บททั้งหมดของ 婚約者を奪った妹が泣き崩れた夜、御曹司は私に跪いた: บทที่ 11 - บทที่ 20

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第11話 契約婚約の条件②

「昨日まで、私は婚約者の隣に座るはずでした。……今度は、私がいないところで話を進めないでください」 「分かった。君がいないところで決めたりはしない」 「あと、白鳥家の調査には私も入ります」  征臣の表情が、そこで初めて少し硬くなった。 「危なくなる」 「だから外す、はやめてください」  袖口に触れかけた征臣の指が止まった。 「……正直、俺だけで動いた方が早いとは思っていた」 「そうやって、あとから知らされるのが嫌なんです」  包帯の下で火傷がじんと痛んだ。 「白鳥家でも、ずっとそうでした。『あなたのため』って言われて、気づいた時には決まってる」  征臣は通知書と焦げた帳簿を見たあと、私へ視線を戻した。  すぐに対策を口にしなかったのが、少し意外だった。 「……分かった。君も入れるように組み直す」 「危ないと思った時は……」 「止めると思う。けど、今度は先に言う」 「……それ、口約束にしないでください」  征臣が一瞬目を見開いた。  それから、目元だけ、力が抜けた。 「分かった。一緒に書いておこう」  その時、客室の扉がもう一度叩かれた。  執事が銀のトレーに別の封筒を載せている。白鳥家の家紋ではない。淡いピンクの封緘シール。  差出人の名前を見た瞬間、指が冷えた。  白鳥莉々花。  封筒の中には、ホテルラウンジでの謝罪会への招待状が入っていた。  白鳥莉々花。  その名を見た瞬間、封筒の淡いピンクまで、少し湿って見えた。  可愛らしい色。  柔らかい筆跡。  封緘シールには、青い小さな花の模様。  けれど、手に残った感触は冷たかった。 「一人で読むのが嫌なら、ここにいる」  征臣は封筒に手を伸ばさなかった。  白鳥家なら、もう開いていただろう。父の机に置かれ、瀬里奈さんが読み、私のところへ来る頃には封筒に折り目までついている。  私に届いたものなのに、最初に読むのはいつも私ではなかった。  封筒の端を、包帯を巻いた指で押さえる。  まだ火傷が熱い。けれど、痛みはありがたかった。ここにいる、と教えてくれる。 「開けます。……自分で」  ナイフを使わず、指で封を剥がした。  青いシールの端が少し紙に残る。内側には、白鳥家の便箋ではなく、ホテルの厚いカードが入っていた。  姉妹で一度、誤解を解
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第12話 謝罪会の招待状①

 継母は昔から手紙がうまかった。父の怒鳴り声も、便箋に乗ると「心配」になる。私の沈黙は「反省」になる。読んでいるうちに、誰が何をしたのかだけが薄くなる。  征臣がカードを裏返した。 「莉々花さんが書いた文章じゃない、と?」  問われて、すぐには答えられなかった。妹の癖を並べることは、長い間あの家で彼女を見張っていた自分まで認めるようで嫌だった。  それでも、カードを閉じる気にはなれない。 「……そうです」 「莉々花は、私宛ての手紙で『お姉様』を漢字で書きません。いつも、ひらがなです。柔らかく見えるから」  言ってから、少し嫌になる。  そんなことまで覚えている自分が。  でも、覚えてしまう。妹がどう泣くか。どこで声を震わせるか。どの言葉なら父が味方するか。  征臣は否定しなかった。  静かに、カードの下にあるもう一枚へ視線を落とす。  出席予定者リスト。  リストの端に、悠真の名前はなかった。婚約者として発表されたばかりの男の欄だけが空いている。私はしばらく、その空白を見ていた。  来ないのか、呼ばれていないのか。どちらでも胃のあたりが重くなった。悠真らしい、と決めつけるには、まだ少し腹が立ちすぎていた。  親族の名だけではない。  有馬家の関係者、白鳥家の顧問弁護士、ホテル広報。そして、見慣れない社名が一つ。  東都経済新聞。  記者名の横には、小さく「上流社会担当」と添えられていた。  背中の汗が冷えた。 「謝罪会、じゃありませんね」 「記者まで呼ぶなら、別の名前をつけるべきだな」  征臣は短く答えた。  カードの角を押さえる指に、力が入りすぎる。包帯の下がじくりと痛んだ。 「止められるかと思いました」 「……止めたい」  征臣の指がテーブルの上でわずかに曲がった。 「それでも行くのか」  招待状の角を指で押さえた。 「……行きます」  すぐ答えれば楽だった。けれど、招待状の角を見つめている方が、今はまだ呼吸がしやすかった。  征臣はそれ以上、言葉を重ねなかった。  招待状の青い封緘シールが、爪の先に残っている。  母の手紙の封緘も、青かった。  同じ色なのに、こちらはひどく薄い。  カードを裏返すと、ホテル名の下に小さな部屋番号が印字されていた。  その部屋番号を見た時、胸の奥が重く沈んだ
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第13話 謝罪会の招待状②

 征臣がカードの端を見つめている。 「罠にしか見えないな」 「私もそう思います。……でも、行きます。母の名前を出されて、何も見なかったことにはできません」  自分で言ってから、胃が縮んだ。罠だと思っているのに行く。たぶん、そういうところまで読まれている。  ホテルのラウンジは、昼下がりの光を柔らかく受けていた。  高い天井。  磨かれた床。  銀色のワゴンに並ぶケーキの断面。  どこを見ても整っているのに、口の中だけがざらつく。  征臣はラウンジの奥を見たまま、私の歩幅に合わせた。 「つらくなったら、途中でも出よう」 「その時は、私が決めます」  征臣は一度だけ頷いた。  私はラウンジの奥へ視線を戻した。  ラウンジ奥の席に、莉々花はもう座っていた。  席は、きれいに作られていた。私の椅子だけが、通路側に少し出ている。立ち上がれば目立つ位置。声を荒げれば、ラウンジ全体から見える位置。莉々花の椅子は壁を背にしていて、泣けば誰からも正面に見える。  テーブルには、最初から取り分けられた苺のタルトが置かれていた。私の皿だけ、苺が一つ少ない。偶然なら笑えたかもしれない。けれど、白鳥家で苺は、譲らされるものの最初の記憶だった。瀬里奈さんがそれを忘れているはずがない。  偶然にしては、私の椅子だけが目立ちすぎた。通路、照明、記者の位置。見れば見るほど、座る前から疲れた。  白いブラウスに、淡いピンクのスカート。頬はいつもより薄く染まっていて、目元だけが少し赤い。泣いた後に見えるよう整えた顔だった。  隣には継母の瀬里奈。  斜め向かいに、ホテル広報らしき女性。  さらに少し離れた席で、男性がスマートフォンを伏せて置いている。名刺入れの上に、東都経済新聞のロゴが見えた。  その隣には、ホテルの広報資料が置かれていた。新しい婚礼プランのパンフレット。白いドレスのモデル写真。まるで、昨日の惨めな席次表をきれいな広告に塗り替えるための小道具みたいだった。  瀬里奈さんは私の視線に気づくと、困ったように微笑んだ。 「大げさにしないためよ。身内だけだと、かえって感情的になるでしょう? 澪さんも冷静でいられるわ」  身内だけで感情的にしたのは誰だったか。喉まで出かかった言葉を、紅茶の匂いごと飲み込んだ。  莉々花が立ち上がる。 「お姉様…
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第14話 ラウンジの奥の席

 征臣は座らなかった。「鷹宮様も、どうぞ」 瀬里奈が微笑む。「私は白鳥澪さんの同席者だ。話の主体ではない」 莉々花の肩が、ふっと落ちた。 それを見て、悠真がいないことに気づく。 代わりに、空の席札だけが一つ置かれていた。有馬悠真様。名前はあるのに、人はいない。昨日、私の席が婚約者の隣から外されていた時と、少し似ている。違うのは、今回は彼が自分で空白を選んだのだろうということだった。 莉々花はその席札をちらりと見た。寂しそうに、ではない。不満そうに。欲しかった男が来ないからではなく、使うはずだった駒が一つ欠けたことを確認する目だった。 逃げたのか。 呼ばれなかったのか。 どちらにしても、都合がいい時だけ私の前に立つ人だった。「お姉様、莉々花、本当は謝りたくて……でも、あの夜は、あまりに怖くて。みんなの前で責められて」 記者の指がスマートフォンに触れる。 莉々花の涙には、いつも落ちるまでの間がある。相手が息を止める、その一瞬を待つような間だ。 言葉の前ではなく、相手が息を止める瞬間に落とす。「お姉様が、鷹宮様を連れていってしまったから。莉々花、何も分からなくなって」 征臣はすぐに否定しなかった。否定すれば、彼が私を庇った場面だけを切り取られる。何も言わずにいることで、私の返事を待っている。そう分かるまでに、一拍かかった。 その一拍の沈黙を、莉々花は勝ったと受け取ったらしい。涙をためた目で、さらに身を乗り出した。 周囲の空気が、かすかに動いた。 ティースプーンがソーサーに当たる音。 広報の女性が目を伏せる。 記者のスマートフォンが、今度は伏せたままではなくなった。「連れていった、ですか」 声を荒げない。 膝の上で、母の指輪の跡を親指でなぞる。 莉々花は、濡れた目でこちらを見る。「だって、お姉様は昔から、人のものが欲しいんです。莉々花が大事にされると、すぐに取り返そうとする」 莉々花は言い終えると、すぐに唇を震わせた。自分
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第15話 人のものが欲しい妹①

 母の部屋を新婚部屋に変えたのは、誰だったか。  全部、言えばいい。  でも、ここで声を荒げれば、記者のスマートフォンには私の怒った顔だけが残る。  莉々花は、それを待っているように見えた。 「莉々花さん」  わざと、妹とは呼ばなかった。  莉々花の涙が、一瞬止まる。 「今の、誰に言ってるの?」 「え……?」 「私?」  そこで一度、記者のスマートフォンへ目をやった。 「それとも、そちらの方?」 「記者の方なんて、そんな」  莉々花の視線が、つられるようにスマートフォンへ滑った。見間違いかもしれない。それでも、その動きが引っかかった。  瀬里奈さんが紅茶を一口飲む。カップを置く音は、わざとらしいほど静かだった。 「澪さん、莉々花を試すような言い方はやめてあげて。あの子は昨日、婚約発表の場でひどく傷ついたのよ」 「私もその場にいました」 「だからこそ、あなたには分かるでしょう? 人前で傷つく痛みが」  瀬里奈さんは、誰が誰を傷つけたのかだけは言わなかった。私はカップの持ち手に触れ、すぐ離した。  記者の指が止まった。  スマートフォンのレンズが、かすかに下がる。  瀬里奈が笑みを深くした。 「澪さん、そんな言い方はないでしょう。莉々花は本当に傷ついているのよ」  私はカップの縁へ目を落とした。 「傷ついたのは、私だけじゃありませんから」  紅茶のカップには触れなかった。  湯気が薄くなっていく。 「傷ついた人は、自分が送っていない招待状で記者を呼ぶものですか」  莉々花の睫毛が揺れた。 「招待状……?」  返事の代わりに、バッグから封筒を出した。  ピンクの封筒。青い封緘シール。ホテルカード。  テーブルに置くと、封筒の角が小さく鳴った。 「莉々花さん、あなたは私宛ての手紙で『お姉様』を漢字で書きません。いつも、ひらがなです」 「そんなことまで覚えているなんて、気持ち悪い。だからお姉様は嫌なの」  莉々花の言葉が落ちた。  次の瞬間、彼女は自分の失言に気づいて目を見開く。記者の指が止まった。瀬里奈さんの笑顔も、ほんの一瞬だけ固まる。 「ご、ごめんなさい。違うの。莉々花、怖くて。お姉様に睨まれると、何を言うか分からなくなるの」 「……また『怖かった』で済ませるんですか」  問い返すと、莉々花の
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第16話 人のものが欲しい妹②

 膝の上では、まだ指が震えていた。封筒の端を押さえると、厚い紙の硬さだけがはっきりする。  記者も広報もこちらを見ている。瀬里奈さんの視線を避け、私は封緘の位置へ目を戻した。 「これは、真ん中です。しかも、押し跡が二重になっています」  瀬里奈の笑顔が止まった。 「澪さん、そんな些細なことで人前で妹を追い詰めるの?」 「些細なことじゃありません。私の名前で届いたんです」  言い切ると、ラウンジの奥が静かになった。  征臣は口を挟まず、記者のスマートフォンを遮らない位置で、私のすぐ脇へ半歩だけ移った。  莉々花が唇を震わせる。 「お姉様、怖い……そんなふうに責めるなんて。莉々花、謝りたかっただけなのに」 「責めていません。答えを聞いているだけです。泣く前に、答えて」  封筒の裏を開いた。  青い封緘の端に、ほんの小さく紙粉が残っている。 「この封緘、どなたが押したの?」  光沢のあるテーブルの上で、莉々花の涙だけがよく目立った。けれど私は、その涙ではなく、カップの影で動く彼女の指を見ていた。  莉々花は泣いたまま、答えなかった。  知らないのか、言いたくないのか、それとも誰かの助けを待っているのか。  莉々花の目は、瀬里奈へ動いた。  その視線には、助けて、だけではないものが混じっていた。約束と違う。どうしてお母様が答えてくれないの。そんな子どもじみた責めが、涙の奥に見えた。瀬里奈さんはそれを受け止め、ほんの少しだけ顎を引く。  二人の間には、私の知らない打ち合わせがある。けれど、その打ち合わせは母の名前を使ったところから、少しずつ綻び始めていた。 「莉々花」  瀬里奈の声は柔らかい。  柔らかすぎて、ナイフの刃を布で包んでいるみたいだった。 「お姉様に聞かれているのよ。あなたが押したのかしら。落ち着いて答えなさい」 「莉々花は……お母様に、お願いして。だって、どう書けばお姉様が来てくれるか分からなかったから」  言いかけて、莉々花は口元を押さえた。  記者の指が動く。  今の言葉は、拾われた。 「瀬里奈さんに頼んだんですね」  私は封筒をテーブルの中央へ少し押し出した。 「じゃあ、この席も?」  莉々花の視線が瀬里奈さんへ逃げる。 「違います。莉々花は、お姉様と仲直りしたくて。だから、お母様に少しだけ手
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第17話 封緘シールの嘘①

 瀬里奈さんの目が、帳簿ではなく私の顔へ戻った。何を読んだのか確かめるみたいに。莉々花は紙片より、瀬里奈さんの反応を見ている。  莉々花はまだ、何が出てきたのか分かっていないようだった。紙片を見ても首を傾げ、母親の横顔へ目を戻す。  焦げ跡のついた紙片。母の字ではない数字。帳簿室で見つけた、あの違和感の写しだ。  征臣がかすかにこちらを見る。  出す予定ではなかった。  でも、記者がいるなら、何を撮られるかだけでなく、何を見せるかも選べる。 「母の遺品と帳簿を返す件、白鳥家としてここで答えてください」  瀬里奈の口元が動かなかった。 「ここで、ですか」 「記者の前で始めた話ですよね」 「澪さん、あなたは本当に変わったのね。昔は、こんなふうに人を困らせなかったわ」 「そうかもしれません」  カップの中で、紅茶の表面が揺れた。 「でも、母の物は返してください」  莉々花が膝の上でハンカチを握りしめる。 「お姉様は、どうしてそんなに意地悪なの。莉々花は、ただ……」 「ただ?」 「ただ、幸せになりたかっただけなのに。どうしてお姉様は、それすら許してくれないの」 「それで、悠真さんを?」  莉々花は黙った。  私は左手の指輪へ目を落とした。 「これも欲しかった? 母の部屋も?」 「だって……」  莉々花の声が細くなる。 「お姉様は、持っていても見せないじゃない。大事なものを隠して、ひとりで抱えて、莉々花には何も分けてくれなかった。だから欲しくなるのは、当たり前でしょう?」  周囲の空気がわずかに重くなった。誰かが小さく息を飲む。 「私が何も言わなかったら、そのままにするつもりだった?」  莉々花は答えなかった。唇を噛み、私ではなく瀬里奈さんの方を見た。  さっきまでの甘い声は、最後の語尾で少し崩れていた。可哀想な妹の声より、駄々をこねる子どもの声に近かった。  記者が、スマートフォンを少し下ろした。  撮るべき顔が、分からなくなったのかもしれない。  征臣が低く言う。 「白鳥夫人」  瀬里奈が、初めて征臣を見た。 「この場を記事にするつもりなら、鷹宮の法務にも確認を入れてください。映っているものと、映していないものの差まで、こちらで押さえています」  静かな声だった。  なのに、記者の肩が小さく跳ねた。
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-07-06
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第18話 封緘シールの嘘②

 私は封筒を持ち上げた。青い花の輪郭が、照明を受けて細く浮かぶ。母の手紙に使われていたものと同じ図柄だった。母が私に残した封筒と、莉々花の謝罪会の招待状。その二つに、同じ封緘が使われている。  莉々花が不安そうに瀬里奈さんを見る。今度は演技ではなかった。自分が何を使わされたのか、今になって分からなくなった顔だった。 「その封緘は、あなたのお母様のものよ。だから、あなたも少しは大人になりなさい」  その言葉を口にした瞬間、瀬里奈さんは初めて後悔した顔をした。言いすぎたのではない。隠しておきたかったことまで、自分で口にしてしまった顔だった。  莉々花の目が、今度ははっきり母親へ向いた。記者もスマートフォンを少し持ち直す。ラウンジの空気が、私ではなく瀬里奈さんへ傾いた。ほんのわずかに。けれど、確かに。  母。  指が、青いシールの上で止まった。  母のもの。  たった五文字で、ラウンジの音が遠くなった。  スプーンの小さな音も、カップを置く気配も、記者が息を止めた気配も、全部、水の向こう側へ沈んだみたいにぼやける。 「……今、母のものだと言いましたか」  声がかすれなかったのは、たぶん意地だった。  瀬里奈は一度だけ瞬きをした。  今の言葉を引っ込めるか迷ったように見えた。 「昔、菜月さんが使っていた封緘に似ていると言っただけよ」 「いいえ。今は『母のもの』と言いました」  青いシールを見下ろす。  表面には、小さな花。よく見ると、花びらの中央に細い線が走っている。  母の手紙を思い出した。  車の中で開いた、あの封筒。  銀鈴の少年は、あなたを忘れていない。  封緘の青も、花びらの線も、同じだった。  どうして。  どうして莉々花の招待状に、母のものがあるのか。  問いは喉まで来た。でも、ここで全部出せば、瀬里奈は笑って流す。莉々花は泣く。記者は都合のいい一枚だけを残す。  私は封筒を閉じた。 「ありがとうございます」  瀬里奈の眉が、かすかに動く。 「何がかしら」 「母のものだと、教えてくださって」  莉々花が不安そうに母を見る。  可哀想な顔の作り方は上手いのに、不安を隠すのは下手だ。 「お姉様、そんな言い方……莉々花は、本当に仲直りしたくて」 「莉々花さん」  名前を呼ぶと、莉々花の肩がこわばった
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-07-06
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第19話 青い封かん

 振り返らないつもりだったのに、足が止まる。  莉々花のバッグの口が、少し開いていた。  中から覗いていたのは、未使用の青い封緘シールだった。  会場のざわめきは、優しげに聞こえた。父は私ではなく招待客を見て、瀬里奈さんはハンカチの角を直し、莉々花だけがこちらの反応を測るように目を細めている。誰も、私が傷ついたことそのものには用がないのだ。  翌朝、スマートフォンが震える音で目が覚めた。  一度ではない。  二度、三度。  寝室のサイドテーブルで、画面が光っては暗くなる。  鷹宮邸の客室は、ひどく静かだった。  厚いカーテンの隙間から、朝の光が細く入っている。昨日の青い封緘シールの色より、ずっと薄い。  通知を開いた瞬間、胃のあたりが冷えた。  白鳥家長女、母の遺産を持ち逃げか。  婚約破棄直後に鷹宮副社長邸へ。  関係者は「以前から身勝手な言動があった」と証言。  東都経済新聞の電子版だった。  見出しの下には、ホテルラウンジで撮られた写真。  莉々花が涙ぐんでいる。瀬里奈が心配そうに肩へ手を添えている。私は封筒を押さえている。  切り取られているのは、たぶん一秒にも満たない場面だった。  でも、写真の中の私は、妹の涙を見ても眉一つ動かさない冷たい女に見えた。  まるで、泣く妹を追い詰める姉みたいに。  画面を握る手が強ばる。  包帯の下で、火傷がずきんと痛んだ。  昨日、封筒を押さえた指。  母の帳簿を掴んだ指。  同じ手が、画面の中では誰かを追い詰める手に変えられている。  記事本文を読み進める。  母の遺産。  無断持ち出し。  白鳥家への背信。  鷹宮家との急接近。  見慣れた言葉で、知らない私が作られていく。  最後の段落で、息が止まった。  白鳥家関係者によれば、澪氏は亡き母の私室から複数の帳簿を持ち出したという。室内には、燃え残った紙片が散乱していた。  母の部屋。  あの暖炉を知っている人しか、書けない一文だった。  扉が軽く叩かれる。 「起きているか」  征臣の声がした。 「起きています。……少し、嫌な記事を読んでいました」  声を長くすれば、画面の文字まで震えそうだった。だから、必要な分だけを切り取って返した。  画面を伏せる必要はない。隠せば、また誰かに決められる
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第20話 遺産泥棒の名門家長女

 画面の上部に、次の見出しが流れた。 ――遺産泥棒の名門家長女。妹の婚約を妬んで披露宴を台無しに!?。 記事には、私が母の指輪を握って立っている写真が使われていた。莉々花の白いドレスは淡くぼかされ、泣きそうな横顔だけが丁寧に切り取られている。誰が見ても、私が妹を追い詰めたように見える角度だった。「早いな」 征臣の声は低かった。「早すぎます。あの会場を出てから、まだ一時間も経っていません」 つまり、準備されていた。私が何を言うかではなく、私をどう悪者にするかだけが、先に決まっていた。 知らない番号からの着信が、もう一度震える。今度は留守番電話ではなかった。短いメッセージが届く。 莉々花が倒れました。これ以上、あの子を傷つけないで。 差出人の名前はなかった。けれど、句読点の置き方で分かった。瀬里奈さんだ。 悠真と会う場所は、鷹宮邸の応接室になった。 征臣がそう決めたわけではない。 私が決めた。 ホテルでも、白鳥家でも、有馬家のオフィスでもない場所。誰かの泣き声や家名で空気が変わらない場所。 それでも、ドアの向こうに悠真の声が聞こえた瞬間、膝の上の手が少し冷えた。「澪」 入ってきた悠真は、以前より痩せたように見えた。 たぶん実際には変わっていない。見慣れていたものが、見慣れなくなっただけだ。 紺のスーツ。柔らかい笑み。困った時に少し眉を下げる癖。 昔は、その顔を見ると、私が何かを直さなければと思った。「お時間を取らせてすみません」 敬語にすると、悠真が一瞬だけ傷ついた顔をした。 それを見て、少し嫌になる。 傷ついた顔をするのは、いつも早い。「そんな言い方、しなくても」「本題を話してください」 征臣は同席していない。 部屋の外にいる。呼べば来る距離で、来ない距離。 悠真はソファへ座り、すぐに立ち上がりかけ、また座った。「記事のこと、見た。ひどいと思ってる」「有馬家は、本当に関係ないんですか」 悠真の口が
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