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21

数日後。 進路希望調査票を提出していない私を見て、先生が声をかけてきた。 「とりあえず大学の説明会に行ってこい。話を聞くだけでも違うから。」 その言葉に押されるように、模試で適当に名前を書いた大学のオープンキャンパスへ足を運んだ。 せっかくだし、いろんな学部の話を聞いてみよう。 そう思っていた。 ……思っていたのだけれど。 最初の全体説明が思った以上に長かった。 ようやく終わった頃には、もう体力も集中力もほとんど残っていない。 「もう一学部だけでいいや……。」 そうして聞いた学部の説明も、なぜか心には引っかからなかった。 興味がないわけじゃない。 でも、「ここで学びたい」と思えるほどではない。 帰り道。 その学部は静かに候補から消えた。 駅へ向かう途中、スマホを取り出す。 気づけば、蒼人とのトーク画面を開いていた。 『私って何に向いてるのかな』 送信。 数分後。 『自分で考えなよ』 「……はいはい。」 思わず苦笑する。 いつも通りの返事だった。 スマホをカバンへしまおうとした、その時。 もう一度通知が鳴る。 『教育系とか見に行ってみれば』 一瞬、画面を見つめた。 珍しい。 蒼人が自分から何かを勧めてくるなんて。 その一言だけなのに
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蒼人に勧められた教育学部のある大学へ足を運んでみた。 「教育って……先生になるための学部でしょ?」 そんな軽い気持ちで説明を聞き始めた。 けれど、話を聞くうちに、そのイメージは少しずつ変わっていく。 教育は学校だけじゃない。 企業で人を育てることも、地域で子どもたちを支えることも、人が成長する仕組みを考えることも、全部教育に繋がっているらしい。 「……楽しそう。」 思わず声が漏れた。 そのあと他の学部の説明も聞いてみたけれど、不思議なくらい頭に入ってこなかった。 帰り道、スマホを開く。 『蒼人、ありがとう! おかげで少し方向決まったよ!』 送信すると、今度は教育学部のある大学を片っ端から調べ始めた。 「あ、ここ面白そう。」 一つだけ、やけに惹かれる大学を見つける。 次のオープンキャンパスに行ってみよう。 そう決めた。 ◇ 翌朝。 目を覚ましてスマホを見ると、蒼人から一件だけ返信が届いていた。 『良かった』 それだけなのに、少し嬉しかった。 ◇ その日も放課後、いつものように教室に残って勉強する。 静かな教室に、シャーペンの音だけが響いていた。 「ここ、分かんないんだけど。」 ふいに、蒼人が参考書をこちらへ差し出してきた。 「ん? ここはね――」 気づけば、自分の勉強そっちのけで説明していた。
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三年生になった。 新しいクラス分けが廊下に張り出され、生徒たちが一斉に集まる。 人混みをかき分けながら自分の名前を探した。 「あった!」 視線を横へずらす。 「……また蒼人と一緒じゃん!」 思わず笑ってしまう。 幼稚園からずっと一緒。 高校に入ってからも、結局一度も離れなかった。 蒼人が同じクラスにいる。 それだけで、少し安心した。 そのすぐ上には、樹くんの名前もあった。 一瞬だけ視線が止まる。 けれど、すぐに目を逸らす。 もう受験生。 今年は恋よりも、自分の進路と向き合わなきゃいけない。 樹くんに自分から挨拶をすることもなくなった。 話す機会も、気づけばほとんどなくなっていた。 今年は体育祭実行委員にも立候補しない。 あの頃みたいに、“樹くんと少しでも一緒にいたい”という理由は、もうなかった。 それでも、体育祭が楽しみなことに変わりはない。 ◇ 三年生の種目は、二人三脚。 当然のように、私は蒼人と組んだ。 家が近いから、休みの日にも公園で練習する。 「いっ、た!」 開始十秒で転びそうになる。 「だから歩幅合わせろって。」 「合わせてるもん!」 「合ってない。」 「蒼人が速いの!」 思って
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体育祭当日。 ここ最近は勉強ばかりの日々だった。 その分まで発散するように、大声で応援する。 気づけば喉が少し痛くなっていた。 そして、いよいよ二人三脚。 蒼人と並び、お互いの足をしっかりと結ぶ。 「あー……緊張するぅ……。」 「今さら。」 蒼人はいつも通り落ち着いている。 私はというと、頭の中で嫌な想像ばかり膨らんでいた。 転んだらどうしよう。 私のせいで蒼人まで巻き込んでしまったら。 そんなことを考え始めると止まらなくなり、頭をぶんぶんと振る。 「何してんの。」 「考えないようにしてるの!」 「余計怪しい。」 そのやり取りに少しだけ緊張がほぐれた。 いよいよ私たちの番。 スタートのピストルが鳴る。 「いくよ!」 「おう。」 練習した通り、息を合わせて走り出す。 右、左。 右、左。 不思議なくらい足が合う。 前にも横にも誰もいない。 ――今、一位だ。 このまま。 このまま行ける。 ゴールが近づく。 あと少し。 その瞬間だった。 「あっ――」 足元がずれた。 視界がぐらりと揺れる。 転ぶ。 そう思った次の瞬間。 肩にぐっと力がかかった。 蒼人の手が私を支えていた。 倒れかけた体勢を立て直し、そのまま最後まで走り切る。 「一位!」 歓声が上がる。 ゴールテープを切ったあと、息を整えながら蒼人を見る。 「……ありがとう、蒼人。」 本当は少し悔しい。 助けられたのが蒼人っていうのが、なんだか癪だった。 でも、救われたのは事実だ。 「さすがに転んだら見てられないだろ。」 「……。」 やっぱりムカつく。 さっきまで一瞬だけ格好よく見えた時間を返してほしい。 私は何も言わず、蒼人の腕を軽く小突いた。 「いった。」 「知らない。」 そのまま二人で観客席へ戻る。 ◇ 今年は実行委員じゃない。 終礼が終われば、そのまま帰れる。 校門を出て、いつもの帰り道。 「今日ほんと危なかったぁ……。」 歩きながら何度も思い返す。 あんなに練習したのに、最後の最後で転びそうになったこと。 そして。 蒼人に支えられた、あの一瞬。 ――ほんの一瞬だけ
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それからというもの、蒼人からたまに「ここ教えて」と連絡が来るようになった。 そのたびに図書館へ行ったり、学校の自習スペースに残ったりして、一緒に勉強する。 窓の外ではサッカー部の掛け声が聞こえる。 校庭に目を向けそうになるたび、自分で視線を参考書へ戻した。 もう見ないって決めたんだから。 そう何度も言い聞かせながら、学校と家を往復する毎日だった。 夏休みが終わると、教室の空気は一気に変わった。 誰もが進路の話をするようになり、放課後も教室に残る生徒が増える。 その空気に背中を押されるように、私もさらに勉強へ力を入れた。 蒼人を道連れにして放課後残る日も、前よりずっと増えた。 ――けれど、その日は違った。 朝からずっと集中できない。 文字を読んでいるはずなのに、頭に入ってこない。 ページだけが無意味に進んでいく。 「……だめだ。」 気づけば参考書の上に突っ伏していた。 それ以降の記憶は、なかった。 ◇ 頬を撫でる夜風が気持ちいい。 ぼんやりと意識が浮かび上がる。 ……揺れてる? 重たいまぶたを少しだけ開けると、見慣れた制服の背中が目に入った。 蒼人だ。 え……。 私、おんぶされてる……? 驚いて声を出そうとした。 けれど、体が思うように動かない。 眠気とだるさが勝ってしまう。
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放課後、御手洗から自習室へ廊下を歩いていると、 ふと女子たちの会話が耳に入った。 「え!樹くんってあの〇〇大学行くんだ!」 思わず足が止まる。 ……〇〇大学。 私が今、一番行きたいと思っている大学。 「え、ほんと?」 「うん!結構模試の判定も良かったらしいよ!」 胸がざわつく。 同じ大学なんだ。 ……いや、違う。 偶然だ。 そう自分に言い聞かせる。 樹くんがいるから目指したいわけじゃない。 私は、あの大学の雰囲気が好きで、教育を学びたいと思ったから選んだ。 ちゃんと、自分で決めた。 それなのに。 「……大学でも、また会うのかな。」 そんな考えが浮かんでしまう。 ダメだ。 大学にまでこの恋を持っていくつもり? 私はもう終わらせるって決めた。 深く息を吸って、自習室へ向かう。 ドアを開けると、いつもの席で蒼人が参考書を開いていた。 「遅い。」 「ごめんごめん!」 席に座る。 参考書を開いて、シャーペンを握る。 もう考えない。 今考えるべきなのは受験。 それだけ。 樹くんがどこの大学へ行こうが関係ない。 私は私のために頑張る。 そう思うほど、手に力が入る。 文字を書く音だけが
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十二月。 冬休みに入ってからというもの、毎日が勉強漬けだった。 共通テストまで、あと一か月もない。 ここまで頑張ってきたんだから大丈夫。 そう思いたいのに、机に向かえば向かうほど不安だけが膨らんでいく。 気づけば時計はもうすぐ0時を指そうとしていた。 参考書に目を落としたままシャーペンを動かしていると、机の上のスマホが震える。 「あけおめ。」 蒼人からだった。 毎年、このメールだけは欠かさない。 しかも決まって0時ぴったり。 その一通を見て、ようやく今日が元日になったことを思い出した。 思わず笑って返信を打つ。 「あけおめ!明日初詣行こ!受験の願掛け的な?笑」 返事はすぐだった。 「わかった。早めの時間空いてるから7時で。」 相変わらず無駄がない。 ⸻ 結局、一睡もできなかった。 軽く身支度だけ整えて待ち合わせ場所へ向かう。 「おはよう……」 「え、寝てないの?」 「結局寝れなくて……笑」 「馬鹿。」 その一言だけ返される。 まだ人の少ない朝の道を、二人で並んで歩く。 受験の話をしたり、全然関係ない話をしたり。 気づけば神社に着いていた。 時間が早かったおかげで、それほど並ばず参拝できる。 私は静かに目を閉じた。 (〇〇大学に、蒼人と受かりますように。)
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受験前日。 何度も受験票を確認して、筆箱の中身を確認して、参考書を少しだけ開く。 けれど、文字は頭に入ってこなかった。 「……大丈夫かなぁ」 机に突っ伏して天井を見上げる。 今まで積み重ねてきた時間が、明日からの二日で決まる。 そう思うと、どうしても胸が落ち着かなかった。 気づけばスマホを手に取り、蒼人とのトーク画面を開いていた。 『ねぇっ!!緊張やばい!!』 送信すると、数分も経たないうちに返信が届く。 『早く寝ろバカ。』 「もう……。」 思わず頬を膨らませる。 相変わらず優しくない。 だけど、その一言で張り詰めていた糸が少しだけ緩んだ。 「……寝よ。」 スマホを置き、目を閉じる。 明日はきっと、大丈夫。 そう自分に言い聞かせながら眠りについた。 ◇ 当日。 目覚ましが鳴るより少し早く目が覚めた。 制服ではない服に着替え、朝ご飯を食べる。 何も変わらない朝。 それが少しだけ安心できた。 家を出て駅へ向かって歩いていると、後ろから足音が近づいてきた。 「ちゃんと寝れたの。」 「わっ!」 驚いて振り返ると、蒼人が立っていた。 「びっくりしたぁ……。」 「寝れた?」 「うん。なんとか!」 いつものように他愛もない話をしなが
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