仁は、ただまっすぐに澪の顔を見ていた。 冗談を言うときの、口の端だけで笑う顔ではない。その表情は、真剣そのものだった。「この前の人事からの話って、今後の身の振り方のことだったんじゃないのか?」 まさか仁の口から、その言葉が出るとは思ってもみなかった。澪の背筋が、スッと冷えた。「……どうして、そんなこと言うの?」 澪はテーブルの上で手を組んで、親指をもじもじと動かした。仁の目を、まともに見ていられない。 それから、ふきんを手に取り、テーブルに飛び散ったスープをゆっくりと拭った。とっくにきれいになっているのに、手を止められなかった。「どうしてって、最近、澪の様子がおかしかっただろ? 帰ってきても上の空だし、夜もあんまり眠れてないみたいだったから」 仁は、テーブルの上で指を組んだ。「婚約したタイミングで人事から呼ばれたなら、たぶん、利益相反を指摘されたんじゃないかと思ってな」 ――全部、わかってたんだ。 仁は、なんでもお見通しだった。ほんとうなら、澪はほっとしてもいいはずだった。 それなのに、その事実に、澪の心はなぜかひりついた。「そう……なんだけどさ」 歯切れの悪い言葉しか、返せなかった。けれど仁は、そんな澪にはお構いなしに続けた。「澪には、うちの新商品開発の責任者になってもらいたい。手作りコスメの知識を、存分に活かしてほしいんだ」 澪は、うつむいたまま仁の言葉を聞いていた。「給料に責任者手当をつけるし、経営会議にも参加してもらう。これからは、俺と真壁さん、そして澪の三人で、会社を回していきたいと思ってる」 つまり、経営陣として名を連ねるということだろうか。 澪は、ゆっくりと顔を上げた。 仁の目は、どこまでもまっすぐだった。思いつきで言っているのではないことは、すぐにわかった。きっと、ずっと前から考えていたのだろう。 仁は、澪のことを本気で評価してくれている。コラボの仕事でいっしょに走り、澪の実力をすぐそばで見てきたからこそ、この提
Zuletzt aktualisiert : 2026-10-30 Mehr lesen