Alle Kapitel von 婚約破棄されたあとに再会した幼なじみからの溺愛が止まりません: Kapitel 81 – Kapitel 90

126 Kapitel

第八十一話 Onlyé

 Onlyéのブランド名の由来は、ダーマコードのホームページにも載っていた。「Onlyéの名前の由来は『唯一のあなたへ』だったよね」 澪が仁の言葉を遮って言うと、仁はうなずいた。「対外的には、な」「対外的って、どういうこと?」 仁の目を見つめて問いかけると、仁は目を逸らすことなく澪の目を見つめ返した。「Onlyéのコンセプトは、澪が知っているとおり『あなたの肌が、あなただけの答えを知っている』だ。これは、澪の肌質をSNSで探る中で感じたことなんだ。ひとりひとり、肌質は微妙に違う」 真剣な顔をしている仁は、研究者そのものだった。「うん、そうだよね。あたしもいろんな化粧品を試して、しっくりくるものがなくて探すのに苦労したもん」「そうだ。澪がSNSでそうつぶやいてたから、少しでも多くの人の肌悩みに寄り添いたいと思った。俺の原点は全部、澪のためなんだよ」 澪は膝の上で手を組んだ。「……その話と、Onlyéの名前の由来って、つながってるんだよね」「まあ、ブランドのコンセプトも名前の由来も、聞かれたときにすんなり答えられるようには設計したな。けど――」 仁は言葉を切り、息を吸った。 畳の縁を、夕方の光がゆっくりと横切っていく。「Onlyéの本当の名前の由来は、『Only+é』だ。『é』は、澪のイニシャルであるMをフランス語で読んだ『エム』を表している」 え、と声が出かかって、喉の奥で止まった。「『唯一の、澪へ』。……澪だけのために、っていう意味でつけた」 仁の言葉が頭の中をすり抜けていった。今、なんと言ったのか、すぐには理解できなかった。視線をさまよわせたあと、ようやく仁と目を合わせる。仁の顔は真剣そのもので、嘘や冗談を言っている様子はなかった。「あたしだけの……ために」 そう口
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-20
Mehr lesen

第八十二話 十七年とあと少し

「澪、澪」 肩を揺らされて、澪はゆっくりと目を開けた。 フロントガラスの向こうに、見慣れたマンションのエントランスが見えた。いつのまに眠ったのか、まったく覚えがない。「あ……。ごめん、寝てた」「いいよ。俺が寝てていいって言ったんだから」 仁は寝起きの澪の顔を見て、ぷっと吹き出した。「え? なに? なんか変?」「いや……」 仁は口元に拳を当てて、必死に笑いをこらえている。それでも肩が小刻みに揺れていた。「澪の寝顔は、小さいころと変わらないなって思ってさ」「なによ」 澪がほおを膨らませて仁をにらみつけると、仁の肩の揺れがますます大きくなった。「そんなに笑わなくてもいいじゃん」「俺はそんな澪が好きだよ」 さらっと「好き」と言われて、急に胸が締め付けられる。「も、もう……なによ。いきなり……」 あの、大きな愛を受け取ったあとに面と向かって言われると、恥ずかしくて仕方がない。思わず目を逸らしてしまう。「まあ。本当のことだからな」 仁が息を整えながらつぶやいた。「十七年も待ったんだ。澪の答えを聞くのを先延ばしにするのは、誤差のうちだ」 澪がふと視線を上げて仁を見ると、その横顔が目に入った。眉を下げ、伏し目がちに手元を見ている様子が、今まで見たことがないほど不安げに見えた。  部屋に戻ってシャワーを浴び、ベッドに入ったあとも、なかなか寝つけなかった。 今日、一番安心したのは、仁が千華との縁談を受けないと知ったことだった。それまでずっと、仁は千華と婚約して結婚するものだと思っていた。この自分の気持ちを、胸の奥に押し込まなければならないのだと。 気持ちを押し込めたところで、仁を忘れられるのかはわからなかった。 仁の会社の商品を扱っている以上、仕事で接することがあるは
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-21
Mehr lesen

第八十三話 今度はあたしが守る番

 とうとう、あの記事が出てしまった。 仁は社長室で週刊誌に目を落とし、最後まで読んだ。 読み終わると、仁は大きなため息をついた。椅子に背を預け、天井を仰いだ。 どうして、こんな――。 仁は週刊誌の端をぎゅっと握りつぶした。 そのとき、社長室のドアが開き、真壁が入ってきた。「おい、仁。大変なことになってるぞ!」 仁はゆっくりと真壁へ目を向けた。真壁の手にも、同じ雑誌が握られていた。「真壁さんもその記事、見られたんですね」「ああ……。この前、取材の申し込みと一緒に届いた質問書の内容だよな」「そうですね」 取材にはきちんと回答した。自分の言葉で、丁寧に説明した。 それなのに、そのすべてを都合よく解釈され、ねじ曲げられていた。「どうする? 訂正記事を出してもらうか?」「そうですね。どこまで対応してもらえるかはわかりませんが――」 仁の言葉を遮るように、ドアがノックされた。続いて、秘書が部屋に飛び込んできた。「大変です! 株主から記事の内容について説明を求める連絡が入っています」 もうすでに株主もこの記事を目にしたらしい。仁は奥歯を噛み締めた。「そうですか……。それでは、株主を集めて説明会を開きましょう。日程の調整をお願いします」「わかりました」 秘書が社長室を後にすると、真壁がデスクに雑誌を放った。「しかし、よくもまあこんな内容に仕立ててくれたよな」「本当ですよ……。こんなふうに書かれるのなら、正直に答えるのも馬鹿らしいですよね。これから、商品についての取材も受けたくなくなりますよ」 仁が眉を下げると、真壁は苦笑するように口元をゆるめた。「けどよ、こうやって社長のプライベートまで踏み込んでくるのは、うちの会社の知名度が上がった証拠でもあるだろ? お前には悪いけど」 たしかに、その通りだ。知名度
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-22
Mehr lesen

第八十四話 澪の公開反撃

 静まり返った会議室に、澪の声だけが残っていた。 パキン、と蛍光灯が音を立て、光が一度チラついた。「朝倉さん、それは……」 澪はまっすぐに担当者たちを見つめ返した。「はい、記者会見を行うか、声明を出そうと思います。できれば、会見を開きたいと考えています」 広報担当者が背もたれに体重を預け、腕を組んだ。「ですが、そう簡単に進むとは思いませんよ」「たしかに、そうかもしれません。心ない言葉をかけられる可能性もあります。しかし、ダーマコード社は当社にとって売上高が最も大きい取引先です。取引が減れば当社にも大きな痛手となります。それを避けるためにも、消費者に向けてきちんと説明する必要があると思うのです」 法務担当者は机の上に肘をついて手を組んだ。「そうですね。声明を出したとしても、内容が消費者に正確に届くとは限りません。記者会見を行い、その質疑応答を弊社のホームページにも文字起こしして掲載しましょう。そのほうが、内容に齟齬が生じにくいと思います。テレビや雑誌に任せていたら、内容をねじ曲げられかねませんから」 法務担当者が苦笑いをした。以前にそんな経験があるのだろうか。 今回の仁に関する記事も、事実をねじ曲げて伝えていた。別の角度から見ると、ここまで違って見えるのかと思うほどだった。「できるだけ早いほうがいいと思うのですが、日程調整は可能でしょうか?」 法務担当者はノートパソコンを開き、カチカチと操作した。「明後日はいかがでしょうか。明日中に記者会見用のシナリオを作成し、オンラインで実施しましょう。同時に、弊社のSNSアカウントでライブ配信するのも効果的だと思います」「そうですね。日程的にそのほうがいいかもしれません」「それでは、私はオンライン記者会見の準備に取り掛かります」「よろしくお願いします」 澪が頭を下げると、法務担当者は会議室を出て行った。残された広報担当者は、苦い顔をしていた。「朝倉さん、大丈夫ですか? 会見をするということは、雑誌に
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-23
Mehr lesen

第八十五話 純愛の値段

 SNSのタイムラインに、同じ動画が何度も流れてきた。 澪の記者会見を切り取ったものだった。〝こんなラブレターもらったら、気を失うかもしれない〟〝素敵だよね。好きな人のために化粧品を作るなんて、スパダリじゃん〟〝少し値段は張るけど、肌のことを考えて作られてるんだったら、この値段もアリ〟 ハッシュタグには〝ダーマコード〟〝Onlyé〟〝純愛の証〟。 世間の見方は、たった数日で一変していた。 執着だと思われていた仁の行動が、今では純愛と呼ばれている。十七年前の記憶を頼りに、たったひとりのためにブランドを作り上げた男。そのブランドのコンセプトは、「唯一の、あなたへ」だった。若い女性たちは、このニュースに胸を熱くした。 今までOnlyéを知らなかった人たちまでが、この騒動に興味を示した。みるみるうちに、OnlyéとOnlyé for youの売上がともに伸びていった。 澪はオフィスの自席に座り、天井を仰いだ。蛍光灯の明かりが目の奥に刺さる。 この前までOnlyéブランドの商品の売上が激減するのではと心配していたのが嘘のようだ。「澪ちゃーん」 奈央がスキップしそうな勢いで澪のもとにやってきた。「会見、うまくいってよかったね」「はい、おかげさまで」 澪は奈央を見上げて笑顔を向けた。奈央もにこにことほほえんでいる。「Onlyéも売上すごいじゃん! 怪我の功名だね」「まあ……そうですね」 あのときは、仁を守りたいという気持ちが先立っていて、ほかのことは考えられなかった。それがこんなにも拡散されてしまって、冷静にそれを見ると、恥ずかしくて仕方がない。「でも澪ちゃん、かっこよかったよー。堂々と高宮さんの擁護してさ。で、ふたりは付き合ってるんでしょ?」 奈央の言葉に澪はぎくっとした。指先がぴくりと震える。「いえ……
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-24
Mehr lesen

第八十六話 音だけデート

「お先に失礼します」 定時になり、澪は席を立った。オフィスを出て、エレベーターホールで待っているとき、後ろから声をかけられた。「今日は、早いですね。デートですか?」 振り向くと、同僚の女性が立っていた。今まで、それほど会話をしたことのない相手だ。それなのに、なぜこんなことを聞いてくるのだろうと驚いた。 澪は返事をするかどうか迷った。しかし、声をかけられたのだから、答えなければならないだろう。「いえ、そんなんじゃないです」「本当ですか? 定時で帰るんだから、デートでしょう? 隠さなくてもいいんですよ」 女性は目を輝かせて澪を見ている。そんなふうに期待されても、デートの予定などない。どう答えればいいのだろうか。 頭のなかでぐるぐる考えているうちに、エレベーターが到着した。「それでは、お先に失礼します」「デート、楽しんでくださいね」 ドアが閉まる直前、女性の顔が一瞬歪んだように見えた。  ビルを出ると、澪は肩から下げたバッグの持ち手をぎゅっと握りしめた。 ここ数日、やけに視線を感じる。 信号を待っているときや、駅の階段を下りているとき、うなじのあたりがちりちりと粟立つ。振り返っても、そこにはいつもどおりの人の流れがあるだけだ。 今も、きょろきょろと周りを見回してみる。澪のことを見ている人はいなかった。 ――やっぱり、気のせい……? 記者会見をしてからというもの、周りから仁との関係を問いただされることが多くなった。それで、神経が敏感になっているだけかもしれない。 先日、防犯ブザーを購入した。なにかあったときに自分を守れるよう、手段を備えておきたかった。毎日の通勤ルートも、少しずつ変えている。それでも、視線を感じる。本当に気のせいならいい。けれど、気のせいではなかったときのことを考えると、背筋が凍る。 警察にも巡回を強化してもらえるよう依頼した。以前、直哉のことで相談した履歴があったからか、警察はすぐに対応してくれるこ
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-25
Mehr lesen

第八十七話 澪の答え

 朝、いつもよりも念入りに肌の手入れをして、澪は身支度をした。「よし!」 鏡を覗き込み、最終チェックを終えると、澪は自分のほおを手で叩いた。今日は、大阪行きの話への回答期限だ。 澪はバッグを掴んで、玄関に向かった。  オフィスに到着し、着席しても、さほど緊張はなかった。体がこわばることもなく、よく動いた。 きっと大丈夫だ。 澪はモニターの電源を入れ、まっすぐ前を見た。 驚くほど仕事がはかどった。集中して作業をしていると、「朝倉さん」と声をかけられた。振り向くと、そこに上司が立っていた。「今からいいかしら?」 そうだった。今日、返事をしなければいけなかった。仕事に集中しすぎていた。「はい」 澪は立ち上がり、上司の後ろを歩いた。拳をぎゅっと握りしめた。 上司に続いて、澪は「失礼します」と頭を下げて会議室に入った。 正面に人事担当者が座っていた。上司はその横に座り、澪の顔を見た。 人事担当者に着席を促され、澪は会釈して腰を下ろした。「朝倉さん、本日が回答期限になっていますが、お聞かせいただけますか?」 人事担当者は、澪が座るとすぐに口を開いた。上司も人事担当者も、笑顔を浮かべている。澪はうなずいて、ふたりの顔をひとりずつまっすぐ見た。「はい。今回のお話は、辞退させていただきます」 澪は頭を下げた。ゆっくり顔を上げると、目の前のふたりは唖然とした顔をしていた。「え? 朝倉さん、今、なんて……」 上司は視線が定まらず、声も裏返っていた。澪は息を吸い、上司に向かってはっきりした口調で言った。「はい。今回の昇進と、大阪のプロジェクトリーダーのお話は、辞退させてください」「そ……んな」 上司はがっくりと肩を落とした。「だって、先方は朝倉さんが来てくれると思って、かなり士気が上がってたのよ」 その言葉を聞
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-26
Mehr lesen

第八十八話 暴走

 掴まれた腕が痛い。血が通っていないのか、手首より先がだんだんと冷たくなってくる。 こわい。どうにかしてここから逃げ出さないと。 腕を捻って直哉の手から逃れようとするが、がっちりと掴まれていて抜け出せない。どれだけ力を込めても、男の力にはかなわなかった。 どうしよう。 ポケットのなかのスマホを取り出そうとしたが、掴まれている腕の側のポケットに入っていて、手が届かない。 ポケットなんかに入れずに、バッグに入れておけばよかった。そうしたら取り出せたのに。 澪は唇を噛んだ。 直哉の手の力が強くなった。澪を引き寄せ、高架の壁に押しつけた。背中に、濡れたコンクリートの冷たさが染みてくる。「なあ、澪。俺たち、やり直そう」 やり直そうと言う人が、こんなふうに力ずくでねじ伏せようとするだろうか。澪は、背筋にすっと冷たいものが伝うのを感じた。「あたしには関係ないでしょ! もうあたしたちは終わってるの」 直哉に言い放つが、その言葉は届いていないようだった。「大丈夫だ。俺たちは全部やり直せる。な、澪。だから俺のもとへ戻ってこいよ」「いや! あたしにはあたしの人生があるの!」 直哉がじりっと澪に近づいてきた。薄笑いを浮かべた顔は、光の加減だろうか。青白く、生きている人間のものではないように見えた。「なに言ってるんだよ。俺のそばにいればそれでいいだろ? 仕事なんて辞めちまえ。どうせお前なんて大した仕事もできないんだから」 なぜ直哉にそんなことを言われなければならないのだろう。澪のどこを見て「大した仕事もできない」と言っているのか。 今日、自分の意思で選び取ったばかりの仕事を、この人はなにも知らないくせに否定する。 澪はぎりっと直哉をにらみつけた。「あなたはあたしのこと、なんにもわかってない!」「わかってるよ。澪のことをすべてわかっているのは、俺しかいない。あんな高宮みたいな男とは違うんだ」 直哉の目が細められた。その冷ややかな表情に、思わずゾッとする。
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-27
Mehr lesen

第八十九話 間に合った

 後ろから聞こえる直哉の足音が、徐々に近づいてくる。必死に走っているのに、足元がもつれてうまく走れない。「助けて! 助けてください!」 澪のバッグからはまだ、防犯ブザーがけたたましく鳴り響いている。「澪! なんで逃げるんだ。俺のもとに帰ってこいよ。やり直そう。な?」 どれだけやさしい声をかけられても、カッターナイフを見せられたあとで、「はい、そうですか」と返事できるはずがない。 バシャバシャと背後で水たまりを踏む足音が、まるで呪いのようにまとわりついてくる。 こんなに必死に走ったのはいつぶりだろう。息が上がって、空気がうまく肺に入ってこない。雨が目に入り、視界がにじむ。 もうだめだ。 そう思ったとき、前方から誰かが走ってくる足音が聞こえた。「澪!」 前方から名前を呼ばれ、顔を上げると、仁がこちらに向かってきていた。「仁!」 澪は仁の胸のなかに迷わず飛び込んだ。仁がぎゅうっと力強く抱きしめてくれる。それだけで、さっきまでの恐怖がどこかへ逃げていく気がした。「大丈夫か?」 仁は澪の後頭部を、やさしい手つきで撫でた。澪は仁の胸もとをぎゅっと掴んだまま、肩を上下させた。息が苦しくて、言葉が出てこない。 深呼吸を何度か繰り返して、ようやく声を出すことができた。「どうして……ここに?」 仁を見上げて尋ねると、仁はほほえんで言った。「澪が電話をかけてくれただろ。様子が変だったから……」 仁は言いかけた言葉を、ふいに飲み込んだ。そして、澪を自分の後ろに隠すようにして、直哉のほうを向いた。 見ると、直哉が立っていた。ずぶ濡れの髪を額に貼りつかせ、すごい形相で仁をにらみつけている。「高宮!」 仁は、背後にいる澪の背に添えた手へ力を込めた。「なにをしているんですか? 澪は嫌がっているじゃないですか」「お前のせいだろ! お前が澪をたぶらかしてるんだ」
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-28
Mehr lesen

第九十話 予約は受け付けた

 仁の処置が終わると、澪は仁とともにタクシーで仁の家へ向かった。 隣に座る仁の顔を見ると、心なしかやつれているように見えた。 きっと仕事中だったに違いない。それなのに仕事を放り出して、自分のもとに駆けつけてくれたのだ。「今日はごめんね……」 澪が謝ると、仁はこちらへ顔を向けた。「なに言ってるんだ。澪が無事でよかったよ」 仁はにっこりと笑ってくれるが、その顔には疲れが滲んでいる。「でも怪我しちゃったじゃない」「大丈夫だって、これぐらい……っ!」 仁は怪我をした左手を動かして見せたが、よほど痛かったのか、腕を押さえて縮こまった。「ほら! やっぱり平気じゃないじゃん」「まいったな……。澪にはお見通しか」 ふふふ、とふたりで笑い合う。 やがてタクシーは仁のマンションの前に到着した。「澪はこのタクシーに乗って自分の家に帰れ」 仁はタクシーの運転手へ現金を手渡した。「いえ、ここで降ります。精算してください」 澪は運転手に告げた。それを聞いた仁は、目を見開いて澪を見た。「澪、お前……」 澪がタクシーを降りると、背後でドアが閉まる音がした。タクシーはそのまま、静かに走り去った。 澪は仁へ向き合った。「あたしのせいで怪我したんだから、今日は仁の家に泊まる」「み……お」 見開かれた仁の瞳の奥が揺れた。「ありがとう」 仁は目を伏せ、指先でほおをかいた。 ――照れる顔は、小さいときと変わらないな。 澪はその顔を見て、思わずほおがゆるんだ。  仁の部屋に入り、澪は仁をソファに座らせた。「冷蔵庫、開けてもいい? なにか食べよう」「ああ」 
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-29
Mehr lesen
ZURÜCK
1
...
7891011
...
13
CODE SCANNEN, UM IN DER APP ZU LESEN
DMCA.com Protection Status