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預けたいもの

last update Veröffentlichungsdatum: 22.08.2026 14:41:13

 女性と別れた綾香は、そのまま病院へ向かった。

 バッグの中には、母が残した封筒が入っている。

 電車に乗っている間も、何度か手で確かめてしまった。

(大丈夫。ちゃんとある)

 三年間、母の友人が守ってくれていたものだ。

 自分が受け取ったその日に失くすなんて、絶対に嫌だった。

 病院へ着くと、遥臣にメッセージを送る。

『着いた』

 しばらくして返信が来た。

『一階』

 ロビーへ入ると、少し離れたところに遥臣が立っていた。

「遥臣」

「来たか」

「仕事中なのにごめん」

「少しなら空いてる」

 遥臣は綾香の顔を見たあと、その手元へ視線を落とした。

「預けたいものって何だ」

「これ」

 綾香はバッグから茶色い封筒を取り出した。

 遥臣が受け取ろうとして、綾香は一瞬手を止める。

「…&hellip

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  • 婚約者に売られ、親友に顔を奪われた私は、二度目の人生で全てを取り戻す   検査結果

    『親父にも確認したい』 綾香はそのメッセージをしばらく見つめていた。 遥臣がそう言うということは、何か気になるところがあったのだろう。『分かった』 返信する。 すぐに電話をかけようかとも思った。 けれど、遥臣自身もまだ確認したいと言っている。(今聞いても、分からないわよね) 綾香はスマートフォンを置いた。 焦ってはいけない。 母も、分からないから記録を残したのだ。 今度は自分が、一つずつ確かめる。◇◆◇ 翌日の昼過ぎ。 遥臣から電話がかかってきた。「もしもし」『今、話せるか』「うん」『昨日の検査結果、親父にも見せた』 綾香は姿勢を正した。「何か分かった?」『断定はできない』「……うん」『ただ、何度か肝機能の数値が悪くなってる』「肝臓?」『ああ。そのあと戻ってる時もある』「それって、病気だったってこと?」『それだけじゃ分からない』 遥臣の答えは端的だった。『薬でも変わる。体調でも変わる。検査結果だけ見て原因を決めるのは無理だ』「じゃあ、お母様が赤い線を引いてたのは……」『そこが気になってたんだろうな』 綾香は母の記録を思い出した。 何を食べたか。 何を飲んだか。 何時に薬を飲んだか。 そして、その日の体調。「遥臣」『何だ』「記録の中に、お母様が飲んでた薬の名前もあるの」『ああ』「それを見れば、もう少し分かる?」 電話の向こうで少し間があった。『可能性はある』「じゃあ、見てもらっていい?」『他の書類も見ることになるぞ』「あ……」 綾香は黙った。 昨日は、検査結果以外は見ないでほしいと頼んだ。 けれど、薬の記録は母が残した一覧の中にある。「分かった。薬のことが書いてあるところは見て」『いいのか』「うん」『分かった』 そこで会話が途切れる。 綾香は少し迷ってから尋ねた。「九条先生は何て?」『親父も同じだ。結果だけじゃ分からないって』「そう……」『ただ』「何?」『昔、お前の母親から相談された時のことを、もう一度確認したいらしい』「どういうこと?」『記録にある薬と、当時聞かれた内容が繋がるかもしれない』 綾香の指に力が入る。「今日、分かる?」『診療が終わってから見る』「私も行った方がいい?」『来なくていい』「でも――」『分かったら連絡する

  • 婚約者に売られ、親友に顔を奪われた私は、二度目の人生で全てを取り戻す   預けたいもの

     女性と別れた綾香は、そのまま病院へ向かった。 バッグの中には、母が残した封筒が入っている。 電車に乗っている間も、何度か手で確かめてしまった。(大丈夫。ちゃんとある) 三年間、母の友人が守ってくれていたものだ。 自分が受け取ったその日に失くすなんて、絶対に嫌だった。 病院へ着くと、遥臣にメッセージを送る。『着いた』 しばらくして返信が来た。『一階』 ロビーへ入ると、少し離れたところに遥臣が立っていた。「遥臣」「来たか」「仕事中なのにごめん」「少しなら空いてる」 遥臣は綾香の顔を見たあと、その手元へ視線を落とした。「預けたいものって何だ」「これ」 綾香はバッグから茶色い封筒を取り出した。 遥臣が受け取ろうとして、綾香は一瞬手を止める。「……中、見ないでね」「分かった」「聞かないの?」「何を」「何なのか、とか」「見ないで預かれって話だろ」「そうだけど……」 相変わらずだ。 綾香は封筒から手を離した。「大事なものなの」「ああ」「家には置いておきたくなくて」 遥臣の目が綾香へ向く。「何かあったか」「……まだ分からない」「そうか」 それ以上は聞かない。 綾香は少し迷ってから続けた。「それと、お願いがもう一つあるの」「何だ」「この中に、お母様の昔の検査結果が入ってるの」 遥臣が封筒を見る。「検査結果?」「それだけは見てほしい」「さっき見ないでって言っただろ」「だから、全部じゃなくて

  • 婚約者に売られ、親友に顔を奪われた私は、二度目の人生で全てを取り戻す   星印の意味

    『理央が来た』『理央、夕食』『理央、泊まり』 綾香は何度もその文字を見返した。 間違いなく母の字だ。 けれど。(待って) これだけで理央を疑うのは早い。 母自身も、最後まで誰かを名指ししてはいなかった。「この星印……お母様が何のためにつけてたのか、聞いてませんか?」「いいえ」 女性は首を振った。「その書類自体、私は今初めて見たから」「そうですよね……」 綾香はもう一度、記録を最初から確認する。 星印がついている日。 ついていない日。 体調が悪化した時間。 食事や飲み物。 薬。 そして、その日にあったこと。 理央の名前がある日と、ない日がある。 逆に、理央が来ていても星印のない日もあった。「……違う」「何か分かった?」「理央が来た日につけてる印じゃないみたいです」 女性も書類を見る。「本当ね」「だったら、この印は何……?」 一枚ずつ並べていく。 星印がある日の記録には、必ず体調の変化が書かれていた。『強い眠気』『吐き気』『めまい』『動悸』 症状は一定ではない。 けれど、普段より明らかに体調を崩した日に、星印がつけられているように見える。「体調が悪かった日……?」 綾香は呟いた。 だとすれば、理央の名前が何度も重なっていることには意味があるのだろうか。 偶然。 そう考えることもできる。 当時の理央は御影家へ頻繁に出入りしていた。 母と顔を合わせる機会だ

  • 婚約者に売られ、親友に顔を奪われた私は、二度目の人生で全てを取り戻す   預ける場所

     ホテルを出てからも、女性の言葉が頭から離れなかった。『持ち帰ったあと、御影の家には置かない方がいいと思う』 母も、家に置けないと思ったから彼女に預けた。 なら、自分も同じようにした方がいい。(でも、どこに……) 銀行の貸金庫に入れることも考えた。 けれど、母の貸金庫はまだ相続手続きの途中だ。 すぐには使えない。 新しく自分で契約するにしても、今日明日で用意できるとは限らない。 綾香は駅へ向かいながら考え続けた。 そして、ふと一人の顔が浮かぶ。「……遥臣」 母の手紙を預かっていた九条先生の息子。 御影家の外にいる。 それに、少なくとも今の綾香が信頼できると思える相手だった。 けれど。(誰にも言わないでって言われたのよね) 女性との約束を破ることになる。 綾香はスマートフォンを取り出しかけて、やめた。 明日、書類を受け取ってから考えよう。◇◆◇ 屋敷へ戻ると、玄関に理央の靴があった。(もう帰ってる……) できれば今日は顔を合わせたくなかった。 綾香はそのまま自室へ向かおうとした。「綾香」 やはり、呼び止められた。 廊下の奥から理央が歩いてくる。「おかえり」「ただいま」「出かけてたんだ」「ええ」 綾香はそれだけ答え、歩き出そうとする。「どこ行ってたの?」 まただ。 綾香は足を止めた。「理央」「何?」「この前、話したでしょう」「……聞いただけだよ」「答えたくないって言ったの」「でも、最近ずっとそうじゃないか」

  • 婚約者に売られ、親友に顔を奪われた私は、二度目の人生で全てを取り戻す   母が疑っていたもの

    「自分の部屋に置いていたものが、少しずつ動いている気がするって」 綾香は息を呑んだ。 自分も同じことを感じている。 屋根裏部屋に残された母の遺品。 なくなった木箱。 そして、夜中に屋根裏部屋へ入っていた理央。「お母様は……誰かが部屋に入ってると思ってたんですか?」「そうみたい。でも、最初は自分の勘違いかもしれないって言ってたわ」「誰かを疑ってたんですか?」「その頃は、名前までは聞かなかった」 女性は首を振った。「私も、あまり深刻に考えてなかったの。家政婦さんが掃除の時に動かしたんじゃないかとか、そんな話をして」「……そうですよね」 それだけなら、綾香だってそう考える。「でも、そのうち相談の内容が変わってきた」「どういうふうに?」「体調のことを話すようになったの」 綾香の表情が変わる。「体調……」「眠気がひどいとか、急に気分が悪くなるとか。日によって違ったみたいだけど」 九条先生から聞いた話が頭をよぎる。 母は薬について調べていた。「病院には?」「行ってたわ。でも、原因は分からなかったみたい」 女性はカップに手を伸ばした。「それで、ある時から食べたものや飲んだものを記録するようになったの」「どうして?」「何か共通するものがないか調べるためだって」「記録……」「ええ。体調が悪くなった日だけじゃなくて、何を食べたか、何を飲んだか、薬を飲んだ時間まで」 綾香は眉を寄せた。「その記録は?」「私も見たことはないわ」「じゃあ……」「たぶん、木箱の中じゃないかしら」 綾香の胸が大きく鳴った

  • 婚約者に売られ、親友に顔を奪われた私は、二度目の人生で全てを取り戻す   母の親友

     翌日。 綾香は約束の時間より少し早く、ホテルのラウンジへ着いた。 理央には会わなかった。 橘には「少し出てくる」とだけ伝えたが、やはり行き先は聞かれなかった。(大丈夫……誰にも知られてない) そう思いながらも、落ち着かない。 案内された席に座り、周囲を見回す。 人は多い。 宿泊客らしい家族連れや、仕事の話をしている人たち。 ここなら、何かあっても人目がある。 母の友人がこの場所を選んだ理由が、少し分かった気がした。「……綾香ちゃん?」 声に振り返る。 昨日、写真で見た女性が立っていた。 写真より当然年齢は重ねている。 けれど、面影は残っていた。「はい」「やっぱり。お母さんに似てるわね」 女性は綾香の向かいへ座った。「昨日は突然電話して、すみませんでした」「いいの。驚いたけど……いつか連絡が来るかもしれないとは思ってたから」「私から?」「ええ」 綾香は眉を寄せた。「どうしてですか?」 女性はすぐには答えず、注文を済ませた。 飲み物が運ばれ、店員が離れてから、ようやく口を開く。「まず、聞いてもいい?」「はい」「私の電話番号を、どうやって知ったの?」「お母様の貸金庫です」 女性の表情が変わった。「貸金庫?」「緊急連絡先に、あなたの名前と電話番号がありました」「……そう」 女性はしばらく黙り込んだ。「やっぱり、あの貸金庫は残ってたのね」「知ってるんですか?」「ええ」 綾香は身を乗り出した。「中に何があるかも?」「それは知らない」「……そうですか」「でも、あなたのお母さんが何かを保管していたことは知ってる」 綾香の胸が大きく鳴った。「木箱ですか?」 女性の手が止まった。 その反応だけで分かった。「知ってるんですね」「……綾香ちゃん。その箱のこと、どこで知ったの?」「お母様が残した手紙に書いてありました」「手紙?」「九条先生に預けていたんです」 女性が目を見開く。「九条先生に……」「それと、箱の鍵も見つけました」「鍵まで?」「はい。でも箱がないんです」 女性はしばらく何も言わなかった。 やがて、小さく息を吐く。「そういうことだったのね」「何がですか?」「昔、あなたのお母さんから預かったものがあるの」 綾香は息を呑んだ。「預かったもの?」「三年前。

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