テーブルの上で、スマートフォンが震えた。 征臣からではない。 東都経済新聞の続報通知だった。 見出しには、私の名前と、さらにひどい言葉が並んでいた。 有馬関係者「彼女は以前から婚約に不満を漏らしていた」 不満。 漏らしたことなどなかった。 むしろ、飲み込んできた。式場の席順も、莉々花のドレスも、父の命令も。 なのに、飲み込んだものまで、都合よく誰かの言葉にされる。 悠真の顔から、血の気が引いた。「違う、澪。これは有馬の誰かが勝手に」 言い終える前に、悠真は自分の言葉の薄さに気づいたようだった。勝手に、という便利な箱へ入れれば、自分は少し外に立てる。昔の彼は、もっと上手に笑ってそれをした。「私の名前を使っておいて、誰か、で済ませるんですね」 悠真は唇を噛んだ。謝りたい人の顔ではない。責められすぎない位置を探している顔だった。 画面の文字を、悠真も見ていた。 有馬関係者。 便利な言葉だ。 誰でもない顔をして、誰かの口を借りる。 白鳥家でも、有馬家でも、こういう言葉はいつも私より先に用意されていた。本人が何を言ったかより、家がどう見られるかの方が大事だった。「違う」 悠真はすぐに言った。「僕じゃない」「そうですか」「本当に。僕はそんなこと、記者に話していない」「では、有馬家のどなたかですか」 悠真は答えなかった。 沈黙が、そのまま答えだった。 私はスマートフォンを伏せた。画面を見続けると、知らない人たちの言葉で自分の輪郭が削られていく気がした。「澪、頼む。今は表に出ない方がいい。君が反論すれば、また記事になる」「ならないように、誰かが先に話したのではないですか」「家同士の話なんだ」 また、家。 白鳥家。 有馬家。 鷹宮家。 私の名前は、いつも家の後ろに置かれる。「悠真さん」 そう呼ぶと、悠真がかすかに顔を上げた。「私
Last Updated : 2026-07-08 Read more