施設を出たあとも、欄外の鉛筆書きが頭から離れなかった。 鷹宮邸へ戻る車の中で、私は複製した投薬記録を膝に広げた。差し替え前の紙は端が汚れ、担当者の走り書きが残っている。差し替え後の一枚だけ、印も文字も同じ濃さで揃っていた。 「保管庫Bは、今も残っていますか」 向かいに座る財団職員へ尋ねると、女性はすぐには答えなかった。 「建物は残っています。ただ、保管庫は数年前に閉鎖されました」 「中の記録は」 「移管されたと聞いています」 どこへ、とは言わない。 征臣が口を開きかけた。私は先に記録の下段を指した。 「この番号、薬剤名ではありませんよね」 英字と数字が八桁。ほかの薬にはついていない。 職員は唇を湿らせた。 「研究用試料の管理番号に似ています」 「似ている、ですか」 「私は研究部門の人間ではないので、断定できません」 逃げる言い方にも聞こえた。けれど、名札を押さえる指が震えている。嘘をついているというより、口にした後を怖がっているようだった。 私は声を少し落とした。 「お名前は出しません。分かるところだけでいいです」 女性は窓の外を見たまま答えた。 「患者さんに使う番号ではありません」 車内の空調音が急に大きく聞こえた。 母の投薬記録に、研究用試料の番号がある。 征臣の手がスマートフォンへ動く。 「相沢に確認を――」 「待って」 彼の指が止まった。 「連絡はお願いします。ただ、今の方の名前は出さないで。まず、この番号だけ見てほしいです」 征臣は職員を見ず、私を見た。 征臣は職員の名を尋ねず、番号だけを自分のメモへ写した。 鷹宮邸へ着く頃、瀬里奈さんから茶会の招待状が届いた。母の投薬記録について、家族だけで誤解を解きたいと書かれている。 家族だけ、と言いながら、同封された出席者一覧には白鳥家と親しい夫人たちの名前が並んでいた。誤解を解く席ではない。私が感情的な姉だと見せるための席だ。 招待状の封を裏返す。青い鈴の刺繍が入った白いハンカチの写真が、小さく印刷されていた。 母の図案と同じ角度だった。 私は投薬記録の複製を封筒へ入れた。 「明日の茶会に行きます」 征臣は理由を聞かなかった。 「俺も一緒に行きたい」 「話は、私からします」 「ああ。君が話す間、
ปรับปรุงล่าสุด : 2026-07-18 อ่านเพิ่มเติม