Alle Kapitel von 京極社長は善良すぎる女に飼われたい……2つのダイヤが秘密を暴く: Kapitel 21 – Kapitel 30

83 Kapitel

21不器用な朝

……ハッと目が覚めるとそこには、熊のぬいぐるみがあった。「……ん?なんで、」ぬいぐるみ系はすべて部屋に置いてきたはずだ。理由はもちろん、京極にバカにされるから。凪は広いベッドに横たわっていた。寝ぼけた頭で、「一緒に寝よう」と京極に誘われたことを思い出す。……変な意味に取るのは照れくさくて、はい、と素直にベッドに入った。誰かと一緒に眠るのは久しぶりで、そのあたたかなぬくもりに安心して、意外なほどすぐに寝てしまったと思う。「隣に熊ちゃんがいるということは、先に起きてるんだな」当然だが、京極も普通に眠ったのだろう。変に意識しなくて良かった……階下に降りてみると、案の定京極がコーヒーを片手にタブレットを操っていた。「おはようございます」声をかけた瞬間、口をつけたコーヒーを吹き出しそうになった。……どうしたのだろう。……京極らしくない。「おはよう。ほら、そこに作っておいたから……食べなさい」指さす方に目をやって……驚いた。「これ……料理ですか?」「あっ?!どう見ても料理だろ。モーニングプレートってやつだ」お皿の上にレタスとトマト、きゅうりを切ったサラダと、スクランブルエッグ的なそぼろ卵、そしてなんと、ラップに包まれたキャンディチーズのような小さなおにぎりがいくつも乗っている。「可愛い……これも京極社長が?」「他にいないだろ?」「消去法じゃなくて、ちゃんと言ってくださいよ!」ひとくちサイズのラップおにぎりを手のひらに乗せて笑う凪に、京極は困ったような顔になる。……それが照れているように見えて、凪は遠慮なく笑った。「俺が作りました。……昨日、落ち込んでたみたいだから、少しは笑ってくれたらいいと思ってな」「……は?」急にカッコいいことを言うのはやめて欲しい……「それじゃ、いただきます。まずはいちばん可愛いミニミニおにぎりから……!」ラップを外し、凪はポン、と口の中に放り込んだ。モグモグと口を動かす様子をタブレットから視線を上げた京極が真剣な表情で見つめる。おにぎりには具が入っておらず、塩味も何もしない……「美味しいです!……さすが、いいお米使ってますね?!」「米の味を褒めるってか?……喧嘩売ってるだろ?」「まさか!……ちゃんと愛情をいただいてますよ?」ちぎり忘れたレタスにも、分厚く切られたきゅうりにも、ポロポロのスクランブ
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-29
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22.鋭い目

「ダメだ」 あまりにも早い即答に言葉を失った。 凪に続いて降りてくる京極。……いったいどうしたというのか。 「聞こえたか?ダメだと言ったんだ」 「……でも、もう狙われる理由はありませんよね」 「そういう問題じゃない」 運転席の山田に目配せをして、凪の背中を押しながら歩き出す京極。 つまみっ子倶楽部まで送り届けようとしているらしい。 ……なんだろ、過保護か? 「君は気にならないのか?なぜ……あのネックレスをお母さんが持っていたのか」 「それはもちろん、気になりますけど、京極社長の家に寝泊まりしなくても調べられますし」 「……問題はネックレスだけじゃない」 京極を見上げていて気づかなかった。前を見る彼の視線の先に、父が結婚を押し付けた……真壁雅人がいることに。 「……朝帰りか?呆れたな」 腕組みをして立ち塞がる真壁は嫌味な笑みを浮かべて首をかしげる。 「別に、関係ないと思いますけど」 「そうだ。彼女は今……俺の家から仕事に通っているものでな」 京極の言葉に、真壁の目が光った気がした。 「そう。それなら今日来て良かったな。本当はつまみっ子祭りの協賛に参加してやろうと思って来たんだけど……先に伝えておこうか」 嫌な予感がした。まさか父の会社との話に何か進展があったというのでは…… 「君のお父さんの会社ーー白石物産と真壁コーポレーションは、正式に業務提携することになった。うちからの資金が……お父さんの会社をいろいろと助けることになるよ?」 予想は当たった。余裕の笑みを浮かべ、京極の隣にいる凪に手を伸ばす真壁。 「こっちにおいで……凪」 「私の気持ちは変わりません。それから、今夜もう一度……父と話します」 「そう?……残念だなぁ」 凪には、真壁が考えていることが予想できた。父の会社と提携してしまえば、きっと自分を犠牲にして結婚に応じると。 「悪いけど、俺も離しませんよ?」 涼しい顔で話に入ってくる京極。さっきからチラチラと視線を向けて、真壁が彼を気にしていることは伝わっている。 ……それにしても離さないとは、京極は何を言おうとしているのか。 「この前から思ってたけど、あなた、いったい何者?僕たちの話に入ってくるのやめて欲しいんだけど……」 「……そういえばまだ名乗ってなかったな」 内ポケットから革の名刺入れを取
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-29
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23.余計なひとこと side.京極

……しまったな。あいつにネックレスのことを話す必要はなかった。つまみっ子倶楽部の前まで来て、京極はチラリと真壁を残してきた場所に目をやった。「ありがとうございました。……あの、とりあえず今日は京極社長のお宅へ戻りますので」「あぁ。今夜は黒石興業へも行くな。ここの仕事が終わったらそのまま……」「そういうわけにはいきませんよ。今日は行きます」ネックレスを探しているらしいとわかった以上、1人で行かせるのは気がかりだったが……タイミング悪く、内ポケットにしまった携帯が鳴り出した。秘書の山田からだということは、今日から工事が始まる開発予定地で、何かあったか……凪の目を見ながら着信をつなげようとした京極に、彼女は頭を下げて中に入ってしまった。……扉が開いた拍子に、妙な踊りの音楽が、にぎやかに凪を迎えたとわかる。「……なんだ。今戻るが」「すいません社長、お楽しみのところ……」「は?お楽しみの使い方が間違ってるぞ」が、実のところ、京極の視線は扉の窓からわずかに見える凪の姿に釘付けになっていた。なぜあんな踊りを楽しそうに踊っているのか理解できないはずなのに、口元が緩む……「開発予定地の工事が始まったのですが、今連絡が来て、警察と役所がストップをかけているそうです」「……なんで?あの土地は合法的に手に入れた問題のない土地だが?」「それが、人骨が出てきたらしいのです」「……なんだそれは。ミステリーの始まりってか」京極は携帯を耳に当てながら歩き出す。……その姿を、窓越しに凪の視線が追っていた。午前中は秘書に連絡をもらった件で関係各所を回り、社長室に戻ったのは昼時を大きく過ぎてからになった。「お疲れさまでございました……ランチに、と思いまして、ケータリングをしておきました」山田が差し出した弁当らしき小箱から、苦手な刺激臭がする。「山田、俺は辛いものが苦手だと、もう何回も言ってるよな?」「……は、そうでしたか?」「覚える気ないだろ……」自分で食べるよう突っ返し、京極は出口に向かう。「次の予定は夕方だよな。……ちょっと外へ出る」エレベーターでエントランスへ降りながら、携帯を取り出してつないだ先は黒石岳だ。「……岳か。凪は来てるか?」『もちろん。全力で料理中だが……なんか用か、忙しいんだけどな』携帯の向こうから、水の音や火を使う音が聞こ
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-30
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24.岳が探すもの side.京極

「……どういうことですか?」岳が探してるというアクセサリーについて、先に探りを入れようと考えた瞬間、意外なひとことを言った組長に、つい口調が荒くなった。「……怖いな」「やかましいです。……で?岳が探しているというネックレスとは、どんなものなんです?」「どんなものかは知らんが、頼まれたらしいぞ。知り合いに」「そりゃあそうでしょうね。誰に頼まれたとかどんなアクセサリーなのか、聞いてないんですか?」知り合いに頼まれたなど百も承知だ。通りすがりの小学生に頼まれて請け負うわけがない。「とにかく値の張る高価なものだそうだ。それらしいものを身に着けてる人の話を聞いたら教えろとさ」「は、それだけですか?使えない組長ですねー……」「俺にそんな口がきけるのは、京極のじいさんを除いて、お前と岳だけだ」ははっ……と笑う声を聞いて、その場を離れた京極には聞こえなかった。……じいさんのダイヤは見つかったのか、という組長の問いかけは。「アルバイトは明日と明後日で終わりになります。……何か、料理のリクエストはありますか?」「そうだな……グラタンとか!?」「スイーツがいいな。イチゴと生クリームのショートケーキ!」キッチンへ戻ると、料理が一段落したらしい凪が黒いスーツの強面に囲まれていた。和やかにお茶を飲む風景は、京極が初めて見る黒石一家のひとコマ。……呆れて笑ってやる。「わかりました!明日はグラタンで、明後日はケーキを作りますね!」ポン……と手を打つ凪と、拍手をする輩。腕組みをして後方に控えていた京極は、ため息をつきつつ、凪に近寄っていく。「……食わせてやるものが決まったところで、帰るぞ、凪」「あ……」凪は視線を岳に向けた。……なんでだ?「悪いな。約束の時間までもう少しあるから、料理のレシピとコツを教えてもらうことになってる」「お前が教えてもらってどうするんだよ?!この後正式に家政婦を雇うんじゃないのか?」凪に延長を打診される前に、すでに良さそうな人材を紹介してある。……今回は、やや黒い仕事も請け負う黒石一家の話は伝えてあり、面接は形式的なものになるはずだった。「そうだけどな、まぁ、料理は俺の趣味だから」なぜかすまし顔で凪と目を合わせる岳に本格的に腹を立てた京極は、大切なことを思い出させようと凪の前に立つ。「……つまみっ子祭り、日にちが迫ってる
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-30
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25.つまみっ子祭り

「いらっしゃいませ〜!祭り特製、つまみっ子焼きそばが出来上がったよ!」サバンナビルディングの裏手にある広場を貸し切り、今年で10回目を迎える「つまみっ子祭り」が始まった。「凪ちゃん!2つちょうだい!」「ありがとうみっちゃん!今年はチョコレートを入れてみたの。あとで感想聞かせて!」「……チョコ入りの焼きそば?めっちゃ新しいー……!」香ばしいソースの匂いを辺りに振りまく焼きそばは、つまみっ子祭りの人気屋台料理だ。出来たて熱々の焼きそばを、小森が手早くパックに入れてくれた。「……客足は順調!よかったですね!」「本当に!台風とか来なくて良かった!」パック詰めする小森とビニールに入れて販売する凪の連携であっという間に無くなっていく焼きそば。2人はホッと息をついた。「な、な、な……凪さん、出来上がったものは、どうしたら?タコさんソーセージが、焦げてイカになりそうな勢いなんですけど」「あ……!ほっといてごめんなさい、一旦火を止めます」焼きそばの隣で鉄板と格闘するのは、京極社長の秘書、山田さんだ。「……もう、今日くらい手抜きメイクでいいのに」「そういうわけにはいきません!私は京極REAL ESTATEの看板を背負っており、私の立ち居振る舞いが会社のイメージを、ですね……」話すそばから浮かぶ汗を拭う山田。ハンカチはすでに、ファンデーションのベージュとアイカラーのブルー、チークの赤を拭き取っている。……本人だけが気づいていない。汗ですっかりメイクが落ち、つぶらな瞳が露わになっていることに。「タコさんソーセージのあとは、何をしますか?…バナナチョコレートとか?……うふふ」「あぁ、それは……一緒にやりましょうか」バナナチョコレートで頬を染める意味がわからなかったが、まぁ山田だからいいと思う凪。小森に後を頼み、2人は別のブースへと歩いていった。秋に開催するつまみっ子祭りは日暮れが早い。そろそろ日が傾いてきた。会場を見渡すと、すでにビールやチューハイは冷えているようだし、テーブルや椅子の準備もできている。季節外れだが花火もある。夜の祭りも盛り上がるだろう。「……あれ、京極社長」バナナチョコレートを作るテントには、すでに京極がいて驚いた。……昨日まで『山田は行かせるが自分は行かない』と頑張っていたのに、どうしたのだろう。「バナナチョコレートにはちょ
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-01
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26.それぞれの思惑

「そんな顔するなよ。……これでも協賛会社だぞ」「そうですね、ありがとうございます。今日は楽しんでいって……」言いかけて、凪は真壁の後ろに見覚えのある姿を確認して言葉を切った。「雅人くんには本当に感謝だぞ、凪」「……お父さん」「祭りが落ち着いたら、少し話そう」2人はバナナチョコレートを手に離れていった。手元には1万円札。凪は小森に連絡をする。「会場に父が男性と2人連れで来てるんです。申し訳ないんですけど、屋台に立ち寄ったら代金はもらわないでください」『お父さんが?……珍しいね』母が運営している頃からのスタッフである小森は、我が家の事情も少し知っている。母が亡くなって、学費に困窮して大学を中退しようと思ったことや、それを知った父が学費を出したことも。離婚してつながりが途絶えていた父にお金を出してもらうことに、抵抗があった。だから仕事に就いて、お金を返そうと思ったのに、父は真壁との政略結婚を望んだのだ。「大丈夫か?」少し奥でやり取りを見守っていた京極が凪の横に立つ。……ちょうど影になっていたのか、真壁は彼がいたことに気づかなかったようだ。「大丈夫です。……あの、ここはもう大丈夫なので、そろそろお帰りになった方が」「花火、一緒にやろうと思ったのに」意外な返事に戸惑った。見上げた表情に、いたずらっぽい笑みも含んだような笑顔もない。……ただ、寂しそうな目で凪を見下ろす京極。「京極社長とは、いつでも一緒にできますから」「……本当に?」「はい。大きなお庭があるじゃないですか」言ってから恥ずかしくなる。……まるで「同居は続くよどこまでも」と匂わせたように取られなくもない。「それじゃ帰るか」京極はエプロンを外し、バナナチョコレートをアテに、日本酒を飲み始めた山田に放り投げた。「今夜、帰ったら2人で花火。……待ってるぞ?」「……はい」1人で話をつけに行く……という自分の決意を、京極は感じ、信頼してくれたのだと思う。凪は、なぜかそれが嬉しかった。そして強くなれた。今夜、2人にはっきりと自分の意思を伝え、結婚の話は白紙に戻すと伝える。そして父の会社と自分に、きっちり線引きをしてもらうことも約束させるのだ。「あれ?山田さん大丈夫ですか?……ってか、本当に山田さん?」そこへやって来た小森が、千鳥足の山田に気付いて手を貸した。……化粧がすっ
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-02
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27.帰る場所

「……ネックレスに、何か事情があるのか」 「それは……真壁さんに関係のないことです」 「そういうわけにいくか、俺だって……」 言いかけて、口をつぐむ真壁。……その様子に違和感を覚えた。 ……母のこと?それともネックレスが気になるのだろうか? 何か知っていることがあるのかと問い詰めようとしたところで、父が話を戻した。 「今はそんな話じゃないだろ!結婚をどうするつもりだ?!」 真壁がホッとした表情になったのを見逃さなかった。その上で、凪はまずこの話を終わらせようと決める。 「私は真壁さんと結婚しません。……初めは、お父さんの会社を助けなくちゃいけないと思って承諾しました。でも、考えを改めたんです。きっかけは真壁さんの裏切りだって、お父さんには話したはず」 「それは、真壁くんほどの男であれば……」 「私はそうは思わない。はじめから裏切る人と、信頼がなければ成り立たない結婚生活をはじめられるわけがない」 「それは……」 後が続かない父……凪は確信した。 母が亡くなった時、父が自分に手を差し伸べ、大学の費用を出してくれたのは…… 「役に立たない娘ですみません。……払ってもらった学費はお返ししますので」 いつか自分の役に立てようと、利用するつもりだったからなのだと。 「その上で、今後のお願いです。私自身とお父さんの会社、そしてつまみっ子倶楽部は切り離して考えてください」 「なんだ……親子の縁を切るとでも言うのか」 「私は、それでかまいません」 話を聞いていた真壁が口を挟んだ。 「一人娘なのに……そういうわけにはいかないでしょう?白石社長」 その言い方はどこか断定的で、反論を許さない響きがあった。そして案の定、下を向いて眉間にシワを寄せた父は、言葉を絞り出す。 「もちろん……その通りですよ」 それを聞いて、真壁は大きくひとつ息をついた。 「親子の絶縁なんて、法律を振りかざしても叶えられないよ?凪」 「真壁さんには、関係のない話だって……」 「政略結婚の話はなかったことにする」 自分を排除されるのは許さない……とばかりに、言葉を被せる真壁。 「だったら余計に関係ないはずです」 「じゃあ宣言する。これから俺は、1人の男として君を口説く」 「……どうしてそんなに私に執着するんですか?」 真壁は本気とも冗談とも取れる表情で
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-02
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28.名前で呼んでside.京極

「私、後片付けをするので先にお部屋へ入ってください」 「……」 ……真壁が凪を口説くだと? 「京極社長?」 肩を揺すられ、ハッとして凪を見た。 「口説かれて、落ちる可能性はあるのか?」 「……何の話ですか?」 気づけば足元に、線香花火の残骸が落ちている。……そういえば、火をつけて渡されたような。 「あいつは信用できないぞ」 「……真壁さんのことですか?」 キョトンとした表情をされ、急に焦った。そこで、まったく違う話を出して空気を変えようと試みる。 「ネックレスの件もあるからな。……何か、知っているようだったし」 「京極社長もそう思いましたか?私もそう感じました」 素直に乗っかってくれて助かった…… 「ネックレスを探しているという点では、岳も同じだ。しかもネックレスと指輪に使った京極家のダイヤについても聞かれた」 黒石一家での組長の話、そしてキヨマサでの岳とのやり取りを、京極はかいつまんで話す。 「ネックレスが戻って、京極家のダイヤは2つ揃ったんですよね?それなら……そこは解決したってことなのでは?」 「まぁな。ダイヤを相続したのは俺だから、今は二つともこの屋敷にある。……その意味では一件落着だ」 「問題は、母がなぜ、京極家にまつわるダイヤが使われたネックレスを持っていたのか……」 凪の目が、元妻の関与を疑っているのがわかる。 当然だ。俺もそう思っていた。 だが…… 「少し冷えてきた。ゴミは拾っておくから、君は先に風呂に入って寝なさい」 「でも……お祭りの後片付けもしていただいたので、京極社長こそお先にどうぞ」 タッチの差でゴミ袋を手にした凪は、花火を拾って歩き、細かいゴミや灰のあとをほうきで掃いて軽く水をかけている。 デッキブラシまで見つけたようで、水を撒いたあとを軽くこすっていて……そこまでしなくていい、と声をかけたくなる。 やがて後片付けを終えて、凪がこちらを見た。 「やだ……!どうして見てるんですか?お風呂は?」 「よく働くなぁ、と思って……つい見てました」 肩を並べて部屋に入り、凪を先に風呂に入れることに成功した。 バスルームはひとつではないので、実は譲り合う必要はない。けれど凪が、2人しかいないのに別のバスルームを使うのはもったいないと言
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-03
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29.知らない痛み

「私は、母のことが知りたいんです」 鼻歌まじりで風呂から上がった京極。 笑顔を浮かべ、上機嫌だが……凪は真剣な表情で迎えた。 「今日はもう遅いから寝ますけど、前の奥さまにプレゼントしたネックレスを母が持っていたということは、何か、理由があると思うんです」 「そうだな」 京極は緩んだ表情を引き締め、冷たく感じる切れ長の瞳を凪に向け、言った。 「離婚したのは5年前だ。君のお母さんが亡くなったのは4年前。だとすれば、離婚してから君のお母さんが亡くなるまでの間に、どこかで接点があった可能性が高い」 「母と前の奥さまがどこでどうやって出会って、ネックレスにまつわるやりとりがあったのか、調べていいですか」 「あぁ、もちろん俺も、協力するよ」 残された謎は、母と元妻がどこで出会い、なぜネックレスが渡ったのか――そこだけに思えた。凪は京極の了解を得て、安心して眠りについた。 ……とは言っても、どうやって繋がりを探ればいいのだろう。 翌朝、歯磨きをしながら考え込む凪を、京極がパッと肩を掴んで脅かした。 ビクッと肩を震わせ、振り向いた凪の泡だらけの口元を見て、京極がこれまでにない笑顔を見せる。 「今地震が起きたら後悔するぞ?……ぼんやりしてないで、サッサとうがいをしなさい!」 京極の支度は完璧にできているようだ。……毎朝、隙のないことこの上ない。 「……京極社長、教えてください」 まだ着替えてもいないが……凪は京極の前に立ち、懇願した。 「なん……だよ」 京極の目が泳ぐのがわかった。理由は多分、まだ着替えてもいないから。……風呂上がりに着た白いTシャツは、顔を洗ってうっかり胸元を濡らしてしまったし、髪もボサボサだ。 「元奥さまは、どんな方だったんですか?……母との接点を見つけるためには、情報がないと」 「……そんなことを考えて支度が進まないのか。……歯磨きの泡もまだついてるぞ?」 「あ……っ」 うがいをしたのに取り切れなかったらしい……!これはさすがに恥ずかしい。 すると、自分で口元をこする前に、そばに来た京極の親指が拭っていって……驚いた。 「おいで」 洗面室まで連れて行かれ、椅子に座らされた。ブラシを手に、からんだ髪をほどく京極。 「……いたっ!」 「少しくらい我慢だ」 やがてスムーズに髪を通るブラシの先が優しく地肌に当た
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-03
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30. 母の最後の言葉

「あぁ、この人……」2人の名前を見つめる凪の背後から、小森が声をかけた。「覚えてますか?……どんな人だったか」「うーん……保育の方だったから、直接一緒に仕事はしてないですねぇ。ただ同じ時期に2人も雇うなんて、真希さんにしたらめずらしいな、とは思った記憶はある」「それは、つまみっ子倶楽部の運営が決して楽ではないって、小森さんは知ってたから?」「うん。そうだね」当時大学生だったのに、つまみっ子倶楽部のことをよく把握していなかったことが悔やまれる。「明美さんならいろいろ知ってるかもしれない。聞いてみましょうか?」事務所の向こうで子供たちの世話をする明美さんは、手にした資料によると、年齢は51歳。母と同年代の女性で、葬式の時ひどく悲しんでくれたのを覚えている。のちに、母とは何かと気が合って、話をしては励まし合うこともあったと聞く。「坂戸真美さん?覚えてますよ、短い時間だけのパートさんで、あまり話をしない人だったけど……」明美さんは話を変えるように、探せば写真がある、と続ける。「あ……いえ、もし必要だったらその時改めて頼みますね」まだ京極の元妻だと決まったわけではない。凪は調べた近隣の保育園に連絡をして、それらしい保育士の入職について尋ねた。「そうですか。……お忙しい中すみませんでした」結局、欲しい手がかりはほかの保育園では見つからず、このつまみっ子倶楽部におよそ5年前パート保育士として勤めた坂戸真美という人物の情報だけが残った。調べるうち、自然と当時のことを思い出す凪。……5年前。「凪は気にしなくていいから、大学生活を謳歌しなさいよ!」「でも、毎年つまみっ子祭りは大忙しじゃない。休日だし、手伝うよ?」「大丈夫!今年はスタッフが多いから」結局その年の祭り当日は予定が入ってしまい、参加できなかった。……まさかそれが、母にとって最後のつまみっ子祭りだとは思わなかった。この翌年、母は事故で亡くなったのだ。それは4年前の、大学2年生の秋のこと。講義の合間に携帯が鳴り、よく確かめもせずに着信をつなぐと、知らない男性の言葉に緊張が走った。住まいがある街の警察署、交通課からの連絡……「汐沢真希さんが事故に遭われました」携帯を取り落としそうになりながら、運ばれた病院の名前だけを記憶して、タクシーで病院に向かったのを覚えている。到着す
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-04
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