、グロウセオリーへ来る日だ。澪ちゃんは、せっせと資料を準備している。販売を開始したばかりのOnlyé for youは飛ぶ鳥を落とす勢いで、コスメの口コミサイトでも高い評価を得ていた。 けれど最近、澪ちゃんの様子がおかしい。いつもスマホを眺めて、ため息をついている。ちらっと画面をのぞいてみたら、天気予報のアプリを見ていた。天気なんか気にして、なんなんだろう? ほら、今もスマホを開いてため息をついてる。もうすぐダーマコードから高宮社長が来るのに。うれしくないのかな? あ、澪ちゃんが会議室に行くみたい。遅れないように、ついて行かなきゃ。  会議室で待っていると、高宮社長と真壁さんがや
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-04
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第九十六話 前日

 明日、仁と会う。アプリで天気予報を確認すると、雨の予報だった。 ――やっぱり、無理かなぁ……。 澪はがっくりとうなだれた。スマホを持つ手が、だらりと落ちる。 あきらめきれずに、もう一度画面を更新してみる。表示は変わらない。降水確率、八十パーセント。 とりあえず、クローゼットの前に立って明日着る服を選ぶ。雨だとわかっていても、練り香水を渡せないとわかっていても、明るい色の服を選びたくなる。それは、恋をしているからだろうか。 シロツメクサをイメージして、真っ白な服がいいと思ったが、残念ながら見つからなかった。アイボリーなら、シロツメクサの色に近い。澪はアイボリーのトップスを選んだ。 合わせるのは、グレーのロングスカート。 鏡の前で、体に当ててみる。悪くない。……と思う。 洋服をハンガーにかけて、明日に備えた。 念のため、手紙は書いておこう。もしかしたら、渡せるかもしれない。 リビングに行き、メッセージカードを取り出した。ペンを握りしめたまま、固まってしまう。 ――なにを書こう……。 書きたいことは決まっている。「あなたのことが好きです」 ただ、それだけだ。 けれど、仁の十七年間の想いを、あの手紙の束で知った今となっては、たったそれだけの言葉では足りないような気がした。 まず、下書きをしよう。 メモ帳を引っぱり出し、ボールペンを走らせた。「いつもあたしのことを見てくれてありがとう」 そう書いてみるが、なんか違う。「あたしも仁のことが好きだよ」 これだと仁の言葉に返事をしているだけで、自分の気持ちがこもっていない気がする。「あなたの気持ちを受け入れます」 受け身すぎて、全然だめだ。「十七年も待たせて、ごめんね」 書いた瞬間、首を横に振った。謝りたいわけじゃない。仁だって、きっとそんな言葉は望
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-05
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第九十七話 原っぱ

 朝、顔を洗い、いつもより念入りに肌の手入れをした。肌はいつもよりも調子がいい。Onlyéの化粧水が、すっと肌に染み込んでいった。 手入れを終え、出かける準備をしていると、スマホが震えた。画面を確認すると、仁からだった。《今日は、子供のころによく遊んだ場所で、昼に待ってる》 子供のころによく遊んだ場所は、ひとつしかない。近所の公園と、その奥に広がる、あの原っぱだ。 澪はすぐに返信した。《わかった。じゃあ、お昼にね》 送信ボタンを押して、スマホを胸に抱く。 今日、ようやく仁に自分の気持ちを伝えることができる。 そう考えると、急に胸の鼓動が速くなった。胸に抱いたスマホを、強く握りしめる。指の関節が白く浮き上がった。 それにしても、なんという偶然だろう。仁は会おうと言ってきたとき、場所を指定してこなかった。だったら、あの原っぱで会いたい。そう思っていたのに。 まるで心の中を見透かされていたようで、恥ずかしくなった。 それとも、ふたりとも同じことを考えていたということだろうか。それはそれで、とてもうれしい。 時計を確認すると、あまりゆっくりしている時間はない。 小箱とメッセージカードをそっとバッグの中に忍ばせた。もう一度洗面所の鏡の前に立ち、身支度を最終確認した。  電車に揺られて、実家のある街へと向かう。郊外に向かうにつれ、ビルの背丈が低くなっていく。やがてビルはほとんどなくなり、マンションや一戸建てが窓の外を流れていくようになった。 澪は膝に乗せたバッグの上から、そっと中の箱の感触を確かめた。箱はちゃんと入っている。 箱の角をひと撫でして、再び持ち手を握った。 窓の外へ目を向けると、抜けるような青空が広がっている。雲ひとつない快晴。昨日まで一週間近く続いていた雨が、嘘のようだ。 きっと神様が、告白しなさい、と言ってくれているのだ。 澪は唾を呑み込んだ。喉がからからに渇いて、飲み込んだ唾さえすぐに吸い込まれていった。
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-06
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第九十八話 小箱の中身

 澪は、差し出された小箱を両手で受け取った。指先が触れた瞬間、仁の指が震えているのがわかる。その震えにつられるように、澪の手も震えだした。「これ……開けてもいい?」「もちろん。……本当に、笑うなよ」 仁は澪から目をそらし、空いたほうの手をポケットに突っ込んだ。もう片方の手では、澪から受け取った小箱とカードを大事そうに握ったままだ。 澪は、以前、仁がこの小箱をポケットにしまうのを見たことを思い出した。あのときから、ずっと気になっていた。正方形の、小さな箱。 ――まさか。 澪は震える手でリボンをほどいた。するりと、リボンが箱から滑り落ちる。蓋に指をかけ、ゆっくりと開いた。「……え?」 中身は、思っていたものとは違った。ふくらんでいた胸が、一気にしぼんでいく。「だから、笑うなって言っただろ?」「わ、笑ってないよ。……な、んで、鍵?」 箱の中には、鍵が一本入っていた。銀色の、なんの飾りもない鍵だ。 まさか、仁の部屋の合鍵だろうか。いや、たしか仁の部屋はカードキー式だった。 ――じゃあ、この鍵はいったい……。 仁はばつが悪そうに、視線を足元のシロツメクサに落とした。「それは……ラボの鍵だ。小さいけど、試作用のラボを借りたんだ。そこで、調香も処方も一から考えられる」「ラボ? そんな大切な鍵を、なんであたしに?」 意味がわからず、澪は首をかしげた。仁は顔を上げると、まっすぐ澪に向き直った。「Onlyéの次は、ふたりでブランドを立ち上げないか? ふたりの名前を冠したブランドを。……あ、いや。無理にとは言わない。でも、澪の夢の話は、ずっと前から聞いてたからな」 そこまで言うと、仁は手のひらを首の後ろにやった。耳の先が、赤く染まっている。「仁…&
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-07
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第九十九話 恋人としての夜

 仁は口の端を上げたまま、澪とつないだ手に力をこめた。まるで、このまま帰るつもりじゃないよな、と確かめているようだった。 澪は、もう一度唾を呑み込んだ。 もちろん、帰るつもりなんてない。 ようやく、恋人同士になれたのだ。このまま帰りたいはずがない。 澪は仁から目をそらさずに言った。「あたしは、もっと仁といたいと思ってるよ」 仁はその言葉を待っていたかのように、目元をゆるめた。「そうか。それなら、よかった」 仁は一瞬、口を引き結んだ。それから、再び口を開いた。「じゃあ、俺の家に来るか?」 家。その言葉が、やけに大きく耳に響いた。好きな人の家で、ふたりきり。それがなにを意味するのか、わかっている。「……うん」 澪は小さな声で答え、うなずいた。  仁のマンションに着き、部屋のドアをくぐる。何度か来たことがあるはずなのに、一歩踏み入れた途端、心臓の鼓動が速まった。つないだ手の先から、この鼓動が仁に伝わってしまうのではないかと心配になるほどだった。 仁は澪を部屋に招き入れると、そっと手を離した。「適当に座っててくれ。今日は俺が夕飯を作るから」 仁はジャケットを脱いで寝室へ向かった。戻ってくると、キッチンで手を洗い、腕まくりをして調理をはじめた。 しばらくすると、おいしそうな匂いが部屋に広がった。二十分もしないうちに、仁は両手にパスタ皿を持ってキッチンから出てきた。「簡単なやつだぞ」 皿の中では、ジェノベーゼソースをからめた緑色のパスタが、艶やかに光っていた。テーブルに皿を置くと、仁は再びキッチンに戻り、サラダを運んできた。色とりどりの野菜が、みずみずしく盛りつけられている。「おいしそう!」「ソースは市販品だけどな。でもこれ、意外とうまいんだよ」 ふたりで手を合わせて「いただきます」と言い、食べはじめた。 食事を終えると、ふたりはソファでゆっくりとくつろいだ
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-08
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第百話 恋を失ったあたしがたどり着いた場所

 会社から、思わぬ提案をもらった。 ――どうしよう。そんなこと、してもいいのだろうか。 しばらく、言葉が出なかった。 何度もメールの文面を目で追う。けれど、「関係を公表する」という文字だけが滑って、頭に入ってこない。 スマホの画面を消して、ベッドの端に腰かけた。ギシッと、ベッドがきしむ。 背後で、仁が身を起こす気配がした。腰に仁の腕が巻きついてきて、そのまま胸に引き寄せられる。「どうした?」「……うん」 澪は、あいまいな返事しかできなかった。腰に巻きついている仁の腕を、そっとなでる。 こんなこと、仁に相談していいのだろうか。 そもそも会社は、ふたりが付き合いはじめたことを、どこで知ったのだろう。 仁は澪の肩にあごを乗せ、ほおにキスをした。「俺にはなんでも話していいんだぞ。なんでも聞くから、なにがあった?」 澪はしばらく口を引き結んで、言うべきかどうかを考えた。けれど、公表するかどうかは自分ひとりでは決められない。仁の了承を得なければ、仁に迷惑がかかってしまう。 澪は体をひねって、仁に向き合った。「あのね、会社から連絡があって。コラボ第三弾が決まったって」「おっ、すごいじゃん。やったな」「……うん」 くぐもった返事をすると、仁がいぶかしげな顔をした。「うれしくないのか?」「それはうれしいよ。だって、それだけたくさんの人に支持されてるってことでしょ」「じゃあ、なんでそんな顔してるんだよ」 自分の顔は、仁の目にどう映っているのだろう。そんなに困った顔をしているのだろうか。「あたしと仁の関係を……公表したらどうかって言われたの」「俺たちの?」 仁はあごに手をやり、考え込んだ。無理もない。公表するということは、自分たちの関係を世の中にさらすということだ。 しばらくの沈黙のあと、仁
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-09
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