テーブルの上で、スマートフォンが震えた。 征臣からではない。 東都経済新聞の続報通知だった。 見出しには、私の名前と、さらにひどい言葉が並んでいた。 有馬関係者「彼女は以前から婚約に不満を漏らしていた」 不満。 漏らしたことなどなかった。 むしろ、飲み込んできた。式場の席順も、莉々花のドレスも、父の命令も。 なのに、飲み込んだものまで、都合よく誰かの言葉にされる。 悠真の顔から、血の気が引いた。 「違う、澪。これは有馬の誰かが勝手に」 言い終える前に、悠真は自分の言葉の薄さに気づいたようだった。勝手に、という便利な箱へ入れれば、自分は少し外に立てる。昔の彼は、もっと上手に笑ってそれをした。 「私の名前を使っておいて、誰か、で済ませるんですね」 悠真は唇を噛んだ。謝りたい人の顔ではない。責められすぎない位置を探している顔だった。 画面の文字を、悠真も見ていた。 有馬関係者。 便利な言葉だ。 誰でもない顔をして、誰かの口を借りる。 白鳥家でも、有馬家でも、こういう言葉はいつも私より先に用意されていた。本人が何を言ったかより、家がどう見られるかの方が大事だった。 「違うんだ」 悠真はすぐに言った。 「僕じゃない」 「……そう。じゃあ、有馬家の誰ですか」 「本当に。僕はそんなこと、記者に話していない」 悠真は口を開きかけ、そのまま黙った。 答えの代わりに、視線だけがテーブルへ落ちた。 悠真は何も言わない。テーブルの木目を見たまま、指だけが一度動いた。 私はスマートフォンを伏せた。画面を見続けると、知らない人たちの言葉で自分の輪郭が削られていく気がした。 「澪、頼む。今は表に出ない方がいい。君が反論すれば、また記事になる」 「それで、私はどうすればいいんですか」 悠真はすぐには答えなかった。 「……しばらく、白鳥家に戻ってくれないか」 「戻る?」 「莉々花が落ち着くまででいい。君なら――」 「それ、前にも聞きました」 悠真の目が止まった。 「君なら少し待ってくれる。君なら分かってくれる。そうやって、いつも私が最後なんですよね」 テーブルの下で膝が震えた。私は手をつかずに立ち上がった。 「戻りません」 「澪」 「私に何かさせたいなら、何をしてほしいの
Zuletzt aktualisiert : 2026-07-08 Mehr lesen