Alle Kapitel von 京極社長は善良すぎる女に飼われたい……2つのダイヤが秘密を暴く: Kapitel 11 – Kapitel 20

83 Kapitel

11.京極のお泊り

「……2Kか。一人暮らしの世帯も多いわけだ」エントランスで京極と凪を降ろし、山田は挨拶もそこそこに走り去った。凪も調査のための宿泊だと割り切って自分の部屋へと京極を招き入れたところ……あちこちに京極の視線が行き、落ち着かない。「この階は全部2Kなんですか?」「わからない。……確か3部屋の間取りもあったと思うが」京極はカラーボックスの上に飾られた母の遺影に気づいたらしい。生花と思い出の品、そして線香と香炉を置いて、簡易的にこしらえた仏壇のようなものだった。……手を合わせてくれたことが、少し意外だった。「ありがとうございます。……お茶でも」「いや、俺のことはいいから。君は風呂に入って先に寝なさい」京極はそう言って玄関に向かった。見送ろうとついて行くと、ドアにセンサーのようなものを取り付けている。不思議そうに見つめる凪に京極が説明した。「鍵なんて信用ならないからな。これは不審者が無理に開けようとすると感知して警報が鳴って、警備会社に通報されるシステムだ」「……すごいですね。そんなグッズがあるなんて知りませんでした」「うちのオリジナルだからな。基本的にタワマンとか高級マンションにしか需要がない」その説明に納得する凪。これを活用するには警備会社との契約もしなくちゃならないから。「このドアが無理に解錠されたら俺の携帯に警報が入るように変えといた。調査が終わったら君の鍵で中に入るから、あとは気にせずに寝てくれ」はい、という返事を聞く間もなく、京極はドアを出ていく。ピロロという小さな電子音がして、警報が鳴るシステムが作動したとわかる。……ここまで、ものの10分。大げさな言い方をすれば、企業のトップとしての能力を見せつけられた気がした。問題が起きてからの決断と対応、対策……そのすべてに迷いがなくて的確。「とてもじゃないけど、かなわない……」張り合うつもりは毛頭なかった。けれど、つまみっ子倶楽部という団体のトップである凪にとって、京極の対応は賞賛に値した。「お布団……干したばっかりで良かった」やや緊張しながら入浴を済ませた凪は、座卓を片付け、京極のために布団を敷いた。奥にはベッドがあって一応寝室だが、別の部屋がいいに決まっている。敷布団に薄いピンク色のシーツをかけ、客用の枕には未使用のタオルを巻いた。秋の始まりでまだ寒さは本格的ではないので、さ
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-21
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12.京極邸へ

「な……っなんでそうなるんですか?そんなの嫌に決まってますっ」「は?……嫌だ?」「こ、恋人でもないのに同居なんて……そんなことができるほど男慣れしてませんっ」余計なことを言ったと後悔した。赤い顔であることを覚悟しながら京極を見上げると、眉間にシワを寄せた難しい顔になっている……「めずらしい子がいたもんだ。俺に誘われて拒否するとは」「さすが、京極さんですね」「……まぁな」腕を組んだ京極に、それとなく玄関までの通路を塞がれている気がする。「とにかくここより安全だから、当面必要な荷物をスーツケースに入れなさい」この部屋がある4階には、少し離れた部屋にもう一人入居者がいるだけ……ほかの階に入居者がどれほどいるのがわからない凪にとって、不審なことがあったこのビルに1人でいるのは確かに不安だ。「わかりました」凪は抵抗を諦めてスーツケースを引っ張り出し、荷物を詰めていった。最後に白い紙袋に線香や香炉、そして遺影を入れようとして……「荷物は持ってやるから、遺影は手で持っていきなさい」京極がスーツケースと紙袋に手を伸ばした。いつの間に呼んだのか、エントランスに降りると黒塗りの車が停まっていた。ドライバーは山田ではなく、京極REAL ESTATEで契約しているタクシー会社らしい。「どこか、住まいを見つけるまでの間で結構ですから」「そんなこと言っていいのか?」京極は車から降り、黒壁と同化するような大きな門を開け、中に入っていく。「何がですか?」後からついていくと、門の中に入ったところで振り向いた京極が、口角をいたずらっぽく上げた。「……入ったな?よしよし」「質問に答えてください!」頭を撫でられ、子供扱いされたようで悔しくなった凪は、京極の手を振り払う。「お母さんのネックレスはここにあるんだぞ?それを置いて出ていけるか?」「……ネックレスは、人質?!」「堂々と人聞きの悪いことを言うな。同じ家にいれば、婚約者との仲をどう壊すか相談したり、ネックレスについて調べたことを共有したり、何かと楽だろ?」タイパを考えろ……と言いながら、京極は大きな玄関の施錠を解く。中に一歩足を踏み入れると、天井が高く広々としていた。目の前に流れるような曲線の階段があり、その向こうは美しい芝生の庭が見える大きなガラスがはめ込まれている。「この家に部屋は6つある
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-22
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13.俺はいいけど?

「……どうか、したんですか?」寝ぼけてされるがままの凪。のんびり問いかけてみると、その腕の力がパッと緩んだ。「……いや、呼んでも返事がないから」バツが悪そうな京極。覚醒していく意識の中で、その様子に笑ってしまう。「起きられるか?」「大丈夫ですよ。寝てただけですから」「あ?……ウォークインクローゼットで転んで倒れたんじゃないのか?」「違います……」答えながら、京極がスーツ姿だということに気づいた。「今お帰りですか?……ずいぶん遅いですね」「……さすがの俺もお嬢ちゃん1人で留守番させて、朝帰りの女遊びはしないぞ?」「……は?」お嬢ちゃん呼びと女遊びという言葉に思いきり引っかかり、その顔を睨みつける。そのまま見下ろして、京極のスーツが珍しくダークシルバーだと気づいた。……ん?黒じゃない?「やだ……っ!?もしかして朝ですか?」「そうだ。俺は夜中に疲れ切って帰宅して……って、聞けよ!」凪は慌ててウォークインクローゼットを飛び出し、京極を部屋から追い出して支度をはじめた。のんびり車の中で凪の出発を待っていた京極。……サバンナビルディングに到着して転がるように車から降り、エントランスに吸い込まれていく凪に、京極の声が追いかける。「転ぶから慌てるなよっ!」振り返ると、優雅に閉められる窓……音もなく走り去っていく車から笑い声が聞こえる気がして、凪は少しだけ唇を尖らせた。「凪さん、おはようございます」「小森さん、ギリギリセーフですね、ごめんなさい」「大丈夫!サンサン体操までまだ2分ありますから!」小森は母がつまみっ子倶楽部を創設して最初に雇った人だと聞いている。福祉の業界ではまだまだひよっこの凪にとって、大切なアドバイザー的存在の人でもあった。「実は私、訳あって住まいを今、留守にしてまして……」この先どれくらい自宅に戻れないかわからないので、凪は不在にしていることだけ小森に伝えた。「あ、そうなんですか。実は今日も呼びに行ったほうがいいかな、と思ったんだけど」「ご足労かけなくて良かった!……そういうことなので、私も小森さんに心配かけないように遅刻には気をつけますね」「それは……わかってるから大丈夫。もし遅くなったら僕がサンサン体操踊りますよ」小森の優しい言葉に感謝の気持ちが湧き上がった。実は凪……真壁雅人との政略結婚の話が出
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-23
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14.危うい関係

「……私だって別に、どうってことないですよ?」「ほう……?」「ちょっと若い、お父さんだと思えば……いいわけですから」凪の言葉にわかりやすく不機嫌になる京極。スラックスのポケットに両手を突っ込み、くるりと背を向けて階段を降りていく。少々失礼だったかと反省した凪はその背中を追いかけた。「あの、京極社長……今の言い方は、」失礼でした、ごめんなさい……と続けようとしたところで、広い階段の途中、京極が振り返る。「君はいくつだ?」「……24、です」「俺は34だ。……君からすればかなり年上かもしれないが、世の中それくらいの年の差なら恋愛するカップルも、結婚する夫婦もいる。つまり俺たちは明日、どうなるかわからない危うい関係ということだ」はっきり言葉にされ、急速に目の前の京極を意識してしまう凪。……頬が赤く染まるのがわかって、恥ずかしくて唇を噛む。「……なんだその反応は?!ったく、調子が狂う」階下に降りた京極は、エプロンを外し、上着を着た。夕食を取らず、出かけるらしい。「ちょっと残してきた仕事をひとつ片付けてくる。……君の夕食は届けさせるから」「はい。あの……不愉快にさせたなら、申し訳ありません」玄関まで追いかけていき、謝罪の言葉を口にした凪。そんな彼女に京極は困惑した目を向け、ほんの少し本音を漏らす。「いや……素直な反応にちょっと落ち着かなくなっただけだ。……君のような人と接するのは、久しぶりでね」ポンポン……と頭を撫でられ、指先が頬を滑っていく。そのぬくもりが離れていくのが寂しいと感じるのは、多分大きな家に一人残されるからだ……凪はそう思っていた。その夜、考えあぐねた末……和室の布団は常識的な範囲まで離して眠ることにした。熟睡できないまま翌朝を迎えたものの、京極の帰宅には気づけなかった。だが起きてすぐ、寝た様子のない隣の布団が目に入った。……どうやら彼は、別の部屋で眠ったらしい。着替えて階下に降りると、すでに支度を終えたらしい京極がコーヒーを片手にダイニングテーブルに座っていた。チラリと凪に目をやると、立ち上がってドリップしたコーヒーを注いでくれる。「ミルクはないが、砂糖ならあるぞ?」「大丈夫です。……いつもブラックですから」……嘘だった。いつもなら砂糖もミルクも入れる派だ。「そういえば、まだ君に見せてなかったものがある」「なにを
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-24
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15.娘だと思え

「それじゃ母のネックレスはやはり、元は京極社長のものだったのかもしれませんね」……凪の表情が晴れない。それは、母の形見だと思っていたものが、俺に繋がる品だった可能性が高まったからなのか。「このネックレスは、母が肌見離さずつけていたものではないんです」「……そうなのか」「母が事故にあったと連絡があったのは4年前……大学2年生の時でした」当時を思い出すように、京極からネックレスを受け取った凪。「……君も、これがどうしてお母さんに渡ったのか、知りたくなっただろ?」「それは、はい」「今夜帰ったら続きを聞かせてくれ」話は終わりだと理解したのだろう。凪はネックレスを返そうと差し出してきた。京極はそんな凪の手からネックレスを取り上げ、彼女の首に掛けてやった。「君がここへ来たあと、「希望した入居者の部屋にも、同じセンサーを取り付けた。留守中に不自然な開閉を記録した部屋がいくつかあってな。だから君も、空き巣目的と鉢合わせしただけかもしれない」首元を飾るネックレスに触れながら見上げられ、その澄んだ瞳に一瞬吸い込まれそうになった。「……それほどサバンナビルディングで暮らすのは物騒だということだぞ?」「あ……そうですよね」京極は凪の背中を軽く押しながら、地下の部屋から出た。そして階段を上がりながら聞いてみた。「そんなに……ここは居心地が悪いか?」「いえ、とんでもないです。広くて立派で豪華で、素晴らしいおうちだと思います」昨夜、俺を『お父さん』扱いしたのを相当悔やんでいるようだ……「君には広すぎるようだから……俺の寝室で一緒に寝ようか?」「……えっ?」「俺はちょっと若いお父さんにしか見えないんだろ?それなら俺も、成長しすぎた娘として見るから問題ない」ニヤリと笑ってやれば、答えに困っている姿が可愛くて仕方がない。あの日……調査を兼ねて凪の家に泊まった夜も、無防備な寝顔を見てそんな風に思った。そうだ。娘だと思えばいい。物騒な家に置いておくわけにいかずに連れてきたが、想定外の庇護欲に突き動かされて困っていた。凪は、娘……そう、娘だ。「はい。……それでは、よろしくお願いします」「は?」提案をあっさり飲んだ凪を、俺は眉根を寄せて見下ろしてしまった……「社長、開発プロジェクトの件ですが、競合のビスター社が提示する買収額が、近く判明するそうです
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-25
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16.探しているネックレス

午前中の仕事を終え、凪は小森に後を頼み、黒石興業へとやって来た。純和風の家屋なのに、門は鉄のような金属製。……来る人を寄せ付けないような雰囲気の門の柱には、小さな板が張り付けてあり、黒石興業と書いてある。「……ほんとこれ、かまぼこの板に見えるんだよね」家屋や門とは明らかに不釣り合いの表札を指先でつつき、凪はインターホンを探した。「姐さん、お待ちしてました!」「あ……こんにちは」門は勝手に向こうから開き、人懐こい笑顔を見せるのは、平社員のカズオだ。「今日は京極社長はご一緒じゃないんですね?嬉しいなぁ……」「え……?カズオさんは京極社長が苦手なんですか?」「いや、あの人カッコいいから、俺が目立たないでしょ?」ニコニコしながら、カズオはカッコいいというより可愛い笑顔を凪に向ける。「……京極とはガキの頃からの付き合いですけどね。あいつは昔から無駄に目立つ男なんですよ」そこへドシドシと足音を響かせ、社長の息子、黒石岳副社長がやって来た。「凪さんお疲れさまです。京極に聞いてます。今日はお一人でやって来たとか」「はい。あの……来てみてわかったんですけど、バスが終わる時間、思ったより早いんですね?」「……そうなの?バス停がどこにあるのかも知らないや……!」岳は精悍な顔を緩め、笑顔を見せた。……京極を『昔から無駄に目立つ』と言ったけれど、同じくらい長身でがっちりした体つきの岳だって相当目立つだろう。「その……申し訳ないのですが、いつもより少し早めに帰ってもいいでしょうか?料理は必ず間に合わせますので」「あぁ……!もちろんですよ」笑顔の岳を見て思う。皆、京極と一緒に来る時より上機嫌だ。 この黒石興業は、9割男性社員のようだから……京極はカッコよすぎて煙たがられているのかもしれない。早速割烹着を着て料理をはじめる凪。キッチンにさっき挨拶をしたばかりの岳が花柄のエプロンをつけてやって来た。「今日は私も手伝いますよ。……何を作る予定なんですか?」「え……?!でもそれじゃ、」「実はうちの組で一番の料理上手は俺なんです。作っても皆ビビって食わないから作りませんけど、実は細かい作業とか好きなんですよ」岳は頼んでいない玉ねぎのみじん切りを始めてしまった……仕方なく、今日の献立にハンバーグを追加することにした。「……あ、本当にお上手ですね」チラチ
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-26
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17.好き嫌い

「はぇ……?」「ハエ?……どこに?」あたりを見渡す岳。凪は無意識にネックレスを隠すように手をやっていて、岳はその仕草を目ざとく捉えたらしい。「あの、気が散るので後はもう1人でやりますので」何か言いたげな岳の背中を押し、キッチンから追い出した。「ほぅ……岳の奴が?」バスの時間は無事に間に合い、凪は京極邸に帰ってきた。すでに家にいた京極が凪を迎える。「はい。ネックレスのこと、なんとなく本当のことは言いたくなくて、バーゲンで買ったって言いました」「残念だが、それはあいつには通用しないだろうな」「どういう意味ですか?」問いかけながら、凪は自然にキッチンに入っていった。抱えていたバッグの中から食材を取り出し、料理をはじめる。「なんだ、何か買ってきたのか」「はい。この家何もないので、呆れて買い物してきました」包丁を取り出し、軽やかに刻む音を響かせる凪を、不思議そうに見つめる京極。「一応言っておくが、俺は好き嫌いがあるぞ」急に子供みたいなことを言い出す京極がおかしくて笑い出す凪。「そうですか……ちなみに、何が嫌いなんですか?」「笑うなよ?」多分笑ってしまうと思いながら何度もうなずき、笑顔で京極の次の言葉を待つ。「ピーマンと椎茸と、セロリと……」「まだあるんですか?」「……辛いもの全般だ」約束を破り、声をあげて笑ってしまった。京極は仏頂面で腕を組み、凪の前に立つ。「大丈夫です……ここから出ていくまでに、私が好き嫌いを克服させてあげますよ」「……言ったな?」「はい!言いましたよ?……約束です!」小指を差し出す凪に、素直に小指を絡ませる京極。実は……無邪気な笑顔から目をそらせずにいた。「黒石のところとは、祖父の代から付き合いがあってな。屋敷に父親を呼ぶ時、一緒に息子の岳も連れてこさせた。同い年なのもあって、子供の頃はよく一緒に遊んだ」「はぁ……そういうご関係だったんですか」「あぁ。うちでは対応が難しいことを請け負ってくれて便利に使ってたんだが、岳の父親を祖父が可愛がって、家族ぐるみの付き合いになった」話ぶりから、どうやら京極の実家は裕福だと連想したが、黒石興業を便利に使うとは……対等な関係ではなかったらしい。……それにしてもさっきから、京極が料理をする自分の手元を覗きながら話をしていて、キッチンから出ていかない……「そろ
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-27
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18.母の形見の正体

「そんなの急に……困りますよ」「どうして?つまみっ子の踊りなら、他のスタッフもうまく踊ってたろ?」「そういう問題じゃなくて……」京極は食べ終わった野菜のあんかけ丼に手を合わせ、箸置きに箸を置いた。そしてお茶を一口飲むと、言い聞かせるように話し出す。「いいか?もしそのネックレスが京極家に関わるものだとしたら、君が持っているのは危険だ」凪は襟元に手をやりながら思い出した。母の形見であるはずのこのネックレスに、京極が驚くほどの高値をつけたことを。「先に教えてください。このネックレスは京極社長にとって、奥さまだった女性に贈ったものだという以外に、大切な理由があるんですか?」「明日、一緒に鑑定に行けばすべてわかる。……稼げない分は俺が、」「お金は結構です。私はそんなもので動く人間じゃありません」京極の言葉を途中で遮り、凪はきっぱりと言った。「母の形見として大事にしてきたネックレスのこと、ちゃんと知りたいから行きます」「お久しぶりです。……えぇ、元気にやってますよ」翌朝、京極の低い声が聞こえて目が覚めた。布団から起き上がってみると、ベッドに京極の姿はない。……どうやら室内で繋がっている隣室で、誰かと電話をしているようだ。「はい、今日伺いたいんですが――先代がいると助かります。あの……ダイヤのことです」よく見ると少しドアが開いている。……勝手に耳に入ってくるのはそのせいだと思いながら、凪は自分の布団を簡単に片付け、京極の寝室を出る。実は……広すぎる部屋のどこでなら眠れるか、検証して決まったのは京極の寝室だった。当然そこも十分な広さの部屋ながら、すぐそばに人がいるという環境は、凪を思いのほか安心させたらしい。凪の眠りが浅いことは京極にバレていたことから、ベッドのそばに専用のラグを敷き、その上に布団を広げて眠ることが許された。まさかの寝室共有だったが、京極は平然としていたし、凪も意識することなく眠っていた。自室で着替え、階下に降りた凪は軽く身支度を整え、簡単な朝食を準備した。今日休みをもらうことは、昨夜のうちに小森に伝えてある。やがてリビングに入ってきた京極に、野菜スープと焼きたてのパンを出す。「朝、食事をするのか……」「食べない派ですか?」「そうだな。子供の頃から食べないな」またひとつ、知らなかった京極を知る。凪はその先も知りたいと思い
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-27
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19.京極家のダイヤ

「私は小山内と言います」 「はじめまして……汐沢凪と申します。今日は、よろしくお願いします」 鑑定士は凪の顔も見ずに名乗り、年季の入った鑑定用のルーペを右目につけ、ネックレスのダイヤと指輪のダイヤを交互に光に当てた。 ……それにしても、どういうことだろう。母の形見に、京極家のダイヤが使われていたなんて。 「李仁、お前もやっと前に進めたのか」 「は?」 「離婚して何年たった?……嫁さんとはずいぶん雰囲気が違うが、お前にはこういう人のほうが合ってるんじゃないのか」 京極が何か言おうと口を開きかけると、開いたままのドアが廊下側からノックされ、男性が入ってきた。 「じいちゃん、そのくらいにしておきなよ」 「……なにが」 「李仁くんは1人に決めない主義みたいだからさ」 京極と同じくらいの年齢の男性は、鑑定士の孫のようだ。ややトゲのあることを言っておいて平然と笑っているということは、かなり親しい間柄なのだろうか。 「あのさ……裕貴くん?」 「この前店に連れてきた女の子へのプレゼント、指輪のサイズ直したけど」 「あーー……」 チラリと凪の方へ目をやる京極。裕貴と呼んだ男性を廊下に連れて行こうとしたところで、鑑定士がつぶやいた。 「間違いない、これは京極家に代々伝わる希少性の高いダイヤモンドだ」 「……ほんとに?!ついに戻ったんだ?京極家のダイヤ!」 京極より先に反応したのは孫の裕貴。京極は少し複雑な表情になった。 「李仁くん!なんで喜ばないの?……離婚したのに奥さんに返してくれって言えなかったんでしょ?巡り巡って戻ってきて良かったじゃん!」 母の形見の謎が確定したこと、そして少しだけ京極の背景を知って、凪も同じように複雑な気持ちになった。 「それから……このダイヤには、加工された形跡があるな」 鑑定士はまだルーペを外さずにネックレスのダイヤをあらゆる角度から観察している。 「ネックレスと指輪に加工した時の跡じゃないの?それ、じいちゃんが自分でやったんだろ?」 「違う。私が加工した跡じゃない。あの時はアクセサリーへの加工を頼まれただけだ。石そのものをここまで細かく鑑定していない」 「……どういうこと?」 「私がアクセサリーに加工したものとは別に、石そのものに細工がされている」
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-28
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20.今夜は一緒に寝よう

鑑定士の言葉は凪に大きな衝撃を与えた。「まさか、当時の家政婦の中に君の母親がいたなんてな」「父とはずっと不仲で、私を産んですぐに仕事を探したというのは聞いたことあります。保育園が見つかって働き始めたって……まさかそれが、京極さんのご実家だなんて」「運命……?」小山内鑑定士の自宅から帰る車の中。凪は聞いた話を思い出してどうしても下を向いてしまう。そんな彼女に京極はめずらしく気遣う素振りを見せた。「……はぁ」「おい。運命かって聞いてるのにため息つくか?」「すみません……」またしても下を向く凪。ポン……と、大きな手が頭に乗った。何か言えばいいのに、京極は何も言わずにただ頭を撫でる。凪はそのぬくもりに癒されながら、不器用な京極の優しさが妙に心に沁みた。「俺はこれから出社するが……大丈夫か」「大丈夫です。……あの、」京極邸に到着し、車を停めて問いかける京極を見上げる凪。「ネックレス、本当に京極家に関係するものだったんですね。……いろいろ失礼なことを言ってすみませんでした」「いや、逆に俺は……正直に言うと、子供の頃君の母親と接点があったことを知って嬉しく思ってる」「それは……」京極はまっすぐ見つめる凪の瞳から逃れるように車から降り、それを見た凪も助手席のドアを開けた。「ほら、そういうとこ」降り立った凪は、振り返って助手席のシートをさっと手で払ったところだった。「ものに対しても人に対しても丁寧で誠実な気がする。……料理もうまくて生活もちゃんとしてて、君は母親に大事に育てられたんだと思うよ」「そんな……初めは私、結構暴言吐きましたよ」「媚びないところも魅力だ」その後は目を合わせず、京極は凪を家に置いて出社していった。京極の意外な褒め言葉に落ち着かなくなった凪は、京極邸を出て最寄り駅まで歩いてみることにした。すっかり秋の気配をまとった街並みは散歩にちょうどいい。スーパーマーケットを見つけ、ついでに夕飯の買い物をすることにしたのは『料理がうまい』なんて言われてしまったからだ。「あれ、凪ちゃんじゃない?」そこで意外な人に出会ってしまった……「あ、副社長……」「今日は急用でバイトは休みだって京極に聞いたけど」「はい……そうなんですよ、それがわりと早く終わってしまって、それで……」思いきりズル休みが見つかった気分になり、しどろもど
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-28
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