「――まったく、お兄様ったら何を考えていらっしゃるのっ!?」 翌日の午前中。澄花は時雨の部屋を訪れた足で紅雨の部屋へと足を運んでいた。昨日の礼として、今朝仕上げたばかりの菓子を紅雨と水霜に届けるためだった。 紅雨は澄花の作った菓子を喜んで受け取ってくれた。しかし、時雨の部屋を訪れたときの顛末を聞くなり、彼女は青筋を立てて声を荒らげたのだった。彼女から発せられた声の衝撃で、澄花の視界で止まることなく波紋が生まれては連鎖していく。 まあまあ、と澄花は紅雨を宥めようとする。しかし、怒りを露わに紅雨はきっぱりと首を横に振った。 「せっかく、澄花が訪ねていったというのに部屋にも入れないだなんて、論外ですわ! 漣も漣ですわよ! 澄花を追い返すだなんて!」 二人まとめてとっちめてやりますわ、と紅雨は息巻いた。大丈夫ですから、と澄花は困ったように眉尻を下げる。このようなことには慣れているのか、水霜は特に口を挟もうとしない。 「紅雨様、わたしが悪いんです。特にお約束もないのに突然時雨様のお部屋を訪ねてしまったんですから。それに、漣さんにお願いして時雨様にお菓子は渡していただけましたし、充分です」 「澄花は欲がなさすぎです。それに澄花を追い返した理由も理由で、わたくしは妹として心底情けないですわ」 先ほど、澄花が時雨の部屋を訪ねたとき、今は障りがあるからという理由で漣に訪問を拒まれた。何か予定があったのだろうと思って澄花は菓子を漣に預けて、その場を辞したのだが自分には思い至らないような理由でもあったのだろうか。普段は澄花に厳しい態度を取る彼にしては珍しく、妙に同情的だったがそれが何か関係あるのだろうか。 「漣は、澄花が訪ねてきたことに舞い上がっているお兄様の姿を見せたくなかったのでしょうね。そんな姿、神としての威厳も何もありませんもの。ましてや、澄花が自分のために好物を拵えてくれたとあっては、小躍りするほど喜ぶでしょう。……いえ、この水の揺らぎ方は今ごろ実際に部屋で踊っていますわね」 紅雨は深々と溜息を吐く。澄花は紅雨が話していることが信じられなかった。自分の知っている時雨の姿と紅雨が語ったことはあまりにかけ離れすぎていた。 「|紅
Last Updated : 2026-08-18 Read more